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全裸の魔女と世界を救う話  作者: 火海坂猫
第一部 

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四十七話 見えざる獣とあんまり関係ない破滅へのカウントダウン

 正直に言えばわたくしは見えざる獣に対してそれほど興味を抱いてはいなかった。もちろんまだわたくしが普通の人間の、世界がただ追い詰められたあの頃には正体不明のその存在に対して恐怖を抱いていたし、早く解明されて欲しいと願っていたの。


 けれどわたくしが見えざる魔女になってしまえばそれ自体は脅威ではなくなった。どこからともなく大量に現れては単純に迫って来るだけ…………殲滅するのは単純作業だったの。


 もちろん当初はそれがどこからやって来るのか、どうすれば出現を防げるのか試したりしたけれど……………わたくしの行動できる範囲では何もわからず、進展もないのですぐにやめてしまったのよ。


 それでも見えざる獣が脅威であったら努力を続けていたと思う…………けれどわたくしにとって見えざる獣は脅威ではなく日々の日課程度の存在。その程度の存在に意識を割き続ける事よりもわたくしは自分の孤独を紛らわす事を選んだの。


「採掘…………あいつらは何を採掘していると言うの?」

「エネルギーだ」


 わたくしの質問に晴香はそう返す。


「この世界はあいつらにとってエネルギーの採掘場なんだよ」

「つまり、あいつらに喰われた物はエネルギーに転換されているという事なの?」

「理解が早いな」


 感心したように晴香がわたくしを見るけれど、彼女に褒められたところで嬉しくなどない。


「見えざる獣はぶっ殺すと消えちまう…………喰われたはずの物も残さずな。それはあいつらが喰われた物は即座にエネルギーとして分解されちまうからで、あいつら自身も活動不能になるとエネルギーとして拡散しちまうから消えるわけだ」

「何のために、なの?」

「後者に関して言えば他の獣にエネルギーを受け渡すためにだろうと私は思ってる。せっかく採掘したエネルギーや獣自体を構成するエネルギーを無駄にしないためだな…………それに関してはお前らも覚えがあるんじゃねえのか? 見えざる獣を全滅させた後には消耗の回復が早くなったと感じる事はなかったか?」

「…………あるの」


 切歌や美優に視線を向けると彼女らも同様のようだった。それはつまり今晴香が説明したように見えざる獣が倒されたことでその場にエネルギーが拡散し、全滅し他の獣に受け継がれることのなかったエネルギーをわたくしたちは回復に利用したという事なの。


「そして前者に関してだが私が見るにあいつらはエネルギーを集めるよう命令されてそれを実行しているだけなんじゃねえかと思ってる…………そもそもまともな生物であるかどうかも怪しいな。それこそドローンみたいなもんかもしれねえ」


 単純で愚直な行動。仲間をどれだけ殺されても同様は見せず、撤退する時もどこか機械的で恐怖による奔走が起こることもない…………言われてみるとその通りなの。


 あれが生物の群れと言われるより、単純な命令を与えられた採掘機械と言われた方がしっくりくるのよ。


「えっとでも、あれが機械なら送り込んでる相手がいるってことだよね?」

「その通りだな」


 疑問が浮かんだらしい陽に晴香が頷く。


「それにしては雑っていうか…………見えざる獣はみんなに倒されるようになってもずっと同じように送り込まれてるんだよね? 普通に考えたら何か対策して来たっておかしくないと思うんだけど」

「きひひ、いい着眼点だ」


 よくできた生徒を褒めるように晴香が表情を和らげる…………イラっとするの。他者との交流を放棄した知識魔が人の男に色目使ってんじゃねーのよ。


「まず考えられるのが見えざる獣を送ってるやつにとて獣は大したコストじゃないってことだ。どれだけ私達に獣を壊されても収支が上回ってるならわざわざ対処するほどじゃない」

「それは確かに」

「さらに考えられるのはそいつが獣を送り込んでるのはこの世界だけじゃないってことだな。量子力学の一説じゃ異世界…………パラレルワールドは無数に存在するもんらしい。獣を量産できるだけ量産して、送れる世界へと手当たり次第に送ってる可能性はある」


 それであれば一つ一つの世界を細かく精査していない可能性はある。全体の合計でマイナスになってなければ良しとしているのかもしれないの…………そんな流れ作業的に世界の大半を滅ぼされたのだと思うと業腹ごうはらではあるのだけど。


「いずれにせよそいつが私達に注視してないのは非常に助かる…………というか注視されていたら見えざる魔女はともかく人類はとっくに滅んでたろうしな」

「えっ」


 晴香の発言に陽が目を丸くしたの。


「それはもっと強い獣を送り込んできたりってこと?」

「いや、見えざる獣に対する命令をちょっと変えるだけでいい」


 知識をひけらかせることに得意げな表情を晴香が浮かべる。


「そもそもなんで見えざる獣は各都市にわざわざ向かってくるって話だ」

「それは荒野にはもう何も残ってないからじゃ?」

「いや荒野にはまだまだ残ってるだろ…………大地が」

「っ!?」


 驚きと納得の表情が陽に浮かぶ…………ああもう、見ていられない。とりあえず陽と晴香の差しの会話になっている状況は好ましくないの。


「つまりそこらの地面より人間のほうがエネルギーの所有量が大きいの。そして見えざる獣はより大きなエネルギーを優先して採掘するように命じられていると晴香は言いたいのよ」

「正解だ」


 横目にわたくしに視線を向けて晴香が頷くの…………それを陽との抗議に水を差された表情に見えるのはわたくしの嫉妬ゆえだろうか。


「エネルギーの効率関係ないならわざわざ見えざる魔女に突っ込まなくてもその辺の荒野を食いつぶしていきゃあいいだけだからな、優先順位があってそれに機械的に従ってるだけと考えるのが妥当だ…………そしてそんな単純なもんが直されてねえんだから管理してるやつも気にしてねえってことだろ」

「ムカつく話なの」

「だがそれが無かったらとっくの昔にこの地球は穴だらけになって人類はお陀仏だ」


 城塞都市とそこに住む人類が無事であっても、地球そのものが駄目になっては結局皆死ぬだけ。わたくしたち見えざる魔女であればであればそれでも生き残る可能性は高いけれど…………それこそ何の希望もない虚無的な未来が残るだけなの。


「えっと、つまり、時間制限も…………ある?」


 勇気を振り絞るような表情で切歌が会話に割り込む…………それでいいの。なにごともまずは一歩を踏み出さないと始まらないのよ。


「見えざる獣の管理者が気付いて対処する可能性という意味ではあるな」


 問題はその時間制限がわたくし達には読めない事なの。


「んー、でもそれってもしかしたらないのかもしれないし…………場合によっては自然に解決する可能性もあるってことよね?」


 切歌に続いたわけではないだろうが美優も口を開いた。


「そうだな。別にこの程度問題ないと考えてる可能性はあるし、獣が無駄に浪費されてることに気付かれないかもしれない…………そうでなくともわざわざ対策を考えずにこの世界での採掘を打ち切って他に移るだけの可能性もあるだろうぜ? なにせ私達が現れるまでにこの世界での採掘はほとんど出来ていたわけだしな」


 見えざる獣の管理者がいくつもの世界に獣を送り込んでいるのなら、確かに晴香の言葉通りこの世界にこだわる必要はない。採算が悪くなった世界は打ち切ってその分のリソースを他に回せばいいだけなの…………すでにこの星のほとんどは採掘されてしまっているのだから。


「それなら下手に刺激しない方がいいんじゃないの?」


 それを聞いて夏妃が口を開く。


「見えざる獣の対処を私達がしようとしたせいで注目されるかも…………まあ、ニーサマが望むなら私はやるけど」

「シスブラコンにしちゃあ悪くない意見だな」

「その呼び方やめて」


 からかうような表情で自分を見る晴香に夏妃が睨み返す…………やはり陽とその他では向ける表情が違う気がするの。報酬はわたくし達も含まれていると言っていたけれど、最後の最後に自分が全て掻っ攫おうとしている可能性は排除できないのよ。


「で、だ」


 夏妃の抗議を無視して晴香は話を戻す。


「確かに安全を考えたら待つのは良策だが…………問題は時間制限がこっちの事情にもある事だ」

「相手ではなくこっちに?」

「そうだ」


 尋ねる陽に晴香が頷く。


「なにせ見えざる獣関係なしにこのままじゃ城塞都市は滅ぶからな」

「え」


 今度こそぽかんと陽は口を開く…………ああ、そうかとわたくしは思い出す。

 それは昔まだわたくしが小学生だった頃に習った知識なの。でもわたくしたちの時代と違って今の教育ではその辺りをあえて詳しく教えていないのかもしれないの。


「陽、単純に考えて今の地球環境は生物が生存できるものではないのよ」


 城塞都市以外のあらゆる場所にもはや生物は存在していない。それはつまり二酸化炭素を酸素へと戻してくれる植物も全て消えているという事で、単純にそれだけでも地球上の二酸化炭素の割合が増えて気温は上昇していくの。


 けれど現状ではそれが起こっていない理由も単純で、酸素を二酸化炭素にしてしまう生物がほぼ死滅しているからなの。見えざる獣は人だけではなくこの世界に存在する何もかもを底ざらいするように喰い尽くしたのだから。


 例外は唯一の生き残りである人々が住まう城塞都市だけど、都市内の空気は循環するように出来ているから当面の問題はない…………ただそれも永遠ではないのだと晴香は指摘したいのよ。


「城塞都市にある資源だって無限ではないし、再利用にも限界があるの。今はまだ大丈夫でもいずれ都市の状態を保てなくなってしまうはずなのよ」


 外の資源は喰い尽くされているから補充の見込みもない。もちろん時折防衛隊が防壁の外に出ているように、都市の気密が破れてもすぐに人々が死に絶えるわけではないの…………ただ確実に時間制限が存在して、その解決の見込みがないだけなのよ。


「いや、でも待って」


 わたくしの言葉を理解した陽が、理解してしまったからこそその顔を青く染める…………そういう表情はあまりそそらないの。


「見えざる獣と関係なくもう城塞都市が…………人類が滅亡するっていうのなら」


 見ていられなくて胸の奥が苦しくなるのよ。


「見えざる獣をなんとできても、意味がないってことじゃ?」


 だからその絶望的な表情を、わたくしに向けないで欲しいの。


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