三十六話 見えざる魔女の名前からしてやる気のない同盟
わたくしたち見えざる魔女の力は世界を書き換えるというもの。刻み込んだ想念を元に世界を改竄して通常起こり得ざる結果を引き起こすことができるの…………そしてその想念を元にした世界の改竄というのは意外と汎用性が高いのよ。
ぶっちゃけた話文章として間違っていても本人にその意味が通っていれば力は使える。ただ自分でも無理があると思うようなものに関しては力が使えても効率が悪くなるの。魔女が力を使うには精神力とか体力的なものを消耗するのだけど、その消耗に対して結果が釣り合わなくなるものが殆どなの。
そして完全に自分でも意味不明だと思えるものでは流石に世界を改竄はできない。だから汎用性は結構あるのだけど、絶対に無理な力の使い方があるというのが魔女の力なのよ。
「わたくしは陽の寿命を伸ばせるの」
その観点からするとわたくしが世界に刻んだ想念である「伸ばす」はなんの違和感もなくその文章を成立させることができるし、その効果は高い。
「わかってると思うけど陽はわたくしたちを認識できるけどそれ以外の部分では常人なの。それはつまりわたくしたちと違って彼は寿命で死ぬという事なのよ」
見えざる魔女となったわたくしたちに寿命はない…………かどうかは正直わからない。けれど事実といて魔女となってから肉体的な成長や変化は一切なく、感覚的なものとして自身が劣化したという印象も全く無いの。
だから見えざる魔女は恐らく寿命がないか、もしくは百年程度ではその劣化が自覚できない程度には長いとわたくしは考えている。そして陽が殆ど常人と変わらないのであればわたくしたちと交わる時間はそう長くないはずなの。
「せっかく会えた弟君とすぐにお別れになっちゃうのはお姉さんも寂しいわね…………泣いちゃうだけじゃすまないかも」
冗談めかして美優が口にするがその目は笑っておらず黒く淀んでいた。これまで取り繕ったような言葉しか吐いていなかった女がようやく本音を見せたの…………本当に生き残った見えざる魔女達は全員面倒な女なのよ。
「ふん、私はあんな男の事なんてどうでもいいけどネーサマが悲しむのは困るわね…………それで、あんたの力であいつの寿命を無限にできるってわけ?」
「わたくしが生存している限りは無限と言えるの」
わたくしは夏妃が望んでいないであろう答えを返す。
「わかってると思うけど魔女の力も有限なの。大きな結果を出そうとすれば相応に力を消耗するし、大きすぎれば世界の改竄自体が行えないの…………だから流石に彼の寿命をわたくしたちと同じに一気に伸ばすような真似は無理があるの」
それは言うなれば陽を見えざる魔女と同等の存在に引き上げるようなものなの。流石にわたくしにそこまでの力はないし、出来るならとっくの昔にやっているの。
「例えば百年とかなら一気にできないの?」
「それくらいならいけると思うけど、あまり長過ぎても忘れた時に困るの」
長く生きればそれだけ古いもののことは意識から外れる。忘れて問題のないものならともかく忘れたら致命的なものでそれが起こっても困るの。
「一年に一度決まった日に寿命を伸ばす、それくらいが安全だと思うのよ」
そしてそれは同時に美優と夏妃に対する牽制になる。陽の寿命をわたくしが握っている状況であれば二人もわたくしに簡単に手を出せない。定期更新が必要な形にしておけば、わたくしに彼の寿命を伸ばさせておいてから殺すなんて真似も出来ないことになるの…………見た目上は。
「うん、お姉さんもそれでいいと思うわ」
「…………ネーサマがそれでいいなら」
早々に賛成を述べる美優に不承不承といった様子で夏妃も続く。美優の方は裏で何を考えているか分かったものではないけれど、これで当分はわたくしを害そうとする行動には牽制が出来たはずなの。
「えっと、舞よくわかんないんだけど」
「陽とずっと一緒にいるための力がわたくしにあると思ってくれればいいのよ」
「そうなんだ! じゃあ、結お姉さんを舞が守ればいいんだね!」
「そうしてくれると嬉しいの」
舞は単純明快で助かるの。
「…………結お姉さん」
くっそどうでもいいところで美優に睨まれたの。他人が姉と呼ばれていることに嫉妬するとかどんだけ姉をこじらせているのよ…………非常に面倒くさいけどこんなことでご破算になっても非常に困るの。
「あー、そういえばわたくしは研究所に集めらた時に十六だったの」
美優にあえて視線を向けないようにわたくしは呟く。実験対象は同年代が集められていたが流石に全員同じではなく多少の幅があった。
その中でも十六の人間が一番多かったはずなので夏妃もわたくしと同じ年齢である可能性が高いはずなの…………その夏妃が姉と呼んでいるのだから美優はわたくしの年上のはずなの、多分。
「そ、そうなんだあ…………お姉さんは十七だったよ。お姉さんだからね」
明らかに少し上ずった声で美優が口にする。その性癖は簡単に地雷になりうるけど同時に利用するのも簡単なの…………ものすごく不本意ではあるのだけど。
「今のわたくしたちにとって一年の歳の差なんてないようなものだけれど年上は年上なの…………そうと分かったならわたくしも美優を美優お姉ちゃんとかお姉さまとか呼んだ方がいいのかと思うの」
お姉さまと口にした瞬間に夏妃からの敵意が跳ね上がったけど知ったこっちゃないの。主導権は二人の内美優のほうにあるのだからそちらを押さえておけば問題ないのよ。
「んふふ、むーちゃんも慣れてないだろうし今まで通りの呼び方でいいのよ?」
「わかったの。でも、あなたがわたくしよりお姉さんであることは心に留めておくの」
姉呼びの継続を強要されなくてほっとしたの。
「それで、出来れば次はそちらのできることを教えて欲しいのよ」
「お姉さんの力は直す、よ」
「ネーサマ!」
あっさり手の内を明かした美優に夏妃が声を上げる。
「別にこれからみんなで協力するんだから隠すようなことじゃないでしょ?」
「そ、それは…………」
流石にこの場で仲良くするつもりはないなどと明言は出来ないのか夏妃が言い淀む。しかし「直す」とはまた汎用性が高い力なの。舞の怪我を治したのを見ているからその系統の言葉だろうとは予想していたけれどシンプルに脅威なのよ。
「次は夏妃ちゃんね」
「…………っ、私のはどうせわかってるでしょうけど落とす、よ」
半ばやけくそのように夏妃がその力を明かす。目の前で力を使っていたしその言葉通りにわかってはいたのだけど、美優とは違った意味でまだ脅威ではあるの。
美優のように使いやすい言葉であればその手の内も予想しやすいのだけれど、一見すると汎用性が低く見える言葉は当人にしか思いつかないような使い方があったりと予想が面倒なの。
「ではお互いの出せるものがわかったところで協力関係を結ぶとするの…………提案なのだけどそれが軽いものにならないようその関係にはなんとか同盟とかわかりやすい名称を付けたいと思うの」
「うん、私も、賛成、かな」
わたくしの意見に切歌がすぐさま賛同の意を挙げる。これに関しては予め打ち合わせておいたことなの。わたくしたち魔女にとって約束とか契約は大きな意味を持つ。一つの目的を掲げた同盟に参加するというのはそれ自体が契約…………参加させてしまえば簡単に裏切ることが難しくなるはずなの。
「もちろん全員が対等な関係の同盟なの」
夏妃が美優を盟主になどと言いださないために先に釘を刺しておくの。
「まあ、美優は全員の名誉お姉ちゃんという事にしておくの」
「んふふ、むーちゃんのその気遣い嬉しいわ」
さらにすかさず美優の機嫌を取っておく。これで夏妃は余計なことを言えないはずなの。
「ねー、その同盟ってなに?」
「みんなで仲良くする集まりみたいなものなのよ」
「それでその名前を決めるの?」
「その通りなのよ」
よくできましたとわたくしは舞の頭を撫でる。嬉しそうに舞は体をくねらせるけど相変わらずエロい体をしているせいで違和感バリバリなの…………そういえば確認していなかったけれどこの場で実は舞が一番の年上という可能性もあるの。
「舞は何か意見があるの?」
「えっとね、仲良し同盟!」
「悪くはないの」
「えへへー!」
ぶっちゃけ悪いけど機嫌を損ねられても困るの。
「切歌は?」
「お、王子様を囲う会、とか、ふひひ」
「実質その通りの集まりではあるけど多分陽はものすごく嫌がるのよ」
わたくしが彼の立場なら断固として拒否することだろう。
「お前はあるの?」
わたくしは夏妃に視線を向ける。
「お前って言うな…………魔女のお茶会とか?」
「ありきたりなの」
「こいつっ!」
睨みつけられるがわたくしは無視してその隣に視線を向ける。
「美優は何かあるの?」
「そうねえ、ソウルシスターズとか?」
「…………美優に英語はわかりづらいのよ」
「あ、たしかにそうね」
納得してくれた何よりなの…………そんな気持ち悪い名前は勘弁なのよ。
「他人の批判ばかりしてないで自分の意見も出しなさいよ」
「わたくしのネーミングセンスは死んでるの」
「…………あんたね」
睨まれるけど事実なの…………いっそ全裸同盟とか名付けて露出を強制にしてやろうかなんて頭に浮かんだけど馬鹿の極みなの。
「辞退するの」
「だからあんた……」
「それじゃあ、仲良し同盟に決まりだね!」
再び夏妃が憤りそうになったところで嬉しそうに舞がはしゃぐ。
「ちょっと、なんでそうなるのよ」
「え、だって他のみんなのは駄目だったんだよね?」
「…………あ、しまったの」
わたくしは舞以外の全員の意見を却下し自分は辞退しているの。それはつまり消去法で舞の意見が通ったという事になってしまうのよ。
「ちょ、ちょっと何とかしなさいよ」
「…………あの笑顔を前に何かできるわけがないの」
子供というものは感情の起伏が激しい。もしもここで別の名前にしようなんてわたくしが言い出したらその喜びがそのまま悲しみか怒りに変わるの…………とてつもなく面倒なことになるのが目に見えているのよ。
「お前の頼れるお姉さまにでも頼むの」
「…………ネーサマは無理に決まってるじゃない」
その言葉を肯定するように美優は喜ぶ舞にほっこりとした表情を浮かべている。最後に切歌を見ると戸惑った顔を返された…………役に立たないの。
「はあ…………もう仲良し同盟でいいの」
わたくしは投げやりにそう呟いた。
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