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翌朝、いつも通り太陽の間に入ったわたしはすぐさまその違和感に気が付いた。
「どうかしましたか、姫様?」
「えっ……」
いつもは席に着くなりパクパク食べているからだろう。今朝もとっても美味しそうなのに、なんとなく食事に手をつける気になれずにいたわたしに宰相様は首を傾げた。
でも、違和感の正体であるあなたに聞かれても……。
「あの、陛下は……?」
戸惑いながらも気になっていることを口に出す。マナーに煩い宰相様の御前で黙っているのも怖いからね。
わたしの問いに、宰相様は今気付いたとでも言わんばかりに「あぁ」と声を上げて微笑んだ。相変わらず芝居がかった方だ。でも、こういう人は敵に回しちゃ行けない。それだけは経験上わかっているので黙って待つ。すると、宰相様は−−−−
「陛下でしたら、本日はお倒れのため朝食には参れません。なので、わたしが代わりにご一緒させて頂きました」
と、さらりと仰った。
「そうですか、お倒れになっているんじゃ仕方ないです……ってお倒れ?!」
「はい」
「はい、って……!」
思わずテーブルを叩いて立ち上がってしまった。ガタッと食器が鳴り、周囲の人々もびくりと身構える。無作法な振る舞いに宰相様の瞳がきらりと光った。
うっ……。
「失礼致しました」
しぶしぶ頭を下げると「お気になさらず」と話を促して下さる。人前でもあるので、これ以上注意が入ることはないようだ。でも、わたしが動揺してしまう気持ちも分かって欲しい。だって宰相様、「陛下は早朝会議中のため参れません」ってくらいあっさり言ったけど……今の内容とんでもなく恐ろしいから! 国のトップが倒れたなんて、かなりまずいでしょうが普通!
「あの、お会い出来ますか!?」
「えっ?」
「ですから、陛下に面会は出来ますかっ!?」
陛下への嫌悪感なんてどこかへ丸投げして尋ねれば、宰相様は一瞬驚いたように目を見開いてからにっこり笑う。その笑顔は彼には珍しく非常に透明度が高いものだったけど、この時は慌てていたから気付いていなかったんだ。その瞳が含む意味に。
「はい、会えますよ。お会いになりますか?」
「お願いしますっ!」
軽く了承した宰相様に食い気味に詰め寄るわたし。それに「かしこまりました」と微笑むと、宰相様は華麗にエスコートしてわたしを食卓に座らせ−−−−
「……では、朝食後にでもお連れしましょう」
と、紅茶を淹れ直してくれた。
あれっ……?
ぽかんとするわたしの顔を覗き込んで、宰相様が首を傾げる。
「どうかなさいました?」
「いえ、あの……」
どうかしたかもなにも……。
「陛下のところへ連れて行って下さるのでは……?」
陛下の一大事は国の一大事。早く陛下のところに行って叱咤しなくちゃっ!
真剣にそう思っていたのに、宰相様は穏やかに微笑んで言う。
「そんなに急がなくても問題ないでしょう」
「えっ、でも陛下の具合は……」
「あぁ、私言いそびれましたか? 陛下はただの胃もたれですよ?」
「へっ?」
「ですから、胃もたれです。とてもだるそうではありますが、命に関わることではありませんので、どうぞ姫様は朝食を召し上がって下さい。そのあとお連れします」
だ、騙された……。
即座に後悔は浮かんだけれど、もはや後の祭り。宰相様の掌の上で、わたしはいいように踊らされたのだ。
その後、せめてもの抵抗を示そうとわたしはかなり時間を掛けて朝食を味わった。まぁ、それくらいで宰相様の顔色が変わることなんてなかったけどね。うん、でもシェフの料理はお世辞抜きに今日もおいしいなぁ、もぐもぐ。
「……ごちそうさまっ」
これ以上粘れない、というところまで粘ってから席を立つと「では、参りましょうか」と宰相様に促される。零れそうになる溜息を飲み込み、わたしは陛下の元へと向かった。
それにしても、陛下ってよく倒れるな……。体調管理くらいしてきちっとしてよ。
ども、可嵐です。
多忙にて更新が滞ってしまい申し訳ありませんでした。またがんばりますので、宜しくお願い致します。
読んで頂いてありがとうございました!
また次回っ!
可嵐