Stage11:2062/12/22/15:31:02【-0849:28:58】
現れた二体のアバターは、学校のブレザーを着た三枝さんと柏木のアバターだった。
アバター作りにあまり熱を入れていない俺と同じく、リアルの自分を模したデフォルトのやつ。
「うぉ、なんじゃこりゃ!?」
「すごぉい……。これが、速水くんの仮想空間の部屋? やっぱり、自分で作ったの?」
俺の部屋を見るなり柏木は驚いて、三枝さんは目を輝かせている。
ゲーム仲間以外に、この部屋に知り合いを入れた事がないから、ものすごく緊張する。
でもそれ以上に、むずがゆくて、恥ずかしい。
仮想の部屋でこれなら、リアルの部屋だったらどうなっていた事か。さすがに、気絶はしないだろうけど。
「一応は。でも初心者向けの簡易設定で作ったやつだから、これくらいなら誰でもできるって」
「でも、すごくいいと思うよ。なんかこう、いかにも『ネットの世界だぁっ!』って感じがするもん!!」
まさか三枝さんが部屋のレイアウトを褒めてくれるなんて、全然思ってなかったから。
やべ、自然と顔がにやけちまう。
「それはそうと速水、こっちの二人は……?」
ったく柏木のやつ、人がせっかく感激してる最中に水差しやがって。
ちょっと考えればわかるだろ。
二人って人数と、集合時間のちょっと後で俺の部屋にいるとすれば、パソ研の残り二人以外に誰がいるってんだよ。
「仮想空間では初めてですね。一年の真鍋咲希ですよ」
と、青髪青瞳のお嬢さまアバターは、柏木に微笑んで見せた。
「うぇっ、嘘だろ!? だって、見た目が全然……」
「はい、自分でモデリングしました。めっさすごいでしょ? 他にもいっぱいあるんですけどぉ、見ますか!!」
「いえ、遠慮させていただきます」
胸元をチラ見せしながら近寄ってくる咲希に、柏木のやつ真っ赤になってやがる。
そりゃ、リアルとのギャップが凄まじいからな。
小学生並みの身長が今は一七〇近く、まな板ちっぱいはグラビアアイドルばりの巨乳で、しかも地味で根暗な雰囲気とは一変した、アニメなら正ヒロイン確定の清楚可憐で超絶美少女な見た目。
見慣れた俺でもまだちょっとドキッてなる事があるくらいなんだから、初めて見た柏木の心境はえらい事になっているだろう。
「じゃあ、そっちの小さい女の子は……?」
柏木が咲希にからかわれている間に、三枝さんは残り一体のアバターへと目をやっていた。
こっちはこっちで、柏木とは別の方向で驚いてるんだろうな。
あのお嬢さまアバターの中身が咲希なら、もう片方のアバターの中身は一人しかいない。
「松井先輩?」
小悪魔幼女アバターは嬉しそうに犬歯をのぞかせて笑い、小さな羽と尻尾もひょこひょこ動かした。
ってぇ、犬歯まで再現してんのかよ、あんたは……。
「レヴィアーナ・メルクルスト、レヴィたんって呼んで☆」
「……うん。声もいじってるから本人と違うけど、これ松井先輩」
レヴィたんの中の人が松井先輩とわかって、三枝さんは改めてびっくりしている。
盛大に引いてるようにも見えるのは、きっと目の錯覚でもマシンの演算ミスや処理落ちでもないんだろう。
「待ってくれ美夏、これには事情があるんだ。こういうゲームってのは、九割方のプレイヤーは男なんだ。リアルの性別をゲームに反映させてみろ。ゲームはむさい野郎ばっかりになっちまうじゃないか! そんなゲームを誰が進んでプレイしたがる? だから俺はな、この身を犠牲にしてゲームに貢け…」
「女性キャラの方が装備も豪華で数も良品も、露出過多なエロエロ装備も多いですからねぇ。そりゃ、女性キャラやりたい男の人もいっぱいいますよねぇ、先輩。パソコンのCドライブの中とか、MSBメモリの隠しフォルダの中とか」
「…………な、何を言っているんだろうなぁ、咲希のやつは。あは、あははははは」
おいおいレヴィたん、声がうわずってるぞ。図星なのバレバレじゃないですか。
幼い舌っ足らずの声で弁解する松井先輩の尊厳は、これで回復不能なまでに落ち込んだだろうな。
「って、俺の事はどうでもいいとして……」
あ、逃げた。
「お前らも、さっさとブレゴスのアバターにしたらどうだ? 俺ばっかりがこれじゃ、不公平だろ!」
まあ、確かに。
松井先輩、一週間以上も前から、アバターのデザイン考えてたもんなぁ。
絵はそんなに上手くなかったけど。
ただ、どれだけの情熱を注ぎ込んだかは、松井先輩のアバターを見ればわかる。
細かいところにまで入念に作りこまれていて、その出来栄えは咲希のアバターをも軽く超えるレベルだ。
そのアバターを自分にも見せろと、そういう事なんだろう。
アバターは文字通り、ゲーム世界の自分自身だ。
程度の差はあっても、誰もが情熱を捧げて作るものには違いない。
俺と咲希はホログラス、NoVA、ブレゴスの設定画面を開き、そこに保存されるアバターデータへとアクセスした。
『現在のアバターから変更します。よろしいですか? Yes/No』
ダイアログと共に表示される二つのボタン、迷わずYesの方を押し込む。
メニューの呼び出しからアバターの変更決定までにかかった時間は、一秒とない。
柏木と三枝さんはあまりの速さに呆然としてる中、俺の足下から上へと青い光のリングが這い上がってきた。
その光が頭まで達する頃には、俺の見た目はさっきまでと少し違ったものとなっていた。
黒髪と黒瞳は変わらないけど、身長は一七〇後半。顔つきも本来の自分よりシャープで、目鼻立ちのすっきりした精悍な青年といった感じになっている。
少なくとも、リアルの俺よりも、ずっと頼り甲斐のある姿をしているはずだ。
自分のアバターをモデルにして作ったわけだけど、ある意味このアバター自身が俺の憧れている自分なのかも。
衣服こそ、デフォルトのティーシャツとカーゴパンツだけど、ブレゴスの世界では魔法で編み上げられた衣服と大型魔剣を纏い、仮想の大地を駆ける戦士となるのだ。
自分のアバターがちゃんと変わったのを確認すると、隣の咲希をちらりと見る。
ベースはさっきまでと同じお嬢さまアバターだったけど、さっきまでの美少女を美人型とするなら、こっちは可愛いさをより強調した作りになっている。
背丈は一回り小さくなって一六〇センチ前半。
鮮やかさを増した蒼い瞳、切れ長だった目は丸くぱっちりとしたものに変わり、髪型は薄いライトブルーのツインテール。ノースリーブのワンピースもミニ丈になり、活発そうなやんちゃお嬢さま、ってテーマがぴったりだと思う。
咲希は首を小さく傾けて、にぱぁっと満面の笑みを松井先輩に見せた。
「お兄ちゃんもお姉ちゃんも、なかなか気合い入ってる感じだね。いいょいいよぉ、これからのプレイが楽しみになってくるよぉ」
可愛い声のレヴィたんは勝ち気なロリッ娘風な口調で、俺と咲希のアバターの感想を告げる。
どうやら、先輩のお眼鏡にかなう出来だったみたいだ。
「それじゃあ、そっちのお兄ちゃんとお姉ちゃんも、見せて見せてぇ!」
口調が完全に変わったせいで、やりにくもあるんだろう。
もしくは、モーレツに引かれてる可能性もないわけではないけど。
少しの間困惑の眼差しを向けていた三枝さんと柏木だったけど、意を決して三つのメニュー画面を呼び出し、アバターの変更を行った。
青い光のリングが足下に現れ、あっという間に頭頂部まで昇ってゆく。
そして一秒後には、見知らぬ男女のアバターが俺の部屋に立っていた。
片方は翡翠のように透明感のある緑をした髪をショートポニー気味に荒々しくまとめ、勇者然とした引き締まった顔立ちの男性アバター。
年齢は二〇歳くらいで、俺よりも少し大人っぽい感じが滲み出ている。
服装は俺と同じデフォルトだけど、こっちは白いタンクトップに半袖の黒いジャケット、すらっとしたジーンズに、ネックレスやブレスレットといった、シルバーアクセサリーを身に付けていた。
まあよく出来てはいるけど、これはブレゴスに最初から入っているベースモデルを多少弄っただけの代物だ。
これだけなら、大して驚かなかったと思う。
でもその隣にいる女性アバターの完成度には、あれだけ気合いを入れていたレヴィたんこと松井先輩も、目を丸くしていた。
亜麻色の艶やかな髪を三つ編みにした髪は、頭頂部のやや下辺りでお団子を作っている。
優しさと力強さを両立させるブラウンの瞳は、やや垂れ気味。
未成熟さの伝わる肢体からは、少女のような女性のような、どっちつかずの不思議な魅力が放たれていた。
服装は季節に合わせて、厚手のコートに、赤と黒のチェックのミニスカート、黒のニーハイソックスに、もこもこのファーをあしらった黄土色のムートンブーツという格好をしている。
このアバター、俺の予想だけど、たぶんモデルは使ってない。
こんな顔のイメージのアバターは、記憶にない。
α版の頃から製作に協力してた俺が言うんだから、間違いないだろう。
松井先輩や咲希みたいな職人の域に近い人ですら、ベースとなるアバターを魔改造して使う事を考えれば、これはまさしくプロの犯行と言わざるを得ない。
「柏木先輩のは色とパーツをちょっと弄っただけだけど一応及第点として……」
「う…………真鍋にそれ言われると、マジで傷付くんだけど」
それに関しては俺も同感。
人の事言えるくらい自分は大丈夫かって言われたら、ちょっと反撃のしようはないけど。
ベースになるモデルは使ってないけど、自分のアバター見ながら作ったわけだし。
「三枝先輩、半端ないですねぇ……。こんな完成度のアバター、VRネットでもなかなかお目にかかれませんよ」
「そ、そうなの?」
三枝さんは、柏木よりもVRネットに詳しい俺と松井先輩の事を見てきた。
俺と先輩は、そろって頷く。
松井先輩のアバターと比べても、三枝さんのアバターの方が、圧倒的に完成度が高い。
とても、初めてとは思えない出来だ。
「とりあえず、これでアバターはバッチリって事だね。じゃあお兄ちゃん達、ログインするよ! 準備はできた?」
再びNoVAのメニュー画面を開いた俺達は、ゲームの起動画面を呼び出した。
すると即座に、装飾の凝ったダイアログが表示される。
『Bravery Symphonia Gothic を起動します。よろしいですか? ◎Yes/×No』
「ログイン!」
レヴィたんのかけ声と共に、俺達は『◎Yes』のボタンを押し込んだ。




