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全裸の魔女と世界を救う話  作者: 火海坂猫
第一部 

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三十七話 見える彼の決意とそれぞれの性癖

 見えざる魔女による話し合いは無事に済んだらしい。とはいえあの五人はその前から協力する流れにはなっていたし、今回の話し合いはその補強のようなものだからそれほど心配はしていなかった…………後は僕の決意を明言することでそれがさらに確固たるものになってくれれば言うことはない。


「…………だから話を聞いてもらいたいんだけど」


 自分には二人きりで決意を話したのだから他の魔女にも公平にすべきと結には言われた。だから話し合いを終えた後にその時間を取って貰ったのだけど…………最初に話す相手である切歌の姿が見えなかった。


 他の四人は結の倉庫に待機して貰っているので、支倉司令に頼んで確保したこの会議室にいるのは僕と切歌だけ…………けれど彼女はいつものように顔だけ出していたりすることもなく完全にその姿を隠してしまったらしい。


「ねえ切歌、あんまり言いたくないんだけど時間にはそんなに余裕がないんだ」


 あんまり時間が掛かるとその間に何をしていたのかという憶測をされてしまう。だから情緒じょうちょがなくならない程度に切り上げるよう結からアドバイスされていた。とはいえ自分の決意を伝えるだけなのだからそんなに時間はかからない…………はずだったのだ。


「だ、だって…………ふ、二人きりとか、恥ずかしい、えへへ」

「…………会ったその日に僕を攫おうとしたくせに」

「あ、あれはその…………初めて王子様に、会って、興奮、してたから、ふひひ」


 僕の言葉に返事はしてくれたけれど相変わらず姿は見えない。結と和解した時に二人きりは恥ずかしいから当分は結と一緒にいるところを影から見守ると言っていたが、その後は実際にその通りの行動をしていて僕はその時以来切歌の姿をまともに見た覚えがない。


 話によれば切歌は元々引き籠りであり、見えざる魔女になって以降もずっと人前から隠れるような生活…………王子様と見立てた相手のストーカーのような行動をしていたようだ。隠れているなら自分が認識されなくても当たり前なのだと、見えざる魔女の孤独の中で彼女はそう思い込むしかなかったのだ…………きっとそうに違いないと僕は思うことにしている。


 だからまあ、それからまだそれほど時間も経っていない内に二人きりになって欲しいと持ち掛けた僕の方が悪いのかもしれない…………だけど、内容が内容だけに出来ればちゃんと面を向き合って聞いて欲しいのだ。


「ええとね、切歌。僕は今後の僕らに関して大事な話をしたくて…………できれば君の目を見てそれを伝えたいんだ」


 真摯に、そう僕にできるのは真摯にお願いすることだけだ。彼女にそれを強要できる力は僕にはないし、そもそも強要なんてしたら台無しだ。


 あくまで自主的に切歌には出て来てもらわなくてはならなくて、その為には真摯に訴えかける以外の方法はない。


「しょ、正面からは…………む、無理」


 泣きそうな声が返って来る。流石に僕だってそんな声で懇願されては無理を通すような真似はできない…………どうしたものだろうか。


「正面からじゃなければいいの?」


 僕は尋ねる。妥協する形にはなるが床に潜まれたまま聞かれるよりはいい。


「見られるの、恥ずか、しい、から…………うう」


 正面からではなくとも僕の視線が集中するのが駄目と。


「それなら背中合わせなんて駄目かな」


 正面ではなくその真逆。視線は全く交わらないけれど、合わせた背中の一点でお互いの存在を感じられる。それならば僕の決意を彼女へと伝えるシチュエーションとしても決して悪いものではないだろう。


「た、多分、それなら大丈、夫…………えへへ」

「よかった」


 受け入れられて僕は胸を撫で下ろす。これを断られたらもはや今の状態で言葉を伝える以外にはなかった。切歌はそれでも気にしないかもしれないけれど、後で自分だけが正面から伝えて貰えなかったと思うことになるかもしれない。


 もちろんそれは彼女自身の選択の結果ではあるのだけど、それで納得できないのが人間というものだ。


「それじゃあ僕が先に座るよ」


 声を掛けて僕は机の置かれていない会議室の中央へと腰を下ろす。なにも敷かれていない会議室の床は少しひんやりとしていた…………ほんの少しの時間が過ぎると背中に温かい感触が伝わって来た。


 だけど背中合わせも少し恥ずかしいのか、もたれるというよりは引ける腰を何とか抑えて合わせているような浅い接触だ…………ただそれも切歌らしいと思える。


「…………」


 なんとなしにいたずら心が湧いて僕がぴったりと背中を押し付けるとびくりと震える。けれど一度合わさった背中を離そうとはしなかった。


「お、王子様の…………い、いじわる」

「ごめん」


 僕は苦笑して謝罪を口にする。そんなつもりはなかったのだけど、つい彼女を驚かせたくなってしまったのだ。


「で、でも、王子様の、背中…………温かい」

「うん、僕も温かい」

「そ、そう? えへへ」


 嬉しそうな声にはにかむその表情が思い浮かぶ。


「ねえ、切歌」

 

 その笑みに向けて僕は語るのだ、自分の決意を。


                ◇


 そうして切歌へ僕の決意を明かすことは出来たけどまだ終わりじゃなかった。舞に関してはすでに彼女を守ると約束しているし、恋愛的な感情を理解していないであろう彼女に改めて伝えても混乱させるだけだと思う…………だから問題なのは美優と夏妃の二人だ。


 美優は僕に好意的ではあるのだけれど、夏妃は最初から明らかに敵意を向けて来ていたので僕の決意を明かしたところで余計に反感を買いそうで怖い。


 とはいえ二人が共に行動している以上は逃げるわけにもいかない。僕は切歌と入れ替わりに会議室へとやってきた二人に決意を口にする。これで都合三度目の明言になるのだけど、言っていることは僕がみんなを好きになりたいから喧嘩は止めてくださいという内容だ…………どれだけ僕は自惚れた人間なのだと殴りたくなる。


「それってつまり陽君がお姉さんの本当の弟君になってくれるってことだよね?」


 しかしその自惚れを孤独に苛まれた見えざる魔女は斜め上に肯定する。正直に言えば助かるしありがたいのだけれど…………それをそのまま受け取っていいものかは深く考える必要があった。


 彼女は僕を見ているようで僕個人を見てはいない。僕がもしも彼女の求める弟像から大きく外れれば失望と共にその好意は反転することだろう。


「美優さんがそう望むのなら」


 ただ、それでも僕に他の選択肢などないのだ。


「んふふ、お姉ちゃんでいいのよ?」

「…………それはもう少し慣れてからで」


 純粋になんだか気恥ずかしい。孤児院の時には気にならなかったけれど、恋愛対象として見ると決めた少女達の前では躊躇われる。


「いいわ、お姉さんは陽君が慣れるまでゆっくり待つから」


 そんな僕を美優は微笑ましいように見守る。彼女の方はまあ今のところは大体のことを好意的に見てくれそうだけど…………問題はその妹の方だ。美優に対して明らかな依存を見せる夏妃は彼女に近づく存在に対して強い敵意を向けて来る。


 それは特に結たちよりも弟という自分に近い立場を築きそうな僕に対して顕著だ。


「ちょっと私の事も夏妃おねえちゃんって呼んでみて」


 恐る恐る視線を向けると夏妃は仏頂面のままそんなことを言ってきた…………はい? 僕はその言葉の意味がまるで理解できずに思考が白くなる。これまでの彼女の態度と僕への言動と今の表情の全てが嚙み合っていない。


「なによ、私のことはお姉ちゃんって呼びたくないってわけ?」


 すると以外にも夏妃は少し傷ついたような表情を浮かべて僕はさらに戸惑う。思わず助けを求めるように美優を見ると彼女は微笑んだままゆっくりと頷いた。


 つまりは呼べと言う事か。


「な、夏妃お姉ちゃん?」


 恐る恐る口にする。


「んんっ」


 すると夏妃は悶えるようにくぐもった声を上げる…………僕には何が起こっているのかまるで理解できない。しかし美優はわかっているようでそっとそんな夏妃の顔を横から覗き込む。


「どう、夏妃ちゃん」

「かなりいいです、ネーサマ…………でも少し物足りない気がします」

「そう、やっぱり夏妃ちゃんは妹があってるのかもしれないわね」

「はい、ネーサマ」


 二人は頷き合って再び僕を見る。


「今度はちょっと私を呼び捨てにして」

「え、えっと?」

「早く」

「う、うん」


 またまたわけのわからない夏妃の要求に戸惑いつつも僕は頷く。


「な、夏妃?」

「…………そういう感じじゃなくてもっと上から」

「上からって…………」

「兄が妹を呼び捨てにするみたいにって言ってるのよ」


 流石に、そこまで言われれば僕でも察せられる。再び美優にちらりと視線を向けると頷かれた…………つまりはそういう事なのか。覚悟を決めよう。


「夏妃」


 孤児院時代の年下の子供たちの面倒を見ていた頃を思い出しながら僕は彼女の名前を呼ぶ。


「はい、ニーサマ」


 するととてもいい笑顔でそう返された。それは今まで僕に向けていた敵意とは真逆のキラキラの笑顔で、まるで彼女が別人になったようだと僕には思えた。


「どう、夏妃ちゃん」

「とってもいいです!」


 ニコニコと、とっても笑顔で二人が笑い合う。


 みんな笑顔ならそれでいいかと…………僕はそれ以上考えないことにした。


 お読み頂きありがとうございます。

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