十二話 女神の国への到着
「これはまた壮観な景色なの。あの女が統治していると知らなければ賞賛しても良いくらいなのよ」
遠巻きから女神の国を見やってわたくしは思わずそう呟く。平坦な荒野からではその全貌はつかめないからわたくしがいるのは地上からは遥か上空…………思わずそのことを忘れそうになるくらいには何か懐かしいものを覚えたの。
ぶっちゃけて言えばそれは都市の寄せ集め。環奈が説明していた通りに奪ってきた都市を接続しただけの光景でしかないの…………ただ、かつて地平を人々が埋めていた頃の光景を何となく想起させたの。
かつてのそれとは似ても似つかないはずなのに不思議な感覚なのよ。
「お前の感想なんてどうでもいい。具体的に都市の数を言え、数を」
「相変わらず情緒のねえ女なの」
気分を害したようにわたくしは晴香に吐き捨てながらも、時間が限られていることは意識する。滞空時間を「伸ばして」いるとはいえいくらでも浮いていられるわけではないの。晴香に見つからないよう「潜ませた」とはいえそれが絶対である保証もないのよ。さっさと目的を果たして降りるというのは正論ではあるの、ムカつくけど。
「…………数は二十ってところなのよ」
都市一つでも結構な広さがあるのだからそれが二十も集まれば視界を埋め尽くさんばかりの光景になっているの。とはいえ各都市は接続部が作られているだけで独立しているから数えるのは簡単だったのよ。
「想定よりは少ねえな」
「ですわね。私が国を出る前は十四だったはずですから、増えてはいますけど在来の魔女全てを傘下に収めたとしては少なすぎますの…………もっともまだ奪った都市を配置していないだけど言う可能性もありますから、単純に増えた数が魔女の数とはなりませんわ」
力の差を悟って先んじて自ら帰順したというケースもあるはずなの。その場合も都市の移動を後回しにしている可能性もあるだろうし、やはり見た目よりも多いと覚悟していたほうが良さそうなのよ。
「でも流石にこれなら残っている人も多いんじゃないかしら? お姉さんとしてはまずそちらに声をかけてみてもいいと思うのだけど」
美優の意見はもっともではあるの。女神の国に増えた都市が六つであるならそれで増えた魔女は多く見積もっても十名前後。だとすればそれと同じくらいの数の魔女はまだ女神の国に従属せずに残っている可能性があるのよ…………ただ。
「残った魔女は恐らく身を隠しているの。それを見つけようとする間にわたくし達の存在を女神の国に気づかれる可能性があるし、その前に見つけられたとしても好意的な反応があるとは限らないのよ」
なにせ隠れているところを見つけ出すのだ、まずこちらを敵と疑ってかかるだろうからそれを話し合いで宥められるかということになるの。この場合魔女にとって本来ジョーカーになるであろう陽の存在も女神の国のせいでマイナスになるのよ。環奈のケースと違ってあの国で使われているであろう偽物たちと本物との違いを理解してくれる時間は恐らくないの。
「それよりもまず今のうちに都市の状況を見ておきたいとあなたは思うのね」
「そういうことなのよ」
流石にここからでは都市の内部の状況まではわからない。都市を覆うドームのガラス越しに幾人もの人が行きかっているのは見えるけれど、やはり内部に入ってみないとわからないことは多いとわたくしは思うの。
「ならその辺りの方針を決めるからお前も降りて来い…………ああいや、ひとつ確認してほしいことがあるそうだ」
「それはたぶん聞かなくてももう答えは確認してあるの」
「ああ?」
晴香から続きを聞くまでもなくわたくしはそれを誰が頼んだのか、何を確認してほしいかわかっているの……………わたくしも、一番にそれを確認したのだから。
「あの中に東都はないの」
目の前にある忌々しい事実をわたくしは口に出して報告した。
◇
実際のところ僕は東都の現状について概ね予想していた。恐らくだけで女神の国に増えた六つの都市に関しては完全に懐柔された魔女のものなのだろう。そうでない魔女から奪った都市はその人質とするために、簡単には取り返されない場所へと隠しているのだ。
だからまあ、結の報告は予想通りのもので…………落胆は少しだけだ。これに関してはもしかしたらと期待した僕の甘さが悪いのだ。なぜなら同じ立場であるはずの切歌や美優たちはそんな感情をおくびにも出さなかったのだから。
ともあれ戻って来た結も交えて僕らは改めての方針の確認をする。もちろんここに至るまでに基本的には慎重に情報収集をするという方針は決まっている。だから方針はそのままにここで今見て得た情報を加えてどこから情報収集を始めるべきかを決めるのだ。
「全部は論外として都市の一つを確認するべきだとわたくしは思うの」
「結ちゃんに、私も、賛成」
「私も賛成だ」
「お姉さんも反対はしないかな」
「ネーサマとニーサマの意見に私は従います」
「私は反対ですわ」
そしてその意見は環奈とお昼寝中の舞を除いてあっさりと一致した。先に他の魔女への接触をすることを提案したのは美優だったけど、あくまで意見の一つとして出しただけだったのかあっさりと引き下がっていた…………環奈の意見が黙殺されたのはエリカの実力に関しては保留された状態なのでまあ仕方のないことだと思う。
「もちろん僕も行くよ」
次は潜入するメンバーの話になったが、そこで僕ははっきりとそう主張した。東都がこの場にないとしても女神の国の統治している都市の状態を見ればその扱いもわかる。それは自分の目でしっかりと確認しておきたかった…………それを見ることで、僕の女神の国に対する気持ちも固まるだろうし。
「危険すぎるから反対…………と言いたいところだけど、どうせ出発前の結論と同じになるの」
結の言う通り女神の国へ向かう際にもすでに同じ議論は交わされている。結局のところ僕を連れて行くのが危険だからと置いていこうとしても守りの戦力を残す必要があって、そうなると誰が残るかで揉めるしそもそも人数で負けているのに戦力の分散するのは愚策だとなったのだ。だから僕はここにいるわけなのだ。
「それなら次はどの都市に侵入するかだな。配置的にはどうなってんだ?」
「基本的に手前側に新しい都市を配置する形ですわね…………だから奥に行くほど古参の魔女たちの都市になりますわ。偵察そのものにはもう反対はしませんけど、聖堂のある最奥の都市だけは断固として対象にすることには反対ですわ」
環奈のその主張は鬼気迫るというほどではないにしても断固としたものだった。
「まあ、いきなり本丸に飛び込むほどの危険を冒す必要はねーだろ」
「業腹だけどそれには賛成なの」
珍しく結も環奈の意見に賛同した晴香へと素直に賛同の意思を示す。
「ただ、最近奪ってきた都市を見てもあまり意味はないの」
「そう、だね。ある程度、時間の経った、ところが、いいかな」
「私は逆。奪われた都市の扱いを確認するならすぐのところにするべきよ」
「んー、お姉さんとしては悩ましい選択かなあ」
確かにそれは美優の言う通り悩ましい選択だった。結や切歌の意見は長い統治が続いている都市のほうがその扱いによる変化がわかりやすいということだろうし、夏妃は奪われた直後の都市のほうがどう変えようとしているのかがわかりやすいということだろう。
「両方、と言いたいところだが優先順位は必要だな」
確認する場所が二か所あるなら両方見ればいいとは簡単にいかない。そこが敵地である以上は一か所目で気づかれる場合だってあり、そうなると残りの個所は見れないのだからより優先順位の高いほうを先に見ておくべきだ。
ただ問題は美優の言う通りにどちらも選ぶの悩ましい程度には気になる場所だ。だからというべきなのか、僕が決めろと言わんばかりにみんなの視線が集まる。
「しばらく統治の続いた都市を見よう」
正直に言えば僕は新しい都市のほうが気になってはいる。なぜならその都市を見れば奪われた東都を女神の国がどう扱うかがよくわかるからだ…………ただ、新しい都市の場合はまだなにもされていない可能性がある。
各地からその地の魔女が守る都市を奪ってその懐柔や反抗するものへの対処。それと並行して都市を接続して都民へ何かしらの処置をするというのは結構な仕事量になる。優先順位を考えると都民への処置は後になると思うから、とりあえず都市同士の接続だけして放置している可能性も十分にあると僕には思えたのだ。
「決まりなの」
誰も僕のその意見に反対はせずに各々のが頷く。
こうして僕らはついに女神の国のその一端へと足を踏み入れることになったのだ。
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