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唐辛子は過疎地を救えるか

作者: 暇庭宅男
掲載日:2026/04/04

突然だが皆さん、辛いものはお好きだろうか?


辛いものが大好きで激辛メニューを求め旅をする人までいる一方で、家で作るカレーやマーボー豆腐ですら甘口以外は食べるのがツラいと言う人もいる。


世界的には日本はあまり強い味付けを好まない国民性であり、強烈なものは塩分による塩辛さに偏っている。多湿な日本での保存食は塩蔵品が多いことを鑑みれば、その傾向はむべなるかな、という感じである。


しかし。現在過疎化の進む日本の農村では、村興しとして、あるいは、野生の獣に食べられにくい換金作物として、唐辛子のブームが始まりつつある。


ざっと唐辛子が名物の地域を挙げてみよう。栃木県大田原市は、現在過疎地で行われるやり方の大元になった唐辛子の一大生産地である。元々那須連山が近くにあって、畑としての条件は悪くないものの鹿に食われたり猿に食われたり……という獣害が後を絶たないこの地域では、露地栽培の唐辛子は獣に食われることなく食い扶持を支えることのできる貴重な作物だった。宇都宮に向かってUの字型に緩く開いた盆地の地形が、唐辛子の香りを引き立てる寒暖差を生んで品質も良好。今は三鷹唐辛子という品種がメインである。


西日本からは高知県をご紹介しよう。

こちらは辛い唐辛子よりは、甘い唐辛子、つまりししとうや万願寺などのそのままパクパク食べられる唐辛子の産地としてのイメージが強いだろう。私もししとうはほとんど高知県産のものを扱う。とにかく揃いがよくて、黒潮由来の夏の降雨量が保証されているからか、肉質が柔らかく天ぷらにも炒め物にも向く。


上記の2県だけでなく、千葉県や大分県も唐辛子の産地として重要な位置を占める。なぜ唐辛子がよく栽培されるのか?というところまでは、千葉と大分は私はよく知らない。当てずっぽうに言えば大分だとゆずこしょうの原料として重要なのかな……とか、もし間違っていたら申し訳ない。


とかく、こと東日本の過疎地に於いては、近年しばしば唐辛子が地域おこしとして栽培されるケースが多い。味としても話題性としても、それが「刺激的」であるという点については、私も異論はない。注目を集めるには良い作物選択だとも思う。


私は東北住みとして、唐辛子による村おこしがさかんな福島県の平田村へ行ってみたことがある。

実際にみてよくわかった。都市部から隔絶しているというほどではないものの、南北に走る阿武隈山地のなかに集落として成立する土地をどうにか探し出し、わずかな平地にへばりつくように集落が形成されている。周りはほとんど山で、ということは獣に囲まれて暮らしているも同然なわけだ。ここで地域おこしとして使える作物は限られる。イモ類ならイノシシに食われ、葉物ならシカに食われ、スイカやメロンはハクビシンに食われる。果樹などどうあっても獣から守りきれまい。そういうなかで、唐辛子という選択はなかなか理に適っていると感じた。


平田村の最も人を集める目玉作物は、激辛唐辛子として名を馳せるハバネロだ。原産地は確か中南米だった……確かそのはず。チレ・アバネロというのがスペイン語での正式名称だったような。


平田村で採れたそれを、乾燥させすり潰しソフトクリームにかけたものが名物で、私も買って食べた。初代「世界一辛い唐辛子」は伊達ではなかった。呼吸とともに揮発したカプサイシンが容赦なく喉を焼いてくる。ソフトクリームを食べながら、謎に汗をかく不思議体験をした。


ハバネロを実食して分かったのは、ハバネロはただ猛烈に辛いだけの唐辛子ではないということだ。


ハバネロのよさ、それは意外にも、香りだ。激辛唐辛子を食べるにあたってホントに香りが分かるのかというツッコミはあるだろうが、これに関しては是非食べて確かめてほしい。


私が感じたのは、食べ始めの一口にわずかに柑橘、その後、南国系の甘い香りがするような気がした。バニラではない。バニラならそれはそれで分かる。果実っぽいとは思ったのだが何の果実であるかどうしても分からない。バナナの香りとも違うと思う。とにかく、嗅覚を一瞬オレンジが駆け抜けていき、直後押し迫る辛さのなかに南国系の甘い香りが見え隠れする、そんな感じの唐辛子であった。


多分、私が知らないだけでハバネロを美味しくする料理は存在すると思う。牛肉と相性が良さそうだと思った。煮込み料理に香り付けに少し。いい具合だと思う。味噌ラーメンに薬味として入れても多分美味しいはずだ。なじみは薄いが可能性としてはなかなか奥深いものを感じた。


さあ作物の所感はそんな感じだったが、地域おこしとしての唐辛子はどうなのだろうか。


結論から言うなら、唐辛子での村おこしは厳しかろう。唐辛子は1年間でもそんなにたくさん食べるものではないし、なにより流行りには飽きがくる。これは全ての地域おこしに言える。

始めるときは勢いが良いが、将来失速することも分かっていて、その先を乗り越えるすべがない。そんな村おこしは多い。平田村のハバネロの取り組みも、可能性は色々ありそうだとは思ったのだが10年後まで村に活気をもたらせるかと言われたら正直厳しい。


商品開発か、獣避けとしての作付けメソッドを生かし、次の作物へ繋ぐか。それができなければハバネロの流行りの終わりとともに平田村はまた過疎化の現実を突きつけられるハメになる。繰り返すがこれはどの地域おこしに対しても言えることだ。持続可能性を両立することの難しさは、私などが言及しなくても前例があらゆるところに転がっている。


二の矢を用意せねば村おこしは容易に頓挫する。過疎地域に求められる村おこしとは、少なくとも2つの作物を用意でき、最寄りの人口密集地から毎年毎シーズン人を呼べる仕組みである。唐辛子は地域の強心剤にはなるだろう。しかし、衰える地域の問題を根治することはおそらくない。そういう状況の中で、平田村はファーストペンギンの役を担ってくれた。二の矢はあるだろうか。過疎地域の取り組みとして、平田村から「刺激」のある動きが出てくるのを、私はとても楽しみにしている。

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