Stage16:2062/12/27/17:37:37【-0726:22:23】
途中で警戒中のモンスターとすれ違ったけど、どれも最初の集団ほどの大集団じゃなかったおかげで、クエストは順調に進行中だ。
それでも俺とラピスほどレベル上げをしていなかったユイさんとライトフォーゼは、またしてもEXPバーが三割以上溜まったらしい。
かく言う俺は、ちょっと上げ過ぎなせいか数ドットくらいです。
「ふいぃぃ、さすがに疲れたなぁ。フィールドマップのモンスターは、こんな集団じゃ襲ってこないもんなぁ」
「うん…………。私も疲れたぁ。まさか、仮想でこんなに疲れるなんて…………」
ライトフォーゼとユイさんは、肩で息をしながら俺の後ろを付いて来る。
ちなみに、まだ疲れの少ないラピスは後方からの襲撃に備えて、殿をしてもらっている。
そしていよいよ、本命の敵がお出ましだ。
俺は家の陰に隠れつつ、そっと向こう側をのぞき見た。
「相変わらず、あれで一番弱いボスなのか疑いたくなるな……」
「どれどれ?」
「私にも見せてぇ!」
「確か、先輩がβ版でプレイした時は、ゴーレムでしたよね」
みんながみんな、俺の真似をしてこっそりと建物の陰から顔を出して、そして若干青ざめた。
ブリガンゴーレム。身長、もとい全長だか全高は四メートル弱。
ゴツゴツのマッチョをそのまま巨大化させたような、岩でできた人型モンスターがいた。
「しかも、何か増えてるし……」
しかもβ版の時にはいなかったモンスターが、ブリガンゴーレムの周囲をうろうろしている。
ブリガンゴーレムをそのままプレイヤーサイズまで小さくした、ミニサイズのゴーレムが三体も。
「どれも固そうですねぇ。攻撃通りますかね?」
「さぁ。とりあえず、レベル上げずに八人でフルボッコにした時は、三回くらい死んだ気がするけど、一応攻撃は通る。確か、平均レベルは五か六くらいだった」
言いながら俺は、ラピスからMP回復効果のある【青のポーション(小)】をもらい、一息に飲み干す。
底を尽きかけていたMPは全回復、これでブラストエッジ二回分のMPは確保できたもう一レベル上がったら、三回いけるかな? 確か、MP自然回復スキルがあったはずだから、どっかで取得しねぇとな。
職業が魔法使いだったら、初期からでももう少しMPはあるんだろうけど。
でもその代わりに、一発の火力が高くて、機動力があるのが剣士だ。
遠くから魔法撃ってるだけじゃ、せっかくのVRがもったいない。VRの醍醐味は、フィールドを五感で感じられる事なんだから。
俺の話を聞いていた三人は生唾を飲み込み、緊張感をより一層高めた。
「ラピス、小さいゴーレムの方、任せたぞ」
「承ります」
「じゃあ、瑛士くんはどうするの? それに、私達は?」
「俺は大きい方のゴーレムを受け持つ。この中で一番レベルも高いし、実際に戦闘した経験もあるし。ユイさんとライトは、ラピスの援護を頼む」
「おいおい、いくらレベルが高いからって、お前一人に任せられるか!」
俺の提案に、ライトフォーゼが反論してきた。
「でも、たぶん一発でHP半分近くは持っていかれるんだぞ? 前やった時、六か七だったけど即死だったし」
「そんくらい、覚悟の上だっつうの。実際に死ぬわけじゃないんだしさ。せっかくのVRゲームなんだから、体動かさせろ!」
楽しそうだけど真剣なライトフォーゼに、俺は少しの間目を奪われてしまう。
他のメンバーを見まわしてみても、それは同じだった。
VRゲームが初体験のユイさんも、自称廃人のラピスも、自分にも任せてくれと顔に書いてある。
「ほんとにもう……。パーティー全滅したら、経験値もCも減るってあれほど言ったのに……」
いくら言ったって聞き入れてくれそうにない。
でも、不思議と悪い気分じゃない。
さっきライトフォーゼと背中を預け合った時と同じ、心の底から楽しいと思っている自分がいる。
そうだよな、これはゲームなんだし。
だったら、ボスを倒そうが、パーティーが全滅しようが、楽しんだ方が勝ちだ。
「全滅しても、俺は責任取らねぇからな!」
チェルミブレイドを構えると、全速力でゴーレムの一団に突っ込んだ。
何はともあれ、まずはゴーレム達の戦力調査からだ。
一番手前にいたやつの脇をすり抜けながら、チェルミブレイドで一番でっかいゴーレムを斬りつけた。ガガガガガッと、武器の耐久値がもりもり下がってそうな音がする。
一撃離脱、追撃は加えずにそのまま一旦ゴーレム達から遠ざかる。
四体の意識が俺の方に向いたところで、ラピスが風の弾丸を撃ち込んだ。何か魔法使いのスキルを習得したらしく、明らかに連射速度が上がっていた。
振り返ったところで、モンスター達の頭上に表示されたHPバーに目を向ける。
真ん中のでっかいやつの名前は、やっぱりブリガンゴーレム。ついでに言えば、さっきの攻撃で減ったのはたったの一ドット程度。
なんだか、前よか強くなってる気がするんだけど…………。
そして、今回増えたミニサイズのゴーレムのHPバーにも目をやる。
名前はミニガンゴーレムって、まんまやないかい! こっちの方も、大方の予想通りなかなかの防御力だ。
風の弾丸のダメージは、一斉射受けて一割の半分ないくらい。
「叔父さん、八人とはいっても、低レベル集団にクリアされたのがよっぽど悔しかったのかな」
反対側からは次弾の準備を進めるラピスと、ミニガンゴーレムに突撃するユイさんの姿が見えた。たぶん、その後ろにはライトフォーゼがアイアンソード構えて付いて行ってんだろう。
俺だって、負けてられるか。
「おらぁああああああッ!」
剣の耐久値なんか知らん。
NPCから買った剣で耐久値なんか気にしてたら、バカみたいだもんな。それも、良いヤツつっても序盤から買えるやつで。
ユイさん達の倍近い速度で突っ込んだ俺を見て、ミニガンゴーレムがぶっとい腕を持ち上げた。
まあ、どう見てもあれで俺を叩き潰すつもりなんだろうけど……。
「おせぇよ!」
そいつを簡単にかわして、顔面に一太刀叩きこむ。
相変わらず、イヤ~な音が聞こえてくる。
更にそこから反転して、同じミニガンゴーレムを背後から斬りつけた。
岩石の背中には赤い宝玉が埋まっていて、チェルミブレイドによって深い傷が刻まれていた。
HPバーをチェックすると、今ので一割近いダメージが入ったのがわかる。
なるほど、こいつの弱点部位は背中のこれか。
「背中の赤い玉だ! そが弱点部位になってる!」
柄にもなく大きな声を張り上げ、もっと攻撃を加えようとチェルミブレイドを構えるが、それは足下を覆い隠した影によって中断された。
慌ててサイドステップを踏んだ直後、真横に巨大な握りこぶしが降ってくる。
確認するまでもない、ブリガンゴーレムだ。はじけ飛んだ砂粒が顔に当たって、爆風に吹き飛ばされる。
背筋が凍るってのは、こういう事を言うのかな。今一瞬ヒヤッとして股間が寒くなったんですけど。
こいつの直撃をもらえば、俺でもHPまとめてもってかれそうだ。
「瑛士! 大丈夫か!?」
「瑛士くん!」
「先輩!」
反対側から、二体のミニガンゴーレムを相手にする三人の声が聞こえる。
でも、今そっちを見ているだけの余裕はない。
「こっちは大丈夫! そっちこそ、死なないように注意しろよ!」
すぐ隣にある岩石の拳を一発斬りつけてから、後方へと大きくジャンプした。
大小二体のゴーレムは、目論見通り俺の事を狙って振り向いて来る。
この隙に、向こうがミニガンゴーレムを倒してくれれば、形勢はいっきにこっちに傾く。
でも、俺だってただ指をくわえて待ってるつもりはない。
「はッ!」
着地の瞬間に、短い一呼吸。地面を固く踏み締め、勢いよく飛び出した。
さっきよりも速く、もっと速く!
ブリガンゴーレムの前に、まずはミニガンゴーレムを仕留める。
残り体力は八割。向こうが二体を片付ける前に…………。
後方いっぱいまで振りかぶったチェルミブレイドを、逆袈裟に一閃。ミニガンゴーレムに、正面から一発を叩きこんだ。
体重を乗せた一撃に、小ささが災いしたミニガンゴーレムはバランスを崩す。
更に倒れるミニガンゴーレムの顔面へ蹴りをぶちこみ、体を回転させながらチェルミブレイドの一撃もくらわせてやった。
でも、弱点部位は背中の宝玉だ。どうにかして、こいつをひっくり返さねぇと。
「うぉっと!?」
危ねぇ、危ねぇ、そういや敵はミニガンゴーレムだけじゃなかったな。
体をかがめた瞬間、頭の上を巨大な拳が通り抜ける。
風圧が頭を撫で、胸が痛いくらいの緊張感が襲ってくる。
そういやこの場合、リアルの体はどうなんだ? 冷や汗がべったりだったら、起きたら着替えねぇと風邪ひくぞ。
ブリガンゴーレムは再び右腕を振りかぶると、遅くも激重のストレートを放ってきた。
「だから、遅いっての!」
足の下をくぐり、背中から斬りかかる。
けど……、
「やっぱ、かてぇなぁ……!」
ブリガンゴーレムの弱点部位は、目の部分。背中も固い岩石に覆われていて、ほとんどダメージは通らない。
横目に三人の様子を見ると、一体の体力は一割を割ろうとしていた。
思った以上に、頑張ってるみたいだな。俺も、気合い入れねぇと。
ミニガンゴーレムを視界に収めながら、ブリガンゴーレムを陰にして円を描くように、相手の背後まで一気に移動。
陰から出た瞬間に急制動をかけ、背中の宝玉めがけて地面を踏み締める。
まるで銃弾にでもなったかのように、体が風を切った。
「こなくそぉ……!」
俺に気付いたミニガンゴーレムが、ゆっくりとこっちに振り返って来る。
間にあわねぇか、なら!
スピードはそのままに、強引に横へとステップを踏む。
足が千切れそうなほどの痛みが、俺の脳を締めつけた。
しかし、おかげでほんのわずかだけ、進路が横にそれた。
ミニガンゴーレムの脇をくぐり抜け、急速反転。
そのさなか、同時にブラストエッジを起動させた。
狙うはミニガンゴーレムの背中に埋まる、赤い宝玉。
顔面は防御力が低かったのか、それなりにダメージが入ったらしい。体力は残り七割と少し。
「はぁぁあああああああッ!」
本能的に、腹の底から声が噴出した。全身の筋肉が、キリキリと軋む。
リアルの体では、当然できるような動きじゃない。
リミッターで痛みは減退されてても、リアルの限界を超えた動きだとこんなに痛むのか。
ドォオオオッ! と、チェルミブレイドはミニガンゴーレムの背中へと深々と食い込んだ。
本来射出されるはずの風の刃を、本体ごと無理やり叩きこんだ反動で、腕全体がハンマーで殴られたような衝撃が走った。
しかし、それはミニガンゴーレムの方も同じ。
背中の岩石を爆発させ、弱点である宝玉も同様に粉々に砕け散る。
HPバーは振り切れ、モンスターの体力が〇となった事を教えてくれた。
でも、まだ終わりじゃない。
強烈な腕の痺れも抜けない内に、大きくバックジャンプする。
コンマ一秒後、そこへ巨大な岩石の拳が降ってきた。
「お次は、お前の番だぜ」
配下を倒されたせいか、ブリガンゴーレムが激しく怒っているよう見える。
少なくとも、さっきまでより動きのキレが上がっていた。
「先輩、こっちも一体終わりました!」
「もう一体も、体力あと半分だぜ!」
「すぐに合流するから、瑛士くん、もうちょっとだけ頑張って!」
言われなくても、頑張るに決まってんだろ!
俺はいつの間にかうっすらと笑みを浮かべながら、ブリガンゴーレムへと踊りかかった。




