午前二時二十二分の訪問者
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やあ、こんばんは。泣いているのかい?
ワタシ?見ての通りさ。名前?ブチでもクロでも、パンチでも、好きなように呼ぶといい。猫というのはそういうものだ。え?ケンタ?なかなか珍しい名前をつけたね。
それで、こんな夜中にそんなに泣いてどうしたんだい?
パパが?
あぁそうか、パパが死んでしまったんだね。
あぁほらそんなに泣いて、目玉が溶けて流れてしまったら大変だ。
溶けない?そうかな?分からないだろう?
……うんうん、そうか。寂しいんだね。
もっと遊びたかったし、たくさんお話ししたかった?そうだろうそうだろう。
それじゃあ、寂しくて眠れない子供のためのおまじないを教えてあげよう。もう少しだけパパのお話を聞けるおまじないだ。
パパに聞きたいことがある?残念ながら、それはできない。ただパパがキミにお話ししてくれるだけさ。
それでもいいならおまじないを教えてあげよう。
うん、そうかい。
カセットテープは持っているかい?三十分位がいい。使えるのは、カセットテープ一つだけだ。新品のカセットテープを用意して。六十分?それだと片面だけになるな。四十六分?ふーむ……。一か月と二週間と少しか……。まぁ、ギリギリそれくらいまでならいいだろう。
外の声が録音できるレコーダーは持っているかな?それは良かった。
おまじないに必要な道具はその二つだけだ。
やることは簡単さ。午前二時二十二分。大体今くらいだね。その時間に、レコーダーにテープをセットして、録音ボタンを押す。一分経ったら録音を終わらせる。そうしたら、パパの声が一分間、テープに吹き込まれているというわけだ。不思議かい?そうだね、そういうおまじないなんだ。
何故二時二十二分かって?それはね、パパを連れてくるのがワタシたち猫だからさ。にゃんにゃんにゃんと、猫の鳴き声がする時間というわけだね。
猫は九つの命を持っているっていう話は聞いたことある?七代祟る?それもまぁ、似たような話かな。そうさ、ワタシたちは命を複数持っている。必ず九つというわけでもないのだけれど。中には百万個持っているような奴もいるし。ワタシ?ワタシはどうだろうね。ふふふ。
まぁとにかく、いくつも命を持っているから、一度死んで天国に行っても、また生まれてくることができるわけだ。そう、ワタシたちは天国の場所を知っているのさ。だからそこからパパを連れてきて、連れて帰ることもできる。
納得できた?
そう、良かったよ。
おまじないにはいくつかルールがある。これも覚えていなければいけないよ。ルールを破ってしまったら、もうパパの声を聞くことができなくなってしまうからね。分かったかい?そう、いい子だ。
まずは、声を録音するのは無音の部屋でなくてはならない。外の音がちょっぴり入るくらいは仕方ないけれど、キミが声を出したりするのはダメだ。パパの声はとても小さいから、別の音が入ると聞こえなくなってしまうからね。小さい声でしゃべったら?ふふ、それでもダメさ。それにパパの声は直接キミの耳には聞こえないから、会話をすることはできないよ。……そうだね、残念だね。
それから、録音するのは一分間だけ。もしもそれ以上続けてしまったら、パパの魂は天国に帰ることができなくなって、永遠にさまよい続けることになってしまうからね。それなら一緒にいられるかもって?キミは怖いことを考えるなぁ。もしも一緒にいても、姿も見えない、声も聞こえないじゃあ、一緒にいないのと変わらないだろう?……そうだね、寂しいね。
そして、録音をするのも、パパの声を聞くのも、キミ一人だけでやるということ。ママ?ママもダメだ。これはキミだけのためのおまじないだから、他の誰かと共有してはいけないよ。やり方を教える?ふーむ……。ダメなことではないけれど、あんまりおすすめはしない。猫と仲良くない人は、おまじないを成功させられないからね。ママは猫が好き?それでも、猫がママを好きとは限らないしなぁ。それに、大人がおまじないを成功させるのはとても難しいんだ。どうしてかって?さぁ、どうしてだろうね。
それから。
それから。
覚えられたかな?え?忘れてしまいそう?頑張って覚えておくんだ。大事なルールだからね。ほんの少し位なら破っても何とかしてあげられるから、頑張って。
さぁ、子供はもうとっくに眠っている時間だ。そろそろ目を閉じて。
大丈夫さ、明日になったらきっと少しだけ、心が軽くなっている。何しろパパの声を聞くおまじないを君は知っているんだからね。
うん?分かったよ。キミが眠るまでそばにいてあげよう。
そうだ。目を閉じて。
キミ、案外力が強いなぁ。潰されてしまいそうだよ。
フフフ、冗談だ。
……目覚めたら、僕のことは忘れるんだよ。
ゆっくりおやすみ。