日課
朝ぼらけ、布団から這い出る。
二段ベッドの下にユウ、上にアッカズ、床に俺。
別にいじめられているわけではなく、公平にして公正なジャンケンの結果である。
音を立てないよう運動着に着替え、部屋を出た。
澄んだ空気。薄墨を引いた空が冴え冴えと広がっている。
走り出す。寮から離れ、木々の錯雑する未舗装路へ。
学園の敷地内には山があり、トレイルランには最適。
すぐに傾斜がはじまる。体がぐっと重くなる。足に力を籠め、加速。腕を振り、呼吸を制御して山を駆け上る。
未舗装路は山の南西からはじまり、頂上を通って反対側に降りる。石畳の道を通って学園を東から西へ突っ切り、スタート地点へ戻る。一周約2キロ。
二周目の登り道。足の肉が悲鳴を上げ、肺が焼け付くように痛い。ペースを落としたくなるのを堪え、無理やりにでも腕を振る。
頂上、一番息があがるタイミング。
召喚符を広げる。目を閉じ、息を吐いて意識を切り替える。
目を閉じたまま、召喚符の模様をイメージした。召喚符はあくまで視覚的補助。記憶力と魔力操作の腕さえ十分なら、道具なしでも召喚はできる。
が、術式は発動しない。諦めて目を開き、召喚符の模様に沿って魔力を流す。術式が作動し、愛馬があらわれた。
背にまたがり、腹を蹴る。馬が駆け出す。弓を構えた。
狙うのは木々につけた目印。馬の速度を落とさず、一矢ずつ放つ。
あたり、あたり、あたり、あたり、……外れ。
最期の一矢を外した。舌打ちし、飛び降りる。木の枝に飛びついた。
懸垂、腹筋など、一通り自重トレーニングをこなす。終わるころには力が残っておらず、枝から真っ逆さまに落ちた。
肩をぶつける。
「いっでえ……」
なでさすりながら体を起こした。
魔力を水に変換。頭からかぶる。急いで戻らないと朝食に間に合わない。
「あ、こんなところにいた」
布切れで頭を拭いていると、ソプラノの声。
見れば、ユウだった。リネンのシャツ一枚、森の中に突っ立っている。
「……何してんだ」
「こっちのセリフだよ! 朝起きたらいないし……。何やってるの?」
問われ、目をそらした。なんて答えよう。
「…………カブトムシ探してた」
「意味が分からない!」
ユウが驚愕。
「じゃあ、弓でもカブトムシ狙ってたの?」
そっから見てたのかよ。
非難の目を向ける。が、よく考えれば自分の索敵能力の低さが原因。疲労しているとはいえ、警戒を怠っているようでは二流。
これからは全方位に探知魔法を使いながら過ごそう。魔力も鍛えられるし。
「まあ、あれだ。凡人ってのは最低限のことやってないとどこまでも落ちるんだ。あんまり雑魚になるのもいやだろ」
「頑張り屋さんなんだね、クロアは」
「……いや、別に」
視線を泳がせ、頭をかく。褒められるのは慣れていない。反応に困る。
平静を装い、寮へ足を向ける。
「あ、待ってよ! ご飯でしょ? 一緒に行こう」
とててっとついてくる。なにこれ、懐かれた?
その愛くるしい仕草にトラウマが刺激される。あざとかわいい女子は恋愛弱者にとっては破滅への入口。それで何度勘違いして無謀な突撃からの玉砕をかましたことか。
けどこいつ、男だからなぁ。
じゃあ安心か。




