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女装王子の留学記 ~美少年過ぎて女性恐怖症になったけど、女装していれば普通に生活できます~  作者: 笹色 ゑ
帝都へ

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67 計画


   六十七




 サセルサが来たおかげで、エルトナの仕事が格段に少なくなっている。後、嫁だけあって所長代理を上手く動かしているのも仕事が減った理由だろう。


 お昼ごはんを食べながら、簡単に今の状況を話す。前の仕事量ではとても僕の方を手伝ってもらう気にはならなかっただろう。


「サセルサの兄弟のサジルの言うように、冬の間に確保はした方がいいと思います」

 真剣な顔でエルトナが言う。丁寧な喋り方はもう癖らしい。


「エルトナも、処刑推奨ですか?」

「命を絶つことは簡単です。ユマが難易度を上げたいのは承知していますよ。だからこそ、早くに仕留めないといけない。最低ライン……最低限の中でも最小の処刑はおそらくこの当主家族ですが、現当主と実質権限を持つ当主の母は余程帝王に有益と示せない限り処刑されるでしょう。処刑の前に確保して余罪とかかわった者、それに被害者と被害状況を出さないと。後はそこからどこまで処罰となるかですが、証拠隠滅もですが証拠偽造で正しくない罪状が生まれることを避けなければなりません。実際の処刑は直ぐにはできないでしょう。捕まえて尋問したり捕えておく場所もいります」


 近くに刑場があると広げた地図を示しながらエルトナが考え込む。明らかにこういうことに経験がある態度だ。


「エルトナは……どうしてそんなに詳しいんですか?」

「養父の手伝いをしていたからです。まあ、今では彼は敬謙なる女神教会の信徒になりましたが、昔は似非神父でしたから」


 エルトナがすっと視線を下げた。

「養父と知り合ったのは彼が似非神父の時代でした。帝王の命令で活動していた時に、彼に保護されてその時から色々と手伝っているんです」


 エルトナを保護した時の話を少しだけだがツール司教が話していたのを思い出す。

 向かいに座っていたエルトナの頭に手が伸びていた。見上げた目に慌てて手を引っ込めた。

「ツール司教はエルトナと会えたことをとても幸運だと考えているようでした。私が見つけていてもきっとそう思ったと思います」

「ふっ、ユマはなんでか私の事を甘やかしますね。まあ、そんな関係で色々と知っているんです。そのサジルと言う人はツール神父が引き継ぐ相手と同じ立場でしょう。帝国は巨大化して管理しきれないところもありますから、定期的に粛清される土地は出るんです」


 エルトナが別の資料を手に取る。近いので昼ご飯は屋敷に戻って食べている。資料はサジルから渡されていたものだ。

 サジルよりも余程こちらの希望を聞いたうえでエルトナが話を詰めていく。聞きながら、エルトナが有能過ぎて少し引く。


「……エルトナ。ぼ……私のところに本当に永久就職しません? 給料は頑張ります。健康維持にも努めますから」


 そっと手を取り真剣に勧誘すると、エルトナにとても冷ややかな目を向けられた。


「それ、殿方相手にはしないでくださいね。絶対誤解されますよ」

 引き抜きの誤解とはどんな状況だろう。


「どうします? サジルとアシュスナと言う方との話し合いにも立ち会いましょうか」

「……それをしてしまうと、エルトナに全て任すことになると思うので。それにこれ以上エルトナの仕事を増やすのはちょっと」

 それに表に出すとエルトナの危険性が増す。これ以上大っぴらにエルトナの優秀さを出すと、将来的に確保が難しくなる。


「では、昼休憩の間にまとめましょうか」


 これは、別途給料を払った方がいいのではないだろうかと真剣に悩んだ後、リリーに研究所までエルトナを送ってもらった。



 先に来たのはアシュスナ・ルールーだった。

 僕同様にしっかり寝てしっかり食べたのか今日は調子がよさそうな顔色だ。


「体調は良くなられたようでよかったです。先日は酷い顔色でしたから」

「それはあなたも同じでしょう………病弱ならば、無理はしない方がいいのでは?」

「……たまたま、少し体調が悪かっただけです」


 大叔父との稽古という名の折檻を受けて、回復期間だっただけだが、どうも病弱な深窓の令嬢の設定になっている気がする。実際は規格外の頑丈さを誇っている。まあ、言う必要はないか。


 どかっと椅子に腰かけるとじっとこちらを見てくる。顔をまじまじと見られるのは案外と多くなかった気がする。隠れてじっと見られることはよくあるが、真正面からだと大体目を逸らされる。


「………これだけの美人なら、娼館でも稼げそうだな」

 ぼそっとした言葉に首を傾げると、ドアの近くに控えているトーヤがピクリとした。


「そういえば、お母様が娼館で働かれていたと伺っていますが、きっと美しい方だったのでしょうね」

 実際アシュスナはアゴンタよりも割り増しで美形だ。


「……お嬢様は娼館がどんなところかわかってるんで?」

「実際に行ったことはないですね」

「そりゃあ……そうだろ」

 確かに、女装している僕が行くことはないだろう。してなくても、行く予定はない。


 そんな話をしているとサジルがやってきた。


 今日は大量の資料は持ってきていない。一度アシュスナを一瞥すると席に着いた。丸テーブルなので三角の位置に座る形になる。警護がいないのはアシュスナだけだ。


「先日は失礼しました。あまりにも最初から難しい話をしてしまいました」

 真っ白い男がにこやかに言う。なんというか、エルトナに相談した後なので、頼りなく見えて仕方ない。


「サジルさんは、サセルサのご兄弟なのですよね」

「おや……妹をご存じなのですか?」

「はい、所長代理の奥様ですよね……」

「違います」


 被り気味に言われる。所長代理の言葉でぴくりとアシュスナが動く。


「あんな外道と妹は何の関係もありません」

「あんた……あいつの何を知ってるんだ」

 アシュスナが睨みつけて問う。サジルも警戒した目で見返していた。


「……なぜあなたがそんなことを知りたいんですか」

「あいつの弱みか不正証拠で陥れたいからに決まってるだろ」

「………」

「………」


 睨み合っていたが、長い瞬きの後、サジルからアシュスナに手を差し出した。


「社会的抹殺が無理ならば、物理的抹殺でいいと思っています」

「物理は試したが難しかった。それに、簡単に殺していい相手じゃない。屈辱を与えてからでないと」

「それは御もっとも」


 敵の敵は味方とは言うか、所長代理はこんなに恨みを買ってよく仕事ができている。ある意味関心する。固い握手をする二人を見ながら、苦笑いが漏れる。


「意気投合されたようでよかったです。空気もよくなったところで、頂いた資料を基に色々と考えた結果がこちらです」


 エルトナがまとめてくれた資料を出して説明する。

 最初は子供のお遊戯のように見ていたが、サジルの目の色が変わっていく。


「正直に言って、アシュスナの心が決まらないなら、保護してルールーの名を捨てていただけば命を助けることは吝かではありません」


 下手に家族の情を出してしまっても問題だ。


「思ったより、死刑執行に時間があるな……。捕まえて三日くらいで処刑できないんで?」

「あなた、本当に父親を殺すことに躊躇いがないんですか」


 サジルが不審の目をアシュスナに向ける。


「えーっと、サジルでしたっけ。その見た目だ。親に売られなかったとしても、よくて産みの親から保護された口でしょう。親の情がわかるんで?」

「……兄弟の情くらいはわかります」


 何か思うところがあったのだろう。サジルが冷たい笑みを浮かべている。白子は薬の材料にされたり、色々大変な目に遭うらしい。幼いときに売られることもよくあると聞く。サジルとサセルサも保護された口なのだろう。


「俺は御存じの通り娼館生まれ。本家には使用人として引き取られ、人間の屑を具現化したような腹違いの弟には奴隷扱い。その生活から抜け出すためにリンレット学院に自力で特待生として入学したんだ。父親はあの糞が俺に虫食わそうとしているときに、虫を触るのは汚い別の者にさせるようにと在り難い助言をしていた。俺にとっては、あいつらは毒虫だ。俺にとってはまだ娼館の女たちの方がまだ家族と呼べる」


 これでもとても短く話した身の上だろう。それでもかなり酷いのだから、彼が私怨から罪状を増やす可能性はあるが、隠匿する心配はなさそうだ。


「当主、グロリアーレ、アゴンタは処刑で間違いないな。他は?」

「ルピナス・ルールーは如何ですか? アゴンタとは同腹の兄弟でしょう?」


 研究校の生徒でもあるらしい。兄を止められなかったが、まだ常識人に見えた。


「ルピナスか……」

 腕を組んで一巡する。

「………情報を吐かせるのには向いてる。アゴンタは頭が悪いからな、実質的な仕事は妹に押し付けられるように教育していたはずだ。内情や金の把握は簡単になる。そこまで接した回数は多くないが、良くも悪くも従順な性格だ。どこまで実行を押し付けられてるかは今の俺じゃわからない。場合によっては処刑も已む無しだろう」


 僕が持ってきていた物をさらに詰めていく。


 サジルも無能呼ばわりされたのが余程腹に据えたのだろう、次は全員処分という方向性ではない話をちゃんとしてくれている。主軸に置くアシュスナが親兄弟の処分も辞さない方向なのもあるだろう。


「その方向で情報収集を行いましょう。冬の間にアシュスナには私と共にいくつかの地へ向かってもらいます。本来はユマ様に同行いただきたいのですが、ユマ様への求婚があったことを考えれば、ユマ様の安全上動き回ることは避けた方がいいでしょう」


 アゴンタの一件を思えば、僕を懐柔するなりすれば問題ないと考えている可能性は確かにある。あり得ないし気持ちの悪い想像だが、アゴンタと恋仲になって、僕が帝王に懇願すれば、世代交代でアゴンタを当主にするだけで終われるかもしれない。ある意味で、とても正しい判断だが、手札であるアゴンタがあまりにも質が低い。慈悲深いように扱われる時があるが、僕は別に全人類に優しい訳ではない。


「求婚?」

 連れまわされることよりも、その単語に引っ掛かったらしくアシュスナが眉根を寄せる。


「こちらには、夜会で求婚したという情報が来ています」

「まあ、普通に考えてお断りですけれど……わたくしの理想の男性にはあまりにも遠すぎて、将来的にも絶望的ですし」

「ユマ様には理想の方が?」


 サジルが意外そうに聞いてくる。


「詳しくは内緒ですよ」

 物凄く事細かに『理想の男性像』については語れる。何せ実物としてベンジャミン先生がいるのだ。ああいう男になりたいと思っているが、僕の理想とする男になるには程遠い。オオガミに簡単に負けるようではまだまだだ。


「そんなことよりも、サジルさんが協力的になっていただけてよかったです。私では実際の人の動かし方はもちろん、帝国の軍に命じたりは難しいですから」

 それもこれも所長代理という存在のお陰だろうか。義理の兄弟に対してそこまで悪感情を抱かせる彼が凄いのか、そんな相手と結婚するサセルサが凄いのか……。


「自分がユマ様の方法で納得したのは先ほどの提案があったからです。多少手間は増えますが、彼も身内殺しに否がないと言うのであれば駒としては役に立つでしょう。役に立たなければ処分すればいいだけの話ですから」


 ああ、エルトナの指導の賜物かと納得する。エルトナからの提案を聞いていたとき、とても感心していた。


「報告は伺います。指導いただく以上必要でしたら交渉の場へ出向くこともいたします。有能な方と協力できればとても心強いですから。何せ、強敵よりも愚かな味方の方が余程厄介な相手ですから」


 議会院には定期的にそういう者が紛れ込んで、困るらしい。書類上の有能だけでは測れないところもある。




ナチュラル求婚(無自覚)

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