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女装王子の留学記 ~美少年過ぎて女性恐怖症になったけど、女装していれば普通に生活できます~  作者: 笹色 ゑ
研究生 一年目

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閑話  口の利けない女

誘拐時、アルトイールが見た使用人のお話。


 アミーラ様がずっと泣いていらっしゃる。

 セイワ・イーリス様のお通いも随分と減ってしまい、最近は病で痩せてしまわれた。それでも、いつも美しくあろうといつも紅を引いておられました。

 けれど、ここひと月、化粧すらせずに泣き臥せっておられます。

 最近は教会へ通うことができなくなり、月に数度神父様が屋敷に来られるようになりました。そこで神父様が教えてしまわれたのです。シュレット様がアミーラ様の子ではないと。

 生まれつき言葉が話せなかったわたくしを侍女として雇用してくださるような優しいアミーラ様は初め信じることができず、ずっと泣き暮らしていました。けれど、ご自身の子は同時期に産まれたアルトイールだと聞いてからとても苦しまれるようになられました。

「モネラ。神父様が正しくなるように手伝ってくださるそうです」

 酷くやつれたアミーラ様が床に伏したまま口を開かれました。

「……」

「二人を誘拐して、私の許へ連れてくることになりました。自分の子供をセイワ様の子として育てさせるためにカッコウの真似事をした償いは必要です。誘拐された結果、シュレットには死んでもらい、アルトイールをこれからはシュレットとして育てます」

 昔はとてもきらびやかに輝いていた瞳が、今は虚ろでした。

 私はそれに頷くことしかできません。



 アミーラ様からシュレット様、いいえ、シュレットに付けられていた護衛に命令が出されました。神父様から郊外へ向かう日に、誘拐できるよう算段が組まれ、私は二人を引き取る役を命じられました。

 警護達は引き渡した後、直ぐに行方をくらませる予定で、二人を見間違えることなくわかる者が向かわなければなりません。警護達が間違えることはないでしょうが、謀る可能性があります。

 決してアミーラ様に逆らわず、そして、場合によっては罪をかぶって死罪となる役目でした。

 イーリス家の子息を誘拐するのです、事と次第によっては死刑に処されても不思議はなかったのです。

 指示された屋敷に着くと、シュレットもアルトイールも捕まっていました。誰が目的か、移送を手伝う者に悟らせないため、男は全員連れ帰ることになっています。シュレットの死体は見つからない場所に埋めなくてはならないのです。

 念のために女性の集められた部屋へ向かいました。

 シュレットたちが通う学校は上流階級の子供も多く通っています。万が一にそのような少女を捨て置くことは避けなければなりません。

 三人の内一人は使用人で、一人は小間使いのような子供、もう一人は大層美人な少女です。全員わたくしが知る限りの要人ではありませんでした。

 引き取りを支持してから、私は外へ出ました。神父様が連れてくださった少年は品のない事を言い出したので関わり合いになりたくなかったのです。

 子供として可愛がっていた息子が自分の子供ではないと知ったアミーラ様のお心を考えるととても可哀そうでなりません。

 お優しく憐れなアミーラ様。私は彼女を裏切りたくないからこそ、命令に背くと決めてここへ来ました。

 シュレットとアルトイールを連れて、帝都のセイワ様に助けを求めるのです。結果死刑が科せられたとしても。アミーラ様の意志に逆らっても。

 シュレットはとても優しく育ちました。息子と思い、大事に思ってきたのです。一時の気の迷いで殺してしまったら、アミーラ様は本当に苦しむことになるでしょう。

 例え恨まれても、私はアミーラ様をお守りしたいのです。

 屋敷を出て、使用人の男と共に近くに止めている馬車まで歩いて向かいます。

 すぐ後ろから、何か音がしました。振り返ると、使用人の男がのけぞり、血を吐き出して驚愕の目で見開いていました。手から落ちた松明が倒れる男の後ろに小さな人影を照らしました。

 悲鳴は上げられませんが、もし口が聞けたとしても声を出すことはできませんでした。首を掴まれ、押し倒され、赤く血に濡れたナイフを見せつけるように目の前に出されます。

「ユマ様はどこだ」

 子供の声は酷く冷たくて、とても恐ろしく感じました。大人ではなく子供だと言うのに、背筋が凍るような目をしていました。

「ニコル。全員は殺すな。危険性が低そうならば縛れ」

 私は殺されないことに安堵しました。

 けれど、この後帝国に引き渡され、あの時に殺されていればと何度も後悔したのです。



ニコルとトーヤはユマが思っている以上の働きをしていました。

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