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女子高生、孤独になる。

 私の人生を常か異常かのどちらかに分類するとすれば、限りなく常の方であることはまず間違いないだろう。サラリーマンである父と看護師である母の元に一人娘として生まれた私は、人並みの愛情を受け、人並みの家庭環境で育ち、人並みの人生を送ってきた。高校二年生になり、おそらくこの先も人並みの人生を歩み続け、最期は人並みにこの世から去っていくのだろうなどと考え始めた矢先、私の平凡を揺るがす、人生初めての事件が起こった。

「離婚届よ」

 父が夕食を終え、席を立とうとしたその時、母によってテーブルに叩きつけられた一枚の用紙を見て、私の口に到達する寸前だったリンゴの刺さったフォークは、開いたままの口の数センチ手前で停止することになった。父はというと、私と同じく口を開けたまま固まっている。だが父の口の前には当然リンゴは無く、その手にフォークが握られている訳でもない。突然の出来事に対する反応は、父の遺伝子をしっかりと受けついでしまったようだ。だが、まさかこんなしょうもないタイミングでそれを自覚することになろうとは。さきほどまで和やかだった空間に、打って変わったように流れる沈黙。私は父から放たれる第一声を、口を開けたまま待っていた。

「ごめん」

 その申し訳なさそうな謝罪は、父側に離婚に至る心当たりがあることのなによりの肯定だった。その後、父と母の離婚話が着々と進んでいくのを、私は親子三人がそろった空間で食べるのは最後となるであろうリンゴをほおばりながら、ただ聞いていた。途中で母と父が私に何か問いかけてきたが、何を問われ、私が何を答えたのかはよく覚えていない。おそらく、父と母、どちらについてくるのかとか、そんなものだったと思う。その晩、私が枕を濡らしたのは言うまでもない。私は人前では泣かない子供だった。幼いころ、迷子になって二時間一人でさまよったときも、初めての徒競走で盛大に転んで膝を擦りむいたときも、大好きだったクマのぬいぐるみが近所の犬に嚙みつかれてボロボロになってしまったときも、人前では決して泣かなかった。自分の弱さを人に見せるのが嫌だった。だから泣くのは決まって夜、ベッドに入って一人きりになってからだった。今思えば、その負けん気だけが、私の人生において唯一人並み以上であった点と言えるかもしれない。父と母の離婚が決定したその夜の、私の枕の濡れ具合は、それまでで最も酷いものだった。

 その日から、私が歩み続けた常な人生は瞬く間に崩れていった。父は離婚するなり母や私のことはまるで忘れたかのように、浮気相手の元にとっとと転がり込み同棲をはじめ、母はというと、心労がたたったのか、体調を崩し、入院を余儀なくされ、半年ほど経って私が高校三年生に上がると同時に眠るように病院で息を引き取った。父方、母方、どちらの祖父母も私が幼いころに亡くなっていたため、頼れる肉親はおらず、私は十八歳にして天涯孤独の身となったのであった。厳密に言うと、父が一緒に暮らさないかと提案してきたが、その申し出は丁寧にお断りし、二度と私に近づかないという約束を取り付けた。離婚が決まった際、母は父に対し、養育費や慰謝料などは一切請求しなかった。母なりのプライドだったのだと思う。ここで私が父と共に暮らす道を歩むというのは、そんな母のプライドを踏みにじる行為であると思ったし、私の負けん気もその提案を拒んだ。もしかしたら、私の負けん気は母から受け継いだものなのかもしれない。

 母の死からしばらくして、母が生前、自身に生命保険をかけていたことを知った。自分の身に何かあった場合でも私が困らぬように取り計らってくれていたのである。そんなわけで、私の手元には、一人で住むには広すぎる一軒家と、母の残してくれた保険金だけが残ったのであった。

ちょいちょい更新します。

遅くなったらごめんなさいm(_ _)m

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