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よし
まずは状況を整理しよう
私が転生したこの人物
グレイシア・エリーゼは、私が以前読んでいた小説に出てくる悪役令嬢だ
彼女の性格は、傲慢かつ狡猾で意地の悪い性格をした悪役令嬢の中の悪役令嬢だ。
彼女の犯してきた罪は数しれずで、自分のこととあらば家族でさえ手にかけるような極悪非道な人間だ。
人を簡単に殺すし、いろいろな方法で人を貶めたりしていた。
そんな人間に転生したいのはおそらく殺人鬼くらいだろう。
ともかく私は破滅を防ぐためにこれ以上罪を増やしてはいけない
そんな事を考えているとコンコンと、ドアをノックする音が聞こえた。
「エリーゼお嬢様、朝食のお時間です。お迎えに参りました。」
メイドが部屋に入ってきた。
年齢は見るからにまだ若く、おそらく新入りのメイドだろう。
金髪で綺麗な青い目をしている
見るからに緊張しており、その声には若干の震えが見られた
「あなたは新入りですか?」
私は彼女にそう尋ねる
「は、はい。本日よりクリスお嬢様のお世話係になりました。」
やはり、声が震えている。
私には転生以前のグレイシア・エリーゼの記憶がないから私がどんなことをしてきたかはわからない
だが彼女の反応を見るに、私がどんなことをしてきたか予想はつく。
きっと私のお世話係になった人はひどい扱いを受けていたのだろう。
「そうですか。あまり緊張しなでください。それで貴方のお名前は?」
私はできるだけ優しい口調で、少し笑みを浮かべながらそう言った。
「ミリーナです」
震えが少し増した気がする
なぜだ?
できるだけ親しみを込めたつもりなのだけど
やっぱりのこの悪役顔が怖いのかな?
まあ、全人類が思い描く悪役令嬢の要素詰め込んだのが私だから仕方がないのかもしれないけれど
「ではミリーナ。喉が渇きました。お茶を入れてください」
私がそう言うと彼女の顔がより悪くなった気がする
どうしてだ?
私はただお茶を入れてといっただけなのに
「しょ、承知しました。今すぐにお持ちします。」
ミリーナは慌てて部屋を出ていった
しばらくするとコンコン、とノックがなった
「クリスお嬢様、お茶を持って参りました。」
「ありがとうございます。では、入れてください。」
「は、はい。」
彼女はガクガクと震えている。
まるでこれから自分が殺されると思ってるみたいだ
それくらい彼女の目には恐怖が宿っている
そういえばグレイシア・エリーゼは美味しいくて甘いものが大好きだった気がする
たしか、使用人が美味しくないお茶を入れていたら、すぐに解雇していた気がする
それで、こんなに震えていているのか
「あの、私がお茶を入れましょうか?」
私がそう言うと彼女は青ざめた顔をした
(あれ?逆効果だったか。私が彼女に対して失望したと思ってるのかな?今後は言葉に気をつけないと勘違いされてしまう)
「い、いえ。大丈夫です。私が注がせていただきます。」
そう言って彼女は、ティーポットを手にする
その手は今まで以上に震えていて、絶対失敗してはいけないと心に強く誓っているようだった
そしてお茶を入れようとしたときだった
ミリーナは手に力が入りすぎたのか、お茶をこぼしてしまった。
そしてそのお茶は、あろう事か私にかかっていた
「も、申し訳ありません。どうか命だけはお許しを、、」
絶望の淵に落ちたかのような枯れた声だった
彼女は私に土下座をし、私に命乞いをしている
何度も、何度も私に向かってミリーナは謝る
申し訳ありません、申し訳ありません、と
声は何度も裏返えり、これから自分が処刑されると思ってるみたいだ
(はぁー、私怖がられすぎでしょ。さすがに)
「謝らないでください。私は全く怒ってませんよ」
私は親しみを込めて言う
それでも彼女の恐怖は収まらない
よし、一回確かめてみるか
「なぜ、私にそこまで怯えるのですか?私は怒っていないと言っているでしょう?」
ミリーナは沈黙する
やっぱ答えれないか
私の性格が悪くて全く良い噂を聞かないから、と答えるのは難しいよね
「ごめんなさい。貴方がその問いに答えるのは少々酷ですよね。申し訳ありません。」
「謝らないでください、私が全部悪いので。」
彼女が慌ててそう言う。
私から謝られるとは思ってなくとても驚いている様子だ
やはり私と打ち解けてはくれないか
よし、いいことを考えた。
ここは一つ芝居を打とう
「その、私はこれまでどんなことをしてきたか、あなた達使用人にどんな仕打ちをしたのか全く記憶がないのです。しかし、貴方の反応を見る限り私がやってきたことはとても褒められるようなことではないようですね。」
彼女の表情は先ほどとは打って変わって驚きに満ちている
いきなり記憶喪失です、なんて言ったら驚かれるよね
「そ、それは、大事件です。早く旦那様にお知らせしなければ。」
以外と騙せた。
よし、これならいける
「ええ、その前に着替えを用意していただけますか?」
「は、はい。直ちに用意します。」
彼女は、突然思い出したように顔を青ざめて慌てて部屋を出ていった。
ミリーナが部屋に戻ってきた。
彼女から少しだけ恐怖が拭えたような気がした
今なら少しはお話ししてくれるよね?
「あの、良ければ私がこれまでどんなことをしてきたか教えてくれますか?」
彼女は少しは戸惑っていたが、少しだけ話してくれた。
彼女に聞いたところによると
私が想像したようなこととほぼ一致していた
無礼を働いたメイドは即解雇、ひどいときには痛めつけたりしていたようだ。
恐ろしいな
私まだ12歳だよ?
「そうですか、その話を聞く限り私は大罪人ですね」
「ど、どうか気を悪くなさらないでください。今のお嬢様からは不思議と嫌な感じがしません。」
少しは打ち解けてくれたかな
「そうですか。嫌な話をしてくれてありがとうございます。貴方が私のお世話係で良かったです。これからも仲良くしてくださいね」
私は彼女に向かって微笑んでみせた。
そうすると彼女から、ぐすぐすという声が聞こえた
ええと、泣かせるようなこと言っちゃったかな?
「ええと、どうか泣かないでください。」
私はなだめるように言う
「えっと、私酷いことされるんじゃって思って、その誰かに必要とされたことなんてなかったので、お嬢様にそう言ってもらえて、とても嬉しくて、」
初めて、本音を言ってくれた気がする
私は彼女を抱きしめる。
怖い思いをさせてごめんなさい、と彼女に伝える
私も少し迂闊だった。
ここまで怖がられているとは思わなかった。
今後はもっと気をつけないと
そうして私は今後の破滅ルートを阻止するために計画を立てるのであった。




