Stage17:2062/12/27/17:53:31【-0726:06:29】
こっちの体力は一杯でも、ブリガンゴーレムの攻撃力は重量感に相応の威力はあるだろう。
頼みの綱のブラストエッジ残り使用回数は、たったの一回。
こいつは、最後まで取っておかなきゃいけない。
向こうが残り一体を倒すまでは、なんとしても持たせて見せる。
「こっちだ、デカブツ!」
ミニガンゴーレムのポリゴンの中をくぐり抜け、俺はブリガンゴーレムに斬りかかった。
簡単に懐まで潜り込むと、刃を押しつけるようにチェルミブレイドを押し込む。
でも、今度はミニガンゴーレムみたいにはいかない。
いくら速度と体重を乗せた攻撃でも、超重量のブリガンゴーレム相手じゃバランスを崩すことすらできなかった。まぁ、わかってたけど。
伸ばした腕が戻ってくるより先に、腰を落として足の間をくぐり抜ける。
スライディング気味にブリガンゴーレムの股下を通り抜けた直後、ずぅぅんとお腹に響くような重低音が響き渡った。
振り返って見ると、ブリガンゴーレムが自分の胸を、あのゴツイ手で殴っていた。
あれ、俺を狙ってたやつだよな。
いくら痛みが減退されてても、体がミンチになるようなパンチを受けたら、タダじゃすまない。
その事を、β版の時のプレイで既に経験している。痛かった、あれはホントに痛かった。
向こうの一挙手一投足にまで気を払いながら、俺は再びブリガンゴーレムへと肉薄した。
大きな振り、ゆっくりとした動作。
しかし、そこから先は今までと全く違っていた。
「くっ!?」
速い、それも格段に。速度だけならボノボノの方が速いけど、大きさと威力は十数倍と言っていい。てか、その図体でその動きは反則だろうが!
それでも気付いた時には、俺の体は動き出していた。
頭の上を、岩石の拳が通り過ぎる。その下を突き進み、再びブリガンゴーレムへと接近する。
普通の個所への攻撃がダメなら……。
「関節なら、どうだ!」
岩と岩のつなぎ目を狙って、チェルミブレイドを突き立てる。
まずは、狙いやすい膝関節から。
掌に広がる感触は、相変わらず最悪の一言に尽きる。現物だったら、絶対に折れてるぞこれ。だって、じゃりってしたんだもん、じゃりって。
素早く刃を抜くと、すかさずステップ。
するとブリガンゴーレムは、その関節を攻撃された足で俺を蹴り上げて来たのだ。
あのままチェルミブレイドを繰り返し突き刺していたら、今頃蹴り飛ばされてんだろうなぁ。
「はぁッ!」
今度は同じ足の股関節。背後まで回り込み、隙間だらけの関節へと刃を突っ込んだ。
さっきまでより柔らかい感触が、掌に広がる。これは、けっこう好感触かも。
でも、そのまま押し込んだりはせずに、チェルミブレイドを抜きながらバックステップ。
一瞬遅れて、目の前を岩石の拳が通過した。攻撃に集中しすぎて、向こうの攻撃をくらっちゃ意味ないしな。
ダメージを確認すると、まだ一割にも達してない。
普通にぶった斬るよりはちょっとは効いてるっぽいけど、やっぱ弱点部位じゃないとダメか。
すると、またブリガンゴーレムの行動パターンが変わった。
今まではその場に立ってパンチを繰り出していただけなのが、全身を使って飛び出しながら強烈なパンチを繰り出してきたのだ。
空中にいた俺は強引に地面まで足を伸ばし、ムリヤリサイドステップして何とかかわす。
それでもブリガンゴーレムのパンチは左腕をかすり、二の腕を思い切り蹴られたような痛みと衝撃が襲い、HPバーがごっそり一割持って行かれた。
「ッ痛……!」
でも、立ち止まっている余裕はない。
なんたってブリガンゴーレムはもうに反対側の腕を引き絞って、俺を殴ろうとしてんだから。
素早く斜めにバックステップした直後、さっきまで俺のいた場所を巨大な拳がえぐる。
攻撃を回避して一息つこうとする俺だったけど、ブリガンゴーレムの動きは俺の予想の更に斜め上をいくものだった。
そこから斜めに跳んだ俺めがけて、一緒に跳んできたのだ。
リアルでの重さに換算すれば何百キロもなるくせして、動きが軽快すぎますぜ。ゴーレムさん。
また空中から無理やり足をつけようとしたけど、今度は足が着かなかった。
やべ、これ絶対直撃で死ぬ。
間延びしていく時間間隔の中、伸びてくる岩石の腕がはっきりと認識できる。
でも俺の体は、俺の思考についてきてくれない。
かわさなきゃいけないって、頭ではわかってんのに。
一メートルが五〇センチ、三〇センチと、だんだん近付いてくる。
それにつれて、ブリガンゴーレムの体は、拳の陰へと消えていく。
拳は更に近づき、二〇センチ、十センチと近づいて来て……。
くそっ! もっと低く跳べばよかった!
ついに目の前まで迫ってきた拳。
俺は次に来るだろう強烈な痛みに、つい目を固く閉じてしまった。
覚悟していた痛みは、いつまで経ってもやってこない。
その代わりとばかりに、背中から盛大に地面に落ちた痛みに、思わず悶絶してしまう。
けど、ダメージは大した事ない。
相手の攻撃を受けたわけではなく、単なるバックステップで着地をミスっただけだったから。
割合にしたら、二、三パーセントくらい。
俺は背中からの突き刺さるような痛みに耐えつつ、閉ざしていた目を開けた。
最初に視界に入ったのは、土煙の中でうつぶせに倒れたブリガンゴーレムの姿。
そして次に目に入ったのは、
「すいません、お待たせしました」
「助太刀するよ、瑛士くん」
「てかお前、よくこんなのとソロでやり合えるな。呆れるぜ」
木の杖を肩に担ぐラピス、くたびれた感じでショートソードを持つユイさん、呆れ顔でこっちを見てくるライトフォーゼの三人の姿だった。
体力はだいたい、三割から四割削られてるみたいだけど、どうにかミニガンゴーレム二体を片付けたらしい。
これで残るは、ボスであるブリガンゴーレムだけ。
ゴーレムとは思えない身軽な動作で跳びあがると、後方に一回転しながら着地した。
まるで俺達を嘲笑ってるみたいで、ちょっと腹立つ。
でも、こっからが、いよいよ本番ってわけだ。
「こいつの弱点部位は目だからな……。まずは、どうにかしてこかすぞ」
「アイアイサー!」
「えっとぉ、頑張ってみる」
「おっしゃ、まかせとけ!」
ラピスの形成した風の弾丸が先行し、挟み込むように俺とユイさんが走る。
ブリガンゴーレムは腕を振りまわして風の弾丸を跳ね飛ばすと、続いて俺とユイさんへと注意を移す。
ヤツが選んだのは、レベルの高い俺の方だった。
直撃を入れられれば、どっちに当たろうとも大ダメージは確実。しかし、レベル的には俺の方がより危険と判定を下したんだろう。
与えたダメージは、まだ合計して一割程度。
討伐までの道のりは長い。
「くそッ!?」
ぶんと振り抜かれる腕を、体をかがめて回避する。
他のゲームのゴーレムなら、絶対にあり得ない速度だ。
でも、そのおかげでユイさんは背後から簡単に接近できた。
「えぇぇぇええええい!」
でも、せめて関節を狙って欲しかったです、はい。
太ももの部分を後ろから斬りつけたけど、簡単に弾き返されてしまう。
だよなぁ、俺でもろくに刃通らないのに。
「あれ?」
「ぼーっとしてないで、速く下がって!」
その瞬間、俺からユイさんへと目標を移したブリガンゴーレムは、俺に向かって振り抜いた腕を返すようにして攻撃を仕掛けた。
間一髪で回避には成功したけど、ユイさんはそのまま尻もちをついてしまう。
ブリガンゴーレムはここぞとばかりに腕を高々と振り上げ、ユイさんめがけて降り降ろした。
「させない!」
しかし、そこへ横から急襲をくらって、大きくバランスを崩す。
ラピスが真横から、風の砲弾をみまったらしい。ナイスフォロー。
転倒するには至らなかったけど、ブリガンゴーレムをユイさんから引き離すことには成功してひとまず安心する。
「チャンスキタァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
そこへ、ライトフォーゼが猛ダッシュで接近してきた。
バランスを立て直したばかりのブリガンゴーレムへと、重量級のアイアンソードをぶつける。
使い方としてはほとんど鈍器も同然だったけど、これがなかなか効いたらしい。
リーチのおかげもあって、アイアンソードはブリガンゴーレムの頭部を直撃。
頭上に星がくるくると回るエフェクトが現れたのだ。
「たまにはやるじゃありませんか」
そこで、ラピスの青い瞳がキラリーン、と光った。
風の弾丸を拡散モードから収束モードへと変更し、ブリガンゴーレムの頭部めがけて一斉射。
――ズズズズズゥゥウズズズズゥズズズズズウゥゥゥゥ…………。
岩同士が削り合うような音と共に、ブリガンゴーレムが数歩後ずさった。
そしてたった二撃で、体力ゲージが〇.五割減少していた。
今まで目に見えるダメージがほとんどなかった分、これは全員の心に希望を灯す結果となる。
これなら、弱点部位にブラストエッジを叩き込めれば…………。
ミニガンゴーレムですら一撃で屠った――まあ、弱点部位ではあるけど――威力を見れば、三、四割は削れるはずだ。
「そりゃ、守ってばっかじゃ男がすたるってもんだろ!」
ラピスの軽口に答えながら、ライトフォーゼは更に斬りかかった。
ダッシュの勢いと武器の重さを最大限まで生かして、ふらつくブリガンゴーレムを追撃する。
「どりゃぁあああああああああああ!!」
ガガガガガガガガガアアァァァ――――!
HPバーには、目に見えたダメージは見られない。
しかし、ブリガンゴーレムの真ん中にはアイアンソードによってつけられた傷がくっきりと浮かび、重量だけでは殺しきれなかった運動エネルギーに、また数歩後ずさる。
「先輩、合わせて!」
「おぉ!」
ブリガンゴーレムを中心にして正面まで回り込むと、俺は全力で地面を踏み抜いた。
それと同時に、背後から風の弾丸が射出される。
これが深夜の廃人プレイで得た、ラピスとの同時攻撃技だ。片手剣で斬りかかると同時に、魔法攻撃も加える。
プレイヤーキルが可能なのもあって、ブレゴスはフレンドリーファイアのシステムが標準装備されている。
大きさが十メートル以上とかの大型モンスターならいざ知らず、ブリガンゴーレム程度のモンスターには同時攻撃をかけるのは難しいのだが。
「はぁぁぁああああああああッ!」
十分な勢いを乗せた突きがブリガンゴーレムに突き刺さるのと風の弾丸が着弾するのは、完全に同じタイミングだった。
昨夜さんざん練習したとはいえ、俺の体すれすれを通るように弾丸を制御するのは、相当に難しいはずだ。
それを、この一日足らずでものにするなんて……。頼り甲斐があるのやら、呆れればいいのやら。
「危ない!」
と、俺の目の前に人影が浮き上がってきた、亜麻色の髪は間違いなく、ユイさんのもの。
俺が茫然としていると、目の前でユイさんの体が弾けた。
アバターが俺の体に叩きつけられ、一緒にそのまま数メートル吹き飛ばされる。
俺の方は今ので二割、ユイさんの方は五割近くもHPを削られていた。
いったい何があったのか。
目の前を見ると、ブリガンゴーレムが腕を伸ばしきった状態の姿が入ってくる。
あいつ、倒れそうになりながら迎撃してきたのかよ。
「悪い、気付かなくて。その、ありがとぉ」
「ううん、大丈夫。腕痺れちゃって、剣持てなくなっちゃったけど」
目の前十センチもない位置に、照れ笑いするユイさんの顔があった。
しかも、体の感触がリアル以上にリアルだ。温かくて、すごく柔らかくて、それにいい匂いもして。
思わず頬が赤くなって、目をそらしてしまう。
あぁ、今夜もう寝れなさそう……。
「先輩、誤射していいですか?」
「瑛太てめぇ、何やってんだよこら!」
やべ、見とれてたら怒られた。
いや、個人的には死んでもいいから、もう少しこのままでいたいんですけど……。
「な、なんでもない!」
まあ、そんな事言える勇気なんてない。それに、言ったら人として色々と終わっちゃう気がするし。
俺はユイさんの脇の下に腕をまわし、後方に大きくジャンプして安全圏まで逃がすと、再びブリガンゴーレムへと向かった。体力も限界近いし、これ以上は危ない。
腕にまだ、生々しい感触が……じゃなくて。
気持ちを入れ替えて、チェルミブレイドを構える。
「先輩、不潔です」
「いや、違うって! そんなんじゃねぇから!」
「そこの廃人二人! サボってないで手伝ってくれよ!」
ジト目でチクチク言葉攻めしてくるラピスの誤解を解こうと思ったのに、一言だけでも言い訳する時間もないのか。
ライトフォーゼはある意味驚異的な動きで、ブリガンゴーレムのパンチを次々かわしていた。
ものすごく腰が引けてる事はさて置き。
「ていっ!」
風の砲弾が、ブリガンゴーレムを真上から急襲する。
ライトフォーゼに連続攻撃を放っていたブリガンゴーレムは衝撃に耐えきれず、腕を突き出して体を支える。
チャンスは、頭の位置が下がっている今しかない。
「これで……!」
「オレにもチャンス到来!」
ライトフォーゼはブリガンゴーレムの目の前でアイアンソードを後方いっぱいまで振りかぶり、溜め状態に入った。
そして体から三度目のライトエフェクトが放たれた瞬間、
「どっせぇぇええええええええい!」
頭部の構造体が破壊され、アイアンソードの刃は弱点部位の目まで達した。
声ならぬ悲鳴を上げるブリガンゴーレム。
その頭上に表示されるHPバーが、一気に一割以上も減少した。
素の防御力がアホみたいに高い分、弱点部位のダメージも普通のモンスターより多いのかも。
これで、残り体力は七割を切った。
多少てこずることにはなるだろうけど、それは後で考えればいい。
「くらえぇぇぇえええええええええええええええええっっ!!」
ブラストエッジ。
本来の刃の延長線上に、高威力の風の刃を形成する必殺技スキルが発動した。
チェルミブレイドの表面を、風の刃が包み込む。
その刃で、アイアンソードによって狙いやすくなった目をぶった切る。
通常レンジの外側から使用する必殺技を、零距離でお見舞いしてやった。
ユイさん殴ったお返しだ、このバカ野郎!
爆弾でも爆発したような衝撃に襲われ、俺の体も大きく吹き飛ばされた。
あまりに無茶な使い方に、ダメージの一部が自分にまで返ってくる。
残りの体力は、もう十パーセントを切っていた。それを示すかのように、視界は赤く染まっている。
感覚的には、右腕もうブチ切れてんじゃないかってくらいだけど、一応繋がっていて一安心。
で、向こうの体力は……?
「くらぇえええええい!」
二度の大ダメージでふらつくブリガンゴーレム。
その弱点部位が完全に剥き出しになった頭部へと、ラピスは風の砲弾を放つ。
ろくな回避も取らなかったブリガンゴーレムの残り体力は、ついに三割を割っていた。
桁外れの防御力と体力に、初めは攻略不能を思わせられたブリガン・ゴーレムだったが、それももうすぐ終わる。
多少レベルを上げたとは言っても適正レベルは俺一人、しかもβ版時の半分の人数の上に、全員が廃人プレイヤー級の猛者ではいない。
同じ学校の同じクラブに所属していると言うだけの、リアルでの知り合い。
オンラインゲームをやり始めてから、恐らくは初めての経験。
その初めての経験がそうさせるのか、今までにないほど気持ちが高ぶっていた。
勝ちたい、何が何でも、絶対に。
「これで……」
体力ゲージがレッドゾーンに入ったのも気にせず、俺はブリガンゴーレムに飛びかかった。
「おらぁああああッ!」
だが、向こうも最後の抵抗を見せた。プログラム――単なる『0と1』の羅列とは思えない、まるで生きているかのような。
ギラリと眼光を光らせたブリガンゴーレムは、最後の力を振り絞って腕を振り払った。
やべぇ! かわせねぇ!
間延びしていく時間感覚、自分の身に迫っている極太の腕が、はっきりと知覚できる。
でも、体の方が動かない。そもそも、俺の体は空中にあるわけで。
「なにやってんだよ!」
しかし、俺の視界をふさぐように人影が割り込む。
そいつは手元の大剣の側面を、ブリガンゴーレムの腕に向けて構えた。
ガギギィィ!
鼓膜の裂けるような甲高い音がしたと思ったら、俺の視界を遮ったヤツと一緒に後ろに吹き飛ばされた。
「って、お前体力ねぇのに、無茶してんじゃねぇよ。ここで死んだら、今まで溜めた経験値がもったいないだろうが」
そう、ライトフォーゼがとっさに、俺との間に割って入って、ブリガンゴーレムの攻撃を受け止めてくれたのだ。
それでも超重量の攻撃は止める事が出来ず、二人まとめて吹っ飛ばされた。
ダメージは受けたが、まだわずかに体力は残っている。
「文句なら後にしろ!」
プレートメイルの首元をつかみ、転がるようにして横に跳ぶ。
するとさっきまで俺達のいたところに、ブリガンゴーレムの右腕が突き刺さった。
しかしブリガンゴーレムは左腕を振り上げており、既に初動も開始していた。
くそ、間にあわねぇか……!
まあ、柏木も道連れなら……一人でやられるよかまだマシか。
俺と柏木は、体がバラバラになるような痛みのフィードバックと迫る拳への本能的な恐怖から、固く目を閉じ身を強張らせる。
「てぇぇえええええええええいッ!」
でも、いつまで経っても痛みはやってこない。
恐る恐る目を開けると、そこにはブリガン・ゴーレムの弱点部位に深々と――炎のエフェクトを纏ったショートソードを食い込ませる、ユイさんの姿があった。




