表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
全裸の魔女と世界を救う話  作者: 火海坂猫
第二部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

96/175

十三話 静かなる統治

 話し合いで偵察先に決まったのは女神の国を構成する都市群の中央付近にある都市だ。その都市はエリカのいる最奥の都市からはそれなりに離れており、それでいて新参ではなくそれなりに古参の都市で…………何よりも元は環奈が守っていたという勝手知ったる都市であるというのが決め手だった。


 僕は東都以外の都市を見たことはなかったけれど、画一的な作りなのかぱっと見た感じでは違いはそれほどないように見える。二つある防壁を超えて最後に都市を守る隔壁をすり抜ければあっという間に都市内に侵入できる。本来であれば防壁も隔壁も簡単に突破できるものではないのだけれど、見えざる魔女の力があればたやすいことなのだ。


「ここがわたくしの守っていた風都ですわ」


 自分が守り抜いてこの都市が存続している自負なのか、どこか誇らしげに環奈が口にする…………とはいえその光景はやはり東都とあまり変わらない。計算された都市計画のもとに整然と立ち並ぶ建造物の光景は東都でも見られたものだ。閉鎖された都市では資源の縛りがあり、それによって技術の進歩も停滞する。どこかが突出して発展するようなことはやはりないのだろう。


「見た目は普通なの、見た目は」


 立ち並ぶビルに通りを歩く人々や道路を走る車。その光景を見て呟く結のその表情は嫌悪感とでもいうべきものに彩られていた…………僕には平穏無事に見えるその光景にもう彼女は違和感を見出してしまったらしい。


「切歌、わたくしたちはきちんと潜ませているの?」

「うん、もちろん、だよ」


 切歌に確認し、念のためにというように結は環奈を見る。


「ここには本当に他の魔女はいないの?」

「確実、とは言えないですわ。けれど基本的に私たちは自分が守っていた都市にいることが多かったですから…………魔女同士の交流はもちろんありましたけど、私の都市に来る魔女はあまりいませんでしたから」

「やっぱりお前ぼっちだったの」

「…………友人も少しはいましたわ」

「そいつは今お前の敵になっているの」

「…………あなた、本当に嫌な女ですわね」


 反論する気力もないとうんざりした様子で環奈が溜息を吐く。


「えっと、それなら環奈の友達を説得するってのは駄目なの?」


 それを見てふと思いついて僕は口にする。


「陽、ぼっちの強がりを真に受けた提案をするのはより残酷なの」

「あなた、本気でぶっ殺しますわよ?」

「まあ、仮にそれが本当だとしてもなの…………わたくしたちがそんなことも思いつかないほど愚昧ぐまいだと考えるのはかなりの愚弄ぐろうなのよ?」


 検討したうえで却下済みなのだと遠回しに結が告げる。


「陽、環奈はかなり幸運なケースなの。まず仲間に見捨てられて先に裏切られたという大義名分があって、何より陽とじっくり対話ができる余裕があったの」


 そもそも環奈が僕らに捕まったのはあの腕から不意打ちで掴まれた時にもう一人の仲間から見捨てられてしまったからだ。もちろんそれはその仲間が裏切っただけであって女神の国が彼女を裏切ったわけではないだろう。しかしそれまでの信仰心に冷水を被せる効果はあっただろうし、その相手を含んだ組織を裏切ることへの罪悪感を薄れさせたのは間違いない。


「宗教に嵌った人間を説得するには基本隔離が必要なの。教祖の言葉が絶対な時点で親友の言葉は二の次になってしまうし、客観的な事実を伝えても非合理的なもの信じる集団の中ではすぐに修正されてしまうの」


 どれだけ個人が間違っていると伝えたところで、それよりも数の多い集団が間違っていないと言い含めてしまえば後者に流されてしまうのが人間だ。集団心理から解き放つには結局はその集団から隔離するしかない…………それを考えると僕の提案は確かに浅はかだった。


「一人ずつ攫って説得する手もあるけど流石に敵地では厳しいの…………手っ取り早いのは信仰の対象である教祖をぶちのめして心の空白ができたところを説得する方法なの」


 滅茶苦茶強引な方法に聞こえるけど、斬首戦術が有効なのは古来より明らかでもあった。


「それよりもこんなところでだべっている時間はないの…………もっと街中に出てみれば陽にもこの光景のおかしさが理解できるはずなのよ」


 それがろくでもないこと予感できながらも、僕には拒否する選択肢もなかった。


                ◇


 移動してもその光景そのものは変わらないように僕には見えた。駅前の通りは東都でもそうであったように人通りに溢れてその賑わいを見せている…………それなのにそのおかしさははっきりと理解できてしまったのだ。遠目ではなくその場に来たからこそそれははっきりとわかってしまうことだった。


「見た目は自然なのに静かすぎますねニーサマ、とても気持ち悪いです」


 我慢できないというように夏妃がその光景を見て顔しかめる…………そう静かすぎるのだ。もちろん全くの無音ではなく人が移動しているのだからそれで生じる音はあるし、機械音や店の流しているBGMは聞こえる…………ただ、そこに人の声だけが存在しない。もちろんそれが平時であっても誰もかれもが喋っているわけではないが、友人との会話や電話相手との会話に店員と客のやり取りなど雑踏で聞こえるはずの人の声が一切しない。


「あー、うん、これはお姉さんにも許容しようがないなあ」

 

 困ったように、失望を隠せぬ表情を美優も浮かべる。先ほどの方針決定の時もそうだったけど、美優は年長者としての意識からか他の皆があえて提案しないことを自分がするように心がけているようだった。だからきっと美優は女神の国との和解という視点を自分だけは残しておこうと考えていたのかもしれない…………ただ、この光景はそれを否定した。


「これ以上ないくらいわかりやすく洗脳されているの。これを見て自然と信じるなんて節穴どころのレベルじゃないの」

「…………私がこの都市で過ごしている時はこんな風ではありませんでしたわ」


 誰が、とは結は口にしなかったが対象になるのは一人しかいない。バツが悪そうに彼女はそう言い訳した。


「きひひ、だとすればこれは省エネの結果ってことだろうな。女神の国に所属している魔女がいる時だけ普通に見えるように行動する条件付けがしてあるんじゃねえか?」


 それであれば環奈が気づかなかった理由にもなる。魔女がいる時だけは違和感を覚えられぬように振舞うが、そうでない時は無駄な行動をしない…………それでもこうして人々が行きかっているのは不意の魔女の来訪に対応できるようにと、同時に都市のインフラを維持できるようにだろう。


 洗脳した人々を生かすためには食料も電気も必要だし整備しなければ設備だって劣化していく、その維持のためには仕事をさせる必要があるからだ。


「確認、する?」


 おずおずと切歌が提案する。その条件付けが確かなら環奈を潜ませている切歌の力を解除すれば人々の行動はそれに対応したものへと変化するはずだ。


「私としてはあまり気が進みませんわね…………危険もありますし」

「確かに、その切り替えが自動でなかったらあちらに侵入を教えることになるの」

「可能性としては低いと私は思うがな」


 人々が魔女に気づいて自動で行動を変化させるのか、魔女に気づいたことを術者の魔女が気づいて行動を変化させるのかは大きな違いだ。前者と後者では行動の変化までの時間に差があるだろうし、女神の国の抱える魔女の人数を考えれば後者では管理するのに気を配る必要がある…………だから晴香は可能性を低いとみているのだろう。


「でもゼロではないの」


 いつものような晴香への反発ではなく、そのリスクの大きさを結は指摘しているようだった。


「確認したい」


 それでも、僕はそう発言していた…………ここで女神の国の在り方をはっきりと確認しておきたかったのだ。


 そうすれば、僕の彼女らに対する立ち位置もはっきりと決まると思えたから。


 お読み頂きありがとうございます。

 励みになりますのでご評価、ブックマーク、感想等を頂けるとありがたいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ