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女装王子の留学記 ~美少年過ぎて女性恐怖症になったけど、女装していれば普通に生活できます~  作者: 笹色 ゑ
帝都へ

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81 お叱り

   八十一



 目が覚めたら、めちゃくちゃに怒られる覚悟はしていた。何せ夢の中で正座させられて全員に囲まれて怒鳴られていたくらいだ。


 目を覚ましたら、天井だった。うつ伏せかなと思ったが、少し背中を上げた状態で寝ころがされていたようだ。


「うわっ……ニコルっ!?」


 寝台の足側に直立で立っているニコルがいた。無表情だったニコルと目が合うと、その目から、大粒の涙がぼろぼろと落ち始めた。何かそういう仕掛け人形にも見えてしまう。


「う、うぁぁ、ユマ様の馬鹿ぁぁあ」


 大きな声にびっくりしていると、直ぐにドアが開いた。

 カシス達が入ってきて、一気に人口密度が高くなる。


「あれ、ナゲル……こっちに来てたんだ。夢ですごく叱られたけど、現実、痛っ」

 ナゲルが入るなり平手で頭を叩いてくる。すぱんといい音が鳴った。


「ぁあ? 現実でもばちくそ叱ってやるから安心しろよ」

 言葉とは裏腹に、とてもほっとした顔をしている。


「あ……何日くらい、寝てた?」

「四日です。状態は安定していましたが、あと二日待っても起きない場合は、多少無理をしてでもジェゼロへ運ぶ予定でした」

 カシスが淡々と言う。こちらは安心もしているが絶対怒っている。


 細めの男、フィノと名乗ったゲスが、エルトナを捕えている場所の詳細は僕にしか言わないと言ったので教会まで一緒に行った。


 教会の横側にある扉を示されたのでニコルが先に入って安全確認を行いに階段を上がった。その直後に教会から見張りらしき男たちが出てきて、こちらへ向かってきたため一瞬混乱が起きて、僕も上へ行ったのだ。


 火を点けようとしていた男を殺したのはニコルだが、もう一人の見張りは僕が再起不能にした。そのあとは流れでどっちが悪魔だと言ってしまい、火だけではなく射手も用意していたらしく、それからエルトナを庇うために射られてしまった。


 下はかなり混乱していたのをぼんやり覚えている。

 正直にいって、その後はあまりはっきり覚えていない。


「あの……僕以外の被害は?」

「八人が死亡。一時三百人近くを拘束。現在は三十人を地下牢に収容。大半は農民でしたので登録して身元引受がはっきりしたものは開放しています」


「ブランカ大司教と……ルピナスは? それと……こちら側に死傷者は?」

 八人が死んだと聞いて、誰が死んだのかと唾を飲んだ。


「ブランカ元大司教は拘束しています。大きな外傷はありません。ルピナス・ルールーも捕縛できていますが、いくつか損傷が。命には別条はありません。こちらの被害は教会内に入れていた帝国の警護が三人重傷、四人軽傷、幸い死者は出ません。ユマ様の誘拐犯としてエルトナたち三人も監禁しています」

 最後の言葉に一瞬過剰に反応しそうになったが、一度息をついて一つずつ確認する。


「わかりました。できれば帝国の警護などには謝罪と慰問をできればと考えています。ブランカ大司教は既にその座をおろされているようですが、我々では荷が重い相手、帝国に対応を任せます。ルピナス・ルールーは帝国側で必要であれば、ルールー統治区での聴取の後であれば引き渡しても構いません」

 僕の勝手で怪我を負ったものを敬う必要がある。これまで帝国の警護とのやり取りはカシスに一任していたが、事は僕の警護だけではなくなっているので改めて顔合わせが必要だ。

「その様に対応いたします」


「それと、エルトナ達は被害者で、あくまでも僕が救出の手伝いをするため、自主的に屋敷から抜け出しました。捕えておく必要はありません」

 そう付け加えると、カシスは首を横に振った。

「非道な扱いはしておりませんのでご安心ください。ただ、解放はできかねます」


 じっとカシスを見ると、困った生徒でも見るように眉根を寄せた。

「ハリサ・ハザキとネイルは元調査隊……帝王陛下直轄部隊のものです。今回ネイルがルピナスを逃亡および暗殺される前に捕縛に協力しています。ハリサも教会の中にいた帝国軍に顔見知りがいたためそれに従い制圧を手伝っていました。ユマ様の意向の確認を行ってからですが、悪いようにはならないでしょう。ただ、そのままヒスラに返してまた誘拐されれば我々も付き合いきれません。ユマ様がいる間はこちらに留めて置く事になっています」


 形式的に監禁という扱いだが、軟禁に近いようだ。


「できれば会っておきたいのですが……」

 ダメだろうかと眉尻を下げて問う。あまり期待していないが、ちゃんと会って話しておきたい。いや、できれば会って話したくない。エルトナに今回こそ男だとばれているだろう。それに、僕が何者かも……。

 正直、どんな顔をして会えばいいのかわからない。


「……あと数日はユマ様の体調を優先して安静にしていただきたいのですが、こちらですべきことはむしろ増えております。こちらの指示に従い、できる限りベッドで過ごしていただけるのであれば、ヒスラへ戻る前には場を設けましょう」

「わかりました」


 最低限の報告が終わって、周りを見る。


 ニコルはまだぐずぐずと泣いてトーヤの後ろに隠れている。トーヤは安堵が強い顔だ。リリーも少し泣きそうな顔をしていたのが意外だった。ミトーは席を外しているのかここにはいない。


「話が終わりなら、俺に仕事をさせてもらいますよ。ニコルは湯を持ってきてくれ」

「はいっ!」


 仕事を与えられてニコルが風の如く部屋を出ていく。それに合わせてナゲルが他も出ていくように指示した。傷口の診察と手当をするのだろう。


 ドアが閉まってから上着を脱ぐ。


「痛みは?」

「まあ、多少……。流石に抜いた時の記憶が半分くらいない程度には激痛だったんだけど」


 これまでも怪我はしてきた。基本は母かベンジャミン先生、それにハザキ外務統括が手当や対応をしてくれていた。


「普通に、貫通したのと腹に刺さってたのは致命傷だったからな? 肺のも、一歩間違えば質が悪かった可能性もある」

「つまり……エルトナにあのまま刺さってたら、死んでた可能性が高かったって事だね」

 そう返したら頭に手刀を落とされた。


「そうだけど、そうじゃない」

「いや、僕が悪かったのは全面的に認めるよ。だけど僕に被虐趣味はないから別に好きで痛い目に遭いに行ったわけじゃないし。咄嗟の行動だよ」

「お前、自分が変な体質だからって、高ぁ括ってると痛い目見るぞ。お前は怪我が治りやすくても、首を落とせば死ぬし、一度死んだら生き返ることはないんだからな」


 ジェゼロ王の血筋が、神聖視される別の理由がある。毒に強く、怪我の傷跡が残らないほどの再生力、新人類などと揶揄されることもあると聞く。

 実際、今の僕の回復は異常だ。自然治癒というには気味の悪いほどだ。もう傷は塞がっているし、腕はもう動かしても違和感がある程度だし、肺を傷つけた事も嘘のように呼吸は正常だ。流石に腹部は修復は終わっていないらしく、動かすと体が軋む感じはする。


「はは……それにしても、容赦ない応急処置だったね」

「自分で力ずくで抜く奴には言われたくない」

「あれは……体質的に異物は残さず取り出した方が……治りが速いっていう本能が」


 母から教わることは毒の耐性以外にも自分が怪我をしたときの応急処置と、普通の人との違いだ。

 余程でなければ死ねないと言われているが、対応を間違えると治りが遅くなったり、酷く痛くなるのだ。


「一応、帝都でお前達の特殊体質に対する治療も習ってきたんだけどな。大量に出血しながら血ぃ吐いて、眠いって意識を失われた日にゃあ、死んだと思うだろ」

 肩を落としてナゲルが言う。それは、酷い話だ。逆の立場ならぞっとする。


「それは、大変だったね。まあ、僕は無事だったし」

 再び頭に手刀を落とされると、部屋をノックして許可を得てからニコルが入ってきた。目元が赤いが、もう泣き止んだようだ。


「ニコルも、心配させたみたいで、ごめんね」

 桶を置いたニコルに声をかけると、びくっと肩を震わせた。こちらを見て、また涙をあふれさせる。

「うっ、ぅうっ」

 何も言わず脱兎の如く部屋を出て行ってしまう。


「お前、ニコルに心の傷を作り過ぎだろ」

 首を傾げるとため息をつかれた。

「混乱から二階に上がろうとした奴がいたから、ニコルは一人でそういうやつらの対処をしてたんだよ。俺が他を気にせず手当に集中できてたのはあいつがいたからだ。場が落ち着いてからも、ずっとお前が見える位置から離れようとしないし、お前が目ぇ覚めたらまたどこかへ行くかも知れないからって、日のほとんどをお前の監視に費やしてたんだぞ」

 その光景を想像して、少し怖いと思ってしまった。


「じゃあ、しばらく眠れてないんじゃないかな。大丈夫?」

「あれが大丈夫に見えるか?」

「見えないね」

 僕と共に川流れした後も様子がおかしかったが、今回も中々だ。幼児退行のようなものだろうか。


「お前が思ってる以上に、あいつらはお前に対する忠犬だってことだ」

「あいつら?」

 複数形に再び首を傾げた。


「トーヤはお前を射た相手に短刀を投げて更に攻撃できないように仕留めたらしいし、こっちに来てからはニコルと交代で悲壮な顔をしてたぞ。後、カシス隊長やリリーにミトーも。何だかんだで命令だけでなくお前を案じてる。軽率かつ自己犠牲を平気な主を持った奴らはいっそ自分を盾に使ってくれた方が楽なのにって顔に書いてたぞ」

 早口に捲し立てられて、ナゲルも相当にお怒りなのがわかる。


 川に落ちた時も本当に困らせたが、そろそろ愛想を尽かされても不思議がないなと苦笑いが漏れた。


「はぁ、説教してもどうせ治らないからもう終いだ。ただ、これ以上心労を増やしてやるなよ」

「うー、善処します」


 説教が一先ず終わり、お湯を絞った布で体を清めつつ、ナゲルの診断を受ける。本当に化け物じみてるなという評価を与えられた。

 四日も昏睡状態で体が治癒を優先したのだ。実際相当の損傷があったのだろう。これまで怪我をして寝ていた最長記録だ。


「腹の具合がまだなら、飯はどうする?」

「スープから初めて、問題がなければ消化にいいものから食べ始めるよ。体を作るのに材料が必要だからね。結構お腹空いてるから、多分大丈夫だと思うし」


 二・三日はできるだけベッドで過ごすことを命じられる。


「後でもう少し詳しい現状を聞きたいって伝えておいて」

 また眠気が来て、うつらうつらとしながら頼む。




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