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女装王子の留学記 ~美少年過ぎて女性恐怖症になったけど、女装していれば普通に生活できます~  作者: 笹色 ゑ
二年生前期

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97 注意事項(男子会)



 ユマ様は最近よく絵を描いている。

 屋上庭園で僕らの絵を描いてくれることもある。

 ユマ様から見た僕の姿を見て、なんだか、やっぱりもじもじしてしまう。


「ああ、ここか」

 ナゲルが庭園にやってくる。ユマ様の方じゃなく、僕の方を見た。


「急ぎじゃないならちょっとニコル借りていいか?」

「僕は構わないよ」

 ユマ様が許可したので、ナゲルについていった。上の階のナゲルの部屋だ。隣はユマ様の部屋で、ナゲルは他の警護と違って特別だとよくわかる。


 ナゲルの部屋に入ったのは初めてだが、片付いているというよりも、ものが少なかった。


「来たか」

 中には、ミトーとトーヤもいて、椅子が四脚あった。二つは下から持ってきたやつだ。ナゲルから座っていいと言われてトーヤの隣に座った。


「後、ひと月で君たちはジェゼロに行くことになる」

 ミトーはいつもへらへらとしていて、威厳がないが、どこに行っても人から簡単に話を聞き出す。僕の仕事はミトーについてそういう技術を学ぶこととペロの調教だ。よく一緒にいるから、ミトーが変な芝居をしているのは直ぐにわかった。


「冬の時は、急だった、結局帝都に連れていかれたが、この夏は流石に国に帰ることとなるだろう」

 カシス隊長の真似だ。と思うけど、正直似てない。


「君たちを呼んだのは他でもない。ジェゼロに行く前に心構えをしてもらうためだ」

「はい!」

 手を上げてから質問する。

「アリエッタは呼ばなくていいんですか?」

 アリエッタも一緒に行くのだから、一緒に聞いたほうがいい。


「ああ、そっちはリリーが説明するから。こっちは、男子会だ」

 質問にいつもの調子でミトーが返してしまう。自分でも気づいたのか、一度咳ばらいをして、腕を組んだ。カシス隊長は滅多に腕なんて組まない。いざという時に初動が遅れるからだ。


 ナゲルはちらっとミトーを見たがいつもの調子で話し始める。

「まあ、実際うちの馬鹿の出自と、性別もみんな仲良く共有してるから、最悪危険だと判断されたら二人は……まあ消されはしないだろうけど、ぶっちゃけジェゼロ入国禁止とかは普通にあり得るだろうからな」

 それにミトーがうんうんと頷いている。


 ユマ様は、どこかの国の王様の子供で、とても大事な方だ。それに本当は男の人だ。でも、そんなことは僕にはあまり関係ない。


 トーヤが真面目な顔で手を挙げた。

「はい、トーヤ君」

 ミトーは普段誰とでも普通に話すけど、トーヤには何故か上からだ。


「国王陛下との謁見までは難しいでしょうから、ユマ様の近しい方として乳母や教育係り、国防としては大臣などとお会いすることになるのでしょうか」

 その言葉に、ミトーとナゲルが揃って首を傾げた。ミトーがこそこそとナゲルに問いかける。


「エラ様、絶対会いたがるよな」

「まあ、会うでしょう」

 と話してから、仰々しく、ミトーが頷いた。

「国王陛下はユマ様を大層可愛がっておられる。どこの馬の骨とも知れぬ輩が周りをうろついているとなれば、その目で確認されるだろう」

「我々のような下々にも謁見されると………」

「え、普通は会わないもんなの? あ、でも俺の調査はベンジャミン様だったか」

「ユマの警護着く以前に、ミトーは二回くらい会ってませんでした? なんか、変なの見つけた時にお褒めの言葉で」

 こそこそとまた話し出す。


 なんだろう。二人とトーヤがおんなじ話をしてるのに全く噛み合ってない気がする。

「まあ、エラ様……国王陛下よりは、ユマの剣術の師範で、国王の警護とか色々任されてるベンジャミン先生に認められるのが第一だな。オオガミが許容してたから大丈夫とは思うけど、あの人が不可を出したら正直色々とその後は厳しいぞ」

 いつだったか、何かで聞いた気がする名前だ。

 ベンジャミン先生と言う単語は大事だと、頷いた。


「気難しい方、ですか……」

 トーヤはとても真剣に問いかけるとミトーがどうだろうなと首を傾げた。


「正直、上の人過ぎて、俺はあんまり会ったことないんだよなぁ。夏に戻った時、ハザキさんと二人並んで色々聞かれたときはめっちゃ緊張したし。まあ、最後は労いの言葉をかけてもらえたけど……。ナゲルの方が詳しいか」

 カシス隊長ごっこは飽きたのか、いつもの調子でミトーが言うとナゲルが肩を竦めた。

「まあ、ジェゼロ王家至上主義ではあるけど、それ以外は基本いい人ですよ。まあ、稽古で能力確認とかはされると思うんで、結構本気でいった方がいいだろうとは。本気過ぎて互いに大怪我とかはあれだけど、手を抜いたと判断されるのが怖い」

「稽古って言ったら、ナゲルのじい様もだろう? やっぱハザキさんからも認められないとだよな」

「まあ、爺さんは一発剣を交えればなんとかなるでしょう」

 ナゲルのおじいさんも覚えておこう。


 ユマ様の為に、ミトーみたいに情報を得たりすることも大事だ。褒めてもらえるならそれでもいい。けど、たまにでもいいからお側にいたい。それを認めてもらえるようにと二人が話合いの場を作ってくれたのだと思う。


 なんだかよくわからないけど、しっかり聞いておこう。


「……つまり、何人かの要人と交流を持ち、認めてもらう必要があるという事か?」

 トーヤがどこか呆れているような感じが漏れ出した。

「まあ、そうだ」


 偉そうぶってミトーが頷いているとナゲルの部屋を誰かがノックした。

「ナゲルー?」

「入っていいぞ」

 許可を得て、ユマ様がドアの隙間からユマ様がのぞき込む。その仕草がとても可愛らしいと思う。ユマ様は息をしているだけでも尊い。


「中途半端に会話が聞こえたから、いっそ正面切って盗み聞きをしに来た」

 ナゲルの部屋の窓を指さしてユマ様が少しむくれて言う。窓が開いていたから、中庭に声が漏れていたようだ。


「えーっと、別にユマ様を仲間外れにしていた訳じゃなくて、こう少ししたら、こいつらも国に連れて行くので、心構えをと」

 ミトーがいい訳をしている。


 立ち上がろうとするトーヤを手で制して、ユマ様はベッドに腰かけた。

「夏は帰るんだろ?」

「また行先を変えられない限りは帰るつもりだよ。なんだ、てっきり僕抜きで男子会でもしてるのかと思ったのに」

 念のために今日も女装のユマ様だけど、座り方が男の人だ。今日はかっこいい方のユマ様だ。


「流石にこの面子で昼間っから猥談とかしないからな」

「ナゲル、僕が卑猥な話をしてるかもしれないからと嬉々としてきたみたいじゃないか」

 それにナゲルが何か言い返そうと口を開いたらユマ様に蹴られた。羨ましい。


「僕がいない方が良ければ席外すけど……」

「いえ、ユマ様の意見も聞きたいと考えていたところです」

 すぐにトーヤが引き止めた。


「いくつか質問をしてもよろしいですか?」

 真面目な顔で問うので、ユマ様も座り方をちゃんとした。僕も背筋を伸ばす。

「はい。かまいません」


「ジェゼロ神国は、滅多に他国の者を受け入れず、女神教会の信徒すら決まった数のみの巡礼しか許可していないと耳にしたことがあります。いくらユマ様の許可があったとしても、我々は入国できるのでしょうか」

「ああ、それはオオガミが先に根回しをしてくれているでしょう。本来冬の時点で連れていくつもりでしたから、大丈夫だと思います」

 ユマ様の故郷にいける。そう思うと、嬉しくてむずむずする。


「場合によっては国外退去もあるとの事ですが、常識の違いもあるでしょう……。問題を起こすつもりはありませんが……何か気を付ける点は?」

 ちらりとトーヤがこっちを見た。ちゃんと聞いておけと言う事だろうか。

「法律も大きく変わるわけではないので大丈夫ですよ。数日はミトーとリリーに頼んでおく予定です。まあ、喧嘩なんかはしないようにお願いします」


 ユマ様は誰かが危険でない限り人殺しはしない。だからユマ様に言われない限り、ユマ様に危険がない限りはしない。大丈夫、ちゃんと僕は常識がある。


「国王陛下、ベンジャミン様、それにナゲルの祖父が重要人物であると先ほど伺っていました。誠実に対応する程度しか対応の仕方が浮かびませんが、何か贈り物などを準備した方がよいでしょうか。故郷では有力者との謁見では、何かしら贈呈することが当たり前で心証がよくなるため、礼儀として用意するのですが」

「あー、そうか……トーヤはアッサル出身でしたね。賄賂は基本ジェゼロでは卑しい行為扱いです。依頼されて献上することは名誉なこととして扱われますが、それで何か取り計らうことはありませんから、特に物の準備は不要でしょう。それよりも、剣技などの訓練に身を入れた方がいいですよ。確実に、二人……三人から能力試験をされると思いますから。特に、二人は警護や特殊任務を受け持ってもらう可能性がありますから」


 それを聞いて手を挙げた。

「倒したら、いいですか!」

「倒せるもののなら……と言いたいところですけど、二人は耄碌しかけてますし、もう一人に何かあったら、多分僕はニコルを嫌いになるかもしれません」

「……嫌われたくないので、倒しません……」

「まあ、その耄碌爺の一人はオオガミだから、余程の機会を狙わないと倒せませんよ」

 オオガミと聞いて顔を上げた。いい人だ。倒しても殺してはいけない。


「オオガミ様と同じ手練れとなると、ジェゼロは優秀な兵が多いのですね」

 トーヤが真面目に問う。カシス隊長やリリーも強い。

「あー、一部の戦闘狂がいることは認めますが、極一部です。危険人物たちは、道場などでよく管理されていますから」

 知っている。主人を殺しかねない獣は、首輪をして檻に入れられる。


「ベンジャミン様、と言う方は、とても重要人物のようですが、どのような方で、何か気を付けるべきでしょうか」

「先生は、母の守り人のような人です。母……ジェゼロ王を侮辱したり危害を加えたら許してくれないと思うので、あと、子である僕や妹にも過保護なところがあるので……」

 守り人と言う言葉を聞いて、息をのんだ。


 とても、とても羨ましいと思った。僕も、ユマ様の守り人と言われたい。


「まあ、妹については到着が近くなったら話しましょう。母以上に機密ですから」

「わかりました。まだ出発まで時間があります。あまり深く聞かない方がよろしければ、それで構いません」

 ユマ様には妹がいる。ユマ様は優しいからきっと下の子が大事。だから、僕も大事にしよう。


「他に何か質問はありますか?」

 聞かれて、そういえばわからない単語があった。わからない時は意味を聞くように言われていた。


「はい! さっきナゲルが言ってた猥談ってなんですか」

 聞くと、ユマ様がナゲルを小突くように蹴飛ばしている。


「生殖活動の考察の話です。同性で行う事が基本で、場合によっては嫌がられる話題の可能性があるので、ナゲルとミトー以外には聞かないように」

 ユマ様が微笑みのまま淡々と教えてくれた。ユマ様は物知りだ。




 良かれと思って開いた会だが、カシス隊長に怒られた。結構真面目に。


 ジェゼロは機密が多いので、駅から街に着くまでの間に話せばいい事だと。

 だが、駅にベンジャミン様が迎えに来ていたら、三人が可愛そうだ。最終兵器が最初に構えているのだ。




ミトーはトーヤに対しては無駄に対抗意識を燃やしていますが、

担当している仕事が違いすぎるのとトーヤが大人なので特に喧嘩はありません。

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