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奏交フォルティッシモ  作者: 蒼崎 れい
Phase03:Crossing Hearts
19/62

Stage18:2062/12/31/10:17:01【-0637:42:59】

 冬休みも中盤もとい大晦日。俺達パソ研のメンバー(の一部)は松井先輩の誘いもあって、年に二回行われる盛大な屋内イベントに向かっていた。

 コミックス&マーケット、略してコミケだ。

 三枝さんと柏木はホログラスの視界を埋めつくさんばかりの情報量に目を回し、咲希は人の密度に酔って顔色が悪くなっていた。お願いだから、電車内で吐く事だけは勘弁してください。

「なぁなぁ、これなら新幹線の方がよかったんじゃね? いや、いっそ記念にリニアでも……」

「この距離で新幹線は割高だし、リニアは一県に一駅しかない上に新幹線よりもっと高いぞ」

 俺は柏木に、各路線を用いた場合の検索結果を送ってやった。

 在来線と新幹線じゃ倍以上も金額が違う。リニアと新幹線の差も同じくらい。

 急ぎの用があるわけでもないんだから、こんな金のかかる乗り物なんて乗ってられるわけないだろ。

 もっとも、買い物するより松井先輩に顔合わせするのが主な目的なので、一人で乗るなら勝手にやってもらう分には一向に構わない。

「ねぇ、スカイツリーって見れないの?」

「さぁ。その内見れるんじゃないかな」

 三枝さんは東京の観光名所のページを開いてるらしく、画面のミニ映像をP2Pで繋げてくれた。

 拡大操作してページを見てみると、皇居、国会議事堂、東京タワー、東京スカイツリー、雷門、築地、秋葉原、千葉県にあるのになぜか東京とか言ってるネズミの国の遊園地、etc……。

 観光MAPを埋め尽くす勢いで、写真付きの文字が浮かんでいる。

「そういや、スカイツリー建てたのってもう半世紀くらい前なんだよな。東京タワーとか百年も前から建ってるとか、信じらんねぇぜ」

「柏木く~ん。そんな事言ってたら、未だ現役で走ってる新幹線だって一番最初に走ったのは百年位前よ。リニアモーターカーの利用客なんて、新幹線と比べたらまだまだなんだから」

 柏木と三枝さんの言っている事に、俺もうんうんと頷いた。

 そうだよなぁ。名前だけは知ってるけど、東京タワーってもう百年も前からあるんだよな。歴史の授業でやった気がする。

 新幹線も、戦争のあとに東京でやったオリンピックに合わせて作ったんだから、相当前だよな。

「東京タワー、着工一九五七年…竣工一九五八年。高さ三三三メートル、当時国内で最も高かった電波塔。東京スカイツリーができるまで、国内で最も高い自立式鉄塔…でした。新幹線、世界で最初の高速鉄道、一九六四年、○系…営業開始。二〇〇八年、引退。営業開始から約一世紀、未だに死亡事故なし。東京スカイツリー、着工二〇〇八年…竣工二〇一二年。旧国名の武蔵(むさし)にちなんで…高さ六三四メートル。完成してしばらくは、世界一高い自立式鉄塔・電波塔の地位に…あったはずです。ちなみに、世界一高い塔で、ギネスにも載った事も…あります」

「解説ありがとうな、咲希。でもな、さすがに俺でもだいたい知ってるからな。詳しい数字とかは知らないけど」

 嗚呼、柏木と三枝さんが楽しそうに話してる。俺もあっちに入りたい。

 そして咲希、いくら俺が成績悪いからって、そんな細かい解説いらないからな!

 なんか、半分社会見学みたいなみたいな気がしてきた。俺、咲希の解説聞くために来たんじゃないってのに。

 ただ、観光MAPの中なら秋葉原にだけは、行ってみたい。

 まず一つに、秋葉原のゲーセンには、ジョイスティックとボタンによる旧世代のゲーム筐体があるとの噂があるので、それが本当なのかどうか確かめたい。で、あるならそれで遊びたい!

 それに、VRゲームも専門店がいくつもあって、公式から同人まで幅広いジャンルのタイトルが置いてあるっていう話も聞くし、また先行配信の体験版も普通より早く体験できるらしい。ホログラスに圧縮ファイルをダウンロードさせて、家に帰ってからゲーム機にぶちこむっていう。

「速水、会場にはまだ着かないのか?」

「まだだって。ほれ、MAPデータ送ってやるから、自分で見てみ」

 俺は、現在地と目的地の表示データを転送する。それを見た柏木は、げ……、という顔をしていた。

 まあ、一時間もかからないだろう。もう一時間弱も乗ってるんだから、今更一時間くらい……。

 とは思ったもののさすがに会話のネタが無くなり、最後にはホログラスに入れてあるミニゲームで遊んでいた。




 そしていよいよ会場へ到着。最終日だったのと、開演からそれなりに時間も経ってるのもあって、思ってたよりすんなり入る事ができた。

 ただ、会場に入ってからはびっくりさせられっぱなしだった。

 まず最初に、

 “サービス<C&M☆案内>がご利用可能です。接続しますか?”

 と、ホログラスにダイアログが浮き上がる。

 まあ、普通なら名前の通り、会場を案内してくれる誘導プログラムだと思うだろう。

 だけど、その発想が甘かった。

『コミックス&マーケットへようこそにゃ! コミックス&マーケットの案内係りを勤めさせて頂きます、ミーシャですのにゃ!』

 胸と腰の辺りだけフワフワのピンクファーをまとったネコ耳・ネコ尻尾の女の子が、ものごっつい高精細の画像でホログラスに投影されたのだ。

 もうね、実際に目で見るより綺麗なくらいだと思う。

『お友達のホログラスとも、リンクさせますかにゃ?』

「あ、うん。お願い」

『ではでは、このアドレスにアクセスして頂いてくれませ!』

 しかも、違和感なく話せてるし。ナニコレ、メッサリアルナンスケド。

 俺は言われた通り、アドレスを三人に渡した。三人はA5サイズのカードに表示されたポリゴンを受け取ると、記されたアドレスにアクセスする。

「うぉ、ネコっ娘!?」

「え? え? 速水くん、これってどうなってるの!?」

「ここ、これは!? こここ今年のマスコットキャラ、ミーシャたん!! もしかして、NPC!? NPCなんですか、先輩!!」

 俺の目の前に映っているネコっ娘(ミーシャたん)が、三人のホログラスにも映し出されたんだろう。

 この真冬にこんな露出過多な衣装は、運営の感性を疑いたくなる。いや、悪くはないけどさぁ……。

『もぉ、みなさん、そんなに見つめにゃいでください。ミーシャ恥ずかちいにゃ!』

 …………いやいやいやいや、可愛いけどこれは狙いすぎだっての!

「ミーシャさん、そのカッコ、もう少しなんとかならないんで?」

『う~ん、でもミーシャの衣装はこれしかにゃいのにゃよ。エッチな気分になったとしても、襲っちゃダメだぞ!』

「どうやって実体のない映像を襲えってんだよ」

『う~んとぉ、ホログラスの仮想フィードバック機能を拡張させてミーシャに触ってきた人ならぁ、この三日で十人くらいいたにゃんよ』

「それ、脳的に大丈夫なのかよ……。VR環境下ならともかく、現実世界でのフィードバック機能の拡張は、安全が保証できないって書いてあるのに」

『おかげで、ミーシャは羞恥心を覚えてしまったにゃ。ぽっ……』

 NPCと会話で来てる自分が、なんか怖い。

 それにしても、本当にリアルだな。ほっぺたの染まり具合とか自然すぎて怖いくらい。あと関係ないけど、肩がやたらエロくて気まずい。

 てか、何なんだよこのNPCのAI。やたら性能高いのに残念すぎるわ!

 NPCに触れようとする一般参加者も一般参加者だけど。

 運営もこんなんに力入れるくらいなら、もっと別の事に金使えばいいとか思ったらいけないんだろうな、きっと。

「ま、案内係ってんなら、松井先輩んとこに案内してもらおうかな」

『松井先輩ですかにゃ? サークル参加者を検索した結果、本日は“松井”に該当するご主人様の参加しているサークルは十七つありますがにゃ?』

「あ、サークル名は“コントローラー友の会”で」

『“コントローラー友の会”に該当するサークルを一つ見つけましたのにゃ。ミーシャえらいかにゃ?』

「はいはい、えらいえらい。褒めてもらうの強要するのは、どうかと思うけどな」

『にゃっははははぁ~。では、こっちにゃのにゃ』

 ホント、日本の未来が心配です、ボクは。

 究極に無駄な超絶性能NPCに呆れつつ、俺達はミーシャに付いて行った。

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