襲撃
ロックへの説明のため、いやいや仕方なく学園を抜け出し、ついでに遊んでいくことにした。
ユウも含めた三人で料亭に入る。
「だ、だだだだ、大丈夫なの!? 勝手に抜け出して」
ユウが顔を真っ青にして怯えている。ちょっと面白い。
「ああ、大丈夫。バレなきゃ問題ない」
「それ大丈夫じゃないってことじゃん!」
うわー、と頭を抱える。きっと優等生なんだろう。そんなんじゃ魔道学園じゃ生きて行けないゾ☆
アッカズはというと、もちろんまったく気にしていない。大量の肉を注文。俺もユウの分まで適当に頼む。
今の俺たちはリッチなのだ。
先日、亡霊を倒したことで民兵総監から報酬金が出た。受け取ったのはロックだが、魔道具のレンタル料だけ取ると、残りは俺たちにくれた。太っ腹だ。あとでお土産買っていこう。
料理が届く。でかい肉を乗せた皿が高く積みあがる。
俺の前にはサラダ、肉料理、スープ、パンがバランスよく。ユウの前にも同じものが置かれる。
「いただきまーす」
アッカズがばくばく食い始めた。さっきまで怯えていたユウはその食いっぷりに圧倒され、唖然としている。
俺も肉をスライスして野菜と一緒にパンに挟んだ。一口かじり、スープを飲む。
ユウも「いただきます」と小声でつぶやく。食べるのかと思いきや、フォークとスプーン、ナイフを綺麗に並べることからはじめた。それが終わると一息つき、マナー通りの食事を行う。
「お前、いいとこのおぼっちゃん?」
「二人も貴族でしょ? 学園に通ってるくらいだし」
「ああ、そうだな。領民から搾取した税でぶくぶく肥え太る高等御乞食ってやつだ」
「なにそれ……?」
「爵位があるからって品位も持ってるわけじゃないってことだよ」
言っても、ユウはきょとんとしている。こりゃ本当に優等生サマらしい。
「高等御乞食はいいんだよ。それより」
「クロアが言ったんじゃん……」
「お前、なんで追われてたんだ?」
フォークの先を突き付けると、ユウは「行儀悪いよ」と眉を顰める。
「なんていうかな。ちょっと、特殊な家系で……。うちって、代々魔力が高いんだよね。それと、体質も変わってて、悪魔に食べさせようとする人たちがいるの」
「ちょっと待て。話が飛び過ぎだ。なんで体臭がひどいからって悪魔に食われる?」
「臭くないよ! 失礼な!」
ユウが手を差し出してくる。華奢で透き通った、ガラス細工の指。
「甘くて赤ちゃんみたいな匂い」
「それもそれで失礼だね……まあいいけど」
いいんだ。
「食べると、……ええっと、悪魔が、強化されるの」
「なるほど。つまり進化の素材ってことか」
俺も食おうかな。
頷くと、ユウは「信じるの?」と問いかけてくる。
たしかに、信じがたい話ではある。
人間にしろ魔力生命体にしろ、使えるのは自分の魔力だけ。人の魔力をもらうことはできないし、食ったところでカロリーにしかならない。魔力生命体が人間を食うのは殺傷手段であり、腹を満たす行為ではない。
魔力量も個人の素質であり、遺伝はしない。乏しい魔力しかない貴族もいれば、莫大な魔力を持つ民間人もいる。魔道学園に通えるかどうかは、学費を払えるか否かの問題。
だから、俺みたいな才能ないやつが紛れ込んだりする。
自己嫌悪の情が顔に出ていたのだろう、ユウがこわごわとこちらを覗き込んでいる。
頭をがりがりかいた。ほんと、くだらないことですぐネガになる。ポジティブポジティブー。
「あー、そうだな。とりあえず、実験してみるか」
厳粛な雰囲気のまま言うと、ユウが体をすくませた。
「じ、実権?」
「適当な使い魔召喚するから、指くれ」
「嫌だよ! 痛いよ!」
「冗談だ」
笑うと、ユウは胸をなでおろす。
会話を切りやめ、皿へ視線を戻した。
空だった。
アッカズはとぼけ顔で明後日の方向を向いていた。
「バレバレなんだよ、バカゴリラ!」
「はあ!? いつまでも食わんのが悪いんやん! 料理さんが泣いてたぞ? 早く食べて―って、だから食べてあげただけやん」
「認めたな!? 食ったって認めたな!?」
ユウもまた空っぽの皿を前にして、持ち上げたナイフを下ろせなくなっている。
風魔法で電気を起こした。
「いったあい!?」
「ケツの穴出せこら、一番敏感なところに百万ボルト食らわせてやる」
「やさしくしてぇ」
言いながら抱き着いてきた。重機みたいなパワーで締め付けてくる。
「うぐ……苦しい、死ぬ、死ぬ死ぬ」
「ふはははははは。雑魚め。パワーが足りん」
脇に電撃を食らわせる。
「うっひゃあい!?」
「もう、ケンカやめてよ!」
そのとき、不穏な魔力に気づいた。
いちゃつく手をとめる。
「ちょっと、離れろ」
「え、急に冷静なるやん。こわ」
「いいから」
アッカズを押しのけ、探知魔法へ意識を回す。それは壁の向こう、複数いる。一体が、飛び掛かって来た。
「逃げろ!」
ユウの腕を掴んで後ろに飛ぶ。
壁がぶち破られ、さっきまでいた場所に湾刀が振り下ろされた。
長い手足、つるりとのっぺらぼうの顔、金属でできた人形。
ゴーレムだ。




