表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/60

【第二話『反骨と情熱の火曜日』】

主人公:名前はリゲル。太陽双子座、月魚座。孔雀のような雰囲気を持つ少年。

    戦術家だが感情に流されやすい。

    この世界の外側の異形と関わり合う職業のアバター使いを進路に志望。

    学校間対抗戦で年下の女の子に負けて現在新技を開発中。

 親友:名前はハクラビ愛称はハク。太陽天秤座、月蠍座。すごく顔がいい。

    知らない物の値段を当てる特技がある。

    裏表のない性格、深刻な場面でも軽口を叩く。

    育ちが良くて挫折知らず。

 精霊:名前はぴーちゃん。孔雀の精霊。曜日ごとに性格や見た目が変わる。

    火曜日のぴーちゃんは、天真爛漫で子供っぽい。

    イメージカラーはオレンジ。

    少し短気だがリゲルに元気をくれる。

ヒロイン:名前は、ラピス。太陽牡羊座、月山羊座。

     小顔の丸顔でおでこと目が大きく背が小さいが、ほんの少し釣り目。

     生徒会の役職にこそついているが、中身はぽんこつ。

     周りの人間に助けられている。

     気の強さの一方、ラピスラズリのように脆い非常に繊細な心の持ち主。

     直感的で思ったら後先考えず、すぐ行動する。

     手先が器用。後輩や動物の面倒見がすごくよい。

     頑張りすぎてよく体調を崩す。花が好き。少し人見知り。

【第二話『反骨と情熱の火曜日』】

――目覚めたくない朝に、限って空は晴れている。



● 寮の朝/登校直前


リゲルは、目覚ましの電子音を片手で黙らせると、

布団の中に潜り込んだまま、ため息をついた。


「……行きたくないな、学校」


天井を見つめる癖が、昨夜から続いている。

あれだけ派手に負けて、きっとみんな自分のことを見ている。

そんな気がしてならない。


でも、寮内は静かだった。

隣の部屋からは、誰かの歯磨きの音。

廊下では、朝食を取りに行く足音。


扉一枚隔てた向こうの世界は、いつも通り、何事もなかったように回っている。

ただ、それが逆に、妙に腹立たしかった。


(……本当に、誰も気にしてないのか)


リゲルは目半目にしながら、おそるおそる端末を開く。

昨日の模擬戦は、自動的に戦闘記録として全校に共有されている。


SNS欄の通知は……ゼロ。

呟いた声も、乾いていた。


だれも声を掛けてくれないことが、少しだけ寂しくて、

でもそれを安堵してしまう自分が、一番情けなかった。


そのとき、部屋の片隅でキュインッと小さく光が跳ねる。


「おはようリゲル~! 火曜日のぴーちゃんだよっ!」


ふわりと現れたのは、孔雀の羽を模した小さな精霊。アバターの起動媒体――ぴーちゃん。

コイツは、曜日で性格が変わる変わったやつで、

火曜日の今日は、やたらテンションが高く、火星っぽい強気な性格になる。


「なに寝ぼけてるのー! さっさと制服着て、飯食って、行っちゃおうよ!」


「……うるさい。今日は休んだって誰も気にしないってば」


「気にされなくても、昨日僕だってリゲルの中で一緒に戦ってたもん!」


「……ごめん。」


キラキラと羽を広げながら、成長体精霊特有のあどけなさでぴーちゃんは宙でリゲルの顔をのぞきこむ。


「お前な……火曜日は元気すぎるんだよ、テンションが」


「だって火曜だよ? 火曜日に沈んでたら週がもたないよー!」


その言い分も、それなりに理屈が通っているのがまた腹立たしい。


リゲルは渋々布団をはねのけ、制服に手を伸ばす。

窓の外は、きれいすぎるほどの青空だった。


昨日よりも、少しだけまぶしく感じたのは、きっと気のせいだ。


「……行ってくるよ、ぴーちゃん」


「いってらっしゃーいっ!」


精霊の声を背に、リゲルは寮の扉を開けた。


いつも通りで、何も変わっていない朝だった。

なのに、昨日の戦いだけが、ずっと自分の中で止まったままだった。



● 教室/再会と比較


教室に着いたリゲルは、席に座る前にそっと周囲を見渡した。


誰もこちらを見ていない。

昨日の対抗戦の話題も、思ったより少ない。

それどころか、全体的に雰囲気は沈んでいた。


「全体的に負け越しかー、やっぱ対外戦は厳しいな」


「うちの中距離組、けっこうやられてたっぽいよね」


ちらほら聞こえてくる言葉に、リゲルはほんの少しだけ肩の力を抜いた。


(自分だけじゃなかった、か)


そんな安堵も束の間、後ろのドアが音もなく開いて、空気が変わる。


ハクラビ――親友のハクが入ってきた。


「おはよ。リゲルも無事だったみたいでよかったよ」


深刻な空気もまるで無関係かのように、彼は笑っていた。

白く整った制服に、無駄のない所作。顔が良くて、声もいい。


「昨日・・・どうだった・・・?」


「勝ったよ。圧勝。」


まるで予想通りに事が運んだかのように、序盤に圧倒して、最後はさっと逃げ切る。

それがコイツのいつもの勝ちパターンだ。


「まあ、俺の相手が甘かったってのもあるけど。ね、ルミレナ」


彼の肩にふわりと浮かぶのは、水鏡の白鷺、ルミレナ。

精霊なのに、どこか人間より品がある。


「……昨日の、反省とかしてる?」


思わず、リゲルの口から出た。


「え? ああ……うーん?」


ハクは少し考えるふりをして、指を一本立てた。


「もうちょい集中力維持かなー。最後の三十秒、眠くなってた」


リゲルは、思わず吹き出しそうになるのを堪えた。


「……眠くなるなよ」


「そういうリゲルは? 例の、えっと、名前なんだっけ。強かったじゃん」


「ダビー」


「そう、ダビーちゃん。いや~怖かった。俺だったらランス刺されてた」


他人事のような軽さ。悪気はないのは分かってる。でも。


(……あいつ、ほんとに何も怖くないのかな)


リゲルは机に視線を落とした。

戦闘記録の再生が、今日の午後に予定されている。


また、見直すのか――あの瞬間を。

胸の奥が、まだ少し軋んでいた。


● 午後/戦闘検証

午後の実技戦術の時間。

大型スクリーンに、昨日の対抗戦の映像が順に映し出されていく。


まず注目されたのは、首席――ザヴィジャヴァ、通称ザビの試合だった。


黄金の歯車をあしらった大剣。

黄金の炎を纏うその武器が、グリフォン型アバターの翼の動きと連動し、歯車の回転数の応じて攻撃力と能力を変化させていく。


「さすがザビ先輩……」

「あの重さでこの精度か……」


生徒たちは息を呑み、メモを取り、分析し、時折小さくどよめいた。


だが――


スクリーンの端で、ザビ本人は何も言わず、腕を組んで映像を見つめていた。


次に映し出されたのは、シャウラの試合。


やや素行不良で知られる彼は、今回の対抗戦におけるダークホースだ。


メタリックなカラスのようなアバター。

黒炎を纏い、クロー型の金属武器を振り回して荒れ狂うような立ち回りが特徴だった。


途中まで押されていたかに見えたその戦い――

だが、体力が限界近くまで下がったその瞬間、戦場の空気が反転した。


「俺の勝ちだああああああああ!!」


叫びとともに、黒炎のクローが対戦相手をねじ伏せる。


一拍遅れて、観客席がざわついた。


「……あれで勝つんだ」

「えぐい」

「回避のタイミング完璧だったな」

「相手もかなり強い方だぞ」


訓練室の空気が微かに揺れるなか、隣にいたハクラビがリゲルの肘を小突いた。


「なあ、アイドルの試合もあるぞ。たぶんミラハちゃん」


「……今はいい」


「えー? じゃあライサさんのほう見る? あんな美人、なかなか見る機会ないよ?」


ふざけているようで、ハクなりに気を遣っているのは伝わってくる。

でも、いまはそういう気分じゃなかった。


上手くいっている他人の映像を、笑いながら見るほど――まだ、割り切れていなかった。


しばらくして、ハクの試合が流れた。


序盤からペースを握り、光る水の矢を放ち、分身を活用して相手を幻惑。

最後は双剣による近距離の決め技で仕留める。


まるで台本通りの、完璧な先行逃げ切りだった。


「ハクラビ先輩かっこいい!」

「……なんだこれ、無駄がなさすぎる」

「これ、地味に真似できないやつだよ」


――歓声の大半は、女の子だった。


試合後、肩に水鏡の白鷺ルミレナを乗せて一礼すると、教室の一角から拍手が起こった。

静かに、だが確実に。


その音に重なるように、小さなため息も聞こえた。


リゲルは、なんとなく目を逸らした。


(やっぱり、あいつはちゃんと勝ってたんだ……)


そして――

自分とダビーの試合映像が再生される。


自分の動き。

ビットの配置。

攻撃のタイミング。


「……詰めは甘くない。けど、最後の一撃が届かない。間合いの半歩、誘導の一瞬……そういう“切り札”がなかった」


「ビットの軌道はきれい。剣の狙いも急所を捉えてる」


「だけど……攻撃が直線的。軌道が読みやすい。斜めにずらす、死角から撃つ、そういう“崩し”があれば違ったかも」


「圧が足りない。ビットと剣で相手の意識は奪っているけど、三次元の行動を制限できていない」


意見が飛び交う。


「地形を使えればいいんだけどな……」

「でもリゲルって、足場を作る能力持ってなかったよな。あれ、地星座の影響だし」


――そうだ。


自分は、細かい操作には自信がある。

でも、地形を変化させるようなギミックは使えない。


相手の力を逆手に取るような器用さも、まだない。


しかも今から覚えるには、アバターの大幅な修正が必要で、現実的ではない。


(じゃあ、何を足せば――勝てる?)


当初は、我が校の代表者があまり活躍できなかったことで、正直ほっとしていた。


今は違う。


胸の奥が締めつけられるように、熱が背骨を這い上がってくる。


午前にごまかした不安が、かたちを変えてぶり返していた。


戦場を封じるもの。

敵の逃げ場を消す何か。


(……もっと、空を封じられたら。ビットの空間制圧と剣の間合いを合わせて、逃げ場をすべて消せたら――)


このとき芽生えた違和感が、のちにリゲルの戦い方そのものを変えるとは、彼自身まだ思いもよらなかった。


そのとき――


窓の隙間から、白い羽が一枚、ひらりと舞い込んだ。


空調の流れに乗って、くるくると回転しながら、リゲルの目の前を横切っていく。


無意識にその軌道を目で追いながら、彼はぼんやりと思った。


(……空中に、ああいう軌道を――)


だがその発想は、まだ輪郭を持たず、すぐに霧散していった。


● 放課後

放課後。

昇降口の前で、リゲルは一度、足を止めた。


校舎の影が長く伸び、帰宅部の足音が遠ざかっていく。


試合の映像も、授業も、終わった。

感想も飛び交った。

それでも――胸の奥にざらつきが残っていた。


気づけば、靴のまま東棟裏の飼育小屋へ向かっていた。


ラピスがいるかどうかは、わからなかった。

いても、いなくてもよかった。

ただ、気持ちの置き場を、そこに預けたかった。


飼育小屋には、草の匂いと、もっさりした気配が漂っていた。


白くて、でっかいウサギみたいな、不思議な生き物が五匹。


名前は――ボーカル、ギター、ベース、ドラム、キーボード。

生徒会の誰かがふざけてつけたらしい。


その中の一匹。

ボーカルの耳を布で拭いていた、小柄な女の子の背中が、ちらりと振り向いた。


「……あ」


「リゲル。来てたんだ」


「うん」


ラピス。

丸顔の額からのぞく前髪が、夕日を跳ね返している。

少しだけ釣り気味の目は、どこか眠たそうだった。


制服の袖をまくり、膝にキーボードを乗せ、片手でブラシを動かす。

雑なようでいて、妙に丁寧。

無愛想な顔のまま、指先は驚くほどやさしい。


「昨日、試合だったって聞いた。ごめん、生徒会がぐちゃぐちゃで、見に行けなくて」


「別に……たいしたことなかったし」


「ふーん?」


ラピスは、こちらを見ずに返した。


ベースが欠伸をして、隣のギターに頭をぶつけた。

ギターがむっとした顔で睨み返す。


そのやりとりが、やけに静かな空気の中でおかしかった。


「勝った?」


「……負けたよ」


「ふーん」


今度は目線だけこちらに寄越して、少しだけ首を傾ける。

睫毛が長い。


「じゃあ、やること見つかったね」


「……え?」


「負けたってことはさ、まだ勝ち方が残ってるってことでしょ。

 リゲルは、うっかり全部見つけちゃったら飽きるタイプでしょ?」


ラピスは、ブラシを動かしながら言った。

声は軽いけれど、どこか真剣だった。


本人は意識していないのだろう。

だけど――そういうところだけ、やけに刺さる。


「それに」


ぽす、とキーボードを膝から下ろし、ラピスがようやく正面からこちらを見た。


その目には、仲間にだけ向けられるまっすぐな色が宿っている。


「……負けたって顔してない」


一拍置いて、ボーカルがくしゃみをした。


「それ、いつもより少しだけ、怖い顔。

 次のこと考えてる時の顔」


リゲルは、何か言いかけて――

けれど、言葉が浮かばなかった。


「どうだろ」


ラピスは立ち上がり、無造作にほこりのついたエプロンを脱ぎながら言った。


「私はさ。リゲルが次を見てるなら、それで十分だと思ってる」


「……わからない」


「いいの。こっちが勝手にそう思ってるだけだから」


そう言って、ラピスは笑った。

その笑顔は、どこか寂しげで、どこか嬉しそうだった。


ふと、リゲルがギターの耳がぴくりと動いたのを見ていたとき。

ラピスが、ぽつりと呟いた。


「時々さ、休憩に来ればいいじゃん。ここ。

 あんたって、放っとくと本気で壊れそうだし」


「……ボーカルにでも相談するか」


「うん。この子、たまにいいくしゃみするし」


二人で、少しだけ笑った。


彼女の吸い込まれそうな瞳は――

ラピスラズリのように、ほんの少しだけ脆くて。

だからこそ、きれいだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ