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全裸の魔女と世界を救う話  作者: 火海坂猫
第一部 

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四十一話 嫌われ者の魔女

「とりあえず、そういう大事な話は電話越しじゃなくて顔を合わせてするものなのよ」


 僕の手の上のスマホを睨みつけるように結が指摘する。夜闇晴香という見えざる魔女のことは以前に説明されたけど…………その様子から見ると単純に面倒な相手というだけではなく明確な恨みがあるように感じられる。


 そしてそれは舞を除いた三人も同様に見えた。


「きひひ、嫌だね。いきなり私が顔を出したらお前ら殺しにかかるだろ?」

「陽の手前殺しはしないのよ…………ただ、殺してくれと懇願するような目に遭わせる可能性は確かにあるの」


 冷え切った声で結が告げる。それは殺すより過激なのではないだろうか…………僕が聞いていることを分かった上で口にしているのだから、それだけ抑えきれない感情という事だろうか。


「顔を出さないなら引きずり出してやるの」

「うん、近くに…………いる、はず」


 スマートフォンが通話可能なのは東都内だけだ。どういう方法で僕のスマホと通話したのかはわからないが、それを考えれば晴香という魔女が東都にいる可能性は高い。


「うーん、大人しく出て来てくれないならお姉さんも協力するしかないかな?」

「首根っこ掴んで地面に落としてやりましょう、ネーサマ」


 夏妃どころか美優ですら晴香を捕まえる事には乗り気のようだ…………一体彼女は何やって此処まで恨まれたのだろうか。


「はん、私がそんなわかりやすいリスクをおかすはずないだろうが…………生憎あいにくと私自身は遠い場所にいる。衛星使って特別製のドローンに中継させてんだよ。そもそもまともな方法で魔女の会話を電波に乗せられるわけねえだろうが」


 それが普通にできるなら見えざる魔女は今ほど孤独ではなかったはずだ。特別製のドローンと言っていたけれどそんなものがあるなら量産できなかったのだろうか…………それ以外にも彼女は気になる単語を口にしている。


「衛星って…………昔にあったって言う人工衛星?」


 あの淀んだ空の果てに広がっている宇宙に浮かんでいたという人の打ち上げた機械の星。昔はその衛星のおかげで遠くの場所を見ることが出来たりケーブルの繋がっていない場所でも通信できたらしいのだけど、世界がこんな状況になってからしらばくして経年劣化で全て壊れてしまったと聞いている。


「そう、その衛星だ。一つだけまだ使えるものが残ってるんでね」

「そんなことはどうでもいいの…………陽は少し黙っていて欲しいのよ」

「どうでもよくねーよ」


 僕の参加を遮ろうとする結に晴香が声を荒げる。


「最初からお前らが私の話をまともに聞くとは思っていねえんだよ。だから私が話したいのはおめえらの大事な大事な思い人様だ…………そして衛星ってのは常に移動してるから有効範囲が限られてんだよ」


 それはつまり有効範囲から出てしまえば通話が途切れるという事だろう。


「はん、それならさっさと切れればいいの」

「それだと困るのは私じゃなくて思い人様なんだがな」

「…………僕?」


 また思わず聞き返してしまう。


「昼月陽。お前は東都を、この世界の人類を救いたいんだろう? そのために頭のいかれた女に媚び売ってご機嫌取ってるんじゃねえのか?」

「僕はっ…………!?」

「あー、わかってるわかってる。お前は否定するしかねえよな? そのために見えざる魔女を利用してますなんて肯定できるわけもないし私だってしろとは言わねえ」


 僕の反論を遮って晴香はつらつらと言葉を紡ぐ。


「ただ世界を救うには私が必要だ。それをお前がしっかりと認識しとけって話だ」


 僕が晴香の死ぬことを望まない限り結たちも手を出せない…………そして僕を釣る餌として彼女は最上の物を目の前にぶら下げた。


「わかった」


 僕は頷くしかない。


「でもそれならまず君が世界を救えるって根拠を教えて欲しい」


 けれどそれはあくまで晴香が言っていることが本当ならの話だ。僕は別に晴香に恨みはないし結たちにだって同じ魔女を殺して欲しくない思っている…………ただ、だからって無条件に晴香を信じるのは難しい。それは何よりも結たちが納得してくれないだろう。


「お前馬鹿か?」


 しかしその返答は辛らつだった。


「それを教えちまったら私を生かしておく理由がなくなるだろうが…………私がそれを教えるのは身の安全が確保されてからだ」

「相変わらずムカつく言い方しかできない女なの」

「あ? 露出狂の変態は黙ってろ」

「絶対にぶっ殺すの」

「はっ!」


 怒る結を晴香は鼻で笑う。


「こんな調子だからそいつらは私を殺せる機会があれば迷わず殺すだろうよ。だからまず安全の確保が最優先だ」

「…………それはわかったけど」


 どちらかといえばまず晴香の態度が問題なのではと僕は思ったが…………元々の恨みもあるようだし今更なのだろうか。


「でもどうやって?」

「あん? 魔女の約束に関しての話くらい聞いてるだろ」

「あ」


 僕は思い出した。世界に近しい存在である見えざる魔女の約束事には世界そのものが結び付けられる…………結果として魔女は約束を破る事が難しいのだと結に聞いていた。


「だからそいつらに私を殺さないことを約束させろ…………それが出来たら私はお前に聞きたいことを全部話すと約束する」


 まず晴香が僕に約束をする。これで彼女自身も約束に縛られるので、僕が彼女の身の安全を確保した後にやっぱり離さないと翻意ほんいすることは出来なくなった。


「…………」


 どうするべきだろうかと僕は迷うが…………実際のところ迷う選択肢などない。ただそれを皆に頼むのが躊躇われるだけだ。だって結たちの嫌がる事を断れないのを知っていて頼むなんて、どう考えても悪い男のやり方だ。


「そんな捨てられた子供のような顔をしないで欲しいのよ」


 自然に向けてしまったのか結と目が合って、大きく溜息を吐かれる。


「晴香がわたくしたちを裏切らない限りその身の安全の保障を約束するの」

「…………いいの?」


 諦めたように口にした結に僕は思わず聞き返してしまう。


「いいわけないの」


 恨みがましめに結は僕を半目で見る。


「いいわけないけどこれも惚れた弱みなの」

「…………ごめん」

「埋め合わせは要求するのよ」

「わかった」


 当然の要求に僕は頷くしかない。


「それならお姉さんも何かしてもらわなきゃね」

「全く、わがままなニーサマです…………ただ、きちんと埋め合わせてくれるな夏妃は納得してあげます」


 それに便乗するように美優と夏妃が口を開いて僕を見る。


「わ、わたしも…………いい、よ」


 おずおずとそこに切歌も口を開いた。


「舞」


 一人黙ったままの舞に結が声を掛ける。


「結おねーさんなーに?」

「舞は晴香を覚えてるの?」

「……………あんまり覚えてない。声は、聞いたことあるかも?」

「みんなで彼女と仲良くしてあげようという話になったの…………舞もできる?」

「うん!」


 元気よく舞が頷く。どうやら他の四人と違って舞はそもそも晴香に対して悪感情を持っているどころかそもそも覚えていないらしい。


 研究所に実験対象として集められた少女たちは百人もいたらしいから、それもおかしくはないのだけど…………それならどうして結たちは晴香に恨みを抱いているのか疑問に思える。


 結たち五人の間ですら接点はほとんどなかったようなのに、晴香の事だけは四人共恨みに思うくらい知っているのだから。


「そら、望み通りになったのよ」


 不機嫌そうに結が晴香へと告げる。


「とっとと話すのよ」

「いや、話すのは彼と二人っきりの状況でだ」

「「「「あ?」」」」


 結だけではなく、舞以外の全ての魔女が声を重ねた。


「調子に乗るのもいい加減にするの…………お前と陽を二人きりにするわけがないの」

「お姉さんも賛成できないなあ」

「ニーサマは渡さない」

「お、王子様には、なにも、させないよ」

「陽おにーさんをとっちゃや!」


 みなの怒りに舞も何となく察したのか舞も参加する。


「お前らがそんな態度だから要求してるんだろうが…………約束を守ったままで嫌がらせする方法なんていくらでもあるしな。それに通話が可能な有効範囲は限られてるって言ったろ? もうそろそろその範囲外になるから長話は無理だ…………だから後日直接会って話す」

「その場でお前が陽を攫わない保証があるの?」

「その点に関しては改めて約束してやる…………第一そんな真似をするなら最初からお前以外の魔女をこの場に集めてねえよ」


 それは確かにそうだった。僕の身柄を確保することが目的なら他の魔女に手紙を送る事なく結一人を相手にした方が確実だったのだから。


「それでも心配ならそこのぬいぐるみでも護衛に付けろ。単純な戦闘能力ならこの場でも随一だろ」

「それを知っている人間の提案に乗る馬鹿はいないのよ」


 見えざる魔女の力は単純でないからこそ厄介なのだと僕も知っている。


「結、僕は構わない」


 ただそれでもこのままでは話が進まない。結だけではなく他の四人も反対といった表情だったが、ここは晴香を信じて僕が決断するしかないところだろう。


「いつ会える?」

「残念だがすぐとは言えねえ。近くまで来たらまた連絡するから、それまでの間そいつらの機嫌でもよくとっておくんだな」

「…………わかってるよ」


 顔をしかめる僕を余所に、通話はそれであっさりと切れた。僕は手の上のスマートフォンをしばらく見つめてから皆を見回す…………怒りと不快さと心配の入り混じった表情。とてもこれからパーティーを再開しようなんて言える空気ではなかった。


「はあ」


 僕は溜息を吐く。


 せっかくの手料理も、もうすっかり冷めてしまっていた。


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