七話 女神の国の頭が二つ
見えざる魔女の総数において若干の設定変更を行いました。元々の人数だと今後の展開で派手さに欠けるのでご了承ください。投稿済みの話の該当部分も修正済みです。
「ま、とりあえず確認しときたいのはエリカ以外の女神の国の魔女の人数だな。お前の言う通り私らより弱いにしてもその人数次第でこちらの戦略も変わってくる」
早速と言わんばかりに晴香が切り出したのは女神の国の戦力の確認だった。確かにエリカのことは保留にしてもその他の確認を怠るわけにはいかない。
普通に考えればトップであるエリカはこちらから手を出さなければ動かない可能性は高いが、その手足となって動く配下の魔女たちとはかち合う可能性は十分にある。
「現状で私を除いて十五人だったと思いますわ」
「それは…………多い、よね?」
国を構成する人間としては少ないけど、見えざる魔女の人数としては多いと思える。魔女を生み出した実験で集められたの少女が百人で、実験に成功したのはその半数と聞いている。
さらにその内の一人はその後人類の敵となったがゆえに結が討っていて、きっとその魔女以外にも今に至るまでで命を落とした魔女はいるはずだ…………それを考えると健在な魔女の半数近くは女神の国にいることになるのではないだろうか?
「疑問なんだけど、あいつらその程度の人数しかいないのにあんたを切り捨てたの? さっきの口ぶりなら残った連中よりは戦えるはずでしょ、あんたは」
「ええ、その通りですわね」
口を挟んだ夏妃に環奈は頷く。
「それだとあんたは戦力削ってでも処分しときたい厄介者ってことになるんだけど」
「扱いにくい駒であったのは認めますわ」
言外に、その厄介次第では切り捨てるという夏妃の視線に環奈は肩を竦める。
「ですが私も流石に積極的に処分されるような害をまき散らしたりはおりませんの…………それ以外の理由としてはいくつか考えられますわね」
「聞かせて」
見定めるように夏妃が環奈を見据える。
「一つは私がいくら他より強かろうが戦力として誤差ということですわ」
「それは保留した話を蒸し返す理由だから却下なの」
環奈が言ったようにエリカの力が飛び抜けているなら全体としての戦力低下は環奈を使い捨てても微減となる…………しかしエリカの力に関しては現状では判断しないと決めたばかりだった。
「もう一つは戦力補充の当てがあったからですわね」
「それって女神の国に所属していなかった魔女ってことだよね?」
「その通りですわ」
僕らが懐柔しようとしていた他の魔女たち………いや、結達すらも一応はその対象ではあったのだと思う。実際に環奈をこちらに当てている間に僕らの守っていた都市は奪われてしまっている。それを人質に二人以上引き込むことができればそれだけで戦力はプラスになる。
「うーん、でも脅して引き入れた相手なんてそんなに信用できないとお姉さんは思うけど」
理屈としては納得できても感情としては受け入れられないように思えると美優は首を傾ける。それは確かにその通りで、いくら数だけは増えてもそれが環奈のように熱心な信徒であるわけではない。むしろ都市を人質に引き込んだ相手なんていつ裏切るかもわからないような不穏分子でしかないはずだ…………孤独から解放することで懐柔するにしても相応の時間はかかるだろう。
「それに関わる話なのですけど…………もう一つが、私に命令した相手は他の魔女を道具くらいにしか思っていない女ということですわ」
「うん? お前に命令したのはエリカではないの?」
「違いますわ。あの方はこういう命令はお嫌いですから」
「まだ目が覚めてねーってことはないの?」
「違いますわ」
疑う結の視線をまっすぐに見返して環奈は否定する。
「あなた達がどう思ってるかは想像がつきますけど、あの方は少なくとも同じ見えざる魔女に対しては大切に思ってくださっているようでしたわ」
「…………」
環奈はそういうが皆は訝しむような表情で彼女を見ている。裏切ることを選んでもエリカに対する敬意自体が消えたわけではないのだろう…………だからこそ皆は彼女に対する信用を少し下げたのだろうけど、僕としては少しほっとした気持ちだ。
それは環奈が自分のためにあっさりと前の組織を切り捨てる薄情な人間じゃないことの証明だし、女神の国の魔女たちが冷遇されていないということでもある。
「まあ、あの女の本性に関してはそれも置いておくの…………それで、お前に直接命令した女は誰なの?」
「鹿島恵ですわ」
「…………鹿島、聞き覚えのない名前なの」
結が呟きながら見回したけれど、それは皆も同じようで一様に首を振る。実験に集められた少女は百人もいたらしいし、全員が積極的に他者と交流できるような精神状態ではなかっただろう。それを考えれば顔と名前が一致する相手なんてごく少数だけのはずだ。
「あの方の一番の信徒、ということになっている女ですわ」
「…………女神の国の、ナンバー、ツー」
「一応は、信徒の間に優劣はないという建前になっていたのですけどね」
ぼそりと呟いた切歌に環奈は肩を竦めてみせる。
「概ね女神の国の行う外への行動に関しては彼女が仕切っていますわ」
「エリカはその女の傀儡ということなの?」
「いえ、意見が衝突した場合は鹿島のほうが折れることが多いですわね…………ただ、あの方を通さない魔女への命令を出してもそれが黙認されていますの」
公にはできない、裏の任務を担っているという感じだろうか。
「つまりお前はそのエリカを通さない命令受けたということなの?」
「そうなりますわね」
エリカが他の魔女を大切にしているというなら環奈を捨て駒にするような作戦にOKするはずもなく、だからそれは彼女を通さない作戦だったということなのだろう。
「でも、それだと環奈さんはなんでその命令を受けたの?」
その鹿島恵という魔女に対する物言いからすれば環奈は好印象を抱いていないはずだ。流石に使い捨てと説明はされなかったにしても道具扱いされることを知っているなら断ったって不思議ではない…………当時の環奈の忠誠はエリカに対してのものなのだから。
「端的に言えば私の頭が茹で上がっていたからということになりますの」
「それがエリカのためになると言われて鵜呑みにしたの?」
「…………そういうことですわ」
恥じるように環奈は顔をそむける。視野狭窄というか、女神の国にいる時の彼女はたったそれだけで信用ならない相手の命令を聞いてしまうような心理状況だったということらしい。
「ちっ、頭が二つあるのは面倒だな」
晴香が吐き捨てる。一人のリーダーのもとに統一された組織であればその頭を潰すだけで片が付いてしまう可能性もある。しかしリーダーとは別の考え方をした腹心がいて、それが受け入れられた組織となるとそれを崩すのは簡単な話じゃなくなる。どちらかの弱みを突くような作戦を立てても、残るもう一方がそれを阻止してしまうだろう。
「その鹿島とやらは強いの?」
「わかりませんわ。本人は前線には出ませんし、能力自体も隠していましたので」
自分は安全なところにいて他人に危険を冒させる。典型的と言えばそれまでだけど、だからこそ面倒な相手だと言えるかもしれない。そういう手合いは十重二十重に自分を守る手段を構築しているものだから。
「ふ、二人は、仲、いいの?」
付け入る隙があるとすればそこだろうと、切歌が尋ねる。
「正直に言えばわかりませんわ。あの方も鹿島も…………良くも悪くも誰に対してもその態度は変わらないように見えましたから」
そこに本当の信頼関係があるのかそうでないのか、とても重要なことだけど環奈にもわからないようだ。
「その辺りも現地で調べるしかないようなの…………とりあえず次の質問に移るのよ」
「あ、それなら」
有効に時間を使うべく話に見切りをつけた結に僕は手を挙げる。
「陽様の質問であれば何でも答えますわ」
「えと、うん、ありがとう」
それに食いつくように僕に寄ってきた環奈に僕は苦笑するしかない…………部屋の温度が少し下がったような気がするけど今はそれを意識の外にやっておこう。
「それじゃあ教えてほしい…………女神の国の奪った都市の現状を」
そうしてずっと彼女へと確認したかったことを、僕は尋ねた。
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