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Bravery Symphonia Gothic 通称ブレゴスには、こういったゲームでは定番となっているギルドやチームといったシステムは存在しない。
プレイヤー達は、運営の用意した四つの国家のどれかに属す事になる。
水の豊かな北の国【ウェンディーヌ】、強い風の吹く東の国【シルフィーダ】、火山地帯にある南の国【サラマンデール】、良質な鉱石のある西の国【グランノーム】。
これはβ版の頃にはなかったシステムで、俺もゲームの速報記事でようやく知ったシステムだ。
きっと何回かあったβテストの時、俺の参加していない回やサーバーでやっていたんだと思う。
俺達は事前の相談で、東の国【シルフィーダ】に所属する事にした。
強力な風によって生み出される高温の火で良質な金属が精練できるため、NPC間で流通している武器の質が他の国より良い、と説明書に書いてあったのが主な理由だ。
ちなみに、所属する国家によって、スペックにも若干の補正が入るらしい。【シルフィーダ】なら、素早さに補正が入ったりとか、風・雷魔法の威力がアップ、とか。
『β版プレイ時のセーブデータがあります。セーブデータを引き継ぎますか? ◎Yes/×No』
迷わず俺は、◎Yesのボタンを押した。
『ようこそ、【シルフィーダ】へ。あなたを歓迎します』
そして視界が真っ白な光に包まれた。
光が消えて最初に俺達の目に入ったのは、空を埋め尽くさんばかりに伸びる塔と、大量の風車だった。
十や二〇なんかじゃきかない。百を超える大小様々な風車が、強い風を受けてクルクル回っていた。
「すごぉい…………。これ、全部仮想なんだよね? どう見ても、本物にしか見えない」
俺と同じように、隣で亜麻色の髪をした女の子のアバターが、その目に映る光景に驚いていた。
そりゃそうだ。
こんな高精細の画像処理、第三世代機のNoVAじゃなきゃ不可能なんだから。
俺は改めて、パソ研のメンバー達を見回した。
全員とも現代風の衣装ではなく、簡素なプレートメイルや長衣を羽織ったような格好になっている。
松井先輩のレヴィたんに至っては、コウモリのような小さな羽と、悪魔みたいな尻尾も消えている。
「速水、お前だけなんか格好が違うじゃぬえか」
柏木のアバターが、口を尖らせて抗議してきた。
違って当たり前だろ。こっちはβテストの時のデータを一部、引き継いでんだから。
「まあ、β版のデータ引き継いでるから」
「ずりぃいぞ、一人だけかっちょいい装備で! オレももっと、こうガッキーンてなったかっけぇ鎧装備してぇよ!」
「先輩、レベル足りないから無理。そういうの装備しようと思ったら、まずはレベル上げないと」
「あと、呼び方も違うよ、お兄ちゃん。ゲーム内ではリアルの名前は御法度なんだから。わかったぁ?」
かっちょいい装備を要求してきた柏木だけど、それは咲希の当たり前な解説で呆気なく玉砕された。
しかも松井先輩のレヴィたんに、可愛く注意までされている。
まるで小学生にチャラい大人が怒られてるように見えて、不覚にもちょっと吹き出しちまった。
「だって、まだ速……。名前知らねぇし」
「だ~か~ら~、これからそれをしようってわけだよぉ。お兄ちゃん☆」
ともあれ、まずは場所移動だ。
真ん中に噴水をしつらえた石畳の広場は、初ログイン時のスボーン地点になっているから、いつまでもここに居たら後続の邪魔になる。
俺達は一旦、中央の噴水から少し離れた位置まで移動した。
「ではでは、改めまして。レヴィアーナ・メルクルスト。よろしくネ」
と、松井先輩の小悪魔幼女アバターは、ウィンクと一緒にフレンド依頼も飛ばしてきた。
「ラピスリッド・ウィンプール。ラピスでお願いします」
松井先輩に続き、お嬢さまアバターもフレンド依頼を飛ばしてくる。
今度は俺の番かな。
二人からのフレンド依頼を了承すると、俺もフレンド依頼を飛ばした。
「瑛士。二人と違って、苗字とかないから」
「自分の名前から取ったんだな」
「あっち二人と違って、名前考えるセンスもないしね」
柏木の質問に、俺はちょっと苦笑しながら返す。
褒められた二人は、どこぞの特撮戦隊物の決めポーズ的な物を取っていた。
恥ずかしいから他人のふりしたい。
普段はネット上での知り合いばっかりだからアバターネームの事とか聞かれなくて、ちょっと新鮮な気分。
でも、咲希や松井先輩と初めて一緒にゲームをした時は、同じ質問をされたと思う。もう一年くらいは前の事だけど。
柏木はそうなんだと納得すると、三枝さんにフレンド依頼を飛ばして自己紹介に入る。
「オレはライトフォーゼにした。変じゃねぇかな?」
「いいと思うよ?」
「特に変なところはないです」
「大丈夫、明らかにおかしい名前のヤツいっぱいいるから」
レヴィたん、ラピス、そして俺はライトフォーゼにそう返した。
同名使いたくて記号が入っているのなんてザラだし、アニメやラノベのキャラの名前もよく見かける。
その中に時々あるのが、食べ物の名前だったり、文章だったり、謎の決意表明があったり。
この辺の名前ですらない名前があるくらいなんだから、ライトフォーゼなんてどこも変じゃないと思う。
「私も全然変じゃないと思うよ。私なんて、何も思いつかなかったから、ラムダム設定で適当に決めちゃったし」
三枝さんは、てへへぇと照れ笑いを浮かべる。
俺はフレンドリストを開いて、リストの上の方に目をやった。
レヴィアーナ・メルクルスト、ラピスリッド・ウィンプール、ライトフォーゼの中に、ひときわ短い名前を見つけた。
「ユイって、いうんだ」
「……うん。どうせなら、私も瑛士くんみたいに漢字にした方がよかったかも」
何気ない俺の言葉に、三枝さん――ユイさんは照れ笑いを浮かべる。
「そんな事ないって。俺みたいに、漢字の名前使ってる人って少ないし」
あぁ、やべぇ、なに話せばいいんだろ。
全然わからねぇ!
「まずはチュートリアルからやろ。ね、エイジお兄ちゃん」
と、困っていたところに、レヴィたんが助け舟を出してくれた。
「あ、うん。じゃあまず、チュートリアルのクエスト受注しに行こうか」
俺は頭の中に街の地図を思い浮かべながら、【シルフィーダ】の噴水広場の正面に建つ巨大な庁舎に向かった。




