表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女装王子の留学記 ~美少年過ぎて女性恐怖症になったけど、女装していれば普通に生活できます~  作者: 笹色 ゑ
帝都へ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

65/165

64 みんなでたのしい訓練


   六十四




 部屋に戻り、椅子に腰かけ、化粧が崩れるのを気にしつつ、両手で顔を覆った。顔が熱くなっているのは手にも伝わってくる。


 よくよく思い出せば、確かにエルトナは女の子だった。


 体格もソラと同年ならば少年でも否定はできないが僕とほぼ同じ歳と考えれば華奢過ぎる。それに、エルトナの治療方針を決める際、放射線断層画像を目にしていたではないか。血管にしか目が行っていなかったけれど、男と女で一部の臓器が違うのだ。


 今の僕はエルトナには女と認識されているから許されているが、男から自分の屋敷の一室を準備したから使っていいと言うのは、かなりダメな行為ではないだろうか。


「……ナゲルがいないのがこんなに辛いとはっ」

 ナゲルに呆れられつつ相談をしたい。


 エルトナとその保護者に話した事に偽りはない。ジェゼロに欲しい人材だし、健康もとても案じている。だが、それはエルトナが女の子だと認識していなかったから何の気兼ねもなく行ってきたのだ。

 でも、あれだ。今の僕は女性としているから、女同士ならば許される。


 すっくと立ちあがり、何度か頷いた。そうだ。ララがソラを案じるようなものだ。年齢的にはソラがララを案じるべきだが、ララの方がしっかりしている。

 そう考えれば、別に部屋を準備しても不思議がない。むしろ、女同士なのだからたまに部屋に行き来してお茶をするくらい普通ではないだろうか。


 エルトナがジェゼロのオーパーツ大学などで働いてくれるとなったら、到着してから話せばいい。そもそも、帝王命が出るくらいだから、エルトナがその気になったら帝王陛下からも許可が必要だろう。そこは母の子であることを前面に出して強請ってみよう。


 そもそも、なんでそこまでしてエルトナをジェゼロに引き込みたいのだろうかと握っていた拳を眺める。


「………まあ、ジェゼロは人材不足だから」

 何かが胸につかえたが、納得のいく答えが出た。



 時折もやっとした気持ちになりながら、眠りについた。朝からオオガミの稽古があるので憂鬱だ。


 本当はオオガミが提案した翌朝に行う予定だったが、シューマー執事が高価な調度品を片付ける時間がいると言ったのだ。それに他の住人が覗けないように正面玄関へ続く廊下を閉ざしてくれるそうだ。

 まあ、そんな気遣いよりも、ここで稽古など許可できないと言ってくれた方がよかった。


「私、がんばります!」

 アリエッタは体力強化として計画をトーヤが立て、リリーに監督として特訓を見てもらっているようだ。今日も訓練に積極的だ。


「ユマ様の能力を把握できることはありがたいのですが……」

 安い布地の稽古用の服だがスカートは長いままだ。これで何を稽古するのだとトーヤが怖い顔をしている。


「普段の恰好で訓練をしないと意味がありませんからね。リリー、先にどの程度本気でするべきか手本を見せてあげてくれますか?」


 オオガミが持っているのは木刀だ。警護は長刀を帯刀しているが普通は許可されないので彼ら用の訓練だ。僕は後で短剣を用いた訓練を受けることになっている。憂鬱だ。


 全員が訓練をすると守るものがいなくなるので、今回カシスは訓練に参加しない。オオガミが来てからたまに二人で死合いのようなことをしているとは耳にしている。正直人に見せられるものではないだろう。


 リリーが最初に剣を構える。


 彼女は城警護の中でも武闘派だ。誘拐事件ではだまし討ちを交えたとはいえ、男三人を悲鳴も上げさせずに仕留めている。


 リリーは剣術においてオオガミを尊敬している。片手で構えるようなふざけたオオガミにまっすぐに剣を向けている。打ち合いが始まると、かなり速い剣の応酬が続く。それでも次第にリリーの勢いが落ちていき、手品のようにオオガミが剣を巻き上げて勝負がついた。それを一緒に階段に座って眺めていたアリエッタがぽかんと口を開けて見ていた。


 次はトーヤ対オオガミで、先に技量を見せただけに本気でかかっていく。


 トーヤは小さいころから訓練を受けただろう剣術でジェゼロとは流派が違う動きだ。かなりの手練れだとカシスが評するくらいだから実際に強い。だが、剣にこだわり過ぎたようで、間合いを詰めたオオガミに腕を掴まれ一本背負いをされた。


 ニコルの前にアリエッタが呼ばれた。少し休憩なのだろう。三つほど簡単に護身術を教えていた。掴まれた時に逃げるための手の返し方や、殺されると覚悟したら、そんな相手に今後子孫を残されるかという強い怨念を込めた攻撃方法を教えていてちょっとぞっとした。因みに相手が女でもとりあえず同じ攻撃を仕掛けろとのことだ。


 次はニコルで思った以上に身体能力が高かった。何よりもオオガミ相手に一切の躊躇いがない。使うのは短剣より少し長い程度のものだが、刀身がない木刀でも確実に致命傷を狙いに行っていた。オオガミも非常に楽しそうに相手をしている。完全に負けそうになった時、ニコルが咄嗟に隠しナイフを取り出してオオガミに対抗し、わずかに頬の横に傷を負わせたものの、すぐにオオガミに取り押さえられてしまった。


 普通ならば訓練で許可なく真剣を使ったのだから懲罰対象だが、オオガミはこれなら十分な実力だと褒めていた。なぜかニコルはオオガミに懐いているようだ。殺すような意気込みで仕掛けていった相手に褒められて嬉しそうに笑っていた。


 最後は僕だ。

「……はぁ、ハザキにもこの前甚振られたんですよ」


 憂鬱だ。





 死にかけた午前を終え、昼食を碌に食べられずに過ごしたころ、シューマー執事が部屋を訪ねに来た。とカシスが伝えてくれる。


 今はベッドで横たわったまま報告を聞いていた。


「帝王が今回の処断に際して指南役を送ってくれたそうです。駅に着いたようですが……普通は出迎えに立つものですが……如何されますか」


 見下ろしてくるカシスに目を瞑る。寝ていたい。

 ジェゼロ王族に伝わる回復術がある。怪我をしたりきつめの毒などを受けたら、安全な場所でひたすら寝ると言う奥義である。何が凄いかといえば、治療しないと死ぬ怪我でも、二・三日で大体動ける程度まで復活できる。無論、普通の人は医師にかかった方がいい。


 神に選ばれたとか、血の審判とは聞いているが、きっとこの異常体質が神とやらには重要なのだ。この体質は女系にしか遺伝しない。正式にはジェゼロ王を母に持つ子には遺伝する。僕がもし結婚して子供ができても僕が産むわけではないので普通の体質になるそうだ。だから男は王にはなれない。差別や伝統ではなく、生き物としての結果だ。


 ふと頭にエルトナが過ったが気のせいだろう。


「夕方には動けると思いますが……ベンジャミン先生が、オオガミとやり合うときは本気で殺しにかかる理由を身をもって知りました」


 口はよく動く。顔や頭だけは攻撃されなかったのも、余裕を持たれているようで余計腹立つ。


「……ご自身の経験上、ユマ様がどの程度までは平気か考慮しての事でしょう……まあ、鬼畜であることはよくわかりました」


 僕の稽古は途中ニコルとトーヤが乱入し、最終カシスが止めに入って終了した。


「大変実践的かつ、各実力を見るにはよかったですが、今狙われると非常に困ります」

 カシスがため息をついた。ならばもっと早くに止めに入って欲しかった。


「無理をすれば挨拶には行けますが、明日までできればこのまま横たわっていたいです」

「体調不良ということで、私が代わりに挨拶をしておきましょう。明日には動けそうですか?」


 重い手を持ち上げてみる。こういう時客観的に診てくれるナゲㇽがいないのは厄介だ。


「まあ、夕食には下りられると思います」


 確認を済ませて、カシスが出ていくと目を閉じる。体が休息を求めてもう一度泥のような眠りに足を取られた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ