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奏交フォルティッシモ  作者: 蒼崎 れい
Phase03:Crossing Hearts
22/62

Stage21:2062/12/31/12:13:14【-0635:46:46】

 私はゲーム(これ)やってます、つって付いて来なかった咲希を残して、俺達は先輩の知り合いがやってるブースを中心に見て回った。

 ゲーム関連が中心ではあったけど、それ以外のブースの人にもちょくちょく声をかけている。

「にしても、広いなぁ……」

「だねぇ……。このフロアだけで、何人くらいの人とアバターがいるんだろう。ねぇ、速水くん」

「ミーシャ、今このフロアって、何人くらいいるんだ?」

『業務規約につき、残念ながらお答えできないのであります。ごめんにゃさい』

 俺の質問に答えられないのが残念なのか、ミーシャは顔だけじゃなくて耳と尻尾までしゅんとうなだれさせた。

 くどいようだけど、ミーシャ(コレ)本当にNPCなんだよな? あとで本当は『実は中の人がたんです』みたいなオチはないよな?

「あ、クロブチさんじゃないですか~! コン友、今回は間に合ったんですか~?」

「えぇ、なんとか!」

 ちょっと遠くの方のブースで、ブンブンと手を振っている人が一人。その人に向かって、先輩も手を振り返した。

 その人のブースに向かって行く先輩に、俺達もついて行く。

「いや~、リアルで会うのはいつぶりくらいでしたっけ~?」

「前のコミケの時なんで、ざっと四ヶ月くらいですね。仮想でなら、週二くらいで顔合わせてますけど」

「最近は付き合い悪かったじゃないですか~。てっきり、今回は間に合わないと思ってましたよ~?」

「はっはっはー。実はそこの後輩にも、一部手伝わせてたんですよ。フィールドマップ作成とか、バグ取りとか、バグ取りとか、バグ取りとか」

 へぇぇ、先輩のゲーム、そんな危機的な状況にあったのか。

 だったら、俺達の苦労も、それなりに報われたってトコかな。間に合ってなかったら、全部無駄に終わったってわけだろ? よかったよかった。

 そういや、ゲーム操作に関してはバグはなかったけど、それ以外はそれなりにあったなぁ……。

 壁とかのオブジェクト通過できたり、一部の兵種が耐久値無限だったり。

 兵種スナイパーで、ヘッドショット三連射しても死なないんだぜ? あれ絶対バグだよね? ね!

「三人とも、こっち来い。紹介したいから」

 手招きする先輩に、俺達はちょっと緊張しながら近寄った。

 だってどう見ても、相手社会人なんだもん。緊張するって。

 優しそうな感じではあるけど。

「こちら、“あるてみす工房”のキャラクターデザインをやってる、莓田楽(いちごでんがく)さん」

「どもども、キャラデザやってる莓田楽っていいま~す。よろしく~」

 人畜無害そうな雰囲気のお兄さんが、ニコって営業スマイル。

 中肉中背で、マンガみたいなすごい糸目。本当に目、開いてるのか怪しいくらいの。

 キャラデザって事は、この人絵師なのか。

 一時期頑張って絵描こうとした事もあったけど、絵心のなさに絶望してすぐあきらめたなぁ……。

「で、こっちが高校の後輩。みんな二年生です。本当は、一年生も一人来てるんですけど、ブースに籠もってうちのゲームしてます」

「うんうん、いいね~、青春してるね~。あぁ、俺も学生時代に戻りたいよ~」

 莓田楽さんが、頷きながら俺達を見てくる。

 ホトケのような、なま温かい目で。

「でも、クロブチさん今年十九歳だよね~? まだ先輩だけど、来年同級生になった~、とか言わないでね~」

 そうなったら気まず過ぎて、どうすればいいか、わからなくなるじゃないですか。

 てか、先輩も顔引き釣らせて苦笑いするの止めてくださいよ。不安になるじゃないですか。

 大丈夫なんでしょうね! 今年こそちゃんと卒業してくれるんですよね!

 三枝さんと柏木も、俺と同じ事考えてますよ! すんげー微妙な顔になってますよ!

「ところで先輩、ここのサークルって、何作ってるんですか?」

 この気まずい空気を変えようと、柏木が先輩と莓田楽さんの間に割って入った。

 よし、柏木グッジョブ。後でブレゴスのレベル上げ手伝ってやる。

「あ~、それ聞いちゃう~? 言っちゃっても大丈夫~? まだ十八歳じゃないでしょ~?」

 やっぱ今のナシ。その質問はどう考えても地雷だった。

 莓田楽さんの顔も、変な風ににやけてるし。なま温かいのは変わらないけど。

「ん~、美夏は見ない方がいいかもしれん」

「なんでですか?」

「察してくれ、周りのブースの空気とか、その他諸々」

「ん?」

 美夏と先輩が不毛なやりとりをしている内に、莓田楽さんがホログラム出力機のコンパクトスクリーンバーを……。

 あー、右手が空中でカタカタ。ホログラスと接続してる……。

「これこれ。パッケージ版は完売しちゃったから、映像で悪いんだけど」

「『恋逢(レンアイ)0メートル!!』…………?」

 スクリーンバーから出力されたホログラムには、ほっぺたを赤らめた美少女が、熱っぽくこっちを見つめているような映像が映し出される。

 女の子の画像の下の方には、可愛らしい丸文字をモチーフにした、『恋逢0メートル!!』というロゴも。

 これがパッケージの表紙か。この表紙とタイトルから察するに、純愛系の恋愛ADV(アドベンチャー)ゲームかな。

 コンシューマーゲーム機じゃ、すっかり廃れちゃってるけど。

 で! で、だ……。

 上の方には色々と商品情報の書かれたゴシック体の黒文字がありましてね。

 作品番号、サークル名、商品名の隣には、十八禁商品である事を示す[アダルト]の表記が……。それも、目立つ赤文字で。

「ごごご、ごめんなさい! 私!」

「ごめんごめん。クロブチさんが連れてきたから、てっきり同類の人かと思っちゃってさ~」

 莓田楽さんは真っ赤になってうつむく三枝さんに、ちょっとすまなさそうに糸目を釣り下げて謝った。

 いや、この場に来ちゃった俺達が場違いなだけだから、莓田楽さんは全然悪くないんですよ?

 てか先輩、そういうブース来るなら、入る前に言ってください。最初からわかってましたけど、わからない人もいるんですから。

「すいません。あるてみす工房さんとこのエロゲ、ストーリー重視のエロのいらないエロゲだったんで、ついつい紹介してやりたくて」

「その心意気はありがたいけどさ~、十八歳未満にゃ~売れませんよ~」

「いえ、今から刷り込んでおく、的な意味で」

「いいって、いいって~。同人なんて、趣味の合う人間が趣味の成果見せびらかしてるようなもんだしさ~。他のサークルさんはどうか知らないけど、あるてみす工房(うち)はそういう方針だから~、刷り込みとかそういうのはしなくて大丈夫~」

 スクリーンバーをしまった莓田楽さんは、今度は電子ペーパーと専用ペンを取り出して、絵を描き始めた。

 すげぇ、手の動きに迷いがねぇ。

「ところで先輩、エロゲなのに、エロがいらないって、どういう事なんですか?」

「ふむ、よくぞ聞いてくれた瑛太よ。俺達の世代にはあまり実感はないんだが、VR技術が実用化される前は、エロゲ業界もあの手この手で顧客を獲得しといてなぁ。エロがいらないエロゲは、その内の一ジャンルと思っていい」

 あ、やばい。これはまた、地雷踏んじゃったパターンかも。

 さっきの柏木見て注意しようって思ったばっかなのに。

 しかも、三枝さんのいる前でエロゲの事を……。

 もうバカ! ゲームバカの俺バカ!

「簡単に言えば、エロ要素をなくすだけで、そのままコンシューマーゲームに移植できたり、一般コミックや地上波のアニメ放送できたりと、メディアミックスができるようなゲームの事だ。今で言うノベルゲームみたいなやつだな。物語としての完成度が高くてな、それをプレイしたユーザーの誉め言葉みたいのんさ。もちろん、濡れ場的な意味合いや非倫理的な展開がある分、それらの要素が盛り込めない一般向け作品より、深みのある展開ができる。エロはいらないと言いながら、エロゲでなければ実現できないもどかしさがなんとも……」

 うぉぉ、地雷が大連動して超大爆発が……。

 なんか、先輩語り出しちゃったよ。どうしよ、しばらくは止まりそうな気配もないし……。

 そうだ、ここは莓田楽さんに助けてもら……。

「あはは~」

 ものすんげー悟った笑顔でこっち見てくる…………。

 さいですか、無理ですか、なんか色々ごめんなさい。

 と、そんな風に全方位に向けて謝罪モードだった俺の背中に、

「……ご、ごめん」

 三枝さんがもたれかかってきた。

 うぁあああああああ、なんかものすごいいい匂いがぁああああああ!!

「ほんと、ごめんね、速水くん。ちょっと、ふらふらしちゃって……」

 でも、そんな気持ちはすぐにどこかに行ってしまった。

 だって三枝さんの顔色が、ものすごく悪くなってたんだから。

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