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女装王子の留学記 ~美少年過ぎて女性恐怖症になったけど、女装していれば普通に生活できます~  作者: 笹色 ゑ
エルトナの治療(ジェゼロ)

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119 ジェゼロの男


 母からの号令で、最後の二日はどれだけでもユマ君を撫で繰り回しても許されることになった。なんでも島休暇の後に正式に成人として登録するらしい。


 ちょっと島休暇から離脱している間に童貞を捨てたのかと驚いたら普通に頭を叩かれた。残念ながら兄はまだ清らかな身らしい。いや、立場上どうでもいい女性と関係を持てないので欲に流されない思慮深い男だと言って置こう。


「ユマ君もついに成人かー。私はぎりぎりまでしないつもりだけどね!」

「ソラは、好き勝手にしてることでいつの間にかお金が増える不思議な生活をしてたらいいよ」

 家族の中であたしだけ個人資産の桁が違う。父にならって半分くらいは公共事業や孤児などの支援するようにしてるけど、なんか、いつの間にか貯まってしまう。


「まあ、別に留学が終わってから戻ってきて私の部下として働いてくれてもいいからね。ユマ君は使える子だから」

「……そうだね。最悪頼むよ」

「だめ! ユマ君は私のお手伝いするの!」

 ララがぎゅっとユマ君に抱き着いた。


「ララ、お姉ちゃんのお仕事は将来ジェゼロの財源として有益。つまり、あたしのお仕事とララのお仕事、両方手伝ってもらう。すべて解決」

「……わかった。はんぶんごっこ」

 年の離れた妹と握手を交わす。


 ララと敵対するつもりはない。私の代わりに産まれ、王に成る子だ。サポートは惜しまない。けど、便利なユマ君の独占、ダメ、絶対。


「兄妹仲がいいのは素晴らしいですね」

「うむ、国によっては殺し合いをすることもあるそうだからな。まあ、うちは派閥争いなどする余地もないからな」

 王様は絶対女の子と言う過激信奉。直系かどうか遺伝子で精査されるので神様の目は誤魔化せない。うちのように複数女の子がいたらたまに争いが起きるが、最悪誰を王様とするか決めるのは神の意思だ。むしろ、王様なんぞなりたくないという争いの方が多いという、変な国だ。


 とりあえず、ユマ君の頭を撫でておく。この兄は、女装の時に頭をぐしゃぐしゃにするとすっごい冷たい目で見てくるので、みんな気を使っている。一度本気でナゲルを蹴っ飛ばしていたのをみて、ララですら気を付けている。ララもここぞとばかりに隣にやってきて座っているユマ君をよしよしする。

 ユマ君は自己ケアがえげつないので髪がつやっつやのさらっさらだ。これほど上質な毛ざわりも珍しい。ずっと触っていられる。


「ユマ君、とりあえず、ユマ君ブランドを立ち上げよう。化粧品と美容品で。なんなら双葉の二人連れて行ってもいいよ。あの二人もユマ君と働いた方が名をあげられるだろうし」

「……左右の二人? でも折角ジェゼロでのお店が軌道に乗ってるし、僕がお願いしても難しいんじゃないかな」


 ああと、母が何かを思い出す。

「うちの服は忖度であちらに任せているからな。だが、正直ユマと衣装について考えるのが楽しそうだし……支店くらいならいいんじゃないか? ジェゼロ王御用達の名はいくらかの寄付で許可しよう」

「どこまで冗談で本気か相変わらずわかりませんね」

「母は大体本気だぞ」


 母は父から髪をひたすら梳かれている。父さんは、あたしたちを可愛がるのも大好きだが、母さんを可愛がる機会は絶対に逃さない。


「ユマ様の使われている化粧品は、一部人体には有害ですから、市販にはあまり向きません。成分に関しては薬師を雇って確認してください」

 珍しく髪をまとめず下ろしている母に満足した顔をした父さんが言う。父は唯一家族の中でジェゼロの特殊性がない普通の人だ。そう言えば、去年化粧された時も直ぐに落としてしまった。恥ずかしかったのもあるだろうが、肌が荒れたりしてユマ君の気に病まないようにしたのかもしれない。


「……わかりました。そう言えば、薬草園で筆を舐める癖も注意されました」

「薬草園?」

 ごく僅かに父さんの表情が曇る。


「はい。遠足……視察に向かった薬草園で、絵を描いている時に注意されました」

「……名前はなんと言う方ですか?」

「ん? えっと……何とかホーム……ああ、ミイサ・ホームという女性でした」

 父だけでなく母までが驚いた顔をした。その後、母はふふっと笑う。

「そうか。随分一年で背が伸びたと思ったが、それでか」

 撫でている頭が傾いた。

「毒になる絵具を舐める度に体に負荷がかかり、解毒に労力がかかった結果、成長が抑制されていたのでしょう。それを止めるようになったためか……まったく関係なく単に成長期の時期の関係かもしれませんが」

 母の体調管理もしている父が説明する。


「ユマ様、成長を無理に止めるのは体に負荷がかかります。背が伸びるのを止めるために毒を食もうとはしないでください」

「あ……はい」


 釘を刺されてユマ君が頷いた。女装するには今の身長でも既に結構高く無理が出ている。今くらいなら男の娘としての……男の子としてのプライドも保てる高さだ。


「お前の祖母は今のユマよりまだこのくらい高かった。私のように男のような恰好ばかりではなかったが、堂々としたものだったぞ」

 母が手を横に向けて言う。ユマ君よりさらに十センチくらいか……。まあ、オオガミがとっても大きいから妹のおばあ様が大きくても不思議がないだろう。


 母がそこそこでそんなに大きくないのは、その祖母から毒草の教育を受けたからだろう。そしてあたしがそんなに大きくないのは色々規制がかかっている所為だ。だから多分ララに背は抜かれると思う。


「次、父様の頭撫でる」

 嬉しそうにララが父親の許へ向かう。母が立ち上がると父を座らせてララと一緒になでなでを始めた。満更でもないようだ。父は、母と子供たちから甘やかされる機会があれば逃さない。


「ほら、次は僕がソラを撫でてあげるよ」

 そしてあたしも家族から甘やかされる機会は逃さない! 普段なぜかみんな小言言ってくるから。チャンスは絶対逃さない!





 王である私の伯父のオオガミの待遇は、正直特例だ。

 普通、王の息子はあまりいい扱いを受けない。


 普通の生活には困らない程度の金が払われても、城には住めない。一応は王の子として敬われるが、だからこそジェゼロには住みにくい。


 オオガミも王の子だったからと敬称をつけてくるものには塩対応だ。個人として尊敬してならば見過ごす感じだが別に敬われることを求めていない。あの身勝手とすら言われる態度は優秀過ぎるが故、王の座を揺るがさない意図もあるだろう。オオガミが王に成らずとも、私を殺してソラかララを王にして、代わりに政治を行うことは可能だ。本人が望まずとも、過激派がいればそうなりかねない。


 国外に出る場合はどうなるか……。それ以前の王の子に対するものと違い、まず帝国が手を出してくるだろう。


「……エラ様、どうされました?」

 夏休みも最後の夜に、寝付けなくて外に出た。教会の中で座っていたらベンジャミンが来た。


 ベンジャミンは、ユマに国外へ出て行ってもらいたくはないだろう。


「ちゃんとした形で、子供が巣立つのは初めてだからな。感慨深い」

 ベンジャミンが隣に座る。最初は桟橋に座ろうかと思っていたが、あそこだと城からの見張りに見えてしまう。私が部屋から消えれば、ベンジャミンは放って置かないとわかっていたので人目の届かない場所にいた。


 肩にもたれかかると、手が伸びて引き寄せられる。

「ユマ様は、帝国に飲み込まれる可能性が高いでしょう……」

 落ち込んだような沈んだ声だ。


「……まあな。ユマの名前だが、いっそユマ・イーリスとかでいってしまうか」

「笑えません」

 ぴしゃりと言われた。


 ジェーム帝国に住むなら何かと便利だと思ったのだけどな。


「ユマの留学の時点で何か計画があると思ったが、急なら普通の留学で済むかと思ったのだがなぁ……」

 まあ、深い考えがあったわけではない。

 ただ、ユマはこの国には辛い思い出がある。場所と言うものは大事だ。少なくとも一度は離れた方がユマの為になると、今回の留学はその実験の一環だった。

 ユマがジェゼロに残ると決めれば、帝王もこれ以上手は出さないだろう。だが、成人して留学の場に戻るとなれば、放っておくはずがない。


「ユマ様も一人の男です。一人前と認めることから始めなければなりません。できることなら、私の目の黒い間はずっと守って差し上げたいですが、それが本人のためになるとは思っておりません」

 私も子供たちは大事だが、ベンジャミンは私以上に大事にしてくれている。


「まあ、見守ってやろう。子供の将来を楽しみにするのは幸せなことだ」

 次いつ帰ってくるかわからない。もしかしたら、研究校の卒業前に帰ってきてしまうかもしれない。逆に二度と帰ってこないかも知れない。


 それでも、私たちの時のように、身一つで旅にでる訳ではない。



双葉の店の双子の店主は二人まとめての時は左右(さゆう)と呼ばれ、個人だと「みぎ」「ひだり」という変わった名前です。過去の仕事では個と認識されないよう、こんな名前で呼ばれていました。

かなりそっくりなので、見分けがつかない時はひとりでも左右と呼ばれます。

という設定を忘れそうです。

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