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女装王子の留学記 ~美少年過ぎて女性恐怖症になったけど、女装していれば普通に生活できます~  作者: 笹色 ゑ
エルトナの治療(ジェゼロ)

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118 ひとり立ちの決意。



 ユマが隣の部屋でいじけていた。ソラがたまに言うしょんぼりさんって言う感じか。


「ナゲルのことは覚えてるのに」

「いじけんな。ロミアにも相談して理由くらい探ってやる」

「思い出してたら、島に戻ってもいいかと思ってたけど、今日もこっちにいるよ」

 正直に言ってしまえば、お前がいても変わらないだが。最悪を想定して呼んだのは俺だ。もう帰ればとも言いにくい。


「お前、本気でエルトナに惚れてるのか?」

「………まあ、そうだと思う」

 ユマが照れるでもなく、自嘲気味な顔をした。


 ユマは女嫌いではない。女性に色目を使われたら震えが止まらなくなったり、相手から不意に触られただけで意識消失をしてしまう女性恐怖症だ。単純に怖いだけでなく、ユマに関わることで相手が下手したら死ぬと言う恐怖もあるだろう。


 あの事件は、後味が悪すぎた。気合でどうしろと言える話ではない。


「忘れられてるのは、まぁ、つらいな」

 ようやく、恋愛的な意味で好意を持てる相手ができたなら、少しは回復の兆しと言えるだろう。


 顔が異常にいいユマは、それだけで希少価値がある。両親ともに整った顔だが、掛け合わせが余程よかったのか、二人よりもさらに顔がいい。おまけに家柄は良すぎるし、頭も運動神経もいい、性格はまあ、意地が悪いわけではない。


 普通の女が相手なら、簡単に落とせそうな好条件だが、エルトナか……。


「エルトナが言ってる自分以外の記録、その所為で僕に好意的だっただけで、男の姿だったら、好きにならないで済む? みたいなことを、治療前に、言われた……」

 エルトナの病気……遺伝病の一種扱いでいいだろう。先祖の記憶を持つようだが、もしジェゼロにいた事がある人物か、女神教会の信徒ならばユマの顔に好意的でも不思議がない。


 今まで聞いたことのない症状だが、旧人類は今よりも科学技術が発展していて、頭の可笑しい、もとい、今では絶対にできない技術も多数あったと聞く。その中で、何か失敗したのか……成功したのか。

 少なくとも、ロミアが対応策をすでに開発していたのならば、昔はよくある病だったのか。


 万一にも、親父と同じ記憶を持って生まれたらと考えると気持ち悪い。だって、母親との馴れ初めとかもわかっちゃうんだろう。最悪、母親が女になってる時もわかるってことだろう。あ、想像しただけできつい。


「まあ、記録云々の以前に、お前は息してるだけで好意的にみられることのが多いんだ。いつものことだろ」

 ジェゼロでは、エラ様の子というのもあって表立って嫌がらせをされることはない。まあ、好意を向けられることの方がユマにとっては重大な嫌がらせ好意になるが。

 一年目のとき、研究校で女子から嫌がらせを受けたユマが、きょとんとしていたのは話には聞く。ユマからしたら異性からそういうことをさせるというのが不思議だったのだろう。特に堪えなかったのは、好意的に言い寄られる方が怖いからか。


「それともあれか……エルトナはリリーみたいな感じか?」

 リリーは異性に興味がない。エルトナの恰好は男よりなので、頭の中に男の記憶があって嗜好も男っぽくなっている可能性はある。

「女装で好きになってもらえるなら、まあ、それはそれで……」

 ははっとユマが乾いた笑い浮かべた。


「昨日はワイズ・ハリソンもわからなかったみたいだし、時間が経てば思い出すかもしれないだろ」

 そんな気休めを言ったが、そう簡単なことではなかった。





 ピンク君の長男からピンク君の人格を消すことは諦めた。理由は簡単で、気づいた時には手遅れだった。ただ、よく似ているが、思春期を超えたころにはピンク君とは明らかに違うところが見られるようになった。


 当たり前だが、人間は同じ遺伝子をもって生まれても、生育過程で性格、特性、能力が変わる。二十代までの父の知識や性格を継がせたところで、育つ環境も、学ぶことも、挫折や成功も全く別の事を経験するのだ。人工知能をコピーするのとはわけが違う。何よりも、それを受け継ぐ個体そもそもの遺伝配列が子供では変わるため、同じ記憶があったとしても同じことができるわけではない。


 ただ、好きなものに対する執着は変わらなかった。

 ピンク君は海を前にして育ち、海洋学が専門だった。彼の仕事は研究職ではなかったが、定期的に海に行く癖があった。長男も、ずっと海の近くで住むことを夢見て、ジェゼロを出てしまった。


 長男意外は、エルトナと同じ処置をした。まったく影響がなかったわけではないが、人格的な部分はほぼ抑制できた。それと同時に、次男は長男が興味を示す海に対して、特に何も思うところがなかった。湖とは違うらしいくらいの感覚でむしろ不自然に知識が乏しくなっていた。

 そこから紐解けば、エルトナがユマを忘れている理由も仮設が立てられる。


 エルトナは二重に記憶がある。

 エルトナが書いた名前をナゲルとユマに確認してもらったら、わからない名前もあるが、エルトナとの共通の知り合いで欠けている者はいないとのことだった。ユマが買ったという時間契約者やユマの警護の人の名前もある。


 ユマに関連した人の名前があるのに、ユマだけがすっぽりなくなっている。


「海……ですか?」

 海を見に行きたいかと問いかけると、エルトナは首を傾げた。


 最初に殴り掛かってきたときは男の子かなと思うような態度だったが、今は女の子だと直ぐにわかる。雰囲気が違う。


「塩水の広大な………湖のようなもの、でしたでしょうか」

 ピンク君の記憶持ちで海を知らない興味がないなどあり得ない。


「それじゃあ……この人は?」

 オーパーツを取り出す。ソラと復刻したタブレットだ。そこに一人の女性の写真を出す。

「……ユマ、さん……の母親ですか?」

 確かに、女装したユマによく似ている。エラよりも母親っぽいくらいだ。だが、彼女はユラ・ジェゼロ、レッドルの愚痴をこぼしていた子だ。そして、レッドルにとって女神と崇めて宗教の対象にするくらいの大切な相手だ。


 あの薬の解析は実は完璧にはできていない。その余裕がない時期だった。だから、科学的立証ではなく、あくまでも想定になる。


「三代目ジェゼロ王だよ」

「ああ、それで彼と似ているんですね」

 納得したようだが、それだけだ。


 二つの記録にとって、最も興味を示していた物の記録が消えている。もしくは封印か……。結果、それに関連が強いユマの記憶も思い出せなくなっているのだろう。


 最初に目覚めた時、ユマを見てユラかと問うた。あの時はまだ記憶としてあったのかもしれないが、今は女神教会の根幹である相手と認識もできないようだ。


 原因は仮定できた。その後は知能テストを受けてもらう。どうせなら、薬を投与する前に実験しておけばよかったと後悔しているが、ソラが連れまわした間にどの程度の知識があるかは幸い確認できている。


 結果からすれば、彼女の知能指数は元から高かったのだろう。いくつか、ピンク君なら知っている問題が解けなかったが、ピンク君では解けないだろう数学の問題を解けていた。それに旧人類だけでなく現代の知識もある。


「どうですか? 馬鹿にはなってないですか」

 少し心配そうな顔で問いかけられる。もう、ピンク君みたいなキレ方もしてくれない。

「大丈夫だよ。もう少し様子を見たいから、帰国はユマ達と同じ便にしてもらうけど」

「……わかりました」

「後三日くらいここにいてもらって、それから、国内観光して、記憶にぶれがないか様子を見ようか」

 三日後にしたのは一度ユマを島に戻すためだ。


「……わかりました。ロミア……さん」

「ロミアでいいよ」

「その、ロミア、ユマさんを思い出すことは難しいですか?」


 今、明確に忘れていると思えるのはユマについてだけだろう。ユラは過去の人だし忘れていても大して困らないし、海関係もここにはない。だが、目の前で忘れられたと悲しむユマは現実として存在している。


「ユマを思い出せるかはわからない。ユマと何があったのかは聞けると思うし、それで何か思い出すかもしれない。けど、折角の治療が台無しになる可能性もあるから……正直に言えば、思い出さない方が、関わらない方が安全だよ」


 エルトナは死にかけた時と、デジャブのような景色で記憶が鮮明になったという。また強い衝撃があったら、思い出すかもしれないが、それはまたレッドルのものかもしれない。普通は死にかけなくても発現するものだが、二つ遺伝したせいか代の経過があって特性が変わったのかもしれない。色々と調べたいが、設備的に難しいだろう。


「でも……私の事を、随分親身になって心配してくださっていました」

 とても寂しそうな顔だ。

「まあ、いまは薬の影響もあるから、安静にしておこう。無理をするとどんな副作用が出るかわからないから。下手に接触しないように、数日はユマにもこっちには来させないようにするから」

「……そうですね。わかりました」




 

 ロミアとナゲルから、エルトナはしばらく安静にさせると言われた。下手に刺激をして折角の治療に問題が出ても困るからと島に追い返された。


「ユマくんー」

 ナゲルに島まで連れて行ってもらい、とんぼ返りで戻るナゲルを見送っていると、後ろから突撃を受ける。ソラかと思ったがララだ。

「おともだち、だいじょうぶだった?」

 しがみ付いたまま、見上げてくるララが問いかける。

 大丈夫かと言われれば、僕だけが大丈夫ではない。


 エルトナの養父については覚えているし、仕事関係もそうだ。なら、特に困らないだろう。むしろ、忘れているのが僕だけでよかったとも言える。


「けんかしたの?」

 心配そうな顔をして首を傾げるララを抱え上げて、そのまま島の家へ向かう。


「ララは可愛いね」

 日焼けしないように長袖を着ているので素肌はあまり当たらないものの、ララは子供体温で温かい。ほっとする。


「ごめんねした? ごめんねしてもだめなら、あきらめなさいって」

 よしよしと頭を撫でられる。子供は親を真似るというが、そんなことを言われたのだろう。流石に子供に対して諦めが良すぎることを教え過ぎだ。


「喧嘩はしてないよ。大丈夫」

 頭を撫で返してあげると嬉しそうに笑い返された。

 うん、ララは本当に愛されるのが上手だ。将来が心配だ。

 将来、そう、意識しているようで、直視してこなかったことだ。


「ああ、戻ったか」

 中に入ると母がぐでんと寝台に突っ伏していた。


「どうしたんですか?」

「ララと遊んでたが、疲れた。子供の体力はどうなってるんだ」

「母様、もう歳」

 ララがそんな言葉を呟いたので、母にそっと生贄を差し出した。ララは母からの容赦ないくすぐりの刑に処される。


 父さんがいないのでぐるりと見回すと塔の上から手を振られた。ソラと一緒にいる。

「ユマ君おかえりー」

「ただいま」

 手を振り返しす。母にララを任せて僕も上がっていく。


 鐘で時間を知らせるためと、見張り櫓の意味もある。四角い螺旋の階段をひたすら上る。途中に小さい窓がある。小さいころから何度も登った階段だ。疲れたと父さんに抱えて上がってもらったこともあった。

 一段ずつ、同じようで少し違う階段。場所によっては端が欠けている。母が足を踏み外しかけた時、父は華麗に助けていた。気を付けてくださいと言いながら、母を見る目は心配そうとも優しいとも言える目をしていた。


 母は昔、この島で行われる儀式で真の王ではないと捕えられた。まともな裁判は受けられないと、国から逃亡したと聞く。ナゲルの祖父やオオガミも手助けはしたが、一緒に国を出て、正しく血を引く王であると証明するために旅に付いていくことはなかった。唯一、父さんだけが、全てを捨てて、母を守ることを決めた。だから、僕らの父が国王付きであるという公然の秘密があっても誰も何も言わないし、言えない。父は、それ以上も望めたのに、母や僕らのそばにいられる事を望んだ。

 失敗すれば反逆罪として死刑になるとしても、母を助けたことに比べれば、僕の感情など子供の遊びみたいなものだろう。


 けれど、子供のままでずっといられるわけではない。


 階段を登りきると、父とソラが待っていた。

 広い湖に接するような崖の上に建つ小さなジェゼロ城。湖に近い平地に作られた街。奥にある森との境にはオーパーツ大学も見えた。山と深い森に囲まれた僕の生まれ育った小さな国だ。


「父さん……、成人として国を出ようと思います」

 前置きはしなかった。階段を登るまで覚悟できていなかった。

 いつまでもゆるゆると両親の許で生活するものだと考えていた。妹達の世話をして、必要ならジェゼロを助け。だけど、登り切ったら不思議なほどあっさりと言葉が出た。


「……ソラ様、エラ様を呼んできてくださいますか?」

 ソラは立ち上がると、一度こちらを見ただけで直ぐに階段を下りて行った。

 父を見ると、いつものただただ優しい顔ではなく苦笑いと言うか、困ったような顔をしていた。


「そんなところまで、俺に似なくてもいいのに」

 小さな声は、オオガミやナゲルの父親に対してだけ使う砕けたものだった。


「ユマ様、王の子が成人と認められる場合、一般人とは違いがあります」

 直ぐに、真面目な顔に戻ってしまう。座るようにと指示されて、壁に沿って作られた固い椅子に腰かけた。


「女性王族の場合は、可能な限り国内に滞在し、国外に行く場合も女児が生まれた場合は報告の義務があります。まあ、何代も経て報告をおろそかにするものもいますが、基本的には他国に女系のジェゼロ王の傍系が渡らないようにと言う配慮です」

 血の審判で悪用されることを防ぐため、もしも国内の女系が途絶えた時のためだと習っている。


「男性は王の直接の子だけが王族として育てられ、国内に残る場合は身元の保証や場合によっては生活費を支払うことが許可されています。ただし、一代限り、ユマ様の子に関しては基本的にただの平民として扱われます」

 血を濃くしないため、僕の子が妹達の子供と結婚することはできない。だが、それらは平民も同様の法律がある。家系図としては保存されるが、それ以上の特典はない。元王族や王の血を引くことを利用した場合、厳罰や国外退去を命じられる可能性もある。その時は王族を示す一切を取り上げられてだ。他国で証明するすべはなくなる。


「国外へ行かれる場合、ジェゼロを名乗ることは許されません。王族としての威光も基本的には使用を禁じられます。オオガミの場合は役職があり、個人としての実力と実績があるため他国でも優遇はされますが、ユマ様ではそれも難しいでしょう。そして、国外で何かあった場合、ジェゼロ国民として対応を願い出ることはあって、王の子だからと言うことはありません。国益のために見捨てられることもあります。そして、金銭的な援助も国からは行いません。エラ様個人としては可能ですが、もしそれを期待するのであれば、国内に留まっていただきたいと存じます」

 他国から崇められるジェゼロだが、生活には困らないが決して裕福な国ではない。王が所有する財産も決して多くはない。


 父は僕ら子供たちも大切にしてくれる。愛されていると恥ずかしげもなく答えられる。けれど、この人の一番は絶対に揺るがない。僕らが愛されるのは母の子供だからだ。

 もし、僕らが国に不利益をもたらしたり、母に、十四代目ジェゼロ王に迷惑をかけるならば、母には知られぬよう秘密裏に処分するかもしれない。いや、そうならないように、母が悲しまないように、ベンジャミン・ハウスとして僕らを育ててきた。


「エラ様が来るまでに、成人する息子に、一つ父親の失敗談を聞かせましょう」

 本来ならば、成人と共にベンジャミン・ハウスが父親だと明かされる。けれどそれは既に知っている。その代わりとばかりに父が話を変えた。


「ユマ様がお産まれになった時、私は国外の任務を命じられていました。国に帰り、エラ様が赤子を抱えているのを見て、絶望しました。自分以外の子を産んだと」

 母が他の男を選ぶなど僕からですら考えられない。


「そして色々とすれ違い、大変な目に遭いました。その経験から、思い込みで勝手に相手の気持ちを計り、独断で絶望するのが馬鹿なことか身をもって学びました」

 本来なら、国王付きが王の子の父にはなれない。これだけ母を想っている父さんが、別の男との子を身近で見なければならなかったかもしれない未来を考えて胃に嫌な感じがする。


「事実は受け止めるべきです。ですが、勝手な想像で、相手の気持ちを推し量り、身を引いたりはしないように。もし……ユマ様がお慕いする相手ができたのならば」

 強い眼がこちらを見る。

「相手がしり込みしようと逃げようと、容赦なく囲い込んで捕まえてください。相手を大事にすることはもちろんですが、自分の思いを相手の為に押し殺さないように」

「父さんが言うと、実感がこもっていて怖いですね」

「エラ・ジェゼロ様を幸せにすること。エラ様に幸せにしていただくこと。ただそれだけが私の人生の意味であり、価値基準ですから」

 思っていた以上に恋愛体質を宣言されてしまう。ひとりの女性のためだけに生き、そのために体を鍛え、仕事も卒なくこなすために努力を惜しまない。ある意味、母は女冥利に尽きるという奴だろうか。


 僕にそれと同じ覚悟とか行動ができるとはとても言えない。


 階段を登る音が響くようになって父が口を噤む。しばらくして顔を出した母が呆れた顔をしていた。

「ベンジャミン。子供に何を吹き込んでいたんだ」

 反響して聞こえてしまったのだろうか、父が少しバツの悪そうな顔をしている。


「人生に大切なことです」

「まあいい、それで、成人申請の話らしいな」

 よいしょと父の隣に腰かけた。城ではまず見られない光景だ。父はいつも母の斜め後ろに控える。隣にいることはない。


「はい。年齢はもちろん、オーパーツ大学も既に卒業していますから問題ないと思います。個人の警護や世話係りも今はいます。お金も多少の貯えがあります」

「ふむ。確かに基盤はできているが、金は目減りする。稼ぐ当てはあるのか? 部下がいるということは自分一人喰えればいいというオオガミと違って身勝手に生きられる訳じゃない」

 成人と同時に山に籠った大叔父は、勝手な人だが一人分の責任だけを背負って生きてきたのだろう。今の僕にはそれもできない。


「商売を始めるか、まだわかりませんが、留学先で知り合った伝手があります。そちらで相談してみようと思います。何か始めるにしても、ジェゼロの名前を持ったままではできませんから」

「うむ、そうか」

 正直、心配されるとか、止められるのではないかと案じていた。だが、エラ・ジェゼロは母である前に国王である人だ。


「ならばユマ・ジェゼロをジェゼロ王家から抹消し、一人前の大人としよう。休暇が終わってから議会院に正式に申請を行うので出発までには書類も揃うだろう」

 あっさりと認められた。

 父のように何か心得を言ったりするわけでもない。


「だが最後に一つ果たしてもらわないとならないな」

 言うと座っていた位置をずらして、父と母の間に一人分の席が空いた。そこを母が叩く。

「後二日、息子としてひたすらに可愛がられろ! 命令だ」

 間に座ると、頭を抱えるように抱きしめられた。もう僕だって幼い訳ではない。それでも、無駄な抵抗はしなかった。それが大人の親孝行というものだろう。


 後ろからも温もりが重なった。父が母ごと僕を抱きしめていた。



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