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女装王子の留学記 ~美少年過ぎて女性恐怖症になったけど、女装していれば普通に生活できます~  作者: 笹色 ゑ
研究生 一年目

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37 お茶会へ行こう1


   三十七



 メリバル夫人に茶会の作法などを確認し、週末に催されるので準備期間が短いと怒られながら支度を整える。


 お茶会は昼過ぎから夕食前までの時間帯で行われるもので、基本的には女性が主催する女性の集まりだが、学生は恋人を同伴させたり、友人として男性を連れてくることがあるそうだ。友人として連れてくる場合は参加している女性が誰か紹介してと頼んでいる場合が多い。女性からぐいぐい行くのははしたないので、閉じた場所で会話をできるように整えるためのものだ。


 そんな話を教えるとエルトナが合コンですかとまたよくわからない単語を口にしていた。


「……ほんと、美人な」

 昼を過ぎて部屋から出てきたナゲルが呆れたように褒める。


 昼食をとってから、着替えて化粧も変えた。夜会ならばもう少し派手な服でもいいが、茶会では普段着より一段格上程度で抑えた方がいいと助言を受けて、秋らしい落ち着いた緑のスカートを選んだ。上はいつものように首を隠してふんだんにレースを使ったブラウスで、飾りボタンは高級なものだ。装飾品はどうするかと問われたのでガラス細工の飾らないネックレスを付ける。宝石の類を一応母も所持しているが、公式の場では男装と言えるような恰好をしているのでつけてもブローチまでだ。歴代のジェゼロ王が集めた宝石を見せてもらったことがあるが、とても高価なので持ち出しはできない。王族所有というよりも、今では臨時の資金源扱いの代物だ。綺麗なものは好きだが、宝石類は高すぎて守備範囲を超えている。


 くるりと回って見せている間にアリエッタがナゲルの遅い昼食を持ってきている。

「飾らなくてもユマ様はお綺麗ですが、飾ってしまうと本当に同じ人間か心配になるほどお美しいです」

 食卓を整えると、アリエッタがはにかんだ様に褒めてくれる。


「アリエッタも、すぐに私くらい綺麗になれるわ」

 本心から将来が楽しみだと思っているが、困ったように顔を曇らせた。

「……わたしでは、とても………」

 口籠る姿は自分自身を下卑しているように見えた。


「アリエッタ」

 呼ぶとやってきたアリエッタの頬に両手を添えてて、じっと明るい茶色の瞳を見つめる。光に当たると銀の糸のように輝く灰色の前髪が伸びて、折角の瞳を隠してしまっていた。


「強くなれとは言いません。あなたはすでに強い心を持っているのですから。けれど、どれだけ強くても。自分で自分を傷つけるのはとても簡単です」

 アリエッタの体の傷は報告を受けている。塗り薬を定期的にリリーが塗ってくれて、随分ましになっているそうだが、痕は完全には消えないだろう。それだけの目に遭っても、こうして仕事をして役に立つ事を示して生きようとしている。


「アリエッタ、私の許で働きたいというのならば、誇りを持ってください。知識や教養、技術を身につけようと努力している事を、前を向ける事を、誇ってください。私は殊の外美しいものを好んでいます。美しく生きている限り、私はあなたを誇りに思います」

 言葉はとても簡単に吐き出せる。それをどう受け取るかは相手の自由だ。これはアリエッタだけでなく、自分自身にも唱えているのだ。


 同情なんていらない。ただ、認めて欲しい。


「……私は、頑張って綺麗になります。見た目は、ユマ様に勝てる気がしませんが、ユマ様を目標にします」

 子供らしいはにかみを見せられてむにむにと添えた手で頬を揉む。細かった頬にも少し肉がついてきている。肥満は死への近道だが、痩せすぎは死へ飛び込むようなものだ。


「よし、じゃあナゲルの世話はいいから、午後の勉強に戻りなさい」

「はい」

 解放して勉強に戻らせる。何度でも言い聞かせて、アリエッタに自信を持たせていかなければならない。あまり頑張れと焚きつけるはよくないが、頑張っていられる間はその努力を誉めていきたい。


「上が許可してんなら止めねーけど、いいのか、少しくらいなら時間あるぞ?」

 ナゲルが飯を食いながら、心配してくる。休日返上で勉強して過ごしているのだから無理だろう。


「ナゲルは自分の勉強が最優先。実技はともかく、暗記は苦手でしょう」

「ユマの暗記力マジ羨まし」


 そんなやりとりをしていると、一階の奥からトーヤが出てくる。着替えはメリバル夫人が用意してくれた。僕の服と違って、特殊な仕立てが必要ないので特注でなくても問題はない。


「少し、動きに制限がかかります」

 手を動かして、僅かに不服そうに眉を顰めている。


 黒髪は後ろに全部流して、完璧な正装ではないが、出かけるのに恥ずかしくない恰好だ。オオガミほどではないにしても背が高く、服で細身に見える。切れ長の目も相まって中々のいい男に仕上がっていた。まあ、僕の横に並ぶには見劣りするが。


「どうですか。顔は地味でも色々と芸達者なんですよ。俺は」

 トーヤを仕上げたミトーが胸を張っている。顔で選ばれなかったのが不服なようだ。


「まあ、悪くはないですが……少しここに座ってください。ちょっと物をとってきます」

 部屋から化粧道具の一部を持ってくる。


 剃刀で眉を整え、うぶ毛も剃る。男が化粧をするのは違和感が出るので保湿で整え、髪型を少しだけ変える。元は悪くないと思っていたが、手をかければ中々の出来になった。これならば連れて歩いてもいいだろう。


「ぐっ……頑張ったのに」

 ミトーが敗北したと膝をついた。


「ミトーもよく出来ていましたよ。目立たず、潜入するにはミトーの仕上げの方がよかったです。私にはできない秀逸さです」

「それは、褒めていませんっ」

 自分の顔もいつも綺麗に仕上げ過ぎて目立ってしまうので、褒めたつもりだったのだが。



 事前に招待を出した令嬢には参加の返事をしている。

 開催場所は招待状を出した令嬢の屋敷だ。事前情報で進学の為の借家で母親はたまに様子を確認しに来るだけで今は滞在していないそうだ。謝罪は完全にウソだ。出発前に屋敷へ入ったのは例の嫌がらせをしてきたもう二人の女の子と数名の男だそうだ。午後を過ぎると不思議な事に家の使用人たちは屋敷を出て行ったそうだ。ここまで怪しいといっそ清々しい。


「できるだけ殺さずに……ですか?」

 馬車の中で最終確認をしていると、トーヤが問い返す。少し表情が読めるようになってきたが、不服なようだ。


「殺人は普通に重罪です。私もある程度は訓練を受けていますし、武器として短剣も所持しています。足や腕の一・二本は仕方ないかも知れませんが、こちらの生命の危機がない限りは殺さないでください」


 帝国内で起きたことならば、帝王かリンドウ様が処理してくれるだろうが、決して褒められたことではない。誘拐事件のような、生命にかかわる重大犯罪でもなければ、できるだけ避けたい。


 あの一件で発生した死体の山も、帝国が内々に処理して罪に問われることはないが、普通であればもっと大事になっている。


 帝国の警護とメリバル邸の警備は怪我人が出たものの死者は出なかった。馬と本人たちの不調で戦いが発生する前に僕らが誘拐されたためだ。毒が入れ替えられているとは知らず、放っておいても死ぬと判断され止めは刺されずに済んだそうだ。彼らからすれば命は助かったが死罪に等しい失態だったらしいが、罪に問わないで欲しいとリンドウ様には手紙を書いて、何とか処遇を軽くしてもらっている。


 主犯のシュレットの警護は捕らえられ、彼らは帝国の法に則って主の誘拐として処罰するため、口出し無用と言われている。僕は聖人ではない。


 ただ、これ以上の死人を望んでいるわけではない。


「可能な限り期待に沿えるように努めさせていただきます」

「それと、警護としてではなく、同伴者として連れて行くので、態度はもう少し変えた方がいいかもしれませんね」


 教会の近くの道を曲がり、南下する。リンレット学院という上流階級の子息向け学校を超えた少し先を左折してしばらく走ると到着した。


「あまりご無理はなされませんように」

 剣を帯刀しているカシスが馬車を下りる前に釘を刺す。

 頷いてからトーヤに差し出された手を取って馬車を下りた。


 招待状を出した女の子が学校で見るよりも派手にめかし込んで玄関先で待っていた。なんとも嫌な笑みを浮かべている。



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