キツネとゴリラ
学園の外には森が広がっている。
木々をかきわけ5分ほど進むと、あばら家があらわれた。
中からはどでかいイビキ。
「バカゴリラ―。起きろー」
「……目覚めのキッス」
「キッショ、死ね」
リュックから召喚符を取り出す。
一メートル四方の茶色い布だ。表には魔力伝導率の高いインクで術式が刻まれている。
召喚符に魔力を流す。
「異界接続、界面固定」
召喚符の中央に、微小な特異点が生まれる。それは世界に空いた穴。虚空へと続く穴だ。
有に満ちた世界において、無は許されない。虚空は、すぐさま別の何かと繋がろうとする。その先を誘導する。
魔界、魔素の海と表現される別世界と、つながる。
一度繋がってしまえば、それを広げるのにたいした魔力は必要ない。
召喚符の上いっぱいに、世界と世界の接する面、界面が広がる。光を反射しない魔素の海とつながる穴は、真っ黒なインクをぶちまけたように黒。
「従属規定34章、配列指定、バラクダラク」
界面から魔素が立ち上り、明確な形へと構築される。魔界にあった魔素の連なりが、物質世界で形を成す。
召喚されたのは異形の馬だ。
毛並みは漆黒。目は大きなアーモンド型、鬣は炎のように揺らめき、前足後ろ脚ともに関節が多い。
「よーし、どうどうどう」
なでると頭をこすりつけてくる。かわいい。ダークな見た目とのギャップが中二心にぶっ刺さる。
文字通りのダークホースたんにはどいてもらい、二度目の召喚魔法。すでに界面は発生しているので、魔力の消費は少ない。
「異界接続、界面固定、従属規定34章、配列指定、フギン、ムニン」
二羽のカラスがあらわれる。普通のカラスより一回り大きく、くちばしは鋭利、翼は金属質の光沢がある。
フギムニはきゅるきゅる首を振り、肩に飛び乗る。重い。両肩外れそう。
道具を片付ける。アッカズはすでに馬に乗っていた。後ろに乗る。
アッカズの魔力をひとつかみして馬にかがせ、覚えさせる。これでアッカズの命令も聞く。
「行くぞ行くぞ行くぞ!」
いななきひとつ、走り出す。
カラスに命じて周囲を旋回。目を閉じると、カラスの視界が見えた。右目と左目、それぞれに別の光景が見れる。
上空偵察を続ける。
10分ほどで獲物を見つけた。馬を止める。
「オーク、五体。300メートル先」
「蹴散らす?」
「それもいいけど」
カラスとのリンクを切った。馬から降りる。
アッカズは何も言わずに隣に来た。オークのいたほうへ向かって歩き出す。
最初の百メートルはずかずか進み、徐々に速度を下げ、息をひそめる。
気取られるぎりぎりの距離で止まり、身を潜めた。風魔法でレンズを作って観察。
豚面の人間、五体。棍棒や、錆びた剣を持っている。
五体の距離はまばら。左の二体と、右の三体との距離は30メートルほど開いている。
アッカズを指し、左へ指を振ってから、人差し指を中指を立てて2を示す。
自信を指し、右へ振って指を3本立てた。アッカズはうなずく。
ショートボウに矢をつがえ、魔法の準備。アッカズは肩を回している。
「ゴー!」
合図で一斉に飛び出した。
矢を放つ。一番近くにいた個体の右目を貫いた。
次の個体までの距離は20メートル。急いで矢をつがえ、胴体を狙う。
狙いを定めたまま魔力を練った。矢に炎をまとわせる。
フレイムアローは初級の火魔法。通常は体の表面で燃えるだけ。
しかし、実物の矢と重ねることで、炎は敵の体内へ侵入する。
矢を放つ。胴体に深々と突き刺さる。オークは鈍い、普通は無視して襲って来る。
だが、炎はすべての生物に効果がある。
オークは絶叫。炎を払おうと必死になるが、臓腑を焦がす炎には手が届かない。
のたうち回っている隙に距離を詰めた。剣を持った三体目と対峙する。
敵の剣をかわし、肉薄。こちらも抜刀、首を刎ねる。
そのまま振り返り、火矢を受けたオークの首を刎ねた。
アッカズはまるで違う戦いをしていた。
肩で風切ってオークへ歩いていく。近くにいた方のオークが切りかかった。刃は筋肉にはじかれる。
鍛え上げられた肉体と、高い魔力による身体強化は相乗効果を発揮。アッカズの肉体は鋼鉄の強度を誇る。
オークの動きがとまった。
アッカズはオークの頭を掴み、もう一体に投げつける。二体は重なり合って地面に転がた。
踏みつけて動きを封じると、背負っていた斧を取る。二体まとめて首を刎ねた。
戦闘が終わると、オークの解体だ。ロープで木につるし、動脈を切って血抜き。
剣も状態が言いものは拾っておく。血抜きを待つ間、干し肉を食べた。しおっけの強い肉はなかなか噛み切れず、10分以上もモグモグ。暇つぶしにはちょうどいい。
血抜きが終われば解体。
皮をはいで地面に広げ、切り取った肉を並べ、包んで結ぶ。
その辺の枝と、余ったオークの皮、持参したロープを使って橇を作成。馬につないでオーク肉を乗っける。
作業の間、アッカズは筋トレをしていた。馬を担いでスクワットをしたり、木を引っこ抜いて振り回したりしている。以前、あいつに解体させたら内臓を傷つけて悲惨なことになったので、二度とさせない。
「次行くぞー」
二人して馬に乗り、次なる獲物へ向かった。




