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女装王子の留学記 ~美少年過ぎて女性恐怖症になったけど、女装していれば普通に生活できます~  作者: 笹色 ゑ
研究生 一年目

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28 発見

   二十八




 声をかけるとドアが開いた、警戒しているカシスを先頭に、ナゲル達が入ってくる。


「状況は?」

「計七人を確認。倒した男が四名、内ひとりは生きています。ゾディラットは情報確認のため殺してません。細目の男が一人、窓から逃走。もう一人、声を出さずに確認に来ていた者がいました。逃げた男は仲間が迎えに来ると言っていました」


 リリーが手早くカシスに報告する。


「こっちは全員無事だ、イーリス達二人は下で待機、こちらは既に三人潰した。ナゲル。それも生きているなら念のために情報を出させたい。下へ運ぶぞ」


 ナゲルが脚を折られた男を端に置かれた縄を使って拘束してからこちらに視線を向けた。近づくと検分するように上から下へと確認される。


「一回降ろせ」

 エルトナをそっと下すと、切られた服を睨む。偽胸が左右に分かれて胸板が見えている。ナゲルが自分の着ていた服を脱ぐと、渡された。下にシュレットとアルトイールがいるならばぺたんこの胸は隠した方がいいと判断したのだろう。


「怪我の状況は後で聞く。それで大丈夫か?」

「僕はね。エルトナは強かに蹴られているから、内臓が心配だ」

「運ぶのは任せる」


 もう一度屈んでエルトナを抱える。心配そうな目が見上げてくる。


「もう、大丈夫ですよ」

「足手まといと判断すればおいて行ってください」


 痛みを堪えるような顔をしながら、至極真面目にいつもの調子でエルトナが言う。

 それが正しい役目かもしれないが、ベンジャミン先生やハザキが言うようにそんなことはできないと自覚した。


「ナゲル! 火事だ!」


 下から声が響く。シュレットの声とともに誰かが駆け込んでくる。カシスが警戒したが、アルトイールだ。


「火が放たれましたっ。早く外へ!」

「アル、手伝え。こいつを運ぶ」


 先頭をカシス、情報源として必要だとナゲルが足を折られ縛られている男をアルトイールと抱えて階段を下りていく。次いでエルトナを抱えた僕で最後に荷物の様にゾディラットを抱えたリリーだ。時折ゴンゴンと音がするので、ぶつかるのを気にせず降りているのだろう。


 階段を降り始めた頃には既に煙が天井を這いか上がっていた。居たのは二階だったらしく、一階に着くと出口へ誘導するようにシュレットの声が響いている。


 正しくは出入口ではなく古くなった格子を無理矢理外した窓だった。炎が上がる場所は正面玄関と勝手口の二か所のようだ。最初にカシス、次いで僕が出されてエルトナを受け取る。順次家から出る頃には出るのに使っていた窓からも煙が溢れるようになっていた。


「シュレット様、アルトイール、犯人二人が逃げないように監視を。ナゲルはユマ様とエルトナの診察。リリー、周辺の警戒。私は辺りの確認を行う」


 カシスが手早く指示をして走り去る。


 燃える建物の近くは流石に危険なのである程度離れた場所にエルトナを降ろす。捕まえた二人はまとめて置いておく。


 ナゲルに先にエルトナの診察をするように指示する。ため息交じりにナゲルが診察を始めた。


 運び込まれたのは街道の近くにある家のようだ。農家の家にしては立派だ。金持ちの別荘か何かかも知れない。少なくともこの火災ですぐに人が見に来る範囲に民家はないようだ。よく燃えている建物は火の回りが早い。窓から逃げた細目が火を放ったのか、完全に証拠隠滅と殺しにかかっている。


 頸動脈を切った男は既に絶命しているだろうが、他は知らない。残念だが助からないだろう。文句はこんな事に加担した自分自身に言ってもらいたい。


「ユマ、見せてみろ」

 エルトナの診察を終えたナゲルが顔や頭から診ていく。


「もろに蹴られたから、血尿くらいは出るかもしれない。服が切られた一撃でもしかしたら少し切れてるかもしれないけど、谷間のお陰で助かったよ」


 偽乳のぶん胸部に高さが出ている。服が切られた時に首元を止めているボタンも飛んだのだろう。その後脚を折る時に抱え込んだからからしっかり開けてしまったと推察する。女装の時、胸を付けるかどうかはナゲルと議論をした。男としての矜持として、そこに手を出していいのかと。まあ利便性重視で巨乳まで欲張らず美乳で留める事で決着した。こういう利点もあったのは意外だが今後の課題として考えないとならない。


「エルトナは?」

「顔面骨の骨折の可能性。脳震盪、肋骨骨折と内蔵損傷も否定できない。できれば早めに断層写真が欲しい」


 真面目に返されて、横たわっているエルトナに視線を向ける。火事の炎に照らされているのに顔色は悪く見える。


 運ぶにしても車かせめて馬車がいる。それに場所もわからない。火事で村人でも来てくれればいいが。


 少しして犬の遠吠えが聞こえた。それもかなり近くから。鳴き声の方向を見ると誰かが木々の間から、何かを引き摺りながら出てくる。引き摺っているのは何かの足だった。それを持っているの者の姿が炎で浮き上がる。身構えるとこちらを見たそれがとても晴れやかに笑った。


「ニコル……」

 ニコルが持っている人の足が誰のものかわからない。カシスが履いていたズボンとよく似た色味でざわりと緊張が走る。


「よかったぁ、ユマ様が無事で。おーい、こっち。ユマ様がいたよ!」

 大きな声で後ろへ声をかける。ゾディラットの件もある。ナゲルが一歩前に出る。リリーがニコル以外の辺りを警戒し出す。


「どうしてここに?」


 こちらの気などお構いなしに、ニコルは引き摺りながら道を渡ってくる。次第に炎に照らされた荷物にぐっと吐き気がするが、なんとか押しとどめる。それはほぼ首がちぎれかけた見知らぬ男だった。一瞬カシスに見えて血の気が引いた。瞬きをして、見たくないが目を凝らせば別人だとわかる。ほっとしたいが、その死体に恐怖しかない。


「ミトーが、ユマ様が攫われたって。だから、ペロと探しに来ました。ペロは凄いです! ちゃんとユマ様の匂いを見つけてきました」


 ニコルの横を犬が駆けてくる。僕の横を通り過ぎて、意識が戻ったが轡を噛まされて喋れないゾディラットへ駆け寄るとまわりぐるりと走って再び遠吠えを上げた。ニコルがゾディラットを探す対象として使っていたと言っていた。僕の匂いではなく彼がここにいたからたどり着いたようだ。


 馬の蹄の音がして街道へ目を向けると、トーヤがこちらへ向かっていた。火に怯えた馬から降りると離れた位置で馬を繋いでからこちらへやってくる。


 十分に距離を置いた位置でトーヤが片膝をつき、跪く。ニコルがそれに習って荷物の様に引き摺っていた男を放して横に並んでトーヤと同じ姿勢を取った。


「ミトーより襲撃の報告を受けました。誘拐された位置で横転した車を確認し捜索を始めました。ゾディラットの姿が昨夜より見当たらなかったため、一か八かでニコルの犬を頼りにした結果この周辺にたどり着きました。建物周辺に不自然な見張りを数名確認、尋問の結果ユマ様が捕らえられている可能性が高いと判断し周辺の索敵と処理を実施しておりました。建物から火の手が上がり、何者かが一人逃げていきましたが確保はできませんでした」


 トーヤがここにいる経緯と行動を端的に報告する。逃げたのはあの細目だろう。報告をした後、鋭い目でトーヤが辺りを見回す。


「カシス殿は?」

 問うと同時にさっとトーヤが振り返り来たのとは逆へ視線を向けた。


「馬車か?」

 ナゲルも目を細める。少しして僕の耳にも音が聞こえた。二頭の馬が引く作業用馬車のようなものが近づいてくる。こんな夜中に走っているにはあまりにも不自然だ。


「カシス」

 周辺を確認しに行っていたカシスが御者の位置で馬を操っているのが見えた。近くに止めるとナゲルがすぐにその場へ走り、御者の位置を変わる。リリーがナゲルに代わり僕を守れる位置へ移動していた。


「ユマ様……」

 二人を見て説明を求めるように声をかけてくる。


「見張りは二人が始末してくれていたようです。できるだけ早く戻ってエルトナをジョセフコット研究所へ連れて行きたいのですが、可能ですか?」


 二人は敵意がないことを示すように未だ跪いている。


「あの馬車はお前たちが?」

 カシスが問うとニコルが顔を上げた。

「嫌な臭いがしたので、話を聞いたらこれから荷物を引き取って線路へ向かうと言っていました。嫌な目をしていたので、彼らは殺しました。あ、トーヤが一人からちゃんと話を聞いています」


 誇らしげにニコルが語る。背筋が寒くなる話をトーヤが引き継ぐ。


「この時間帯に馬車は不自然でしたので、御者以外に三人を確認。一人は逃げられましたが二人はその場で無力化。御者に話を聞いた結果、ユマ様の誘拐に関わりがある可能性があると判断しました」

「拷問に随分手慣れているのだな」


 それにカシスが苦い顔をしていた。馬車のあった場所の状況はあまり確認したくない。


「時間をかけて尋問をできる余裕はありませんでしたので」

 少なくとも、今回の誘拐犯と共謀の可能性は高い馬車だったようだ。そう願いたい。


 敵の排除は一旦済んでいたとしても、今後もここが安全とは確証が持てない。この場に留まる意味もない。


「カシス。夜道を走れるか。全員乗せられないなら何人かは歩きでもいいからこの場は離れたい。増援が来ても面倒だ」

「かしこまりました。トーヤ、ここからメリバル邸まではどの程度かかる」

「ヒスラの街より南西、線路からほど近い位置です。我々がいた村の三つほど先の村落近くでしょう。この火の手で村人や自警団が来る可能性が高いので、面倒になるかもしれません」


「他に馬は?」

 トーヤが繋いだ馬以外は見えない。ニコルと相乗りしてきたのか。そもそも、どうやって馬を手に入れたのか。


「ニコルの使った馬は逃げられました。近くに三頭の馬が繋がれていましたが、一頭は火を放ったものが乗っていった可能性が高そうです」


 カシスが手早く指示をはじめ、怪我をしているエルトナと僕がひとまず馬車に乗る。ゾディラットともう一人の男には夢と希望が詰まっている胸に仕込んだ毒からよく眠れる薬を与えて昏睡させて馬車に乗せた。リリーは念のための警護として馬車に乗り、ナゲルは馬の扱いに長けるために御者役。カシスはトーヤの馬に乗っていざという時に備える。ニコルとトーヤ、それにシュレットとアルトイールが二人で一頭の馬に無理やり乗り、出発する。


 どうしても街道を通ることになるため、馬単体で走るよりも遠回りになる。馬車に準備されていた松明の光を頼りに進むのであまり早くも走れない。僅かに白み始めた頃、いくつかの松明がこちらに近づくのがみえた。


「ナゲル! ユマ様は!?」

 悲鳴のようなミトーの声がする。敵の増援の可能性も考慮していたので、緊張していた一同から少し肩の力が抜けた。


 ミトーだけでなく、他の数人の男たちだ。カシスがそちらへ馬を走らせ近づくのが見えた。


 カシスが手早く報告をすると、メリバル邸の警護の一人が報告をしに屋敷へ馬を駆けされる。その時にジョセフコット研究所へ行って装置を使いたい旨を伝言するように命じておく。


 いつも駅へ続く整備された街道へ出ると、揺れの激しかった馬車から振動が減った。


「……エルトナ、もう少しですからね」

 脂汗を拭い、声をかける。

「がみ……かい………ジェゼ………助け」


 エルトナが荒い息で何かを呟いているが、途切れ途切れで意味が分からない。朦朧としている姿を見れば状態が刻一刻と悪くなっている事だけはわかる。




ニコルは殺人には抵抗が低いですが、トーヤも必要なら平気です。

トーヤはミトーからの話に内心かなり焦ってました。

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