ここは俺に任せて先に行け!
ベッドにもぐりこむ。
自己嫌悪である。
昼間はアッカズにボコられ煽られ一言も言い返せず
ユウの善意を踏みにじったあげく八つ当たり。
生きれば生きるほど生き恥が増えていく。死にたい。
メンヘラっていると、アッカズが入って来た。靴を脱ぎ捨て、窓を開ける。
「うーむ。いい風」
「寒い」
「熱い」
「筋肉で発熱してるお前と違って、こっちは装甲薄いんだよ」
「あ、あれ」
「話聞けよ」
ゴリラは窓から身を乗り出す。空飛ぶ豚でも見つけたんだろうか。
「なに? なにしてんの?」
「ユウちゃん襲ってたデカブツおるやん」
「ああ、調べたけど、ズ・グーっていう使い魔らしい」
「ズゴー?」
「そんなずっこけネームなら弱そうなんだけどな」
「ズゴーが、たくさん飛んでる」
「は?」
「ほら」
ベッドから降り、窓から空を見上げた。
空に五つの点が並んでいる。目をこらすと、たしかにズ・グーだ。高度200メートルほどを東へ飛んでいる。
「……ユウ、部屋にいないよな」
「おらん」
嫌な予感しかしない。
床板をはぎとる。下には隠しアイテムの数々。
聖水、魔石、そして、琥珀石にも手を伸ばす。
琥珀石、使い魔が封じられたアイテムだ。組み込み術式に従属規定も記述されている。無詠唱コンマゼロ秒以下で発動させられる、超高級品。
「え、なんで泣いてるん?」
「くそぅ……ユウめ、絶対払ってもらうからな」
バックパックに魔道具を詰め込み、窓から飛び出す。
城壁へ走っていると、正面に影が舞い降りた。
人だ。すらりと高い背丈に、監督生の腕章。流れる金髪、さわやかな声。
「なにをしている、こんな時間に」
クソガキスレイヤー、サマル・エル・アレスクスが立ちふさがる。
「いやあ、ちょっと、人命救助といいますか? 尊い行為なので校則くらいは破ってもいいかな的な? 緊急避難って知ってるか?」
「ならば治安部隊に連絡をつけてやる。事情を話して貴様は部屋に戻れ」
「事は急を要するんだよ。治安部隊が来るの時間かかるだろ」
「素人の貴様が行ったところで二重遭難者を出すだけだ。大人しくルールに従え」
「手厳しいなあ、おい!」
煙玉を炸裂させた。
魔力を足に回して走る。
「くだらん」
疾風が、煙を吹き飛ばした。
「うーわ! 監督生のくせに校則違反したー! 悪―い!」
「残念だったな。魔力出力規制の免状は取得済みだ!」
ばーん、と校長の印が押された免状を掲げる。
「真面目か!?」
「これ以上抵抗するなら現行犯で取り押さえる。大人しく」
言い終わるより早く、琥珀石を解き放った。
巨大な大蛇がサマルに飛び掛かる。
サマルは飛びのこうとするも、足を滑らした。
水魔法で生み出したぬかるみが、サマルの足をすくった。
「んな!?」
一瞬の隙。大蛇がサマルに食らいついた。
次の瞬間、蛇が真っ二つに裂けた。
返り血を浴びたサマルは、抜身の剣を持っている。
「……レベル7の使い魔なんですけど?」
「雑魚が」
血を拭い、踏み込む。
一瞬で距離を詰められた。
剣の腹で首元を殴られる。
視界がぐらつく。吐き気と息苦しさが同時に襲って来る。
「無駄な手間を」
髪を掴まれた。校舎の方向へ引きずられる。
ああ、くそ。
いくらなんでも弱すぎだろ、一撃って。
イラつく。けど、何もできない。一矢報いることすらできない。
弱いから。努力しても斜に構えて風来坊を気取っても、現実は変わらない。
目が熱い。悔しさと痛みがないまぜになって嗚咽となってこみ上げてくる。
「ずどーん!!」
そんな、バカげた声。
巨体がサマルを吹き飛ばした。俺は宙を舞い、力強い腕にキャッチされる。
「泣いてるやん。頭なでなでしたろか?」
「……キッショい、死ね」
アッカズの手を逃れ、ふらつく足で地面に立つ。
「クソ……ガキどもめが」
サマルは剣を杖に立ち上がる。吹き飛ばされたとき木に叩きつけられたらしい。頭から血を流していた。
アッカズが前に出る。
「ここは俺に任せて先に行け」
「わかった、頼む」
「判断が早い!?」
さっさと逃げる。後ろで二人の切り結ぶ音。
「異界接続、界面固定、従属規定34章、配列指定、バラクダラク」
日の落ちた森を、漆黒の馬が駆る。




