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女装王子の留学記 ~美少年過ぎて女性恐怖症になったけど、女装していれば普通に生活できます~  作者: 笹色 ゑ
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56 新しい館

   五十六   




 ユマ様から、帝国の方に警護を頼んで、私だけユマ様の故郷の孤児院に連れて行ってもらうこともできると言われた。


 国に帰る予定だったが、ヒスラで冬を過ごすことになってしまったとユマ様が仰り、もともとアリエッタは故郷で預かる予定だったからと。ユマ様の故郷は安全で、時間契約をしていたことも知られずに生活できると。


「私がいても、やはり、ご迷惑でしょうか」

 数日かかる列車の中で、分岐点を前にして小さくつぶやいた。


 ユマ様のお部屋はもう一つの列車だ。全員がいてもユマ様の気が抜けないからと、私はこちらで過ごさせてもらっている。私は気を使ってもらうばかりで、ユマ様の役に立てていない。


「アリエッタ」

 独り言だったが、声をかけてきたのはトーヤだった。いつも真剣な顔で、ユマ様の警護に成れるようにいつも頑張っているのを知っているから怖くないが、最初は少し怖かった人だ。


「ユマ様は君が元気になったことを喜ばれている」

 ユマ様はとても優しい。酷いことなど一つもしない。逆に叱られることがなくて不安になるくらいだ。だから、私の事で喜んでくれているのかも正直わからない。けれど、頷いて返す。


「恩を返したいというならば、君はまず一人でも生きられるくらいに仕事を覚えるべきだ。誰かを支えたいと思うものが、一人で生きていけないようでは話にならない」

「……はい」


 ユマ様は、生活の面倒も見てくださる。けれど、手放すことを厭うからではない。ココアの時のように、出て行っても問題がないならば呆気なく手を放してしまわれる。所有されて、ものとして扱われる生活を知っている。捨てられるのは死ぬ時だと思っていた。どちらがすこしでも辛くないだろうかと考えて過ごす日々だった。今は、ユマ様に縋り付こうとしている自分がいる。


「迷惑を、かけないためには……孤児院でお勉強をして、一人前になってから、ユマ様の侍女になるのがいいとわかっています。侍女に成れなくても、ユマ様の役に立つことはできるかもしれません」


 ココアみたいに、屋敷の外への買い出しにも向かえない。家事仕事は覚えてきたけどココアのように完璧じゃない。お勉強の時間もきっと足りていない。メリバル様が教えてくださった淑女教育は私なんかには過分だ。


 ユマ様の国の孤児院は、質素だけどちゃんとしているからと教えてくれた。信頼できる人が孤児院を運営しているし、孤児でも仕事につけるからと。


「でも……」

 今すぐにお役に立ちたい。でも、私の為に警護を残してくださったりしている。それは負担でしかない。


 トーヤが片膝をつき、視線を合わせると肩に手を置いた。一年前ならそれだけで怯えて震えていただろう。けど、今は怖くない。


「残るというならば不自由な生活が続く。それでもユマ様の許に留まりたいのか?」

 不自由とは何のことだろう。お屋敷の敷地からは出てはいけないことだろうか。ユマ様の直接のお世話が許されていないことだろうか。邪魔だから、孤児院に入れと命じず、私に選ばせてくれているのに。


「不自由なんて、どこにもないじゃないですか」

「……残るならば、君は努力しなければならない。あの方の前では、心を病んだ姿を見せず、成長する姿を見せて、安心させる役目が生じる」


 それはトーヤが私のために忠告をしているのか、ユマ様のお心のために命じているのかわからなかった。

 けど、彼はユマ様を本当に大事に思っているのだと、不意に納得した。


 ユマ様は、私があの人に買われることを怯えているのを見て助けてくださった。子供が虐げられるのをただ見捨てられなくて、大金を平気で捨ててしまう。助けようとした私があのまま怯えて蹲ったままだったら、きっとユマ様は我が事のように苦しまれたと思う。ココアがあやして夜中の間ずっと慰めてくれて、本当に、地獄から糸が下りてきたのだとわかった。


 私がユマ様に、今お返しできることは、助けたことが無駄でなかったと身をもって示すことなのだ。

 地獄から救われても地獄の記憶は残っている。ひとり寝の夜に、ここがどこかと飛び起きたことは一度や二度ではなかった。けど、朝になってユマ様を見たら、ここはもう地獄ではないと心の底からほっとできた。だから、大丈夫。ユマ様が使ったお金も、私を助けたことも、無駄ではなかったと、一人の子供を救ったと、ちゃんと、大人になれたと示せる。


「……私は、ユマ様の侍女見習いとして、残ります。リリーだけでは掃除も大変です。もし、もし……ユマ様の邪魔になると思ったら、トーヤは教えてくれますか? 私は、私の事でこれ以上ユマ様を煩わせたくはないのです」


 兄はもういない。私の中で、あの人はもうこの世界に、私の世界に存在しない。きっと、そんな私をユマ様は望んでいない気がするから、口には出さないけど、私は、もうあの兄を助けてとは言えない。そんな私でも、ユマ様は気にかけてくださるだろう。

 私はユマ様が思うほど純粋でも優しい子供でもない。それを知られたらと不安に思うけど、それすら許されてしまいそうで怖い。


「わかった。俺から見て、改善が必要だと思った箇所は教える」

 肩に乗っていた手が頭に移って軽く二度叩くと立ちあがた。


「あの……」

 見下ろす目は高さを合わせてくれていた時と違って少し怖い。

「トーヤは、もう少し、ユマ様とお話しした方がいいですよ。こうやって、気遣っていることがきっと伝わってません」


 寡黙で個を殺すようにして仕事をしようとしているけれど、リリーと交代で戻ってきたトーヤはユマ様が川に落ちたことなどは私には伝えなかった。ただ、あまりにもそわそわとしていて、リリーとの交代がとても不満そうだった。それでも、カシスさんの命令だったのだろう。黙って従っている姿は簡単に想像できる。


 ユマ様はご飯の時に色々と話を聞いてくださる。ニコルと競うように話すときもある。けど、トーヤは業務事項しか話さない。


 静かに見下ろす目に、残ることを支持してくれる彼に、ぐっと勇気を出して続ける。


「だって、トーヤも私と同じ、ユマ様に助けられた人です。トーヤが元気になったら、私に対してと同じように、きっと喜んでくれます」


 わずかに、目が大きくなって驚かれている。そのあと、トーヤに笑みを返された。

「君の言うとおりだな」





 列車は無常にヒスラへ到着した。


 いつものように迎えに来たのはメリバル夫人の車だが、到着したのはオゼリア辺境伯の屋敷だった。

 研究所の東側に建てられた街の外にある屋敷だ。夜会で招待されたので知っている。


「これはどういうことでしょうか」

 首を傾げていると中から中年の男が出てきた。


「ようこそユマ様。そしてお帰りなさいませ」

 執事風の男の言葉に反対側へ首を傾げた。


「その、今一理解ができていないのですが」

「中でご説明をいたしましょう。どうぞこちらへ」


 カシスも帝国の警護に視線をやるが彼らは知っているが、こちらは知らされていないようだ。


 案内されて中へ入ると夜会の時とは違い、日常としての正面玄関前の広間が静かに広がっている。三階まで上がると階段近くの応接室に案内された。オゼリア辺境伯がいるのかと思ったが、誰もいない。席を進められ、侍女が茶を準備すると退席する。残っていた執事風の男性が一度深く礼をした。


「こちらは、元々ユマ様のために帝王陛下が建設を進めていたユマ様の屋敷になります」

「はい?」


 ぽかんとしていると、執事風ではなく執事らしい男が続ける。


「わたくしはシューマーと申します。こちらの執事として建物の管理はもちろん使用人の選定にもかかわっております。ああ、維持費などの費用は帝王陛下の私費から出ております。今後もユマ様のご負担はございませんのでご安心ください」

「その……こちらにはオゼリア辺境伯やほかの学生も滞在していたと伺っておりますが」


 オゼリア辺境伯がこの屋敷の主人のように対応していた。それに他にも何人もここに滞在していたはずだ。


「実は、ユマ様の留学は来年以降として建設を進めておりました。建物に関しては三年前から建設を始めていましたので住まいとすることは何とか可能でしたが、ユマ様の格に見合った調度品や使用人の教育が行き届いておらず、本年は已む無くメリバル・アーサー様の屋敷に滞在を頂いたのです。オゼリア辺境伯たちも来年度に向けて住まいの選定を始められていたのですが、急な学科の開始となったため、家財などはご自身で準備していただく形で、帝王陛下が部屋を貸し与えたのです。無論、お客人たちの受け入れの継続はユマ様に決定権がございます」


 他所様の屋敷が、実は僕のための屋敷と言われても、なかなかに受け入れがたい。


「あの、大変光栄ですが………このような扱いは流石に」

 メリバル邸に戻るつもりだったが、それはそれで迷惑かもしれない。何せ僕の誘拐事件に巻き込まれて死を覚悟させてしまったくらいだ。


 どうしようかと考えていると、濁した言葉にシューマー執事が倒れる前のような真っ青な顔になった。あからさまに震えだす。


「………も、もも、申し訳ございません。いくら陛下が許可したとはいえ、新居を先に別の方にお貸しするなどあってはならないことっ。ど、どうか……お怒りをお沈めくださいっ」

「いえ、そんな……有効活用は大事ですから」

「では! ではっ、何か調度品などが気に入らないものがございましたか!? すぐに、すぐに新しいものを準備いたします!」

 食い気味に返される。これは、絶対にこの屋敷に住まわせるという強い意志を感じる。


 今にも死にそうな後がない必死さに引いてしまう。

 僕の生活は警護のしやすさも必須になる。斜め後ろに控えるカシスに視線を向けるととても頭が痛そうだ。


「ユマ様が、せっかく慣れたのですが……」

「ご安心ください。ユマ様は倹約家で質素な生活を好まれていること、また慣れない者が近くにいる生活を好まれないことは調査済みです。一先ずっ、一先ずご用意しているお部屋にご案内を。どうか、どうか私の努力をまずは見てくださいっ」

 部屋を見たうえで断ることができるのだろうか。だが見ずに出ていくことはさらに困難に見える。かといって、このまま帰ればどちらにしろ彼が咎められるのか……。


「……はぁ、わかりました」

 了承すると、ぱっと血色がもどり早速と扉を開ける。

「どうぞこちらに」


 最初に出迎えたときのようにすっとした雰囲気で案内を受ける。メリバル邸と同じく、三階が主の生活空間らしい。応接室から出て廊下を進む。進むと言ってもいくつかのドアが左右にあるだけで直ぐに行き止まりのように両開きの扉が鎮座している。その前には警備らしき男が二人左右に待機している。


「ここより先がユマ様とお付きの方たちの住まいとなっております」

 ドアを開けると、すぐにまた扉で二重扉になっていた。その間の短い廊下にも左右にドアがあり、その前に侍女と侍従が一人ずつ待機している。

「ここには専属の者が待機しております。必要時なんでも申し付けください」


 さらに奥のドアがどうなっているのかと不安になる。

 扉が開かれると、開けた空間になっていた。食事用の大きな木製の机や、休息用の革張りの長椅子が用意されていた。暖炉もある。右手には料理をできる場所も見える。

 家具はしっかりしているので安物ではないだろうが、とても素朴な作りだ。なんとなくジェゼロを彷彿とさせる。


「こちらは皆さまで集える空間となります。奥にはお付きの方たちの私室と男女の浴場を準備しております。次に、ユマ様のお部屋ですが、こちらにどうぞ」

 広間になっている場所に階段があった。続いて登ると短い廊下に扉が二つ並んでいる。廊下があることで、出てすぐに広間から見えることはないので誰がいるのか確認した上で下に降りることもできるだろう。奥が僕の部屋らしく、開けるとやはりどこか質素な部屋がある。ベッドと勉強机と化粧机、大きめの鏡、服を収納できる場所は広い。奥には厠と浴室がある。その手前の小さいドアは隣の部屋と続いていた。


「隣は御同郷からの留学生であるナゲル様のお部屋を想定しております」

 メリバル邸では、いざというときに正面扉以外の救出方法がない事をカシスが嫌がっていた。後、気を抜いて女装を解いているときに何か頼みたいときにナゲルに言えばいいのでありがたい。ナゲルが僕の部屋に来ても変な勘繰りを受けずに済む。まあ、それに関しては妙な勘繰りをするものは身近にいないが。


「こちらには許可を頂いたもの以外は絶対に入室をさせません。独立してお食事も準備ができますし、下の厨房で作ったものをご都合の良い時間に温めていただくことも可能です。基本的に切り離した生活が可能となっております」


 売り込みにカシスが一度厳しい目を向ける。

「火災が発生した場合の避難経路はどのように?」

「ご説明を。ユマ様はどうぞご自由にご覧ください」


 リリーが警護につき、カシスは執事と共に出ていく。


「メリバル夫人が用意してくださった部屋に比べれば、過ごしやすいのでは?」

「そうですね」

 豪華な部屋に比べればましだとベッドに腰かけた。ふわふわとした厚い羽根布団。シーツを触ると、布ではなく手が沈み込むような羊毛だ。

「………」

 これ、多分、すごく高いやつだ。

 よくよく部屋を観察する。一つ一つは過度な装飾は施されていないが、誤魔化しのきかない質のいい物ばかりだ。メリバル夫人が用意してくれたのと変わらないか、それ以上に金がかかっている。



 結果として、一先ずこちらでの滞在が決まった。


 依頼するまでもなく、メリバル邸に置いていた荷物は既に運び込まれていた。列車に乗る前に全員簡単な梱包はしていた分だ。


 数日の列車旅だったため、荷解きなど各自の部屋で行うことになる。僕が部屋から出るとリリーかアリエッタが動くのでしばらく部屋にいると伝えて置いた。


 ニコルはまだ熱があるのか、列車の中では会う度に顔が赤かったが、今は熱は落ち着いているようだ。僕はいたって元気で、手に負った傷も薄く痕がまだ残っているが、何日かで分からなくなるだろう。これも、普通ならば酷い傷跡が残るはずだ。


 翌日は執事を先頭に屋敷案内をしてもらう。それこそ、有事の際に逃げられないと困る。


 見た目は三階建てだが、実際は僕の部屋が四階になる。夏に熱くならないのだろうかと心配してみたが、ジェゼロよりも夏は涼しいので大丈夫だそうだ。冬に地下に雪を貯めて夏の空調に使う方法も使われているとのことだ。他にも色々と快適に過ごすための最新技術を詰め込んでいると説明された。


 一階は夜会が開かれた大きな広間があり、他には使用人の部屋と調理場などの雑用のための場所になっている。そちらは主に見せる場ではと言われたが、そういう場だからこそ見ておきたいと申し出て案内してもらう。それほど大きな部屋ではないが個室で男女に分かれている。料理場は広く、清潔だ。

 庭に関しては、メリバル邸のように塀で区切ってはいないが、緩い柵で囲われている。馬場もあり、数頭の馬が準備されていた。馬小屋に犬小屋を作ってもらい、ニコルの犬はそこで飼うことになった。世話は引き続きニコルが行う。後日メリバル邸へ挨拶に向かう際に引き取る予定だ。


 二階は客用の部屋で、今は旧人類美術科の青年画家であるサムーテ・オカだけが滞在している。他にコーネリアやアンネの部屋もあるがオゼリア辺境伯と同じく帰郷しているそうだ。客が入っていない空き部屋を見せてもらったが、僕らの部屋をより小さくしたような作りで、お茶などが準備できる簡易な厨房と使用人用の部屋もあり、廊下へ出ずとも生活できる作りになっている。客室というよりも長屋に近い。もちろん、一般的な長屋よりも広いがオゼリア辺境伯ほどの方々が住まうには狭い部類だろう。


 三階は僕らの部屋の前に二階の客室よりもやや豪華な部屋が三つと客の応接用の部屋がある。屋上庭園が二つあり、広間の上にあたる場所に一つと、僕らの部屋のカシス達の個室が並ぶ廊下の最奥の扉から専用の屋上庭園は屋根があり温室になっていた。そちらから緊急脱出もできる仕掛けが用意されているので確認しておく。


「如何でしょうか。帝王陛下が一流の設計士に仕事を依頼しユマ様のことを思い造られた屋敷にございます。一年もお待たせした上に庭はまだ未着工という体たらく……申し開きもございません。最優先で建物を仕上げました故、何卒……なにとぞご容赦をっ」

 自身あり気にシューマー執事が問うが、ここで気に入らないと言ったら、どんな顔をされるのか……。


「わかりました。来年度はこちらでお世話になります」

 帝王の外堀の掘り方がえげつない。


「何かご入用などがございましたら直ぐにお申し付けください」


「ここから研究校……ジョセフコット研究所へは一度街に入る必要がありますか?」

 屋上の庭園から隣に見える研究所を見下ろして問いかける。丁度研究所の東門が近くにあるのが見えた。オゼリア辺境伯が初日にもてなしてくれた食事など、どう運んだのかと不思議に思っていたが、この距離ならば搬入は容易だ。


「ユマ様とナゲル様に関して東門からの通学を許可頂いております。オゼリア様達も当初は御許可頂いていたのですが、持ち込み確認強化のために禁止されてしまいました」

 エルトナが呆れ交じりに怒っていたのであれで禁止にされたのだろう。思い出して少し笑ってしまう。


 メリバル夫人の館へ向かう日以外は一先ずエルトナの仕事の手伝いに向かってもいいだろう。夏のような状態になっていたら、夏より長いだけにエルトナが心配だ。


「こちらの庭の管理はお申し付け頂ければ庭師を入れます。できるだけ私生活に立ち入らずに済むようにご指示がない限りは掃除などにも人を入れぬように配慮いたしますが、必要であればいつでも」


 こちらの意向を汲み、一般的なもてなしをあえて行わない方針を取ってくれている。メリバル夫人から聞き取りをしていたのだろう。


 演技臭いところはあるが、この執事は帝王が任命するだけに優秀であるようだ。絶対にここに滞在させるという手腕からもそれが窺える。


 警護に関してはこの屋敷の横に長屋があり、帝国の警護が常駐するそうだ。僕の誘拐は耐え難い屈辱だったらしく、名誉にかけて守る意向らしい。帝都での川流れ事案で僕本人の危険行為も考慮する方針らしく、カシス達とも協力体制を積極的に築いている。どちらかというと、僕の警護を三人で賄っていることへ同情が強いそうだ。これでも大分自重しているのに。


 ぞろぞろと探索していたが、部屋に戻ったのは昼前だった。シューマー執事が退席してから、アリエッタが急いで昼食の準備に向かった。


 食事の好みまで把握していて、質素な食事が厨房から運ばれる。昨日の夕食を届けに来た料理人がとても不安そうにリリーにこんな食事で不敬にならないかとしきりに質問し、執事からの指示でもしも何か行き違いがあるようならば直ぐに新しい食事を準備すると言っていたそうだ。おそらく別に立派な食事も用意していてくれただろうから、次からはそちらは必要ない旨を丁寧に伝えてくれている。


 僕は体型維持と健康のために食事を制限していて、質素を美徳とすると伝えて納得してもらったそうだ。確かに、美食国家ではないが、ジェゼロ飯はかなり貧相な食事らしい。薄味にまったく手の込んでいない料理方法、ある意味食材そのままの味を楽しむ食事なだけだ。流石にそれでは料理人が可哀そうだからと、リリーから週に一度、料理人の好きに作らせる日を設けることに決まった。メリバル邸でも似たようなことをしていたので受け入れる。アリエッタとココアはそちらのごはんの日は嬉しそうだったのを思い出す。


 こちらの料理人が不敬とされないか心配になるように昼食が準備されるのを待ちながら午後の予定を考えているとカシスに声をかけられる。


「午後にご予定がないようでしたら研究所に行かれては? オオガミへの報告も必要でしょう」

 そう進言する理由をすこし考えて、警備体制を確認したいのではないかと推察した。


 これまで連携はあったが、メリバル邸という枠でのことだ。この屋敷では屋敷警護が帝国の者になるのでこれまで以上に話し合う項目が多いのだろう。


「わかりました。リリー、すみませんがエルトナに手伝いに向かう旨を伝えてもらえますか? 門の人に言えば大丈夫だと思いますから」

「わかりました」


 アリエッタが頑張って仕事を覚えたので準備された食事の配膳や温めは一人でできる。食事を終えて準備を済ませたころには向かっても差し支えはないだろう。




羊毛のシーツって、下手したら百万とかするんですよ。

そんなのが、何の変哲もなく紹介もされず、普通に準備されている。そんな屋敷です。

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