転移者の暴走を止めた名もなきおっさん冒険者の話
「プ~クスクスクス、そのなまくらの剣で僕と戦うの?僕の力を知っているよね。銃を持っているよ!」
バン!バン!バン!・・・カチャ、カチャ
奴は試し打ちをしやがった。木が削れる。
「あれ、また、ジャムったか?水洗いをしたのに、水洗いはネットでやっていたのに、しゃあない・・・こいつを殺してポイントゲットで新しい銃を召喚するかな」
奴は異世界の武器、『ジュウ』を持っている。黒髪で黒目で奇妙な格好をしている奴だ。
俺は冒険者、この歳でやっとD級冒険者だ。ジョブは剣士だ。等級がつけば下級剣士だろう。
「おかしいーな。国産なのに、M4は評判がいまいちだから20式にしたのに、やっぱ次はAKにしようか。でもな~テロリストみたいだし、89式はAASAM優秀したし89式にしようか、マズルマッシュも小さい、でも、サウンズベロシティはどうなんだろう?音は重要だぜ」
あの本の通りだぜ。俺は【対異世界人戦闘術】って本を手に入れた。
『異世界では銃及び銃の整備を知らない者がほとんどである。騎士団、衛兵隊、裏組織しか知らないのが現状である。中にはミリオタという人種もいる。ほとんどがオモチャの銃しか知らない。実銃保持者でも商会に整備を任せているのが現状である』
「でさ。おじさん。その格好は何?僕の真似をして防弾チョッキを作ったつもり?プ~クスクスクス~」
「ああ、このチョッキでお前の鉄礫を防ぐ」
「ギャアアアアア~原始人が飛行機を見て像を造る奴だぁ~!」
見たところ10代か?本にはこう書かれている。
『ミリオタとは会話をするな。どうせたいした事は言っていない』
だが、禁を破る。
「ユウキ殿、何故、罪も無い人々を殺す?」
「はあ?NPCでもステータス見たら犯罪歴があるんだ。殺すとポイントをゲット出来るんだぜ」
「馬鹿な。お前が殺した村人たちは戦場の後かたづけて鎧や武器をもらったんだ。そりゃ、畑を荒らされたのだ。中には・・・・まあ、良い」
やはり言葉は通じない。
マリア・・・・この防弾チョッキはユウキに襲われた村長の娘マリアが作ってくれた。
☆回想
『へえ、異世界人と戦うための防弾チョッキね・・・この本の通りに作ればいいのね』
『頼むぜ。奴がこの村に来るまでに止める!』
『フフフ、まあ、中味はまるでお菓子みたいね。合羽の要領でポケットの中は防水にするわ。無理はしないでね。危なくなったら逃げて・・・
このクエストが終わったら・・・父に挨拶をして・・財産が無くても冒険者でも了解してくれるわよ。貴方、村を荒らす魔物を退治してくれるもの。魔物に襲われている私を助けてくれたわ。感謝している』
『冒険者をやめる。農作業を教えてくれ。俺は都の貧民出身だ。全く潰しが効かない』
『もちろんよ。いちから教えるから覚悟してね』
『おう、マリア先生』
・・・・・・・
俺が開始の合図を言う。奴とは五メートルくらいか。
「始めようか」
すると、奴はろくすっぽ構えないで撃ちやがった。
「はい!おしまい!」
バン!バン!バン!
本曰く『彼らが興じるゲームは超近接戦闘である。戦闘の一局面の切り取りでしかない』
俺は素早く横に逃げた。俊足魔法だ。
『狙撃で最も嫌な動きは横に動く事だ。まっすぐに向かったら狙いやすい。ボウガンを参照にされたし』
「あれ、あれ、バグ?当たらない!」
暗記するほど読んだ本の内容が頭に浮かんでくる。孤児院長に厳しく読み書きを仕込まれたおかげだ。
『異世界の銃大国では銃を使った犯罪が絶えない。コンビニという商会に強盗が訪れる。店子と強盗で撃ち合いが生じるが、およそ戦闘時間は3秒、1メートルの距離でも当たらないとなっている。咄嗟に構えないで撃ったら銃は当たらないものだ。
しかし、軍用銃は違う。安定性が高い。注意されたし』
バン!バン!
「当たった!」
幸運な事に俺の防弾チョッキに当たった。
幸いな事に弾は止ってくれた。
『この世界の物でも防弾チョッキは作れる。砲弾の破片や爆発物には耐えられないが、銃弾なら防ぐ事が出来る。材料は・・・・』
「あれ、何故、止らないの?リセット!リセット!」
ドン!
俺は奴を蹴飛ばし。剣を奴の首筋に当てて、ノコギリのようにギコギコやる。
「はあ、はあ、はあ、お前ら異世界人なんかに殺されてたまるかよ!ここは俺らの世界だ!」
「ウゲ、ゲエエエエーーーー!」
いいぞ。奴は銃を落として剣を手で止めようとする。これでマリアの仇を取れる。
バン!
何?奴は腰の荷物入れから小さなジュウを取り出した。
「はあ、はあ、はあ、危なかった。拳銃も召喚しておいて良かったよ・・・」
脇腹を撃たれた。
俺は腰を落とす。
ドタン!
「アハハハハハ、マリアって女は罪が無かったけど、頂いたぜ!」
「貴様ぁ!」
「死ねよ。いや、それとも生かしておいて連れ回すか?両腕と両足を打ち。いや足を撃つと連れ回すのが面倒だ。それでお前の冒険者ギルドに行ってやるぜ。次は御姫様を助けるイベントか?」
その時、遠くからジュウ声が響いた。乾いた破裂音・・・
バン!
シュン!バチン!
奴の右手が吹き飛んだ。
「あれ、熱い・・ウギャアアアアアーーーーー」
奴は寝転びのたうち回る。
何が起きたのか?
数分後、全身マダラ模様の服と・・あれは防弾チョッキか?と鉄兜、飛龍兵が掛けるメガネと、深い緑色の面をつけていて、顔は見られない。手にはジュウを構えている小柄な奴がやってきた。
俺の前で止り。声を発した。
「・・・こいつがユウキか?」
「ええ・・・」
女の声だ。
「あいつのようにうめき声一つあげない。見事だ。感服した」
「いたいー、おい、そこの自衛隊コス女!同士討ちは御法度だぞ!」
「貴女は?」
「私は『対異世界人戦闘術』の作者の娘だ。異界の物を召喚出来る・・・暴虐異世界人の話があり領主から呼ばれた。先に依頼を受けた者がいると聞いて駆けつけたが、全く見事である」
何か眠くなってきたぜ。
「教えてくれ、これが異世界の戦いか?」
「そうだ。森の中から隠れて撃った」
「距離は?」
「300メートルという所だろう」
「ハハハ、そりゃ、かなわないぜ」
「剣に毒を塗った形跡がある。貴殿の獲物だ。賞金は全て貴殿で良い」
「いや、あんたの獲物だ。俺は長くない。好きに・・・してくれ・・・」
名もなき冒険者は息を引き取った。
彼女は彼の目を閉じ。ユウキを警戒しながら黙祷をした。
ユウキは迫無し、爆無し。砲無しの出来損ないだ。何故、こんな奴が異世界から定期的にやってくる?
父は異世界の騎士団の10人長だった。
異世界転移して魔道師の母様に恋をし。この世界の住人として生きる決断をした。
「ウワワワ~~ン、ログアウト!ログアウト!」
バン!
左手も撃った。
後に剣に塗った毒は性病患者の血と分かった。
ユウキはその後、領主に引き渡された。
もう、召喚は出来ない。
広場につながれ見せしめとして7日間晒された後、牢獄に入れられ体が腐り亡くなった。
数ヶ月後、名もなき冒険者出身の孤児院に多額の金が寄付されたが、この時の賞金だったかは定かではない。
名もなき冒険者の防弾チョッキの中味はカスタードとトウモロコシを粒状にした物を水に混ぜた物あった。
非ニュートン流体と言われる物で銃撃を防げる物も存在する。
広く対異世界人との戦闘で有効と広まったが。
だからと言って剣で銃と戦える者は極めて稀である事は間違いない。
と名もなきD級冒険者を讃える者が大多数である。
最後までお読み頂き有難うございました。