火力
ゴーレムは湾刀を振りかぶり、襲い掛かって来た。斜め前に踏み出しながらかわすと同時、三日月蹴り。上足底に魔力を集中し、叩き込んだ。ゴーレムが後ろに傾く。
一気に距離を詰め、抱きかかえるように前後から掌底で挟む。両掌から発した魔力でゴーレムの体内を探ると、術式を見つけた。
ゴーレムが腕を振り回す。地面に手をつきながら体をかがめてかわし、そのままゴーレムの顎を蹴り上げる。
術式の場所はわかっている。接触せずとも、近くにいれば解析は進められる。
ゴーレムの攻撃をさばきながら、術式のもっとも脆弱な点を探る。
あった。
魔力を注ぎ込むと術式はクラック。ゴーレムは倒れ伏す。
さらに二体のゴーレムが飛び込んできた。アッカズが前に出る。
無造作に伸ばした両手で二体のゴーレムを掴み、叩き合わせる。
そのまま地面に投げつけた。床にめり込んだゴーレムを下段突きで潰す。金属ボディごと術式を破壊した。
この高出力めが!
うらやむ暇はない。さらに数十体のゴーレムがこちらに進んできている。
「さっさと逃げるぞ!」
「やっつけちゃわないの!?」
「勝てるか、あんなもん。逃げるんだよ!」
ユウの手を引いて二階への階段を駆け上る。天井に穴をあけ、屋上へ飛び出した。追いかけてくるゴーレムはかたっぱしからアッカズが殴り飛ばしている。
不安定な瓦の上、下を見ると、大量のゴーレムが店を囲んでいた。
「大人気だな、お前」
「うれしくない!」
召喚符を広げる。外の情報を閉ざし、集中。魔界から存在を引っ張り出す。
「異界接続、界面固定、従属規定34章、配列指定、グリュフュネ」
巨大な猛禽。翼開長は10mを越える。
ユウを掴み、巨鳥の背に飛び乗った。
ちょうどアッカズも追いついてくる。大量のゴーレムを連れて。
「くそ」
飛び立つ。ぐんぐん高度をあげる。地上の人々はあっという間に小さな点になる。
「アッカズは!?」
「わかってる!」
巨体を傾けて旋回。獲物に襲い掛かる猛禽よろしく、アッカズの肩を掴んだ。そのまま引っ張りあげる。
「痛い痛い痛い痛い!」
「死ぬよりマシだろ、文句言うな」
かぎ爪が食い込み、アッカズは涙目。適当なところで背中にあげてやる。
夜空のフライトを楽しむ余裕はない。すぐ背後から、巨大な魔力反応が出現する。
竜だ。全長20メートルはあろうか。青い蛇のような体、ワニの顔、体には電撃をまとっている。
竜が、吠えた。
「オオオオオオオオオオオオオ!!!!」
空気は震え、巨鳥が揺らぐ。
ドラゴンは赤い目でこちらを見つめ、加速。あっというまに背後まで迫る。
「掴まってろ!」
食われる寸前、旋回。左へ回りながら斜め下方へと軌道を外れる。竜は空で牙をかみ合わせた。
加速ではボロ負け。しかし旋回性能ならば飛行に適した形態に利がある。
「お前ら伏せてろ!」
ユウが「はい」と叫び、アッカズは無言で寝そべる。
ドラゴンの追撃が来る。
巨鳥に命じ、急降下。竜も追う。
猛禽類の飛行性能は、急降下時に真価を発揮する。ハヤブサの降下速度は時速300キロ。魔力で加速する生き物でも、体の構造は同じ。
竜と距離を離しながら地上へ急接近。身がすくむ。迫ってくる地面に、本能的な恐怖を呼び覚まされる。
けど、まだだ。まだ、耐えろ。目を開け、タイミングを計れ。
視界が極限まで狭まる。音は耳に届かなくなる。
後ろの竜も、アッカズも、ユウも、意識から消え去る。ただ地面だけがある。
50メートル、20メートル、5メートル。
今だ。
機首を全力であげる。巨鳥は身を地面すれすれを滑り、再び空へ。
背後で衝突音。竜が地面に叩きつけられていた。
「よっしゃああ! ふうううう! バカ蛇めー!」
アッカズが中指を立てる。お前、寝てただけじゃん。
「あんくらいじゃ死なねえよ。黙って伏せてろ」
「ごめんなさい」
素直だった。再び羽毛に寝そべる。
今いる場所は森の入口。竜が立て直す前に、森林に飛び込む。
木々で視界はふさがれ、空からは見えないだろう。地表すれすれを飛び、学園を目指す。
ゴオっと、音を立て、白い光が前方の木々を消滅させた。
ブレスだ。
「しまった!」
急カーブしようとするが、間に合わない。開けた場所に出る。
見上げれば、夜空を背景に竜が浮かんでいた。真っ赤な瞳と視線がぶつかる。
竜は口を開け、炎を溜める。
「やばいやばいやばい、バリア張れ、バリア!」
「んなもんねえよ!」
せめて隠蔽された場所へ。再び森へ入ろうとする。
しかしそれより早く、ブレスが放たれた。
「ああああああああああああ!!!!」
「いやああああああああああ!!!!」
二人して叫ぶ。
だが立ち上がる者がいた。
ユウは光の奔流を前に昂然と手を向ける。
手のひらに、莫大な魔力が生じる。術式を介することもせず、暴力的な魔力を放出。
ブレスとぶつかった。二つの光は夜空を白く染め上げ、風圧で森を揺らす。
ユウの魔力が、ブレスを押し返した。竜は驚愕し、首をのけぞらせる。
魔力は竜の体をかすめ、深い傷を残して夜空へと拡散していった。
効いている。こいつには実体がある!
竜は飛び掛かってくる。
ユウは効果力だが戦闘には不慣れ。機敏に動かれては当てられない。動物的な本能でそれを察知しているのだろう、竜は恐れることもなく近づいてくる。
三人を乗せた巨鳥は飛び立ち、竜の追撃をかわす。不思議と先ほどより早く、直線的な動きだがかろうじて捕まらない。
巨鳥を追いかける竜を、俺たちは地上から見ていた。
鼻先に餌をぶら下げられた竜はものすごい速度だが、動きは直線的。
「ユウ、最大火力だ。外すなよ」
「うん」
先ほどよりもでかい魔力。周囲の空間を歪め、光の軌道をすら捻じ曲げる。
「いや、それ以上はいい。隠蔽できない」
言うと、ようやく魔力の膨張がとまった。制止しなきゃ再現なく膨らんだ労。底知れない魔力に身震いする。
だから、これを食らうあいつには哀れみさえ覚える。
「撃て」
「うん!!」
ユウの手のひらから、星々をすら飲み込まんとする光が放たれる。
断末魔をあげる時間すらなかった。
竜は一瞬にして、地上からその痕跡を消し去った。
巨鳥に乗り、学園を目指す。
もう追手はいない。ぼーっと景色を眺める。
「クロアって、すごいね」
はて、なんの皮肉だろうか。
目を細めて振り向くと、ユウは心底から尊敬するという視線を向けてくる。
「一番強いのはお前だと思うが」
「え?」
ぽかんと口をあける。
まったくバカバカしい話だ。あんな、伝説の魔導士クラスの破壊力を持ちながら、守られるヒロイン役にいるなんて。
お姫様を守る騎士は道化にすぎず、あの魔力を食らえば有無を言わさず消し炭になる。
なんとも、バカバカしい限りだ。
アッカズは羽毛に埋もれてひびきを立てている。こいつは何も気にしていないのだろう。やはり強者は違うな。
俺は、そんな風にはなれない。いつだって自分の弱さに、矮小さに、いらだっている。
「なんでもねーよ。そのバカ見習って寝てろ」
「う、うん……?」
素直に寝ころぶ。グリュフュネの羽毛に体を沈めるや睡魔が襲ってきたようだ。規則正しい寝息を立てる。
アッカズとユウ、人並外れた力を持つ二人を乗せ、夜の空を駆け抜けた。




