第五話 王
騎士団長に蹴り飛ばされた。
それだけならまだ良かったが、俺の身体は吸い込まれるようにに崖から落ちてしまった。
まずい、このままだと、本当に死ぬ! 何か、何かないか?
俺の左腕の痛みを忘れるほど思考した。
その末に、たどり着いた答えは一つ。
クソッ! しょうがない、一か八か!
「風よ蹴散らせ! 【風の衝撃】ゥ!」
地面に衝突する直前、自分の真下に向かって魔法を放つ。
すると、俺の身体が少しだけ浮いた。
そして、そのまま、落下。
「ぐぇ!」
背中を岩に向かって少し打ったが、そこまで致命傷にはなっていない。
ほっとするも、すぐに左腕の痛みが襲ってきた。
俺は歯を食いしばってなんとか我慢する。
そして懐から緑色の液体の入った瓶を取り出す。
それを飲み干すと、みるみる腕の傷が塞がっていった。
「はぁ、はぁ、たす、かった」
もし、紬と離れることになったら回復できないから
って一応持ってきておいて良かった。
「それにしても、ここはどこだ?」
真っ暗で何も見えない。
しかしここはあの遺跡の地下奥深くだということはわかった。
目が慣れてくるとよく分かってきた。
辺りはゴツゴツとした岩や壁、地上は見えない。
よじ登って行くのは無理なようだ。
と考えていたら何かが足に引っかかる。
それは棒状のナニカだった。
持ち上げ、目を凝らしてよく見る。
「うわ!!」
俺は驚きのあまりその棒を投げてしまった。
俺が棒だと思っていたのは人の骨だった。
骨? 人の? ってことは・・・・・・
嫌な予感っていうものは意外と当たるものだ。
俺は後ろから気配を感じたので振り返る。
「グルゥゥゥゥ・・・・・・」
俺の背後には象ぐらい大きな狼が立っていた。
その狼は鼻息を荒くしてこちらを向いている。
「う、うぁぁぁぁぁぁぁあああぁああ!」
俺は思わず逃げ出す。
すると狼もすかさずこちらを追ってくる。
「ハァ、ハァ、なんで、なんでこんなことに・・・・・・」
俺はいつも通り、いつも通り生活していた、はずだったなのに・・・・・・
ふざけるな、ふざけるな、
「こんなところで、死んで、たまるか」
そんな決意とは裏腹に躓いて転倒してしまう。
「くそ、転ん、」
俺は目を見開く。
目の前にあの狼がいた。
冷や汗をかくのを感じた。
俺は必死に立ち上がる。
その際、左腕がないせいでバランスを崩したがなんとか立ち上がった。
再び走り出そうとした瞬間、背中に強い衝撃が走り、石壁強く体を打ち付ける。
「な、なにが・・・・・・」
すると眼前にはあの狼が涎を垂らしこちらを凝視している。
「死んで、たまるか、」
俺は<物質変換を発動させようとした。
が、しかしなにも起きなかった。
「な、なんでこういう時に限って失敗・・・・・・」
段々と意識が遠のく、もうダメだと思った刹那、
一閃、光の筋のようなものが走った。
眼前に立っている人物は黒いローブを纏っていた。
視界がぼやけているせいで輪郭がはっきりしていない。
「あ、あんた、だ・・・・・・」
そこで、俺の意識は途切れた。
次に起きた時、俺のそばには光ランプが置いてあった。
「起きたか・・・・・・」
ふと、聞こえた声の主を見る。
色白で細身の男が座っていた。
「貴方が助けてくれたんですか? あ、ありがとうございました」
「いや、そんな大したことではない」
「そうですか・・・・・・」
なんだろう、不思議な雰囲気が彼に漂っている。
そのせいであまり話しづらいというか、なんというか。
「それにしても・・・・・・どうしてこんな所へ? 薄暗いですし、助けてもらった所悪いんですけどなんとなく貴方には合わないような」
「そのことか、なぜだろう私にもわからないんだ。此処に導かれた、行かなければならない気がした・・・・・・それだけのことだ」
導かれたというのは一体どのようなことなのか今の俺にはわからなかった。
不思議なことばかりで俺は首を傾げる。
気づくと彼は俺の左腕を凝視する。
「その腕はどうしたんですか? 先程からの所作を見る所、あまり慣れていないように見えるのですが。あの魔物にも血痕はついていなかったようですし、」
腕のことか、どう説明したほうがいいのか。
あまり異世界人ということは言わない方がいいだろう。
「えっとですねぇ、」
「すみません」
と俺の声を遮るように言った。
「誰にでも話したくないことはありますよね、触れてしまい申し訳ありません」
「あぁ、いや、別に謝らなくても、」
なんだろう、この人あまり人付き合いが良くないのかな・・・・・・
いや、せっかく助けてもらったのにそんなこと思うなんて失礼だな
急に彼の顔が険しくなった。
俺が変なこと思ったのわかったのかな?
「貴方、武器はありますか?」
「は、はい、ありますけど・・・・・・」
と言って俺は腰に挿してある剣を見せる。
「そうですか、良かった。少し離れてくれませんか? そうですねぇ背後を見てくれると助かるのですが」
「は、はい。それにしても、どうしたんですか?」
「この付近に魔物が潜んでいるようで」
「ま、魔物!?」
俺はふと先ほどの狼を思い出す。
恐ろしく大きな体。
最強の矛のような硬質で鋭利な爪。
その姿を思い出すだけで俺は震えが止まらなかった。
「怖いんですか?」
「いや、そんなことは・・・・・・」
「隠すことはありません。此処の魔物は他に比べあまりに強大です。生き残って逃げ切れていた貴方はすごいと思います。」
「そんなこと、それに、貴方の助けがなければ俺は・・・・・・」
「あまり自分を卑下しないでください。貴方は十分立派で、強いですよ」
そんなことはない。
俺はクラスメイトの中でも特に弱い方だ。
どれだけ頑張っても、どれだけ歯を食いしばってもなにもならなかった、なにもできなかった。
そんな俺が強い? そんなわけないじゃないか。
「来ますよ!」
「えっ? っ!?」
目の前にいきなり小さなカエルが一匹、いや数十匹ほど現れた。
「危ない!」
彼はそう言った俺は何が何だかわからなかった。
彼が俺の目の前で紅い剣を一振りすると、カエルの舌のようなものがぼとりと落ちた。
「うへぇ!? あ、ありがとうございます」
「そんなことを言っている暇はなさそうですよ」
後ろを見てくださいと彼が言った。
その言葉の通りに振り返る。
「へ?」
俺の眼前には目を疑うような光景が広がっていた。
先程のカエルが無数に広がっていた。
「うそ、だろ」
「あのトードは私が片付けます。貴方は私に構わず命最優先で!」
と言って瞬きの間にカエル群れに突っ込んだ。
すると、向こうのほうでカエルが蹴散らされているのが見える。
「命を守るって言ったって・・・・・・」
カエルが一匹飛びかかってくる。
「う、うわぁぁぁぁぁ!! 風よ蹴散らせえ、【風の衝撃】!!」
カエルが吹き飛ぶ、しかしそれだけだ。
地面に転がったと思ったらカエルとは思えない速度で体制を直した
「マジかよ・・・・・・」
絶望した。
当たり前だ、己とは計り知れないほどの力の差がある魔物が夥しい量いるのだから。
そんなカエルが一斉に飛びかかってくる。
「クソォ!! 風よ蹴散らせ【風の衝撃】! 【風の衝撃】! 【風の衝撃】!!」
次々とカエルが吹き飛ぶ。
しかし、カエルの量が減る気はしない。
一心不乱に剣を振った。
だが、躱され、その身体に刃が当たっても、致命傷にはならず弾き返される。
「ぐぁぁ!!」
唐突に右足に痛みが走る。
ふと右足を見ると桃色の太い紐のようなものが突き刺さっている。
間違いなくカエルの舌だった。
痛みを気にし、
狼狽えている好きにカエルが俺の身体を包み込む。
俺は半ば諦めていた。
そもそもこんな常軌を逸した化け物に人間が勝てるわけないのだ。
目を閉じる。
昔の記憶が次々と蘇った。
これが走馬灯というものだと不思議と理解できた。
カエルの唾液は麻痺毒だったらしく、身体の感覚が鈍っていった。
あぁ、もう死ぬんだいつまで経っても、何もできない、何もできなかった、そんな人生だったなぁ
身体にのしかかっていた重みが消える。
不思議に思い目を開くとそこには紅い針のようなものに突き刺さったカエルがいた。
「はぁ、はぁ、大丈夫・・・・・・ですか?」
彼が近づいてくる。
彼の手首からはかなりの血が流れている。
しかし、その傷は瞬きの間に治癒した。
回復魔法ではそんなことは無理だ。
紬でさえ自分の傷を治すのには苦労するのだ。
ふと針を見る。
その紅の針は血の色にも見える。
凄まじい速度での回復・・・・・・
その様はとても俺には人にできることには見えなかった。
この世界に来てから、様々な魔物の話をされた事がある。
スケルトン等のアンデットの話もされた。
そして、アンデットの頂点に立ち、恐ろしい生命力と戦闘技術、魔力を持つとされる・・・・・・
「ヴァ、吸血鬼・・・・・・」
「わかってしまいましたか・・・・・・」
そうか、ならあの超人的な身体能力にも合点がいく。
「怖がらないんですね、人族は私の正体を知ると取り乱し、すぐさま逃げるか攻撃に転ずるものなのですが」
「あ、当たり前じゃないですかどうして命の恩人を怖がるなんて事ができるんですか」
俺は首と両手を横に振って否定を表す。
彼はゆっくりと近づいてきた。
「そうですか、やはり貴方は他の人とは違うようですね、でしたらやはり貴方に・・・・・・」
と、ぶつぶつと呟きながら考えているようだった。
「もし、ひとつだけ、貴方1人の力でこの洞窟を抜けられる方法があるとしたら、例えどんな犠牲を払ってでも貴方はこの洞窟を抜ける選択をするんですか?」
この洞窟を!? 教えて欲しい、俺はさっさとこんな場所からおさらばしなければならない。
今度こそクラスメイトを、紬を支えてあげないと。
「はい。それが例えどんな犠牲を払おうとも・・・・・・必ず俺はこの場所から抜け出してみせます!」
「そうですか、ではそれが私の力を・・・・・・吸血鬼に貴方を変えることでも? 陽の光を浴びれず、人から人として認識されない。そのようなことになっても?」
「はい。」
当たり前じゃないか。
俺はこの世界に無駄死にした訳じゃない。
それに、何かしないと後味悪いしな。
「そうですか、ならばこちらに来てください。」
俺は前へ歩みを進める。
「私は吸血鬼の王、インテグレト・エランド・マスター、貴方の名は?」
「俺は勇人、天羽勇人だ。」
「そうですか、勇人・・・・・・、それでは今から貴方にこの力を授けます」
と言って俺の首筋を噛む。
皮が歯に破られた痛みと何かが流れてくるのを感じる。
数分経った後、彼はそっと離れた。
すると段々と意識が遠くなっていく。
「吸血鬼としての身体を構成するためです。安心してください」
そうして薄れる意識の中、何かが聞こえた気がした。
「この先、様々な苦難、葛藤が貴方を待ち受けるでしょう。しかし、貴方の心の赴くままに進んでください。必ず道は開ける筈です。」
読んでくださりありがとございます。
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