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全裸の魔女と世界を救う話  作者: 火海坂猫
第一部 

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六十話 見えざる魔女たちと断絶した存在

 気持ち悪い。その巨大な腕を見てそう感じたのはその形状のせいではなかった。その虫のような形状は確かに気持ち悪くはあるのだけど、別に僕は虫が苦手ではないし目を背けたくなるような醜悪しゅうあくさは感じない…………ただ、見えないという感覚があるのだ。


 僕の目は確かにそれを見ているのに見えていないという感覚を同時に覚える。その矛盾を僕は気持ち悪さとして感じ取っていた。


「あ」


 そうこうしている内に巨大な腕が環奈を掴んだまま涼子を薙ぎ払う。その衝撃は薙ぎ払われた当人だけではなく環奈にも伝わっていたようで、なす術もなく彼女が気絶するのが見て取れた…………元より抵抗は出来ていないようだったが、気を失ったのだから自力での脱出は完全に不可能になった。


「結っ!」


 それを見て咄嗟に僕は結の名前を呼んでいた。僕らにとって彼女が敵であることは理解している…………それでもあのまま死んでしまうのは余りにも哀れすぎた。


「ああもう…………惚れた弱みなのよ!」


 やけくそのように叫んで結がその声に応えてくれる。振るったその手からナイフの刀身が伸びて巨大な腕の手首へと届く。女王獣の背中を抉った時と同じく極限まで薄く伸ばされたそれに切り裂けないものは無い…………はずだった。


「ちくしょう、こいつもクソ硬いの!」


 悔し気な結の声が響く。彼女の手から伸びたナイフの刀身は巨大な腕の手首にあっさりと弾かれてしまった…………硬い、という問題なのだろうかと僕は思う。彼女の振るったその刃は単純に固いものであっても容易く切り裂いてしまえるはずの物なのだから。


「切歌、夏妃! あのバカ女だけ引き離せないの!」

「駄目、力が届かない」

「わ、私も、駄目、みたい」

「ふぁっくなの!」


 力押しが駄目なら搦手からめてと結が二人の名前を呼ぶが、その両方から否定の答えが返る。本来であれば二人の力で環奈だけを落としたり潜ませたりできるはず…………それができないのは夏妃が言った通り力が届かないからだ。


「あの手は私らと同じだ」


 僕の辿り着いた結論を晴香が口にする。


「あの手は私らと同じように自分の世界と結びついている存在に違いない…………だからあいつの周囲にはあいつ自身の世界が広がってやがるんだろう」


 見えざる魔女は世界の根幹に片足を突っ込んで結びついている存在。だからこそ世界を改竄する力を使えるのだけど、逆に言えば改竄できるのは自身の世界だけで本来であれば世界の狭間はざまであるこの場所で力を使うことはできない…………それができるのは魔女が世界と結びついているがゆえに、彼女たちと一緒に世界という領域がここまで伸びて着いてきているからだ。


 だから最初に検証した通りこの場では見えざる魔女の力が届く範囲は元の世界にいた時よりも短くなっている。伸びた世界の領域が広がっている後方は問題ないけれど、前方にはおよそ五十メートルほどの範囲まで…………但しそれは前方に別の世界が広がっていない限りという事なのだろう。


 あの巨大な手は結たちから前方五十メートルの範囲内に存在している。しかしもしもあの手が結たち見えざる魔女と同質の存在…………あの手が存在する僕らにとっての異世界と結びついている存在ならばその周囲は異世界の領域となっているのだ。だから切歌や夏妃の力は届かないし、僕らの世界であれば何でも切り裂ける結のナイフもあの巨大な手の世界ではなまくらになってしまうのかもしれない。


「とりあえず全員下がれ。完全に掴まれたら私らは唯のか弱い女になる」

「わ、わかった、よ」

「ち、しょうがないわね」


 晴香が指示すると切歌と夏妃が彼女と一緒に下がってこちらに集まる。前に出て孤立すれば環奈と同じようになる可能性があるのだ…………恐らく彼女はあの手に掴まれた事で僕らの世界との結びつきを完全に断たれてしまっている。だからこそ魔女としての力が全く使えないのだろうし、異なる世界の領域に包まれたままいつまで無事でいられるのかもわからない。


 結と美優と舞は最初から僕の傍にいたからこれで全員が固まれた。それはつまり僕らの周りの世界の領域はより濃く強固になったということだ。仮にあの手が僕らへの攻撃に転じたとしてもそれが障壁となって先ほどとは立場を逆にするはず。


「とはいえこもっていても勝てないのよ」


 結が冷静に呟く。あの巨大な手の先に何もないはずがない。あれにちゃんと知恵があるのならば下手に手を出してこないだろうから膠着状態こうちゃくじょうたいになる…………諦めて帰って行く可能性もゼロではないが、そうでないかもしれない。そしてどちらにしても環奈は助からないだろう。


「晴香の推論が正しいならあれに攻撃を通すためにはわたくしたちで取り囲む必要があるの」


 結たちがあの手を取り囲めば僕らの世界の領域で覆う事ができる。そうすれば今環奈がされているのと同じようにあの手の異世界との繋がりを断って攻撃を通せるようになるかもしれない。


「で、でも…………そう、簡単に、いくかな?」


 不安げにそこへ切歌が口を挟む。


「何か懸念けねんがあるの?」

「う、うん」


 聞き返す結へ自信なさげに、それでも切歌は頷く。


「切歌、今は時間が惜しいから自信があろうが無かろうがとっとと話すの。わたくしとしてはあの女が死んだところで何も気にしないけれど、陽は気に病むだろうし助ければ褒めてくれるのよ」


 すがすがしいほど直球で結が切歌を促す…………いやまあ、うん。下手に不満を隠されるよりもそれくらい明け透けの方が助かるんだけどね。


「た、単純に取り囲んでも、駄目んじゃないかって、思うの。だ、だって、あの手は、向こう側から、伸びて来てるん、だよね?」

「なるほど、それは一理あるの」

 

 切歌の指摘に結が納得したように頷く…………確かにそうだと僕も気づく。環奈は掴まれることで完全に周囲を覆われる形で僕らの世界と結びつきを断たれたが、あの手は僕らが取り囲んでも依然としてその本体は異世界に存在している…………その状態で世界との結びつきを断てるとは思えない。


「とすると私らの世界の領域と異世界の領域がぶつかってどうなるかだな…………反発するか混ざり合うか、強いほうが押し切るのか」


 重要なのはそこだと晴香が述べる。


「推測できる情報が少なすぎるのが問題だが恐らく強いほうが押し切るんだと私は思う…………あの女が捕まる時に反発するような様子はなかったし、混ざるっつーんなら全く力が使えないってことはねーだろうからな」


 僕もその瞬間を見ていたがあの手は何の抵抗もなく環奈を掴んでいたように見えた。もしかしたら多少の反発はあったのかもしれないが、今現在彼女が捕まっていることを考えればより強いほうが押し切ると考えて問題が無いように思える。


「つまり結局は全員で突っ込むしかないという話になるの」

「…………まあ、そうだな」

 

 強い方が押し切るというのなら全員が固まることで世界の領域を強くして突っ込む以外の選択肢はない…………つまり当初の全員で取り囲むというのと大して変わりは無いのだ。


「うーん、お姉さんとしては反対したいなあ」


 けれどそこに美優が異論を挟む。


「近づくってことは捕まえられる危険があるってことだし、皆の安全を考えるとお姉さんとしては撤退を提案したいと思うの…………そりゃあお姉さんだってあの子を助けたい気持ちはあるけど、皆の安全には代えられないかなあ」

「私もネーサマに同意します、ニーサマに褒めて貰えないのは残念ですが危険を冒してまで助ける価値はないと思います」


 続けた美優の提案に夏妃も同意する。元より敵なのだから無理をする必要はない…………それはもっとも過ぎる意見で僕は反論できない。そもそもが彼女を助けたいと思ったのは僕のわがままのようなものなのだ。


「あれの手が塞がっている今こそチャンスという考えた方もあるの」

「手なんていつでも離せるとお姉さんは思うな」

「それこそあの女を回収して退けばいいだけなの」

「そううまくいけばいいけど…………余計な荷物を抱えることになるんだから退く前に捕まる危険は高まると思うなあ」


 結が反対するように意見を出すが、美優はそれをやんわりと否定する。


「弟君だって私達を危険にさらすよりは諦める方を選ぶよね?」

「…………それは」


 それは僕には首を振る事の出来ない質問だった。


「それもこれもあれがわたくしたちをすんなり逃がしてくれればの話なの」

「あら、それは簡単だと思うけど…………見ての通り向こうも手をこまねいてるみたいだし」


 こうして話している間もあの手が何もしないのがその証明のようなものだった。恐らくはこちらと同様の理由でも向こうも手を出し難いのだろう…………なにせあちらは手が一本だけなのだし。その全身が現れればまた別かもしれないが、異世界から繋がった穴はあの手を通すだけで精一杯の大きさだ。


「ふん、どうやら違うようだぜ」

 そこに晴香が口を挟む。


 けれどそれは結への援護ではなく、膠着こうちゃくした状況が悪くなったことを伝えるものだった。



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