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22.魔女は決意する






「…………っ!?」



 予想外のスティーナの行動に、イグナートの動きがピシリと止まる。



「ブラックドラゴンの時も、さっきも、助けてくれてありがとう。イグナートは頼りになる、私の大切な仲間だよ」

「…………っ!」



 スティーナの言葉と貴重過ぎる満面の笑顔に、イグナートの処理能力が限界を突破した。



「プッ……。待って待って、スティーナちゃん。イグナートの頭から煙が吹き出てるから。君の抱擁と笑顔に瞬殺されちゃったから」

「え、えっ?」

「いつもは冷静沈着なのに、スティーナちゃんの事となるとてんで駄目になるよねぇ。まぁだから応援したくなっちゃうんだけど〜」


 笑いを堪えつつ、バルトロマは茹でダコ色で固まっているイグナートの両肩をガクガクと揺さぶる。


「おーい、折角の機会なのにしっかりしなよー」

「…………っ!」


 イグナートはハッと我に返ると真面目な顔つきに変わり、スティーナの身体を抱きしめ返した。



「……お前が生きてて、本当に良かった……。お前を忘れて幸せになるなんて、そんなの絶対無理に決まってるじゃねぇかよ……」



 喉から絞り出すような声音で言葉を発し、イグナートはスティーナの肩に自分の額を押し付ける。


「……ごめんね……」

「…………」

「……? イグナート?」


 一向にスティーナを腕の中に閉じ込め離そうとしないイグナートに、彼女は小さく首を傾ける。


「……あー、ゴメンねスティーナちゃん。彼、漸く誤解が解けて嬉しさの余り長い感慨に耽ってるんと思うんだ。ちょっと待ってね? ――ほらイグナート、いい加減スティーナちゃんを離しなよ。彼女困ってるじゃないか」


 ベリッと強引に二人を引き離したバルトロマを、イグナートが切れ長の瞳でギロリと睨む。

 バルトロマはその視線を受け流し、やれやれと肩を竦めた。



「イチャイチャは二人きりの時にやってくれよ。話が進まないからね」

「イ……っ!? お、俺は――!」

「――じゃあ次は、スティーナちゃんのお話を聞きたいな。勇者様がファスの町で亡くなった時、何があったのか。あと、君と魔族との関係……をね」

「…………」



 スティーナは暫く俯いていたが、頭を上げた時の彼女の瞳は、覚悟を決めたように強い意志を宿していた。



「……分かりました、お話します。そして、サダの村で魔族……ブラエが言った事も」



 三人はソファに座り直すと、スティーナが小さく息を吐き、決意したように口を開いて話し始める。

 二人は彼女が話し終わるまで、黙ってその声に耳を傾けていた。



「……スティーナ」



 口を閉じ下を向いたスティーナに、イグナートが呼び掛ける。

 ラルスが死亡した時の事を話すとなると、芋蔓式に自分が彼を殺す為に近付いた事も伝えなくてはいけない。

 イグナートの怒りや失望の表情を見たくなくて、それに答えずに俯き続けていると、ふわ、と温かい腕がスティーナを包み込んだ。



「辛い思いをしてきたんだな……。何もしてあげられなくて悪かった。……今度は我慢せず俺に甘えてくれ。俺は……何があろうとお前の味方だ」

「…………っ」



 イグナートもラルスも、どうしてこんなに優しいんだろう。

 こんな二人に出会えて、私はなんて幸せ者だろう――



「あり……がとう……」

「……ん」


 優しい掌が自分の後頭部を撫でるのを感じながら、スティーナは涙を堪える為、イグナートの胸に顔を押し付けた。


「スティーナちゃん、辛い過去を話してくれてありがとう。ハッキリ分かったのが、魔王の側近のブラエ・ノービスが諸悪の根源だって事だね」

「はい……。魔王様も、今思えばブラエに洗脳されているようでした。何も喋らず、ずっと上の空のような感じで……」


 バルトロマの言葉に、スティーナは頭を上げ頷く。


「魔王の方針がブラエと違ったから洗脳したのか……? サダの村での話だと、まだ“魔剣”は出現していないみたいだし、一先ず魔王は後回しにしても良さそうだ。優先順位としては、勇者様救出と、神殿内にいる魔族の間諜を見つけ出さなきゃね。これ以上こちらの情報が漏れたらかなりの痛手だよ」

「サダの村人達はどうした? 無事に保護されたのか?」


 イグナートがスティーナを胸の中に閉じ込めたまま、バルトロマに質問を投げる。


「あぁ、近くの町に助けを求めたみたいで、村人全員無事さ。けど、勇者様が魔族に襲われたって騒いじゃってねぇ。村に様子を見に行った町の衛兵達が、誰もいなかったものだから、勇者様が魔族に連れ去られた! ってなっちゃって。わざわざ『移動ロール』を使って皇城に口伝しに来たんだよ。一応サダの村人達と町人達には箝口令を敷いたけど、噂が広まるのは時間の問題だね」

「勇者が魔族側になったって知れたら、帝国全体の士気が大幅に下がるからな。魔族の侵攻を防ぐのが困難になっちまう。神殿と皇城内も混乱してるだろうし、何とかして早くラルスを助け出さないと……」


 二人の話を聞いていたスティーナが、おずおずと口を挟んだ。


「あの……」

「ん、どうしたスティーナちゃん?」



「……私、魔界に行きます。そして、ラルスを助け出します。私の命に代えても――」






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