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奏交フォルティッシモ  作者: 蒼崎 れい
Phase02:Bravery Symphonia Gothic
15/62

Stage14:2062/12/27/13:02:49【-0730:57:11】

 それから数日、時にはソロで、時には二、三人でパーティーを組んで、俺達はクエストを消化し、順調にレベルを上げていった。

 ちなみに、松井先輩は翌日からゲーム作りに取りかかった関係で、全然姿を見せなくなってしまった。先輩はともかく、レヴィたんは可愛いから……いやなんもない。

 そしてコミケ開催まであと二日となった日、

「こんにちわぁ」

 三枝さんが仮想空間の俺の部屋にやってきた。

 入室を許可すると、亜麻色の髪とブラウスの瞳をしたアバターが俺の部屋に現れる。

「……って、なんかすごい眠そうだね?」

「あぁ、うん」

「一時から七時まで、ずっと先輩とインしてましたから」

「いやいやいや、いくらなんでもそれはやり過ぎだって。ちゃんと寝ないと」

 だからこうして、仮想の部屋で寝てるんだって。

 けっこう勘違いしてる人多いけど、VR空間ってのはあくまで人間が区別してあるだけで、脳の活動的にはどちらも同じだという事が証明されている。

 ようは、エネルギーさえ補給できれば、VR空間で人間は生活ができるって事だ。

 俺と咲希は目をこすりながら、部屋にあるデジタル時計に目をやった。

 時刻は十三時過ぎ。七時頃に寝たとすれば、六時間は寝た計算になる。

 それだけ寝れば、大丈夫だろう。日付をまたいだくらいには、しっかり夜食の冷凍ピザも食べたし。

「そんじゃ、柏木が来たら……」

 とか言おうとしてる間に、来たようだ。

 いや、正確には没入(ダイブ)か。

 “《柏木琢磨》さんから入室の許可が求められています。許可しますか?”

 お馴染みのダイアログに、三枝さんの時と同じく『許可』と答えると、窓際に柏木のアバターが構成される。

 ブレゴスの中では重戦士(仮)のライトフォーゼが、少しチャラチャラした感じのカジュアルファッションで現れた。

「うぃ~っすって、なんか既に二人戦闘不能っぽいんだけど……」

 十中八九、俺達の事だろう。

 仕方ねぇだろ、面白いんだから。

 あと、リアルは暇なんだし。

 ただ、ログアウトした時のお腹のすき具合はちょっと怖いかも。

 前に別のゲームで二四時間耐久プレイした時は、本当に死ぬかと思った。

「大丈夫。七時から寝てたし」

「夜食もばっちり取ってエネルギー補給もしてますし、やれます」

 でも、そこは自称廃人ゲーマーの俺達(俺は違うと思いたい)、多少の体調不良なんざ関係ない。インフルエンザだろうが、嬉々としてゲームしてた経験は伊達じゃないぜ。

 俺達はブレゴスの起動プロセスを完了させ、ゲームの世界へと舞い戻った。




「どりゃぁぁああああああッ!」

 ライトフォーゼは豪快なかけ声と一緒に、アイアンソードを振り下ろした。

 大きな鳥の姿をしたモンスター――カロッコのHPバーが一気に〇まで減少し、微細なポリゴンとなって消える。

「うっし、だいぶ慣れてきたぞぉ」

 システム的には汗なんかかかないけど、ライトフォーゼはプレートメイルの腕で額をぬぐった。

 大型武器の扱いは、重さがある分どうしても難しくなる。

 レベルを上げて筋力値を上げればまた違ってくるけど、基本的には力のベクトルをいかに活用できるかに全てがかかっていると言っていい。

 その点から見ると、ライトフォーゼの大剣の使い方はまだまだだ。

 でもま、プレイし始めて数日で使いこなせってのも、無理な話か。

 俺や咲希がすぐに武器が使いこなせるようになってるのは、別ゲームでの経験があるからで。

「なぁ、カロッコの討伐数って何体だっけ?」

「十五体です。これ済めば、多分レベル十に必要経験値がそろいますよ」

 ライトフォーゼの問いに、ラピスがホロ画面越しに答えた。

 でも、開いているのは受注クエストの詳細ではない。

 ホログラス経由で開かれている、ブレゴスの攻略wikiだ。

 ラピスはその中の、習得スキルの一覧を、難しそうな顔で眺めていた。

 ちなみに、レベルはそれぞれ(瑛士)が十五、咲希(ラピスリッド)が十三、三枝さん(ユイ)が九、柏木(ライトフォーゼ)が九。松井先輩は、最近インしてないから知らん。

「瑛士さん、スキル振りどうしたらいいでしょうか」

「いや、俺に聞かれても。そもそも、職業からして違うし」

「ですよねぇ。にしても、ブレゴスってやたらスキル多いですよね」

「確かに、そうかもなぁ」

 特定のレベルで習得できるレベルアップスキル。

 特定の条件を満たす事で習得できる必殺技スキルや魔法スキルに職人系スキル。

 そしてレベルアップ時に獲得できるスキルポイントを消費して習得できる多種多様なスキル。

 一覧を完成させるだけでも一苦労だろう。

 そもそも、合計で何個のスキルがあるのかすら、公式から発表されていない。

 しかも、特定のスキル習得が条件になっているスキルもあるので、スキルポイントを消費するスキルの習得は慎重に選ばねばならないのだ。

「瑛士くんにラピスちゃんは、なんの話してるの?」

「あ、オレもオレも!」

 ユイさんとライトフォーゼも、納剣しながら近寄ってきた。

 まだ販売から一週間足らずだが、既に膨大な量のスキルが判明している。てか、発売日当日から現在判明しているスキルの半分は判明している。

 まったく、上の方々は一体どんなプレイしてんだよ。条件の判明していない物も含めれば、軽く百を超える勢いだ。

 ま、おかげで他のプレイヤーがこうやって恩恵に預かれるから、文句を言うつもりはないが。レベルアップスキルはともかく、必殺技スキルや魔法スキル、そしてポイントを消費して獲得できるスキルなんかは、こうやって情報を集めながらじゃないとやってられない。

「一応、プリースト系にスキルを統一しようと思っているんですけど」

「僧侶か。回復の要になるから、固い方がいい気はするけど、後方支援とかした事ないしなぁ……」

 前衛関連の職業ならだいたいわかるけど、こればっかりは無理だ。

 年明けに、松井先輩にでも相談すべきだろう。

「やっぱ、ネカマ先輩待ちですか?」

「しかないと思う」

 ラピスは、そうですか、とため息をついてホロ画面を消すと、樫の杖を持ち直した。

 今のラピスの能力地で持てる、最高級の武器だ。

「それじゃ、早くカロッコ狩って次いきましょう」

 ラピスは近くにカロッコの群れを発見し、風の刃を放った。




 それからカロッコを順調に撃破していき、目標を達成した俺達は、本日最後の締めという事であるクエストを受注した。

 内容は、街を占拠しているモンスターと、その親玉の討伐。

 本来なら、十人以上のパーティーで攻略するようなクエストだけど、俺が既にこのクエストをクリアしてる事と、一気にレベルアップしようという事で、四人で挑戦する運びとなった。

「ラピス、後衛は一人だけだけど、なんとか頑張ってくれ」

「先輩の頼みなら、無理でもやり遂げて見せますよ」

「ユイさんは、俺と一緒に敵の牽制。敵が怯んだらすかさずライトが攻撃する。わかった?」

「うん、たぶん大丈夫」

「あぁ、燃えてくるぜぇ」

 ラピスはいつも通り冷静に、ユイさんはちょっと緊張気味に、ライトフォーゼは待ってられないって感じに、目の前の街を眺めている。

 ちなみに、俺はちょっと懐かしい感じ。

 β版の時は、別のゲームのフレンドと十六人がかりでやっと攻略したっけ。

 全員が最低でも二回は戦闘不能になって、回復アイテム使いまくってクリアしたのが、もう随分前のように思える。

 でも、それはVRアクションに慣れたプレイヤーがその技術を過信して、ろくにレベル上げもせずにクエストに挑んだせい。全員の平均レベルは、レベル五か六くらいだった記憶がある。てか、十レベル超えのプレイヤーとかいなかった。

 十レベル超えが二人もいる今なら、この人数でも攻略は不可能じゃないはず。

「先頭は俺が何とかする。いくぞ!」

 あのとき以上に、いや、今までで最高潮と言っていいほど、俺は気持ちが高ぶっていた。




「はッ!」

 俺はボノボノの群れのど真ん中へと斬り込むと、レベルアップによって上昇したステータスに物を言わせて次々とモンスターを斬り伏せていく。

 片手剣のチェルミブレイド――黒を基調とした片刃の剣――の通った軌跡に沿ってモンスターの胴体が両断され、無数のポリゴンとなって空気の中に消えていった。

 もう、何十体倒したかもわからない。

 技後の硬直時間をカバーするように、ユイさんとライトフォーゼが周辺の敵を牽制し、更にラピスが風の刃で群れ全体にダメージを与える。

「くそっ、キリがないな……」

 ラピスの援護で傷付いたボノボノを三体まとめて斬り裂きながら、ついつい愚痴がこぼれた。

 レベルアップしたおかげで死なずには済んでいるけど、一人の受け持つモンスターの数は前の四倍だ。

 まさに、対処できるギリギリの数だった。

「でやぁッ!」

 分厚い爪の攻撃をかいくぐり、チェルミブレイドでまた一体を斬り伏せながら、後方から襲ってきたボノボノの腹を蹴り上げる。

 その怯んだ隙にライトフォーゼが脳天からアイアンソードの重たい一撃を加え、そこを狙って襲ってきたボノボノをユイさんが間に入って迎撃。

 動きが止まったところを、ラピスが風の砲弾で後方の集団もまとめて吹き飛ばす。

「すげぇな、お前……」

 ライトフォーゼが呆れ半分、驚き半分の目で俺の事を見てきた。

「ここ、前もやったから」

「いや、だからって、普通そんな動けないっ…」

 最後まで聞いてる時間なんてない。

 重厚な甲殻を持ったアルマジロ型のモンスター――マジラモスが、ボノボノやカロッコを伴って現れた。

 数はそれぞれ、五、二〇、十五。

 驚く事に、俺とラピスは既に一レベル、ユイさんとライトフォーゼはカロッコ討伐時の報酬も加えて、二レベル上がっている。

「ラピス、頭の方を頼む!」

「わかってますよぉッ!」

 上空から急降下をかけてくるカロッコを阻むように、風の弾丸がその進路を阻む。

 その下をかいくぐるようにして、先頭のボノボノの脳天めがけて、俺はチェルミブレイドを突立てた。

 弱点部位だったのも影響してか、いっぱいだったHPバーが一気に〇まで減少、ポリゴンの欠片となって飛び散る。

 続いてきたユイさんは俺の前に出て、ショートソードを一薙ぎ。腕を大きく振りかぶっていたボノボノ達が、大きく後退る。

 その内の一番近くにいたボノボノに、ライトフォーゼがアイアンソードをぶちかました。

 だがそれは、両者の間に割って入ってきたマジラモスの分厚い甲殻により、弾き返される。

 しかも大剣だったせいで、バランスを崩したライトフォーゼはその場に尻もちをついてしまった。

 するとそれを待っていましたと言わんばかりに、ボノボノが殺到してきた。

 いや、それ以外にも上空からラピスの弾幕をくぐり抜けたカロッコも、ライトフォーゼに向かって特攻を開始した。

「我が叔父ながら、えげつないアルゴリズム組みやがって……」

 少しでもプレイヤー側が隙を見せれば、モンスターが一斉攻撃って、下手したら苦情が来るレベルじゃなね?

 まあ、こんな数で攻められない限りは、大丈夫ではあるだろうけどさ。

 でも当然、見捨てるつもりなんてない。

「させるかぁあああッ!」

 ライトフォーゼの前まで走り込み、チェルミブレイドを一閃。

 HPバーを半分近く持って行かれたボノボノ達は、距離を取って様子をうかがう。

 それでも上から降下して来たカロッコの突撃は防げず、ライトフォーゼの体力は三割近くまで減ってしまった。

 それに、俺の方も今までの戦闘で四割近く体力が減らされている。

 痛みの再現もなかなかで、あちこちが少しばかり痛む。ここはやっぱり、一旦退いた方がいいか。

「一度退いて、大勢を立て直す。ラピス、援護してくれ!」

「アイアイサー!」

 俺の指示に従って、俺達を囲い込むようにラピスは風の刃を地面に振らせる。

 追撃をかけようとしていたモンスターは魔法と砂埃によって俺達を見失い、同士討ちを警戒して様子をうかがっているはず。

 俺はライトフォーゼを立たせると、後方へと全力で駆け抜けた。

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