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全裸の魔女と世界を救う話  作者: 火海坂猫
第一部 

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二十七話 魔女たちのとても和やかな話し合い

 他に適当な場所もないからと僕らは東都の結の住居である倉庫に集まり直すことになった。結は露骨に嫌そうな顔をしていたけれど反対はしなかった。なにせ都市内は舞の引き起こした混乱の原因が掴めず騒然となっている。


 切歌が保護した人たちもすでに解放済みだが、人形として操られた人達はちは気が付いたら時間が跳んだうえに移動した状態だ。意識が戻れば混乱するのも当たり前だろう…………しかも無理矢理動かされた反動で大怪我を負っている人もいるのだから。


 とりあえず移動中に支倉司令には何が起こったかは送っておいたけれど、被害の規模が大きすぎて収拾に困っているようだった。見えざる魔女絡みの話は公表できないし、そもそも公表しても信じて貰えない。被害は都市全般にわたっているが、怪我人は僕らを襲ってきた人達だけなのが救いのようだ。


「とりあえず、最初に確認したいことがあるんだけど」


 僕は美優と夏妃の二人へと視線を向ける。美優は相変わらず静かな笑みをたたえたまま僕を見ているし、夏妃も敵意の籠った視線で僕を見て立っている…………そう、立っている。


 結の住居は椅子も椅子代わりになるものもたくさんあるのに、全員が立ったまま対峙しているのだ…………明らかに相手の不意打ちに即座に対処できるようにという意思が見えて僕の胃が痛い。


「何かな?」

「ええと、その…………二人の都市が今はどうなってるのかを聞きたくて」


 僅かに首を傾けて尋ねて来る美優に僕は答える。それは聞きにくいことはであるけれど真っ先に確認しておかねばならない事だった。単純に自分の守るべき都市を放棄して此処にいるのなら戻るように説得しなくてはならないし…………都市がもう守る必要のない状態になっているのならその理由を知らなくてはならない。


「ネーサマがお前目当てに都市を見捨てたとでも言いたいの?」

「いや、そんなわけじゃ…………」


 きっと睨まれて僕は夏妃に弁解しようとするが、ある意味それを聞きたかったわけでもあってうまく言葉が出なかった。


「夏妃ちゃん、怒っちゃ駄目よ。それは当然気になる事だもの」

「でもネーサマ!」

「…………夏妃ちゃん」


 美優がすっと目を細めて夏妃をじっと見つめる。そこに怒りの感情は見えないが、ずっと優しそうな雰囲気でいた彼女からそれが消えるだけでとても冷たい印象を覚える。


「ご、ごめんなさいネーサマ…………」

「うん、素直な夏妃ちゃんは好きよ」

「はい!」


 泣きそうな表情を浮かべて夏妃が謝罪して、それを美優が受け入れた瞬間にその表情が一気に喜びへと変わる…………そういう依存関係なのだろうと見てわかってはいたけれど、そんな急な切り替わりを見せられると少し引いてしまう。


「ええとそれで、私達の守っているのは北都なんだけどもちろんそれを守るための対策はしてきたの…………ただ、百%確実とは言えないからここにいるのに相応のリスクを冒したのは認めるわね」

「ふん、無責任な女なの」

「それに対策も時間制限があるから、本来なら私か夏妃ちゃんは一旦戻ったほうがいい時間になるわね」


 合間に毒づく結をスルーして美優が話を続ける…………責任の話をするなら結は一回この都市を見捨てているのではと僕は頭に浮かぶ。もちろんその責任は守られていた僕らの側にあるし、言い争いの火種になりかねないから口にはしないけど。


「えっとじゃあ、すぐに戻らないといけないんじゃ?」

「そうね、だからあのぬいぐるみに北都を守ってくれるように頼んだのよ」

「舞を助ける代わりにってことですか?」

「んふふ、そういうことね」


 僕の質問を嬉しそうに美優が答える。ジャックに美優が話しかけてすぐどこかへ行ったのはそういうことらしい。


 しかしそうなるとあの熊のぬいぐるみには約束事を理解し実行するだけの思考能力があるという事で…………もしも舞が死んだ際に暴走する可能性が真実味を帯びてくる。元々僕はあの子を殺すことには躊躇いがあったけど、明確に反対する理由が出来てしまった。


「でもあのぬいぐるみもそこの舞ちゃんから長くは離れたくないだろうし、もう少ししたらお姉さん達も戻らなくちゃいけないと思うわ」


 舞は意識をまだ取り戻していないので、監視も兼ねてこの場で適当な段ボールをベッド代わりに毛布を敷いて寝かせてある。彼女を殺すわけにはいかなくなったが…………だからこそその処遇に困るようにもなってしまった。


 今回のようなことが起こらないように説得するにしても、現状を正しく認識させることは難しい…………自分でも気づいていない取り返しのつかない罪を自覚させることになってしまうからだ。


「だからその前に舞ちゃんの処遇とか私達の今後の話とかをしておきたいと思うのね」

「陽をこの都市から出す気はないの」


 即座に結が断言する。それだけは決定事項で揺るぎが無いと言わんばかりに。


「それは別に構わないわよ?」


 そんな結を微笑ましく美優は見つめる。


「あなたが彼を大切に思うのは当然だし、そりゃあお姉さんだって彼を独占したいと思う気持ちがないわけじゃないけど…………その為に同じ見えざる魔女同士で争おうなんて思わないわ」

「…………」


 その言葉の真偽を見極めるように結が美優の表情を注視する。しかしそこに張り付いた穏やかな笑みはその内心を押し隠する鉄壁のようにも見える…………出来ればその笑みがそのまま彼女の内心であることを僕は信じたい。


「とりあえず、今はその言葉を信じてやるの」

「んふふ、もっと信用されるようにお姉さんも努力しないとね」


 信用してないと言わんばかりの結に、まるで生意気な妹を楽し気に見守るような視線で美優が答える。その隣で夏妃がまるで親の仇を見るような視線で結を睨みつけていて、爆発の時間のわからない時限爆弾を見せつけられているような気分を覚える…………そんな僕の服の裾を誰かが引いた。


「お、王子様…………だ、大丈夫?」


 切歌だった。最初は結の隣で一緒に美優たちと対峙していたはずだけど、いつの間にか僕の後ろに移動していたらしい…………元々人見知りのようだったし、夏妃のように激しい感情をぶつけてくる相手は苦手なのかもしれない。


 それでも僕の心配をしてくれるのだから、切歌のその性根は優しいんだろう。


「大丈夫だよ…………僕の役割はみんなが仲良く出来るようにすることだしね」


 そう、僕はこんなことくらいで心折れているわけには行かないのだ。

 見えざる魔女同士の凄惨な争いを回避し、閉塞していく人類の未来を拓くことが出来るのは僕だけなのだ…………その為の唯一の方法が、見えざる魔女全員を満足させるハーレムを築き上げるという事なのが頭の痛い話ではあるけれど。


 まあ、それでみんなが幸せになってくれるならいくらでも頭くらい痛くなろう。


「わ、私も、努力、するから、えへへ」


 そんな僕に切歌は恥ずかしそうに笑みを浮かべながら両手をぐっと握って見せる。正直言って少し可愛いと思った。普段彼女は卑屈そうな笑みばかり浮かべているからギャップがあって新鮮だ。


「ユダがいるの」


 しかしそこに結の声が割りこんで切歌がびくりと震える。


「む、結ちゃん!?」

「まさかここで切歌が裏切るなんて思わなかったの」

「裏切って、な、ないよ?」

「ふうん、なの」


 焦る切歌を白けた表情で結が見据える。


「えっと、切歌は僕を励ましてくれただけだよ」


 慌てて僕は割り込むが、結の不機嫌そうな表情がそれで増した。今の流れですぐに切歌の見方をしたのは失敗だったかもしれない。


「…………ふう、なの」


 だが、それでも結は気持ちを抑えるように息を吐き、その表情を和らげてくれた。


「少し気が立ってたの。貴重な味方相手に不遜な態度過ぎたと反省するの」


 自分自身に言い聞かせるように結は呟き、謝罪するように切歌を見る。


「ごめん、なの」

「う、うん、いいよ。私も、気を付けるね、えへへ」


 ほっとしたように切歌が笑みを浮かべ、僕もその様子に安堵する。


「ちょっと、まだ話の途中なんだけど」


 そこに苛立つような夏妃の声が響く。


「それは悪かったの。優先事項の問題なの」


 さらりとお前達との会話は優先事項が低いのだと結は毒を吐く。


「こいつっ!」

「まあまあ、夏妃ちゃん抑えて抑えて」


 いきり立つ夏妃の肩を美優が優しく抑える。


「それで、お姉さん達はみんなと仲良くしたいと思うのね」

「わたくしの目からは複数形でないように思えるのよ」

「夏妃ちゃんにはちゃんとお姉さんが言い聞かせておくから、ね」


 美優は緩やかに結の毒舌を受け流すが、僕としては見ているだけで冷や冷やする。後で結にはもう少し歩み寄りの姿勢を見せて欲しいとお願いするしかないだろう。


「まあいいの、続きを話すの」

「んふふ」


 鷹揚おうように美優は頷く。


「それでね、仲良くなるには一緒に過ごす時間が必要だとお姉さんは思うの…………だからお姉さんたちはこの後一旦都市に戻るけど、また会いに来ることを許して欲しいわ」

「…………その申し出を受け入れるの」


 結が不服そうながらもちらりと僕を見てから頷く。以前に結は僕への妥協として他の魔女との話し合いには応じて協力できる相手とは協力すると約束してくれている。舞の場合はあちらが話し合いに応じず襲ってきたが美優たちは違う…………不服でも受け入れざるを得ないのだろう。


「うん、ありがとうね…………それで、舞ちゃんの事なんだけど」


 ちらりと美優が眠る舞へと視線を向ける。


「舞ちゃんはあなた達二人とは擦れ違いになったみたいだし、今回の事で二人に対して恐怖感を覚えてしまっているかもしれないと思うわ…………だからお姉さん達が戻る時に舞ちゃんも一緒に連れて行ってあげようと思うの」


 それはある意味で渡りに船の提案のように僕には聞こえた。正直言って舞を僕はどうしていいかわからない。もちろん助けてあげたいと思うけどその助け方が分からないのだ。真実を伝えれば無自覚な罪を自覚させてしまうし、伝えなければまた東都の住民に被害が及ぶ可能性がある。


 自分を助けた美優相手であれば素直に言うことを聞くかもしれないし、他力本願ではあるが任せてしまってもいいような気がする。結も舞の事は厄介者と見ているようだし美優たちに押し付けようとするのではないだろうか。


「断るの」


 けれど結の口から出たのは拒否の言葉だった。


「あのバカな子供の躾は、わたくしがしっかりとやってやるのよ」


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