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127 子どもの友達との夕食会 2

 エルトナが居住まいを正して背筋を伸ばした。

 正直、ベンジャミンを排するのはユマを退室させるのとは意味の大きさが違う。国王付きにすら聞かせられない話だ。


「子供たちと仲が良いようで、友人ができたのは嬉しい限りだ。だが、それとは別に確認しなければならないことがある。ここからは、ユマの母ではなくジェゼロ王として対応する」

「かしこまりました」


「ロミアから事情は聞いている。旧人類時代の研究の残滓として、貴公には過分な英知がある。良くも悪くも、それの知識は治療後も残っているのだな」

「はい。多少価値は下がりましたが、十分な知識が残っています」

 旧人類の知識は帝国にも残っているが、かなり希少価値の高いものだ。それを理解しているとなれば、このままジェゼロに留めておきたいほどだ。


「……レッドルの記憶の中には、ジェゼロの機密もあるのではないのか?」

 何故かジェゼロの神子、ジェゼロ王を目の敵、もとい崇める宗教を始めた元ジェゼロ国民レッドル・ランテ。そちらの方が、旧人類の英知よりもジェゼロには問題だ。


 ロミアは、誰かが地下の聖域で薬を盗んだ可能性があると言っていた。ジェゼロ国の伝統や文化や儀式は年月とともに変わっている。昔ならば、王族以外が地下に入れたのかもしれない。王のみが入室できるように閉鎖する前の準備では他にも人が入っていただろうから、閉鎖される前に盗まれていた可能性もある。


 もしあの場を、女神教会の教祖が知っているとなれば、この子にジェゼロの国家的機密を知られていることになる。


「三代目、ジェゼロ国王であるユラ様は、エラ様と違ってとても女性らしい方でした。純朴な男はころころと転がされて、命をかけて使命を果たしました。ただジェゼロ王賛歌を謡ながら旅をした結果、国外退去。正確には任務を果たしたら褒美に閨に呼ばれるはずでしたが、旅に行っている間に別の男とイイ感じになっていたので、その約束を反故にするために国外に追放されました。ですが、三代目国王が思っている以上に気持ち悪い男だったので、そんなこととは気づきもせず、国外からジェゼロを守るため、そして想い続けるために、宗教を広めてしまいました。女性視点で考察する彼の行動は、ジェゼロの機密と言うよりも、女神教会黒歴史集です。こんなものを教会内で話したら不敬で暗殺されるでしょう。ですから、陛下以外に口外するつもりはございません」

 すらすらと語られる言葉にちょっと頭痛がする。


 あれか、国外に一緒に逃亡して私の事だけを思ってくれていたベンジャミンを、王位奪還した途端に切り捨てて別の男を選ぶ感じだろうか。

 よく邪心教とかにされなかった。


「国王陛下がご心配するように、恐らく私は不都合な存在でしょう。国として対処するというのであれば、理解もできます。ただ、私を消したとして、レッドルのみの記録を継承している教会関係者がいるでしょうからあまり意味がないでしょう。無論、教祖様の生まれ変わりだと言っても、自滅するだけですから、それが誰か見つけ出すことは困難でしょう」

 頭がいいとは聞いていたが、先に消されないよう予防線を張ってきた。

 別にユマの友達でなかったとしても、安易に消したりはしない。


「酷い裏切りをしたジェゼロに対して何の恨みも持っていないと?」

「少なくとも、女神教会はジェゼロ万歳の姿勢を崩したことはありませんし、ジェゼロ王である神子様からの言葉があれば教義の修正にすら柔軟です。他の記録を継いだもの含め、女神教会が女神と崇める方に対して恨みは持っていないでしょう」

「ほう、では、個人としてはどう思うのだ」


 少し考えるように間が開いた。

「失礼ながら、私は女神教会を信奉しておりません。世界大戦か、隕石などの天災か、はたまた別の要因かは存じ上げかねますが、世界が滅亡し、そこから復興したのはジェゼロ王ではなくロミアやベリル達、または国家や何らかの機関が対処したためでしょう。ジェゼロの先祖が何かしら大きな貢献をしたとは推察できますが、神はジェゼロ王が地上にいるからと人類が生き残ることを赦したとか、そんな荒唐無稽な理由ではないはず。一つのシステムとして祭り上げ、平静を守るための装置としての制度だと考えております」

 流石に旧人類の常識とやらがあるからか、神話的な事は信じていないのか。


「ロミアが考えた質の悪いシステムに組み込まれて、大変だなとは思いますが、本の中で読んだ事のような感覚です。特別に恨めるほどの執着は持てないです。強いて言えば、二つ目の影響がこれ以上強く出なくてよかったということくらいでしょうか」

 まあ、前国王の母がやらかしたことならば謝罪するが、十代以上前の王がやらかした事、それも大虐殺とかではない、個人的な感情論となると正直どう言えばいいのかも微妙だ。向こうも謝られてもと言う感じだろう。


 それにしても、良く推察している。


「私は、どのような処罰を受けるのでしょうか」

 不安には思っていないようだが、目線はとてもしっかりとこちらを見ていた。黒赤を混ぜたような不思議な目の色をしている。


「わざわざ、自分を失わないためにジェゼロにまで来たのだろう? 自分は取り戻せたか?」

 どうするか答えずに問いかける。

「自分を取り戻す……ですか。確かに、そうですね。しっくりきます。……ユマさんの事を忘れてしまったのは申し訳ないですが、誰かの意見に左右されないようで清々しいです」

「うむ。ならばただのユマの客人として出国すればいいだけだ」

 レッドルと同じ思考になっていますと言われたらちょっと困るが、違うならばジェゼロ王がとやかく言うことではない。


「よろしいのですか? 私は、ユマ様の友人としての記憶も失ってしまっていますが」

「だが、それでも仲良くしていると聞いたが?」

「確かに、そうなんです」

 困ったような笑みを返された。


 普通なら、見ず知らずの人間がお世話になった人だと言われても困惑する。しかも可愛いとはいえ女装男子だし妙な偏見もあるだろう。だが、今日の食事会ではそういうものは感じなかった。


「記憶にはないですが、ユマさんには余程有益な情報を提供できたのでしょう。ジェゼロ国とはできれば交友的な関係を保ちたいですから、今後も協力はさせていただこうとは考えています」

 何というか、ユマの好意は過去のベンジャミンの好意並みに伝わってないんじゃないだろうか。


「……色々と難のある息子だが、あれで色々といいところもある。それに、娘たちもエルトナ殿を気に入っているようだ。……帝王命で働いているとは聞いたが、帝王陛下には私から口添えもできるだろう」

 前置きをした後、本題に入る。

「ユマのところへ嫁に来てはどうだ? 王位は継げないが、オーパーツ大学は卒業しているし、安定した給料は得られるだろう。それに、エルトナ殿も適切な環境で働ける。一切損のない話だが?」


 ユマがいたら怒られるだろう。ベンジャミンほどではないが、息子を国外に出すことはやはり心配だ。嫁ができればユマに対して妙な妄想をする婦女子は減るかもしれない。

 それに、知識的にもジェゼロの利益になるだろう。


「……そこまで私を高く評価していただけるのはありがたいですが。それは、女神教会の司教の娘との政略結婚をお望みでしょうか。それでしたら、養父は女神教会でも特殊ですから、あまりジェゼロに利益はありません」

 ぽかんとしているが、それでも冷静な声で返される。

「それに、私のような成長不良の者を相手に、結婚を強要するのは、流石に可愛そうです」

「ユマは大層気に入っているからの提案だ。そもそも、ジェゼロでは政略結婚は認めていないからな」

 やっぱり、まったく好意が通じていない。いや、ユマの記憶がないなら仕方ないのか。


「……その、治療前までは、恋人関係かなにかだったんでしょうか」

 表情が固まったまま、問われる。それまでは、最悪処分されることを想定して、慎重に話していたように見えたし、それでもとても冷静だった。今は、動揺が隠しきれていない。


「ふむ。詳しくは聞いていないが、身を挺して助け、そなたを救うために初めて人も殺したと聞いている。あれはお人好しだし友が傷つくくらいなら、自分が怪我をすることを選ぶだろうか……流石に友達というには構い過ぎだ」

 ベンジャミンが人の死に対してユマが不安定になっていないか心配して、オオガミの予定を繰り上げて向かってもらったくらいだ。まあ、本人は思ったよりも堪えてはいなかった。


 不義を働いた女の子とその両親と違い、自分が覚悟を決めて命を刈り取った事の違いだろうか。助けずにこの子が死ぬくらいならばと、その手を汚したのだ。


「……あの、えっと……私みたいなのよりも、ああ、アリエッタと言う女の子とお間違えでは?」

 アリエッタはユマが買ってしまった女の子だったか。


 城で研修を受けさせているはずだ。まだ歳は若いが、侍女として仕えるために、かなり努力をしていると聞いている。確かに、顔だけだとあちらの方が可愛らしい。ララがたまに音楽に付き合わせているとも聞いているので、妹達との関係も良好でいられるだろう。


「可愛がってはいるし、保護者のような感じだが……エルトナ殿に対してのような構い方はしていないな」

 ある意味で一生の面倒を見る覚悟はできているようだが、それはもう二人に対しても同じだ。


 ベンジャミンと私の関係を考えれば、侍女が相手でも別に止めはしない。アリエッタは、ユマに対して全霊を持って気遣っているが、男女としての雰囲気は見えなかった。ユマに対してそういう物を出さずにいられるというのは、一種の才能だ。ユマ自身は気づいていない節があるが、あれは本当にあらゆる相手からモテる。


「やっぱり、あんな女装癖のある男はダメだろうか」

 綺麗でかわいいという点では我が家系でもずば抜けている。しかも完璧に女に擬態できるのを見れば引かれても仕方ない。大半に好かれても、一部には受け入れられないだろう。


「女装をするのは、何かジェゼロの伝統なのなんでしょうか」

「理由はあるが……別に伝統ではないな。留学でジェゼロとばれないためと言うのはあるが」

「………失礼ですが、ユマと名乗らせて、女神像に面差しの似た顔である時点で、妙な勘繰りを受けていました。もう少し、身分を隠す努力をされた方がよかったかと」


 苦言を呈されて苦笑いが漏れた。

「女神像と似ているのは正直想定外だったからなぁ」

 女神教会は、たまに謁見して、適当に見張って返す使者。そういう認識だ。

 女神教会があるお陰で世界にジェゼロの優位性が確保できているが、崇拝するのとか勘弁して欲しいが本音だ。


「それで、どうだ? 我が子ながら、色々と難点はあるが、悪くはないと思うんだが」

 脈がないなら仕方ないが、両想いならこのままジェゼロ国内に留めてもいい。

「………」

 とても困ったような暗い顔になってしまった。


 まあ、国王が息子と結婚してはどうだと、他国のそれも女神教会の司教職を養父に持つ娘に言い出しては困惑するか。


「そんなに難しく考えなくていい。先にも言ったように政略結婚は命じない家系だ」

 息子のコイバナに口を出してややこしくしたとなっては恰好が悪い。適当に誤魔化して話題を変える。


「そういえば、ジェゼロ国民が不逞を働いたと聞いている。処罰は極軽微なものでいいと来ていたが、こちらを気遣う必要はないぞ?」

 今は安全対策で牢に閉じ込めている。以前ほどの暴挙ではないにしろ、二の舞になったらユマが立ち直れないし、エルトナに何かあっても帝国との関係上困る。


「あの手の方たちは、処罰よりも治療が必要でしょう。それにしばらくすれば出国するので下手に国外に出された方が面倒です」

 すっと、困り顔から冷静な顔に戻った。


 いい手際で殴り返したと聞いている。やられっぱなしではなかったらしいし、本人がそれでいいならばそうして置こう。

「わかった。考慮しよう」


 他にもいくつか確認して、個人面談は終了だ。一応ジェゼロにとって危険がないかの確認は王の務めだ。あと、ユマのあれな子だから、ハザキとかに任せて内密に処分されても困る。


 物怖じせず、頭がよくて、旧人類の英知まで持っている。ユマ本人は美貌値が高いので、そこはむしろ求めていないのかとおもったが、中々愛らしい顔だ。


「まあ、ジェゼロ王として、危険分子かの確認は以上。今後敵対するならば、色々対応を考えるが、基本的には何かする予定はない。安心していい」

「寛大なご対応に感謝します」

 座ったまま、エルトナが頭を下げた。



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