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国王陛下は傷心中  作者: 可嵐
こもりうたはいかがですか?
11/17



「それじゃ、行くよ?」

「……うん」

 陛下の部屋とも良く似た真っ白な扉の前。緊張した面持ちの天使ちゃんが頷くのを確認して、私はトントンと礼に則ったノックをした。少しして顔を覗かせた侍女。彼女に訪問の用件を伝え、短い時間を天使ちゃんと待つ。多分、天使ちゃんだけならすぐにでも通して貰えたんだろうけど……私が一緒となると、色々あるんでしょうね。分かります。

 それでも数分後。追い返されることなく部屋に通され、私は遂にその女性と出会った。

「ママー」

 目的の部屋に辿り着くなり、奥に設置されたベッドへと天使ちゃんが走り出す。陛下の部屋にあったものと同じような天蓋付きの豪華なベッド。その中央に彼女はいた。

「あら、貴女も一緒だったのね。お帰りなさい」

 駆け寄ってきた娘を受け止めて嫋やかに微笑む。その姿はとても神々しく、まるで一枚の絵画を眺めているようだった。

「ただいまっ。あのね、ママ。コレ、おみやげ……」

 母親に優しく出迎えられ、蕩けそうな微笑みを浮かべる天使ちゃん。一応、『訪問者』である私がいるにも関わらず、いそいそと自分の用意した手土産を差し出している。まっ、端から天使ちゃんの付き添い役のつもりだったからいいんだけどね。私以外にはやっちゃダメだよ? 美人なあなたの叔父様が怖いから、ね?

 そんな私をさておいて、麗しき天上界親子は微笑ましい交流を展開している。

「おみやげ? って、コレ……」

 天使ちゃんからのお土産に女神様は目を丸くする。

 そんな母親の反応に、天使ちゃんは照れくさそうにハニカミながら告げた。

「ニャンコに手伝ってもらってつくってみたの。ママの、はなかんむり……」


『はなかんむり、つくってくれない?』

 そっと囁かれた天使ちゃんからのお願いは、実に可愛いものだった。

『花冠?』

『そう。ここにさいてるはなでつくりたいのに、ぜんぜんうまくいかないの』

 小さな手の中で萎れている花々を受け取りつつ話を聞いていくと、何でも私が天使ちゃんを発見したあのお花畑に咲いているのは、彼女の母親、つまり女神様と同じ名前の花らしい。

 そういえば、『国を象徴する花です』って先生も言っていた気がする。国花ってやつかな。

『はなかんむりはね、あたちがげんきがないときに、あたちのおはなでパパがよくつくってくれてたの。だから、あたしもママにつくってあげたいの。なのに……』

 ギュッとドレスの裾を握りしめる天使ちゃん。どうにかママを励ましたいのに、自分だけじゃパパにように出来ないことが悔しいみたい。

 でも、もう大丈夫。気持ちは伝わったから。

『わかった。私も手伝うから、一緒に花冠作ろうっ!』

『……うんっ!』

 こうして花を選ぶのは天使ちゃん、編むのは私、と役割分担をして、私たちは一緒に花冠を作ったのだった。


 私たちの共同作品である花冠を受け取った女神様は、私たちの顔を見比べてから、言葉もなく涙を流した。そんな反応に天使ちゃんはショックを受けた顔をした。けれどーーーー

「ありがとう……。とっても嬉しいわ……』

 次の瞬間には、頬に涙を伝わせたままふわりと微笑んだ。

「ほん、とう?」

「えぇ、本当よ。昔ね、パパからも同じこうやって花冠をプレゼントしてもらったことがあって……ちょっとそのときのことを思い出しちゃっただけ」

「パパ、も?」

「えぇ。あなたのパパも優しい人で私が元気がないときや不安なときは、こうやってプレゼントしてくれたのよ」

「……パパ、かっこういい」

「えぇ。貴方のパパは世界一格好いい騎士様よ」

「あたち、パパのこと大好き」

 「私もよ」と囁いて、プレゼントされた小さな花冠を頭に乗せ、女神様が天使ちゃんをギュッと抱きしめる。それでようやく安心したのか、天使ちゃんは女神様に縋り付いて大きな声で泣いた。

 私に噛みついていたときとも違う、キンキンとよく響く子どもの声。あのときはただただ耳が痛かっただけだけれど、今はそんなこと思わない。

 どうか、天使ちゃんが心のままにいられますように。

 そんなことを願いながら、私は親子の触れ合いを見守っていた。




 それから、しばらくすると悲鳴のようだった天使ちゃんの声はぐずりのような嗚咽に、そしてやがて寝息へと変わった。娘の安らかな寝顔に柔らかな笑みを浮かべ、顔に掛かっていた髪を優しく掻き分けて女神様は視線を上げる。

 ドクン。

 視線が交わった瞬間、それまで穏やかだった鼓動が強く鳴った。

 先生によく似た長い銀髪。純白の雪さえも霞そうな肌。唇も頬も綺麗なピンク色で、透き通るような肌によく映える。

 幼子を抱えたまま未亡人になり、憔悴と翳りは隠すこともできないのに……それでも文句なしに美しい。むしろ、その翳りが彼女の神々しさを引き立てているような気さえした。

「訪問ありがとうございます。お会いするのは初めてですね、ドラゴン・プリンセス」

 私の存在を認め、彼女が清々しい微笑みを浮かべるの同時に、私は妙に納得した。この女性は、確かにあの方が認めた人なのだろう、と。

 だって……。女神様は、本当なら私がこのお城に来て一番に謝罪しなければならなかった人。どれだけ恨まれても仕方ないとさえ思っている、私の命の恩人が最も愛した人……。だけど、女神様は私を睨むどころか微笑んで出迎えた。ーーーーまるで、あの日の騎士団長様のように。

 ……強いなぁ。

 またも思い出した恩人の笑顔に、その身内からの寛大すぎる対応に胸を詰まらせながら、私は先生のスパルタマナー講座を思い出しながら膝を折る。

「急な対応にも関わらず、寛大なご対応をして頂きありがとうございます。こちらこそお初にお目にかかります、神官長様」

 あなた方の温かい笑顔に、私は心から感謝しています。




お久しぶりでございます。

活報にも書かせていただきましたが、二次創作に現を抜かしておりましたが、ナニを思ったか帰ってまいりました。そして、こちらを再開する前にリハビリに全然違う短編を書くはずが、読み直したらなぜか続きを書いていました。不思議不思議。

まぁ、ちょーっと放置しすぎて若干設定忘れてますが、大体は覚えてますので時間を見つけてまた書いていきたいと思います。お時間ありますときにでもお付き合いいただければ幸いです。


ではでは、また次回。

読んでいただいてありがとうございましたっ!



  可嵐

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