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女装王子の留学記 ~美少年過ぎて女性恐怖症になったけど、女装していれば普通に生活できます~  作者: 笹色 ゑ
エルトナの治療(ジェゼロ)

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117 欠けたピース

 エルトナの中のピンク君の指摘を受け、お薬の在庫確認をした結果。本当に盗まれていた。

 どうやったのか、なぞだ。いや、先に盗まれていたものが、レッドルと言う人の手に渡ったと考えるのが速いだろう。同じ色のよく似た液体が保管されていた。ただ、経年劣化で明らかに変色の仕方が違うものがあった。


 ただ、それで女神教会の異様な発展が理解できた。


 宗教家の記憶を継承するというのは、ある意味で最も効果的な使い方かもしれない。科学者や政治家、一般市民に使っても、時代が変わればあんまり役に立たない。だが、宗教はどの時代にも存在する。そして時代ごとに変化し、劣化改悪または改宗されていく。

 最初の教えを理解し志を持つものを中心に据えれば、元の教えはそのままにできる。無論権力争いもあるだろうから一筋縄ではいかないだろうし、元の体の性能にもよるだろう。それでも、教典にでもうまい事書き記しておけば、記憶を受け継いだ子孫を要職に付けられるだろう。


 レッドル・ランテ。ランテと付いているが、ピンク君の直系ではない。ピンク君の子供は三人いて、クリソツの長男、半分の次男、母親似の長女だ。


 三人にもエルトナと同じ処置を施している。ただ、完全な記憶の継承を阻止できるだけで、その因子は残ったままだったのだろう。

 流石に国外に出た子孫まで追えてはいないが、まず間違いなくエルトナはその直系で、どこかでレッドルの血が混じり、ピンク君の記憶も活性化して記憶の継承が起きてしまったのだろう。


 治療が開始されてから、エルトナが泊まっていた仮眠室で似たような考察が書かれていたメモがゴミ箱から発見された。ピンク君の癖と同じだ。考えをまとめるにはただひたすら紙に書き起こす。頭の中でまとまらないなら頭の外に机を用意すればいいそうだ。

 いつもなら考察のまとめがあるが、殴り書きだけで終わっていた。


 レッドルの思考は強烈でエルトナの思考を飲み込みそうで怖いこと、逆にピンク君は止めようとしているが僕に会ったら激情が芽生えて怖かったこと。これはピンク君の子が投薬治療されていることと、レッドルがそのままであることに起因しているのだろう。


 関連記憶で感情的な面まで引き出されてしまうようで、ほかの症例とは違う点だ。ピンク君は昔と変わらない僕をみて、レッドルは思い出深い国境で思い出したんだろう。ジェゼロではそういう機会がたくさんあるだろうから、二・三日待って薬の効果が落ち着いてから古い施設を見せてみるのもいいだろう。


 目が覚めた時に、使い物にならなくなったら失望されるだろうかと書かれていたが、どの程度記憶が発現するかは元々の頭の良さにも起因する。二つの知識がある程度ある中、普通に生活できていた時点で、かなり頭がいいだろう。多少英知が失われても大丈夫だ。

 ただ、ユマを含めここ数年の記憶が戻るかは未知数だ。


 戻ったとして、同じ感情を持つかはまた別だ。


「眠ったって、あとの処置はどうしたらいっすか?」

 ナゲルが入ってくると問いかけてくる。


「ねーねー、もしかしてユマってば、あの子にほの字?」

「あー……個人的見解でいうなら、俺が倒れてもあいつは島にいる。ですね」

「ナゲルが倒れたらちゃんと心配してくれるよ。多分」


 でもそうか、ジェゼロの血と掛け合わさっても大丈夫だろうか。異常回復の特徴があるから、エルトナに使った薬も、解毒してしまいかねない。

 いや、ユマは男の子だから、ジェゼロの特性は継承されないから大丈夫か。もしソラかララだったら、神託的なあれで、関係を持つことは禁じなければならなかったかもしれない。


「馬に蹴られたくないから邪魔しないようにだけするよ。ナゲルはいいの? ユマ盗られちゃうかもしれないけど」

 茶化したら、重めのため息を漏らされた。

「よっぽどやばい女に引っ掛からない限りは応援しますよ。それより、俺は親父の家系の縛りでジェゼロから出られないかも知れないんで、将来的にユマがどうなっても助けてやれそうにないのが心配ですけどね」

「あはは、留学できてるでしょ」

 本来、ナゲルの父、ホルーの家系は馬番で、ジェゼロ王と同じく血筋も管理されている。


「それっすよ。なんで許可出たんですか」

「三百年。それが君の先祖に課せられた罰だったからだよ。三百年間、男系で馬番として働くこと。他にも色々ときつい制約がかけられてたけど、歳追うごとに緩く理由も曖昧になっちゃってね。ナゲルの父親ホルーの時にはそれが解消されたからシューセイの娘との婚姻も許されたんだよ。まあ、あの時はエラがごたごたしてて、既成事実を先に作って認めさせた感もあるけどね。君のお母さんも中々の策士だよね」

 フジカ・ハザキがどの程度ホルーの事情を知っていたかはいらないが、中々の剛腕だ。


「……じゃあ、俺が親父の仕事を継ぐ必要は、ないんですか?」

 ナゲルがぽかんとしている。あれ、ホルー伝えていないのかな。あれ、エラに言ったっけ?


「うん。継いでもいいけど、昔みたいに継がないと親兄弟死刑とかはないよ」

「じゃあ、国外に出ても……」

「子供ができたらジェゼロに連れてくることが条件だけど、許可するよ。できればジェゼロに居ついて欲しいけどね」

 彼の先祖が勝手に自分を罰した制度だ。彼が好きだったから尊重しただけで、僕は子や孫を見られて嬉しいな以外はなかった。


「………あ、向こうに好きな子ができたとか」

 苦笑いを返された。あれか、ユマが国外に出て行ったまま向こうに居ついてしまいそうなのか。


 友情で、国を離れてまで面倒を見ようというのだから、ナゲルもある意味でベンジャミンくらいのあれなんじゃないだろうか。





 虚ろな目をした女が懺悔室を使いたいと言ったのでツール神父を呼びに行こうとしたが、別の人の対応中だった。仕方ないので待ってもらうか時間を改めてと言うために告解室の反対にある神父や修道女が入る部屋に入室した。司教職以上に聞いてもらうとなると多額の寄付がいる。養父は基本タダで話を聞く。なので出世しない。


 女はこちらが説明する前に、婚約者に裏切られた話を語り出す。人を殺したとかになると流石に対応できないが、誰かに話せば憂さは晴れるものだと、そのまま黙って聞いて、適当に慰めて帰らせることにした。


 ツール神父の養子にはなったが、女神教会を全く信奉していないので、正直罪を告白させても神の許しとか、よくわからない。

 浮気された上に婚約破棄、汚名まで着せられた。女神教会は個人的恨みよる殺人は許していないので、何か罪状を作って死刑にしたいとのことだった。


 相手は被服関係の商売をしているらしい。若い女の実家も小さいながら商家の娘らしく、ならばと商売のアイデアを授けてみた。

 罪を作って陥れ、裁判を経て死刑判決と実施となれば、頑張って三年か五年だろうか。罪によってはもっと手早くできるが、陥れるのに失敗したら最悪自分が死罪になる。ならば、三年で相手の商家よりも大きな力を得て、金銭面で叩き潰して路頭に迷わせるほうが安心安全だ。


 物騒な痴情の縺れ話を忘れかけていたころ、ワイズ・ハリソンと名乗った上品な女が懺悔室を使いたいと言ってきた。話を聞くだけでいいからと、ただの掃除手伝いの私が聞くことになった。

 話をするまで気づかなかったが、あの化粧も落ちかけ、ガサガサな髪をしていた半狂乱の女と同じ人物だった。


 神の声に対して感謝と祈りを言いに来たそうだ。あの時も私に声をかけたから選んだだけだと。ついでに、私を養女に迎えたいとまで言い出したが、生憎ツール神父の養子であると答えたら、帰りにツール神父を通じて女神教会へ寄付をしていった。


 寄付額は、かなり高額だった。

 殺したいという話を聞かさせた時、殺人を請け負う人への報酬の相場も話題に出た。それと同額だ。殺し屋を雇わなくて済んだなら僥倖……のはずだがなんだか怖い。


 そこから養父の階級がトントン拍子に上がっていく。途中、危惧して何度か左遷されたがその都度その土地で女神教会を発展させて、戻る度に発言力が増していく。

 女神教会に置いて、信徒の信仰心を計る度合いに寄付額は比例しない。たまに家族が困るほど寄付させる神父がいるが、家族に申し立てられた場合一部返還しなければならないし、そんな多額の寄付を受け付けた者は株が下がる。

 出世するには、少なくても大多数から集めるか、富豪をパトロンにするかだ。信徒から寄付を強要するのは女神教会の教えに反するが、女神教会内で神父が発言権を持つためにはやはり金の力が不可欠だ。


 ツール神父は圧倒的前者だった。下手したら身銭を切って貧困のものに食事や服を与え、計算や字を教えまでしていた。情報収集のためでもあったのだろう。本人も出世欲などなく、帝王と女神教会のためだけに生きている人だった。


 そこに躍進するハリソン商会の女主人がパトロンに付き、時世が変わった。

 ツール司教になってからも本人はのほほんとしていたが、役職が点くと途端に偉そうになるものが多いので余計に目立ち、神父や修道女の中でもツールに付くものが増えた。ツール神父に傾倒している帝国軍時代の部下もいた。ハリサとネイルだけでなく、ほかにも数名元帝国軍の人がいて、ほかの司教から暗殺対象にされている養父を守っていた。

 養父の躍進は、正直私のアドバイスのお陰も過分にある。ワイズの寄付に関しては私一人の手柄だ。だが、そういうのも別にあげてもいいよ思わせるのが彼の凄いところなのだろう。


 そんな感じで、帝都の女神教会に移ってからの生活を過ごしていたが、帝王命の手紙が来た。養父にではなく私へだ。


 ジョセフコット研究所での勤務を命じたものだ。

 養父から引き離すためかとも思ったが、どうも養父が帝王に話したらしい。嘘かホントかは知らないままにしているが、ツール神父は帝王とたまにお茶をする仲らしい。


 それは別にして、帝王命の重みは理解していた。ツール神父を死んでも守るという信徒も、帝王命で度々教会を離れていた。元々精鋭たちなので、大半は戻ってきたが、たまに死ぬ人もいた。そういう時は、ツール神父が葬式を上げていたが、場合によっては遺品だけのこともあった。

 死んでも任務を遂行しなければならない。それが帝王命だ。


 まあ、実際。仕事量で殺されかけた。

 ―――がバイトに入らなかったら所長代理を殺していたかもしれない。無論、そうなったら、王命への違反で処罰されていただろう。この場合は違反での処罰か純粋な殺人罪のどちらが重いのだろう。

 イーリス家の誘拐に巻き込まれたのも今思えば所長代理の陰謀かも知れないと思ってしまう。

 半年もすれば仕事には慣れた。効率化の改革をオオガミと言う人が始めてくれたのも大きい。いつの世も、優秀な人は産まれるようだ。


 効率化を図った生活をしていたら、近くに建っていた屋敷の部屋を貸してくれることになった。掃除洗濯飯付きだ。何よりも所長代理から帰る前に仕事を押し付けられても、帰路につかないと屋敷の管理の人から心配されるので遅くなる前に帰る習慣ができた。


 アリエッタと言う女の子がたまにおしゃべりをしに来てくれるようになった。なんでも雇い主がとてもいい人らしい。うちの雇い主にも見習ってほしいものだ。


 夏の期間に、ジェゼロ神国へ向かうことになった。

 国境で嫌なものが頭に過ぎる。二つ目の記録の人間は正直言って気持ち悪い。


 ソラというロミアに似た女の子は明らかに現代では得られない知識人だった。話を聞くだけで楽しいが、彼女を抑える大人は大変だろう。何せ、ほかの誰よりも頭がいいのだ。


 ロミアと会って、一つ目の記録の本性を垣間見た。私の思考はかなりの割合で旧人類の影響を受けてきたのだと実感する。

 影響率は一つ目が大きくてよかったとも思ってしまう。

 彼を見てなんだか変な気分になるのはきっと二つ目の影響だ。


「……彼?」

 自分の寝言で目が覚めた。


 薬の投薬を始めたのと同じ部屋。薄いカーテンから朝日が差し込んできていた。


 ナゲルが留置したカテーテルはまだ鎖骨の近くで固定されているが点滴とは繋がっていない。急変した時のためにまだ残しているのだろう。何となく突っ張るような違和感があるが、それだけだ。

 ルールー統治区の都区で渡してもらった薬を飲んだ時のようにすっきりというよりは、何か憑き物が落ちたような感覚だ。


 あまりうろつくなと言われているので、本でも持ってきてもらおう。顔を洗ったり身支度を済ませて廊下に出る。隣にいると言っていたので部屋をノックした。時計がないので今何時かわからない。


「はいっ。あ、エルトナ」

 出てきたのはとても綺麗な人で、その奥に寝ぼけ気味のナゲルが起きあがるのが見えた。


「………すみません、あとで来ます」

 慌ててドアを閉める。


 あれか、ナゲルがルーラの誘いに乗らなかったのは、国に女を残していたからか。それにしても、偉い美人だった。ナゲルはあれで美人を捕まえる特技があるのか。

「あ、エルトナ、えっと。少ししたらそちらに向かいますね」

 美人が、ドアから顔を出して言う。


「わかりました」

 随分気安く話しかけてくる人だ。


 着替えたナゲルと美人が部屋に来た。

 ナゲルに簡単に診察をしてもらう。正常との事だ。午後にでもカテーテルを抜去できるか聞いておいてくれるそうだ。


「折角の帰郷だというのにお世話をかけます。折角恋人が来ているのに迷惑をおかけしてしまって申し訳ありません」

 そう言うと、美人は一瞬顔を引き攣らせた。嫌味に聞こえてしまっただろうか。


「その……、僕はナゲルの恋人じゃありませんよ」

 物凄く寂しそうな顔をさせてしまった。


「そうでしたか、申し訳ありません。初対面の方に失礼しました」

 恋人未満の微妙な関係というやつか……。

「初めてでは……ありませんが」

 困ったような微笑みで彼女が続ける。

「……ユマ・ハウス。もしくは、ユウマ・ジェゼロと以前名乗らせていただきました」

 名前にぽかんとしてしまう。


 まず、ジェゼロはジェゼロ国の王族しか名乗れない。それにジェゼロと名乗り、名前にマが付くからにはこの人は女ではなく男だ。


「ジェゼロ王の御子息とは知らず、ご無礼を。エルトナと申します」

 居住まいを正して頭を下げる。


「俺のことは思い出したんだよな。なんでユマだけまた忘れてるんだ?」

 ナゲルが不思議そうに首を傾げた。

「……忘れてる?」

「ああ、身を挺してエルトナを矢から庇ったり、屋敷に部屋用意したり、後、ジェゼロへの入国許可でも色々と便宜を図って連れてきてくれただろ。記憶にないか?」


「…………」

 文字通り磔で殺されかけたのを誰かが助けてくれた。研究所の隣にある屋敷は当初オゼリア辺境伯が使っていたはずだが、部屋を用意したのは彼ではない。それに、オオガミに入国許可の便宜を願い出ていたが、一緒に来たのはナゲル達と、だ。


「………」

 つまり、私はその誰かの事を知っているべきのだ。

 ユマと名乗った美人は、曖昧な笑みを浮かべている。悲しいような仕方がないような。諦めたような顔だ。


 自分の記録……いや、記憶を鑑みるに、確かに誰かがすっぽりと抜けていた。ただ、それが目の前の相手かがわからない。


「すみません。確かに忘れてしまっているようです」

「構いません。薬の作用でしょう。それよりも、ほかに問題はありませんか。体調不良とかは? 昨日もまた長く眠っていましたから」


 眠れば思い出すのか。まだ思い出している段階なのだろうか。もしかしたらこのままかも知れない。

 自分の記憶が再構築されるような、死にかけた時に二つ目が鮮明になったような感覚があった。二つの記録は思い出せるが勝手に出てくる感じはない。


「ごめんなさい……覚えてなくて」

 なんだろう。悲しい顔をされると、心が痛む。


「今は、ご自身の事を考えてください……。エルトナからしたら、知らない人に側にうろつかれるのは、気が休まらないですね」

「あ、待ってください」

 立ち去ろうとする横顔が、寂しそうで、呼び止めてしまう。


「その……本当に、ごめんなさい。覚えていなくて……」

「大丈夫です」

 優しい笑みを返した後、部屋を出て行った。

 知り合いを忘れたからだろうか。胸が痛い。


「まあ、忘れたならまた仲良くなりゃいい。仲良くなりたいならな」

 ナゲルが軽い調子で言う。

「そうですね。仲良くなれるといいですが」

 あの顔をずっと見ていたいような。けど、寂しいような顔をされるのは嫌だ。


「まあ、慣れるだろ。昼飯、一緒に誘っておくか?」

「はい……あ。後、数日ここで過ごすなら本を何かお願いします。やることがないのも辛いです」

「ああ、わかった。後、誰を忘れてるか、確認したいから、名前の書きだしをしていてもらえるか? つってもジョセフコット研究所とかしかわかんから、そこらで知り合った相手の名前でいいから」

「そうですね。ナゲルに確認できる人を書き出してみます」


 関係がどうであっても、ジェゼロを冠する者を忘れるのはおかしい。他にも覚えていない人がいるだろう。



書いてる人間が、忘れていることを忘れそうになる。

抑制剤飲んでないのに、なんでだ……

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