表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女装王子の留学記 ~美少年過ぎて女性恐怖症になったけど、女装していれば普通に生活できます~  作者: 笹色 ゑ
二年生前期

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

91/165

90 隣国の煙


 アリエッタとはあれからお茶会まではいかないものの少し話をしたりするようになった。


 アリエッタは本当にユマが好きらしく、話しても問題ない範囲でとても優しい事や素敵だと教えてくれる。これはもしや、ユマはアリエッタが好きだから余計なちょっかいをかけないでという牽制かとも考えたが、大抵ユマ様は素敵ですよねという同意を求めてくるので主自慢な気もしてきた。


 ニコルという子供は庭で犬の教育をしている姿をよく見る。こちらを見つけると彼も大体寄ってきて、挨拶をしてくれる。アリエッタのようにユマがとても素敵だと教えてくれる。もしやユマがそういう風に言うようにしているのかと思ったが、とても幸せそうにユマの事を話すので、他に言ってもいい相手がいないので私に対して話ているだけかしれない。

 ユマの素性と性別を知っているので、話しやすいのだろう。


 ユマの関係者だけでなく、ユマの屋敷に部屋を借りるようになってから、旧人類美術科の生徒とも接点ができるようになってしまった。


 こちらはごりごりに政治経済の関係の話が多い。部屋に招かれるような茶会ではなく、住人の憩いの場のような場所で茶に誘われる。

 最近は帝都の女神教会で大司教が退任し、次の大司教は誰になるのか問われることが多かった。女神教会は政治とは係わらない方針を取っているとはいえ、大きな権力だ。ツール神父も今は司教という職だ。本人は全く望んでいないだろうが、大司教に手が届く位置にいる。ただ、帝都には他にも司教がいるためまず彼が大司教になることはないだろう。

 他の司教たちは養父をないがしろにしていたので、もし最高権力者になった時に色々と困るから必死に阻止するはずだ。それこそ派閥を超えて結託してでも避けるだろう。何せ養父は女神主義者で教会の裏事情よりも、ジェゼロを崇拝し、世に理を教えることにしか興味がない。


 他にもワイズと交友があるため、そちらの話題も少なくない。利益相反になるのであまり多くは語れないが、数年で大商家に上り詰め、いまも手広く商売を広げているハリソン商会は注視すべき対象とみられている。商才と無謀さにかけては折り紙つきなので、正当な評価とも言える。


「帝都の電報所はワイズさんが出資してくれたおかげでかなり早くできましたね」

「ワイズを噛まさなくとも、設置はできましたが、あれは大きな利権になります。帝国の許可や管理は入るでしょうが、民間がある程度自由に使える方が将来的な利点が多いですからね」


 ワイズは私に対して盲目的に信頼を寄せている。一応毎回失敗した時の損害も教えているが、そんなものを無視して出資してくれる。今回も手紙ひとつで直ぐに金を出してくれた。


 線路を基盤に電報用の配線を通すので電柱を開拓するよりは簡単で安い。だが決して安価な事業ではない。帝国に依頼して決済してもらうのでひと月はかかる。そこから工場に手配して、解読人材を養成し、電報所からの早馬番を雇用するとなれば数か月はかかるだろう。


 ワイズは一番槍の重要性をよく理解している。電報所に最初に着手すれば、帝国側から引き渡しを要請されたとしてもある程度の資金回収はできるし、それだけでなくノウハウは既に得られた状態になる。地方や他の地区でそれを売ればかなりの儲けが得られる。


 無論帝国に権力で取り上げられる可能性もあるが、その程度の損益を恐れてしり込みするような女ではない。


「帝都へも通しているので私としても都合がよくなりました。この通信網が生きるのは十年ほどの可能性もありますが、代替えの高度なものが定着するまではかなり安定した収入になるでしょう。まあ、軍事転用もなされるでしょうから難しいところですが」


 古今東西、国は軍事に金をかける。そして科学の発展は戦争を伴ってきた。今も帝国は軍事力によって領土を広げている。もっとも、現帝王は実際の軍事衝突を起こすことは少なかった。だからこそ恐れられているのだろう。


「……本当に利権をもらってもよかったので?」

「電報所の発案はエルトナでしたし、帝国での利益を得るわけにもいかないですから」


 前から思っていたが、ユマは商売っ気がない。生まれを考えれば仕方ないのか。

「ユマは、お金に興味が薄いですね」

「あ、これだからお坊ちゃんはって思ってます?」

 三階の応接室でのお茶会という名の会議だが、男とばれてからユマは随分と可愛らしくなってしまった。気を許したような口調は時折僕っ子になっている。


「昔は絵を売ったりしてお小遣いを増やしたりもしてましたよ。まあ、あんまり大っぴらな商売は立場上できないですが」

 ユマの絵は馬鹿みたいな高額で競り落とされたとワイズから聞いている。彼の絵は優れているがジェゼロ王族という付加価値が大きいだろう。それは本人もわかっているようだが、金の価値を理解しきっていない気はする。


「ユマも成果会で何かしてみては? 金銭のやり取りも許可されていますし、金を稼ぐ大変さを知ってみるのもいいと思います」

 アルバイトで働いてもらっているし、王の血がどうと言わなくても、ユマなら普通に仕事をして稼げてしまいそうな気はするが、この屋敷を維持するだけの金は到底稼げていない。


「……お金の大事さは理解していますが……そうですね。自分か積極的に事業を起こしたり稼いだりはしてきませんでしたね。他国で僕個人の為に稼ぐことは避けたいですから……やはりルールー統治区を使ってでしょう。成果会はルーラが張り切っているからあんまり口を出さない方がいい気がします。僕が成功しても失敗しても足を引っ張るでしょう?」

 単に男の恰好で人前に出られないだけかと思ったが、助けないのはルーラの邪魔をしないためだったらしい。


 旧人類美術科の生徒と教員は皆ユマに対して好意的だ。初めからそうなので出自が知らされているか、上からの強い要請があった可能性は高いが、それにしても楽しく構いに行っている姿をよく見る。別の企画をユマが始めればほとんどがルーラではなくユマに着くだろう。


「ああ、でも色々とルールー統治区で事業は始めてますが、エルトナの助言が大きいので僕一人で考えたわけではないですし、僕自身が動いていないのですが……」

 そう言って、いそいそと資料を取り出し雑談から仕事の話に変わる。


 薄々気づいていたが、ルールー統治区はユマが留学を決めた時点でユマのための練習台に決定していたのだろう。

 本来であれば今年度から入学して、少し落ち着いたら色々とさせていく計画で、この屋敷や学科の準備もしていた。だが、ユマが急に留学を決めたので完璧でない状態での受け入れになり、いくつかの不備が出たのだ。


 誰がそんなことをと聞かれれば、帝王かそこに近い人物だと答えが出る。流石に統治区を子供の練習のために混乱に陥れる訳には行かない。それが許されるのはこの帝国を治めるものだけだ。


 では、なぜか?


 ユマはジェーム帝国の国民ではない。ジェゼロの正当な王の血筋だ。帝国にスカウトするには他国から反発は出るだろう。それこそ女神教会は猛反対するだろう。ジェゼロ国へは不可侵であるべきなのに、王子を攫うような真似ととられるかもしれない。いかんせん女神教会は定期的に過激派が発生するのでそれとかち合えば戦争か内紛に発展しかねない。


 だが、将来のジェゼロの内政のためにこんなことをさせているとは正直言って思えない。

 ルールー統治区のアシュスナとサジルから送られてきた電報とそれとは別に送られる書類を見ながら確認する。比較的順調だが問題もある。サジルだけで解決せずにユマに確認しているのも訓練に見えてしまう。そしてユマはとても優秀な生徒だ。ここまで優秀だといっそ心配だ。


「聞いてますか? エルトナ」

 年相応に少し拗ねたような表情を向けられた。


 最近は薬のせいか感情の揺れ幅が大きくなった自覚がある。一つ目の記録は結婚していた。薬のお陰で感情的影響は減ったが、ユマを見てると一つ目の妻の情報がふっと浮かぶ。まあ、ユマのような整い過ぎた顔ではない平凡だったのだが……。


「夏に、国に戻るんですよね」

「はい。一応、エルトナも連れて行けるように調整する予定ですが、如何ですか?」

 それはありがたい。サセルサもいるし、ルーラが手伝えば何とかなるだろう。サセルサが苦労するくらいなら所長代理も働くだろう。


「それはありがたいです」

 頷いてから、助言をする。

「ジェーム帝国に残るつもりがないなら、そのままこちらに戻らない事を強く勧めます」

「……エルトナ?」


 これは帝王の意志に背く言葉だろうが、ユマは友人だ。進んで助けてくれた人だ。


「どういった思惑があるかはわかりませんが、冬になってジェゼロへ返される確率は低いでしょう。今回の冬のように帝都へ連れていかれるかどうなるかはわかりませんが、ユマについているのは帝国からの警護の数だけ。帝国から逃れることは困難です」

 この屋敷事態、本当の意味でユマの味方ではない。雇い主はユマではないのだ。


 ユマ・ジェゼロを帝国へ吸収する前準備であるならば、ここまで金をかける理由も理解できる。女神教会は普通に考えれば反発するが、上手く先導できなくはない。大司教の一件もそのための下準備ではないかとすら考えてしまう。


「どちらにしろ、こちらに残せないものは持っていくようにしてください」

 部屋の出入り口に立つユマの警護長である男の方へ一度だけ視線を向けた。




 夏で留学を止めたとして、帝王は納得するだろうか。


 一応アシュスナの運営は上手くいっているので、わざわざ新しく統治者を持ってくる可能性は減っている。

 エルトナが真面目に進言してくれたのはわかっている。なんとなく、帝王は母に対して妙に好意的だから無理強いはしないとか、今年で運営もある程度落ち着くだろうからというぬるい考えもあった。


 最初の知らせはできたばかりの電報からだった。


 狩りをしていた農民がアッサルで殺された。こちらは都地区よりも国境に近いため、注意を促すためだ。アシュスナ達にとって、僕にもしもの事があれば一大事でしかない。


「ジェゼロでは、国境付近でこういったことはありませんでしたよね」

 カシスへ問いかけると、頷きが返る。


「隣国でジェゼロに手を出そうなどというのはナサナ国くらいでしょう。無論、ナサナ国民はそれほど馬鹿ではありませんし、各国の国境付近の住人はジェゼロと問題を起こせば村から追い出される可能性もあります。相手は神の国の住人。国境付近には不思議と神罰の言い伝えも多くあります。オオガミが趣味で増やした狼犬も縄張りを持っていますから、それらを知らない者がジェゼロの森に入るのは純粋に危険です」


 その狼犬の管理を今はナゲルの両親が趣味でしている。小さいころから何度も見ているので僕は特に怖いと思わないし、もふもふしていて可愛いとすら思うが、ソラ曰く、普通に怖いとのことだ。確かにかなり大型の犬なので、群れに襲われれば危険だろう。


 カシスがトーヤへ視線を向け呼び寄せる。

「ああ、そういえばトーヤはあちらの生まれでしたか」

 時間契約者になる前の事は別に口外しても問題ない。彼はアッサルから売られてきたと言っていた。


「我々はこちらの地勢には疎い。向こうの状況などを知っておきたい」

 カシスに促され、トーヤが口を開く。

「アッサルは王政と国民評議が融合された国です。現在の国王はお飾りでしかなく、国民投票で評議員を選出し、政治を行っています」

 旧人類では比較的一般的だった選挙制というやつか。ジェゼロも議会院が実質国を動かしているし、他にも意見を言える構造があるが、直接選挙ではない。案外民主主義な国らしいと感心したがトーヤは否定した。


「投票は名ばかりで、一票の差は税を治める額に比例するため農民などの意見は基本通りません。自分が仕えていた方は、地方を治めている方で珍しいことに平民支持を受けていました。権力者は少ないですが抱える数は多かったと思います。今思えば、あれは……暗殺は奥方の独断ではなく国の中枢の意志でもあったのでしょう」

 殺されてしまった主を語る姿は、少し寂しそうに見えた。


「国を出た身なので、現在の状況はわかりません。これから話すことは予想でしかありません」


 そう前置きをしてトーヤは続けた。

 今のアッサル国は一票が軽い平民が不満を抱えた状態で、貴族階級のような者たちはいつ暴動が起こるかと怯えている可能性があること。


 ジェーム帝国であるルールー統治区とは昔戦争もあったが、賄賂を渡す形で平静を保っていた。アッサルは帝国と比べれば小国だ。ジェゼロよりは大きいが、戦争となればすぐに吸収されてしまう。だが、アシュスナはそう言った金は不要だという方針を取っている。国交の正常化以前に、攻めるから上納金はいらないととっても不思議がないそうだ。


 内部には国民という危険分子、明確な敵ではないはずだった近隣のルールー統治区にはやたらと帝国軍が入り出している。疑心暗鬼で先手を売ってくる可能性があると言う。それに、内乱を治めるために他国と戦争するのは比較的一般的手法ではある。


「流石に、そこまで馬鹿ではないのでは?」

 先に交渉なり使者を送るだろう。


「その……故郷を悪し様に言いたくはないのですが、アッサル国国王は到底聡明とは申し上げられません。主君に帯同し、一度尊顔を拝見しましたが……人を見た目で判断すべきではありませんが、恐らく、血縁間での婚姻が多かった結果の病の一種も患っていたと考えられます」


 ジェゼロは戸籍を作り、税金徴収のためだけでなく近親結婚を抑制するために活用している。あまり大きな国ではないので、どうしても血が近くなりやすい。多くはないが、ジェゼロ国へ国外の者を受け入れているのはそう言った対策もあったのだろう。ちなみに同意のない近親相姦は最悪死罪。婦女暴行以上に罪が重くなる。


 うちのように、王がちょっとアレでも周囲に聡明な者がいて、その意見を聞き入れる程度の節度があれば案外国は上手く回る。無論利用しようという悪人も出てくるので注意が必要だ。今のジェゼロは権力争いもなく、とても平和過ぎて実感がもてないが、小説のような話としては理解できる。


「ユマ様、陛下は優秀な王です。親としての資質は存じ上げかねますが、他国もそうであることは多くありません」

 カシスが母を褒める。突発の命令で散々振り回されているのに、これが忠義というものだろうか。お世辞で褒める人ではないので、少し嬉しく思う。同時に、僕が心の隅で母を馬鹿にしているのがばれた気がして恥ずかしくなる。いや、蔑んでいた訳ではない、そんなことをしたらベンジャミン先生に嫌われる。ジェゼロ王にとって変人扱いはいつもの事だと思っていたのだ。


「場合によっては戦争になる可能性があると言うことでいいですか?」

 国境でルールー統治区の国民が殺された。それだけだ。だがわざわざ電報を打ってきたくらいだ。

「直ぐに攻めてくるとは言いませんが、元々国境の東地区では帝国が警戒をしていた地域。過剰反応かもしれませんが、まったく考慮していない状態では後手に回るかと」

 春の終わりはそんな物騒な話題で終わった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ