Stage15:2062/12/27/17:29:58【-0726:30:02】
周囲の様子を警戒しつつ、俺達は空き家となった家の中に逃げ込んだ。その最中にも、遭遇したボノボノを五体ほど狩っている。
一旦敵の目から逃れて一安心したところで、視界の左上にある自分のHPバーに目をやった。
さっきの軍団とやりあった時から更に減り、四割を割ろうとしている。
そして、MPバーの下にあるEXPバーは再び一杯まで貯まろうとしていた。
「回復しますね。レシード」
ラピスが呪文を唱えると、周囲から緑色の光が立ち上る。
すると半分以下となっていた全員の体力は、あっという間に一杯となった。
「ありがと」
「助かったぜ」
「はぁぁ、これで一安心できるぅ」
俺、ライトフォーゼ、ユイさんの三人は、口々にラピスに感謝の言葉を返した。
それにしても、敵の数がなかなか多い。
β版の時よりレベルが上でも、一人当たりの対処する数が多いから厳しいとは思ってはいたけど……。
「はぁぁ、疲れたぁ」
「私もぉ……。瑛士くんもラピスちゃんも、こんなのずっとやってたの?」
VRゲームの経験が浅い二人の方は、精神的にかなりキツそうだ。
運動神経のいい人や体力自慢の人が得意とは言われているVRゲームだけど、慣れてしまえば普通にゲーマーの方が上手い。
実際、アクションゲーマーの脳の反射速度は凄まじい。身体の制約がなくなれば、それだけ凄まじいポテンシャルを発揮できる。
実際、俺や咲希、松井先輩のリアルでの身体能力は軽く平均を下回っているけど、アクションゲームじゃけっこうやらかしてるし。シューティングゲームでナイフプレイするくらい。
「えっと、まぁ……割と」
「だから、寝たから大丈夫ですってば!」
いいじゃねぇか、好きなんだから。別に誰も困らないだろ。
もっとも、三枝さんと柏木が落ちても、俺やラピスは休憩なり夕飯なりを挟んでまたプレイするだろうけど。夜食を挟んで、明日の朝まで。
決まりが悪くて、ちょっと苦笑いしてしまった。
そんな俺をかばって、ラピスは大声で反論した。
いや、だから問題なのは睡眠時間じゃなくて、飯の方であってだな……。仮想の世界でも寝れば脳は休めるから。
「それよかさぁ、さっきのヤツらどうすんだよ? あれなんとかしないと、クエのボスまで行けないんだろ?」
「それ考えるのも含めて、一度退却したんですよ、ライト先輩」
冷ややかなラピスの言葉が、またしてもライトフォーゼの心にグサリ。
リアルではあまり話した事のない咲希に、何か幻でも見ていたのか?
ラピスに極当たり前の事を指摘されるたびに、ムチャクチャ傷付いてるけど。
そりゃ確かに、ラピスの言い方がキツいのもあるだろうけどさぁ。
「やっぱり、スキルポイント使って、上位の必殺技スキル取った方がいいのかなぁ……」
そんな発言に、みんなの目が一斉に俺に向けられた。
「先輩、いいのあったんですか?」
「あぁ、叔父さんがディレクターだったから、その関係で。使用回数で、更に上位のスキルも解放されるし」
「だったら、何で今まで?」
「条件変わってるかも知れないのと、もっといいのが出るかもって思って」
「まぁ、確かにそうですけど」
ラピスから質問責めをくらい、最後には呆れられる俺。俺、なんか悪い事でもしたんだろうか。
リア友だけにちょっとだけ罪悪感を感じないでもないけど、普通は言わないもんだし。ほら、守秘義務的な。
「取得する気なら、さっさと取得してください。MP回復アイテムなら、私が持ってますから、じゃんじゃん使っても大丈夫です。どうせ、何回か使ったらMP切れちゃうんですよね」
ハイ、マサニソノトオリデス。
そんな俺の心情を完璧に把握しているラピスは、完全にパーティーの主導権を握って話を進め始めた。
「じゃあ、先輩は新しい必殺技で斬り込んで、敵の鼻っ柱をへし折ってください。それで向こうの戦列……まあ、元からあったもんじゃないですが、そいつが崩れたところで私達が総攻撃をかけます。私もポイント消費して、魔法連射できるスキル取りますから。ユイさんもライトさんも、そのレベルならMP消費量の少ないスキルは覚えてんでしょうから、じゃんじゃん使っていいですよ」
一息で説明を終えたラピスは、まるで熟練の部隊長の風格まで漂って見える。
実際、別のゲームではそういう経験をだいぶ積んでるわけだから、当たり前といえば当たり前かもしれないけど。
「なんか、リアルとはホントに別人だな」
隣で俺の耳に手を当てながら、ライトフォーゼが耳打ちしてきた。
「もう慣れた」
それに対して、俺もライトフォーゼの耳に手を当ててひそひそ声で返す。
逆に、ゲームでのイメージしかなかった俺は、初めてリアルで咲希に会った時はびっくりしたけど。
だって、背がホントに小せぇんだもん。
見た目だけなら、ランドセル背負ってる方がしっくりくるんだぜ。
「というわけで、今度こそボス狩りに行きますよ」
ラピスの目にはこの前のシューティングゲームの時のように、メラメラと闘志の炎が灯っていた。
俺はα版、β版の時の感覚を思い起こしながら、右手のチェルミブレイドを握り直す。
スキルの発動原理は理解している。実際に必殺技スキルのサンプル作りにも携わった。
でもやっぱり、この瞬間は緊張するものだ。
俺はメニュー画面を開き、必殺技スキルのモーションに関する部分を選択する。
「私が魔法で向こうの気を引きますので、先輩方はその間に突っ込んでください」
現在はデフォルトの、システムサポートモードが立ちあがっている。
これは一度モーションに入れば、最後の決め技も含めてその前までの連続コンボを、システム側がプレイヤーの体を動かして自動でやってくれるものだ。
これが今までのアクションゲームで味わえなかった、桁外れの爽快感を生み出してくれるわけだけど、俺はあえてそれを切った。
システムサポートは確かに便利だし技が決まった時の気分もいいけど、一度モーションに入ってしまったら技の中断ができなくなってしまう。
「援護任せたぞ」
「やってやるぜ」
「頑張ってみる!」
俺に続いて、ライトフォーゼとユイさんも決意をあらわにし、武器に手をやる。
「では、いきます!」
ラピスはその言葉を皮切りに、モンスターの軍勢に真上から風の矢を降らせた。
でも、範囲が広い分、各個体へのダメージは少ない。
現に各モンスターの上に表示されたHPバーは、数ドット程度しか減っていなかった。
「――すぅぅ……はぁぁ……」
呼吸を整えると、俺は全身全霊で駈け出した。
規定された技名を頭の中に思い描き、チェルミブレイドを真横に振りかぶる。
「はぁぁぁあああああああああああああッ!!!!」
そして全身で作った溜めを、一気に解放する。
モンスターの軍勢と衝突する直前、チェルミブレイドを一閃させた。
すると剣のなぞった軌跡に沿って、強力な風の刃が発生したのだ。
ブラストエッジ。
【シルフィーダ】の剣士――その内で片手剣の装備時間が一定値を超えた時に解放される、スキルポイントを消費して習得する必殺技スキルである。
ブラストエッジの一撃をくらった先頭集団の十体以上のモンスターは、一気に半分以上のダメージを受けた。さすが、せっせと集めたポイントを消費しただけの事はある。
さっきの先頭でダメージを受けていたモンスターの一部は、ポリゴンとなって消えうせた。
後方にいたモンスターも余波で吹っ飛ばせて、モンスターの進行は完全にストップした。
「今だぁぁああああ!」
ライトフォーゼは思い切りダッシュしながら、背中のアイアンソードを抜き放つ。
速度も上乗せされた一撃は、ボノボノやカロッコをまとめて薙ぎ払った。
「瑛士。すげぇじゃん、今の」
「そっちだって。今、五体くらいまとめて倒したじゃん」
「お前のおこぼれに預かっただけだっつぅの!」
レベルアップスキルの必殺技で、俺のとりこぼしたモンスターを殲滅するライトフォーゼ。
不思議な感じだ。こうしてライトフォーゼ――柏木――と背中を預け合っているなんて。
少なくても、リアルじゃ絶対にあり得ない事だ。
でも不思議と……、
「悪い気はしない、かな」
「ん? なんか言っ…」
ライトフォーゼの言葉が終わるより前に、俺は飛び出した。
標的は雑兵のように群がってくるボノボノじゃない。
堅牢な甲殻に覆われた、アルマジロ型のモンスターマジラモス。
ボノボノやカロッコは他のメンバーでもどうにか相手になるけど、こいつの防御は俺じゃなきゃ抜けない。
視界の左上に意識を映すと、残りMPはギリギリ五割ちょっと。
ブラストエッジは、あと一回しか使用できない。ラピスとけっこうな距離が開いてるのを考えれば、ギリギリまでMPは温存しとくべきだな。
これまでのVRゲームで獲得した戦闘経験をフルに使って、ボノボノの引っ掻きやカロッコの急降下アタックを回避する。
それでもまだ敵の数は、マジラモスをのぞいて十二体。
回避しきれなかった攻撃が、俺の体をかすめた。
弱化されてはいても、フィードバックされる痛みに思わず顔をしかめる。
一割ほど体力を削られたが、なんとかボノボノとカロッコの包囲網はくぐり抜けた。
「おりゃぁあああッ!」
堅牢な甲殻を持つマジラモスに正面から斬りかかっても、今の装備では弾き返されてしまう。
「ラピス! 足下を狙ってくれ!」
「アイアイサー!」
カロッコをほぼ殲滅し尽くしたラピスは、その矛先をマジラモスに向けた。
上空で形成された風の砲弾が、マジラモスの集まる地点に落下。
地面は浅くえぐれ、その周囲にいたマジラモスは決められたプログラムに従って転倒した。
「くらぇええええッ!」
ひっくり返る五体のマジラモス、その中心へと走り込んだ俺は、超絶威力の必殺技スキル――ブラストエッジを起動させた。
まるでステップでも踏むみたいに一回転し、甲殻のない腹へと風の刃を叩きこむ。
『グォォォオォオオオオオオオオッ!』
五体のマジラモスは断末魔の悲鳴を上げ、多数のポリゴンとなって散っていく。
弱点部位。防御の固いモンスターに設定されている、通常よりも防御力が極めて弱い部分へと必殺技を撃ち込まれたマジラモスは、たったの一撃によって消滅したのだった。
「ナイス瑛士!」
「こっちも終わったよ~」
「先輩、お見事でした」
どうやら、向こうの方も終わったようだ。
しかもログを見ると、四人ともレベルアップしていた。
さすが、最初の難関クエスト。登竜門クエとか呼ばれてるだけの事はある。
「この調子で、ボスもやっちまおうぜ」
全員の『おー!』というかけ声を受け、俺達は村の真ん中へと向かった。




