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全裸の魔女と世界を救う話  作者: 火海坂猫
第一部 

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五十九話 見えざる魔女たちのわかり切っていた決別


 わたくしたち魔女は特別な存在だ。世界と近しい存在になったことで歳も取らず強靭な肉体となり、ある程度望んだ形で世界の改竄すらできるようになったの…………普通の人間には見ることどころかその痕跡すら認識できない次元の違う特別な存在。


 ただ、それでもわたくしたちはどうしようもなく普通の存在で、だからこそ普通であることを求めていたの…………だってその心はこうなる前と変わらなかったのだから。わたくしたちは特別である事よりも孤独でない普通の生活を望んでいたのよ。


 だから、例えあのいかれ女からの誘いであってもその提案は魅力的なの。例え理性がどうせまともな形ではないはずと正論を訴えていても普通の生活を送れるかもしれないという可能性は魅力的なのよ…………わたくしが陽に出会ってさえいなければ。


「悔い改めるのは手前の方だとあのいかれ女に伝えるの」

「貴様っ!」


 事実を伝えてやると環奈は顔を真っ赤にして怒りを露わにし、涼子の方は静かな殺意をその目に湛えやがったの…………その有様で聖女を騙るとは片腹痛いのよ。あの葉山のクソ野郎がわたくしたちにわざわざ魔女と名付けやがった理由を少しは考えるべきなの。


 魔女という忌み名を戒めにするどころか、それを捨てて聖女を名乗るとか厚顔無恥もいい所なの。


「私は元々一人で問題ねえが…………あの女がいかれてるところには同意だな」


 皮肉たっぷりに唇の端をつりあげて晴香が二人を嘲笑する…………陽に会って内心ではしゃいでいたくせに良く言うの。


「他の魔女共も同じ考えなのですか?」


 晴香の表情から忌々しいというように顔を背け、苛立たし気に環奈が残る面々を見回す。


「お姉さんは愛すべき弟と妹に満足してるからこれ以上は必要ないかな」

「あのような頭のおかしい女がネーサマとニーサマの上に立つなどありえません」

「あのおねーさんなんだか怖くて舞は嫌い」

「ひ、人が多いの、むしろ怖い、し、ふひひ」


 最後の切歌の理由はどうかと思うのだけど、皆冷静な判断が出来ていたようなの…………まあ、陽と出会っていてなおあんな提案に乗る輩なら即座にわたくしが殺しているの。ライバルが減って楽になるからむしろ期待したのだけれど、流石にそんな馬鹿はいなったの。


「女神さまの慈悲に唾を吐きかけるとは何て罪深い…………その罪は私が死によってあがなわせてやりますわ」

「慈悲ならむしろわたくしがかけてやるの」


 意識して憐れむようにわたくしは環奈を見やる。


「比江鳥環奈、そっちの女と違ってお前にはわたくしが憐れんでやる理由があるの…………降伏するのならその命は保証して改心の機会を与えてやるの」

「世迷言をっ………」

「もちろんそのままわたくしたちの力量を図るための捨て駒として散るのが望みなら一思いにやってやるの」

「っ!?」


 わたくしの言葉に流石に環奈の顔にも動揺が浮かぶ…………もっともその後ろに、いつの間にか環奈の傍らから後方へ移動していた涼子は顔色一つ変えなかったの。


「結、捨て駒って?」

「少し考えてみればわかるのよ」


 思わず口を挟んだ陽に、わたくしは環奈にも聞こえる声量で返す。


「単純に考えてわたくしたちは六人で向こうは二人と数の差は明らかなの…………そしてもう一人の涼子という女は指摘されるまで出て来なかった。それを隠れて援護の機会を伺っていたと考えるよりは情報を持ち帰るために潜んでいたと考える方が妥当なの。勝てるはずもない人数差に捨て駒を突っ込ませてこちらの手の内を探るのが目的なのよ」


 そして恐らく環奈当人はそれを知らされていない。恐らくこちらが手の内を晒す程度には実力者なのだろうから、あなたなら一人でもやれるとかおだてられて送り込まれたはずなの。


「ふ、ふざけたことを言わないで欲しいですわ」

「お前、他の魔女…………聖女共から疎まれたりしてないの?」

「そ、それは私の女神さまに対する信仰の深さを皆が理解しないから…………」

「ほどほどの実力を持った厄介者を情報と引き換えに処分する気満々なの」

「…………っ!?」


 わたくしの指摘に環奈が思わず涼子を振り返る。それに涼子は取り繕ったようでもない自然な笑みを浮かべて見せやがったの。


「そんなことはありません。全ては女神さまのあなたへの信頼ゆえですよ」

「そうに決まっていますわね!」


 たったそれだけで環奈は揺らいだ自身を取り戻したようだった…………これだから狂信者という輩は揺さぶり難いの。


「つまりわたくしの慈悲は受けないという事なの?」

「貴様のような魔女の慈悲など汚らわしいことこの上ないですわ!」

「…………承知したの」


 元よりわたくしも本気で環奈を説得したかったわけではない。陽との約束があったから慈悲を掛ける余地があった環奈に一応は説得を試みたに過ぎないの…………邪魔者が増えないのならその方が良いのよ。


「陽、話し合いの余地はやはりなさそうなの」

「う、うん…………それはわかってるけど」


 頷きながらも何かを迷うように陽は環奈の方を見ている。それは捨て駒にされている者への同情というには少し違うように見えたの。


 それはなんというか、これから何かが起こるのを確信していてそれを口にするのを躊躇っているような…………それがわたくしたちに被害が及ぶようなものなら陽はすぐさま口にしているはずなの。


 それをしないのは被害が及ぶのがあの二人で、けれど敵に及びそうな二人に警告するのはわたくし達への裏切りになるから…………それでも黙っているのが心苦しく感じてしまうのは彼らしいの。


「陽、あなたには今何が見えているの?」


 じっくりと観察してわたくしは陽の視線が環奈ではなくその後ろに向けられているのに気づいていた。それはちょうどあの女王獣の背中があった辺りなの…………環奈はその前あたりに立っているのよ。


「女王獣が死んで閉じた空間がまた歪んでる…………向こう側から、何かが突き破ろうとしているように」

「それは実にやばそうなの」


 わたくしたちの世界に見えざる獣を送り込んでいた世界からの新たな干渉。それが女王獣や新種の獣共よりやばいものであるのはほぼ間違いないの。


「あなた、何を見ていますの?」


 わたくしの視線に環奈も気づく。その瞬間に感じた寒気と驚愕に染まった陽の表情を見ればこれから何が起きるか想像がつくの。


「全員、下がって臨戦態勢を取るのよ!」


 未知との相手に足の引っ張り合いをするほどわたくしは愚かではないの。それが分かっているからか皆は即座に下がって私の視線の方向へと警戒を向ける。


「舞はすぐにジャックを呼び戻すのよ」

「う、うん!」

「あなた達なにを…………!?」


 わたくしが舞に指示を出し、彼女が返事をして環奈が状況を掴めず顔を歪めたその瞬間…………空間を突き破って現れた巨大な手が環奈を鷲掴みにしやがったの。


「な、なんですのこれは!?」


 苦痛と共に環奈が悲鳴を挙げる。わたくしの目にはそれは白銀の骨格を持つ巨大な虫の手のように見えた。しかしそれがただの虫の手ではないことを示すように、環奈を握るその手はまるで人の手のように五本の指を備えていやがったの。


「はん、興味深え。あれは新種の獣か…………それとも親玉か?」


 油断せずとも楽し気に晴香がその手に視線を向ける。確かにわたくしとしてもそれは興味深い話ではあるのだけど、今はそれを確認している余裕はないの。


「な、なぜ力が使えないのですか! 涼子、私を助けなさい!」


 ぎりぎりと腕が環奈を握る手を強め、彼女が苦痛の声を上げて助けを求める…………力を使えないというのは非常に重要な情報なの。あの女王獣に対しても直感的に近づきたくないと思えたけれどあの腕に対しても同様なのよ。


「…………」


 助けを求める環奈に涼子は無言のまま姿を消す。わかり切っていた話ではあるけど案の定あの女仲間を見捨てやがったの。


「りょ、涼子!?」


 環奈が悲鳴を挙げるが涼子が姿を現す事はない。自業自得ではあるとはいえ中々に哀れではあるの…………それに他ごとに構っていられそうもないこの状況で姿を消されるのはかなり厄介なのよ。


「あ」


 しかし何かに気づいたように陽が声を上げる。見やれば巨大な腕は環奈を握ったまま自身を振り上げていたの…………何に対して? そんなものは決まっているの。環奈を掴んだままその腕が床を薙ぎ払うように振り下ろされ、その直線状にいた涼子の姿が現れると同時にぶっ飛ばされたのよ。


 ざまあないの。


 そんなことを思っている場合ではないのだけれど、それを見てわたくしは思わず唇をつりあげた。


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