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奏交フォルティッシモ  作者: 蒼崎 れい
Phase03:Crossing Hearts
21/62

Stage20:2062/12/31/11:59:13【-0636:00:47】

 あまりに奇妙な格好の集団に、俺は思わずホログラスを額までずり上げた。

 どうやら、NPCやネット版コミケの参加者ではなさそうだけど。

 また、現実の物体に映像を重畳(ちょうじょう)表情させる、ARによる映像でもない。

 お手製のコスプレグッズで報道番組の中継みたいな事をやってる一団が、会場に入ってきたわけだ。

 コスプレ会場が建物の外だったのを考えれば、宣伝か何かだろうか。

 その奇妙なコスプレの一団に、俺達の目は釘付けになっていた。

 そのカメラクルーの集団は、三〇人近い集団で構成されていた。

 報道官役、カメラマン役、マイク役、それに警察官の役と仮面を被った変な集団の役。

 最後尾には、仮面の周りにテレビの枠みたいな物を付けた人まで。なんなんだ、あのキショクワルイ集団は。

「あれは…………この前のインフェルス集団検挙の時の真似じゃないのか?」

 俺達と同じように変な集団レイヤー達を見ていた松井先輩が、ぼそりとつぶやいた。

 なんだ、インフェルスって。

「あのぉ、インフェルスってなんすか?」

「お前、そんなのも知らないのか? ニュースくらい見ろよ。ネットでもだいぶ話題になってたし。てか、ホログラスあるんだから、自分で調べろ」

 俺と同じように、インフェルスを知らなかった柏木が質問したら、何かすごく正当な理由で松井先輩に断られた。

 あ、いや、断られたとは違うか、この場合は。

 でもなんで、留年してる人にニュース見ろって言われたり、知らない事は自分で調べろって言ったりされてんだろ。

 てか、それでどうして留年したんですか、先輩……。

 まあ、何はともあれ、調べるか。

 俺は仮想のホロキーボードを呼び出すと、“インフェルス”と入力して検索をかけた。他のみんなも、検索してるみたい。

 すると直後、数億件の検索結果がホログラスの一面に表示された。

 俺は検索結果の一番上、インフェルス(集団)と書かれた一文のリンクを開く。

「ハッカー集団かなんかか?」

「クラッキング。間違えないでください。柏木先輩」

「あははぁ~、ラピスちゃんに怒られちゃったね、柏木くん」

 そんな会話を聞きながら、俺はどんどん記事を読み進めていった。てか、咲希のやつ、ラピスになった途端普通にしゃべれてんのな。

 インフェルスは、インターネットのVR化黎明期の頃に自然発生した集団で、世界中の色んな政府や組織、企業なんかを相手に色々やらかしちゃってる集団らしい。

 構成メンバーも、瞬間同時通訳アプリの登場で言語の壁が大幅に縮小されたせいで、もはや把握できないレベルなんだとか。

 具体的な活動としては、DDos攻撃でサーバーをダウンさせたり、ホームページを改竄したり、個人情報を流出させたりとか、そんな感じの事。

 犯罪行為には間違いないけど、凶悪な犯罪組織の個人データを警察組織なんかに提供したりする事もあるから、なんだかなーってのが、世間一般からのイメージだとか。

「先輩、これ」

 と、なんの気なしにページを眺めていた俺に、咲希がP2P接続で画面データの共有をしてきた。

 何事かと思って読んでみると、例のインフェルスの集団検挙の事件の記事だった。

「あ、この画像……。そういや、見た事があったなぁ」

 記事の画像を見て、ようやく俺は思い出した。

 確か今月の始め頃、世界規模のハッカー集団一斉検挙、とかいう見出しと印象的な画像を見た覚えがある。

 どうやらその時のハッカー集団が、インフェルスだったらしい。

「問題は、こっち」

 続けてもう一つ、咲希が見ている記事のリンクが送られてくる。

「インフェルス、過激派?」

 インパクトの強い文字に、思わず声が漏れた。

 過激派って、いったい何やってんだ?

 興味津々に、俺は記事を読み進めていく。

 だが、俺は読み始めてすぐにその事を後悔した。

「完全なる情報生命体へと昇華するために、集団自殺って……」

 VR空間への没入(ダイブ)端末を違法改造して、VR空間へ長時間連続没入(ダイブ)による餓死。一酸化炭素や硫化水素を発生させたまま没入(ダイブ)しての中毒死。

 その他にも、VR空間に繋がったまま、様々な方法が試されている。

 過激派の名に恥じない目を覆いたくなるような内容に、思わず苦い顔になった。

 そりゃそうだ。こんな記事見て笑ってられるような奴がいたら、そいつは精神科かどこかに行った方がいい。

 三枝さんも柏木も、普段なら無愛想な咲希も、みんな(つら)そうな顔をしている。

「それだけなら、まだよかったんだけどな」

 俺のつぶやきを聞いていた松井先輩は、さらに不吉な事を言ってくれた。

 集団自殺程度で『まだよかった』って、いったい何をやらかしやがったんだよ。

 恐る恐る、記事の続きを読み進める。

 そして、ついに見つけてしまった。

「『インフェルスと名乗る集団、一般人に情報生命体への昇華を説いて自殺をほのめかし、儀式と称した自殺教唆事件を起こす。専門家によると、原因はVR空間での人間関係のもつれか?』って、なんだよこれ」

「自殺、ほのめかして……。正気の沙汰、じゃない」

 ニュースの原稿冒頭を読む俺に続けて、咲希が吐き捨てるように言った。

 自殺するのに赤の他人を巻き込むだなんて、確かに正気の沙汰じゃない。あまりにふざけすぎてる。

 いったいどこのバカだよ。こんなふざけた事、言いふらしてるのは。

「そんな事件が起きたから、警察も大々的にインフェルスの逮捕を始めたんだ。インフェルスの他のメンバー――過激派に対して穏健派って呼ばれてんだけど、そいつらも過激派のメンバーと対立状態にあってな。個人情報の暴露合戦なんかやってる。この前の集団検挙も、警察に穏健派から情報提供があったって噂もあるくらいだ」

「そんな事が……」

「うわぁ、私ちょっと怖くなってきた」

 柏木と三枝さんは、すでにインフェルスやその過激派について書かれた記事を消していた。

 まあ確かに、いつまでも見ていたくなるほど、気持ちのいいもんでもないしな。むしろ気持ち悪いくらいだし。

 さっきまではなんのギャグだよって思っていた例のコスプレ集団が、今は見るだけで気持ちの悪くなる集団に見える。

 しばらくは、あのインフェルスの仮面を見るだけで、胸くそ悪くなりそう。

 その後、屋内をさんざん練り歩いたコスプレ集団は、ようやく外へとお帰りになった。

「ま、格好はともかく、賑やかな連中ではあったな」

「あぁ、そうだな。うちのソフト、けっこう買っていってくれたしな」

「しかも、知り合いにも布教しとくって……。おれゲーム作ってて本当によかった!」

 でもって、松井先輩と他のサークルメンバーの方々は、そのコスプレ集団にものごっつい感激をしていた。

 ブースをのぞきにきたコスプレ集団の中にとんでもなくFPS大好きな人がいて、FPS談義やアナログゲーム談義でむちゃくちゃ盛り上がったんだから、そりゃそうだろうけど。

 しかもその人達、自分達のだけじゃなくて他のFPSゲーマーの知り合いの分まで買っていっていってくれたんだから、そりゃ感動ものだろう。

 ちなみに、俺と咲希も混じってマニアックな話してたから、柏木と三枝さんがちょっと引いてた。

 でも、さっきまで趣味の悪い集団だなぁって言ってた人達とすんげー熱く話し合ってたら、そりゃ引くか。

 自分でも、なかなかシュールな構図だなって思う。

「さて、せっかく後輩が来てくれたんで、ちょっと案内してきますね」

「おぉ、はぐれないように気を付けろよ~」

 と、いうわけで、俺達は松井先輩案内の元、別のブースに向かった。

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