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奏交フォルティッシモ  作者: 蒼崎 れい
Phase01:Virtual Reality Game
2/62

Stage01:2062/12/15/16:16:13【-1015:43:47】

 はぁぁ、早く授業終わんねぇかな。

 俺こと速水(はやみ)瑛太(えいた)は、目下午後の授業の真っ最中だ。

 周囲の机を見回せば、たいていの奴らは寝ているか、黒板ではない場所を見ている。

 まあ、俺も退屈な古典の授業なんて聞いていない。

 なにせ、俺の視界の半分は速報記事のホロで占められているわけで。

 スクリーンに映し出される板書は視界スクショでこまめに保存しながら、ページを下にスクロールしていく。

 授業中にインターネットで速報記事を読めるのも、このホログラスのお陰だ。

 ホログラス――メガネに携帯電話の機能をプラスした新世代携帯デバイスで、三次元表示される映像をタップする事で操作できる。

 ま、俺みたいに操作に慣れた人間なら、眼球運動でも操作できんだけど。

 その他、レンズ部分は超軽量の透過型ディスプレイ、処理速度は最新のノートパソコン並。

 まさに、革命的な商品だと思う。

 最初の頃はHMDヘッド・マウント・ディスプレイみたいなゴツゴツしたデザインだったんだけど、今ではほとんどメガネと変わらないレベルまで軽量化されている。

 技術の進歩に感謝しなくちゃ。

 しかも俺が先月買った最新機種は、透過型ディスプレイの向こうからでは映し出される映像が見えないという仕様となっている。

 最初期モデルの透過型ディスプレイは厚みがかなりあって重く、それを解消した超薄型が出たのが二年前。

 ようやく、周囲の目を気にせずにページの閲覧が出来るようになったわけだ。

 これでエロい内容の……ゲフンゲフン。

 ちなみに今開いているのは、昨日プレイしていたゲーム――Galaxia(ギャラクシア) Online(・オンライン)の攻略Wikiを開いている。

 そこで昨日のアップデートで追加された新ボスの攻略情報について、ページをスクロールしていく。

 武装一覧。大型プラズマ収束砲二個、中型ビーム砲六個、小型ビーム機関砲十二個、小型ミサイルポット十個、大型ミサイルポット二個、アクティブアタックフィールド。

 ミサイルの種類は、大型巡航ミサイル、マイクロミサイル、迎撃ミサイル、デコイ、チャフ。

 なに、この『ぼくの考えた最強のろぼっと!』みたいな武装…………。

 運営、クリアさせるつもりないだろ、とか思ってたら。うわ、クリアしてる人いた。

 しかも、十六人のマルチパーティーじゃなくて、四人のソロパーティ-で。

 くそ、やりこんでるうちのメンバーですら、撃墜できなかったのに。

 いや、でも撃墜寸前だったんだぜ? 背中のスラスターを片方破壊して、ミサイルポットも半分は潰して、腕だって片方落として。

 あちこちから煙と火花散らしていて、撃墜は目前だった。

 今度こそは、必ず撃墜してやる。

 新ボス攻略への決意を新ためてしたところで、今度はゲーム関連の速報記事を開いた。

 内容は、冬休み中に発売される、現在話題沸騰中のゲームについてだ。

 ゲーム筐体とセット初回限定版は、ネット販売分は開始十二秒で完売。

 店舗予約の方も、即日完売する店舗多数、か。

 ソフトのみの通常版も、ネット販売分は五分ともたなかったっぽいな。

 でも、β版であのクォリティーなら、それも頷ける。

 追加生産はしているけど、受注の数には全く追い付きそうにないだろう。まあ、そうだろうな。

 ダウンロード版の準備もしてるっぽいけど、あのバカでかいデータをダウンロードするとなると、なかなか骨が折れそうだ。

 最新の新式光回線使っても、何時間かかることやら。

 そう思った途端、授業終了を告げるチャイムが室内に響き渡る。

 先生がスクリーンを消す前に、俺は最後の板書をスクショで保存した。




 先生が教室を出て行くと、教室は途端に騒がしくなる。

 まったく、こっちは新情報のチェックで忙しいってのに、少しは静かにできねぇのかよ。

 なんて、言えるわけもなく。

「はぁぁ……」

 仕方なく、俺は記事の内容に意識を向けた。

 そもそも、そんな事をクラスの全員に言えるようなら、『ネクラ』『ムッツリ』『オタク』だなんて呼ばれたりはしないだろう。

 あ、でもそう言ってるのは一部のヤツらだけだからな、これ肝心。

 まあ、俺が周囲からどんな評価を受けているかはどうでもいい。

 今気になるのは、叔父さんの作ってるゲームの新情報だ。

 でも、どれも予約情報に関する記事ばっかりで、肝心の内容に関する記事がない。

「はーやみ!」

「うわぁっ!?」

 速報記事の映像を突き抜けて、見知った顔がドアップで映し出された。

「相変わらず、お前は新作のチェックでもしてるわけか?」

 まったく、驚かせやがって。

 いや、事実だけどさ……。

「なんだ、柏木かよ……」

「その顔から察するに、図星だったみたいだな。目がキョロキョロしてたからさ、そんなんじゃないかと思ったんだよ」

 コイツは柏木(かしわぎ)琢磨(たくま)

 ネクラ、ムッツリ、オタクとあまり良い評判のない俺とは正反対の、すこぶる明るくて前向きで社交的なやつ。

 根っからの良いヤツなのか、やたら俺に話しかけてくる。

 俺もイヤではないというか、むしろ話しかけてくれてちょっと嬉しかったりするんだけ……いや、そんな事はない、と思いたい。

 とにかく、良いヤツなんだよ、うん。

 短髪でワルガキっぽい笑顔のよく似合う、なかなか憎めないやつだ。

 そんなクラスのムードメーカーな柏木は、自信満々に腕組みなんかして頷いてる。

 いや、違うからな。図星だからじゃなくてだな、単にお前が充実したリアルを送っているから羨ましいというか、それに比べて自分はダメだなぁっていうか。

 そもそも全部お前の勘違いで、はぁぁ、やめよう。考えてて自分で悲しくなってきた。

「まあ、そうだけど」

「なぁ、どんな記事見てんだ?」

「ちょっと待ち。今、視界共有するから」

 アドレス帳から柏木の名前を探して、P2Pで柏木のホログラスとディスプレイに映し出される映像を共有する。

「うっわ、前が見えねぇ!」

 まあ、軽く二〇ページは開いてるし、前が見えないのは当たり前だろう。

 柏木は一つの記事のリンクをコピーすると、接続を切って自分のホログラスで記事を読み始めた。

「てか、あれだけ開いててよく処理落ちしないな。オレのホロなんか、ページ十枚も同時に開いたら止まっちまうぜ」

「まあ、俺のは割と新しい方だから」

 柏木のホログラスには、左右逆向きの映像が映し出されている。

 しかもまだフレームが太いし、最低でも一年以上は前の機種を使ってるんだろう。

「すげぇ……さすが最新機種。俺も新しいの欲しいんだけど、たっけぇからなぁ。親に言ったら、『自分で働いて買いなさい』って言われるんだろうし」

 ため息をつきながら、柏木はページを下の方へとスクロールしていく。

「それにしても、すげぇ人気だな。予約開始十二秒で完売って、回線とスペックのあるやつじゃいと予約とか無理だろ」

「それは同感」

「なぁなぁ、グラフィックス凄かったんだろ? どうなんだよ、β版体験者」

「そうだなぁ……。でも確かに、第二世代機種とは比べ物にならないって感じ。開発陣が『マシンのスペックは使い切った』ってのも、わかる気がする」

「いいなぁ……羨ましいぜこんちくしょう」

 速報記事の向こう側でおろおろと悔し涙を流す柏木を見て、俺はちょっとだけ勝ち誇った気分になる。

 柏木の言っている事は、嘘ではない。

 第三世代のVRゲーム機――“NOVA(ノヴァ)”の全スペックを使い切ったと豪語しているゲームソフト、“Bravery(ブレイブリー) Symphonia(シンフォニア) Gothic(ゴシック)”、通称“ブレゴス”のβテスターとして、実際にゲームを体験したのだ。

 これまでにも色々なVRゲームをプレイしてきた俺でも、圧倒的なグラフィックには驚かされた。

 そのソフトのディレクターが、我が叔父上だったりするわけなんだけど。

 ほんと、いい歳して冒険好きだな、あの人も。

 開発費回収できなかったら、どうするつもりなんだよ。

「そういや、例の件ってどうなったんだ?」

「連絡待ち。今週中には、連絡くると思うけど」

 まあ、その叔父がディレクターだったお陰で、α版の頃からプレイできたわけだから、俺としては万々歳だったけど。

 それでも、色々と面倒な作業を手伝わされたっけ。

 デバッグだけならまだしも、技の名前やモーション、パラメータ調整の手伝いまでやらされるなんて、思いもしなかった。

 その陰で、何度テストで赤点取りそうになった事か。

 あと、オブジェクトにぶつかっても貫通しないかとか、メニュー表示は大丈夫かとか、一回ログアウトアイコンがなかった時はかなり焦ったなぁ。

 でも、一番きつかったのは、痛みのフィードバック調整だったけど。

 ったく、人をモルモットみたいに……。

「速水?」

「あ、うん。なんだ?」

「いや、変な顔してたからさ」

「別に、なんともないって」

「そっか。んじゃ、また放課後にな」

「おう」

 柏木が俺の机から離れると、画面の右上に新着メールを告げるアイコンが現れた。

 こんな時間に、誰からだろう。

 メールマガジンには一切登録してないはずだし。

 人差し指でアイコンをタッチすると、




From:新垣芽唯

Sb:呼び出し

**************

数Ⅱの小テスト、点数が足りな

かったので放課後に追試をやり

ます。必ず来てくださいね。

**************




 くそ、三角関数なんかダイッキライだ。

 小テストの惨敗で傷心の俺に追い討ちをかけるように、ホームルーム開始のチャイムが鳴り響いた。

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