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女装王子の留学記 ~美少年過ぎて女性恐怖症になったけど、女装していれば普通に生活できます~  作者: 笹色 ゑ
エルトナの治療(ジェゼロ)

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113 自分との別れ


 父様とユマ君のつくるごはんはおいしい。


 母様とソラたんのつくるごはんはよくふしぎな味がする。


「んふふ」

 母様にだっこされたまま、父様とごはんをつくるユマ君とソラたんを見る。


 父様の事はみんなの前ではおなまえでよばないといけない。この島いがいでおなまえでよんだら、いじわるな人が父様をつれて行ってしまって二度とあえないと聞いた。

 ほんとうは、ほかの子みたいに、いつも父様とよんであげたいけど、父様がいなくなるのは嫌だからまちがえないようにがまんする。


 はやくわたしが王様になって、父様が母様と結婚できるようにしてあげたい。

 母様が、わたしも男の人と結婚はできないといっていた。でも、王様をやめたら結婚できる。わたししってる。


「かしゃま、わたし、はやく王様になるね!」

「どうした? 急に」

 見上げて言うと、母様がふしぎそうな顔をしながら頭をなでてくれた。

 母様はなでなでだけはじょうずだ。うれしい。


「ふふ、わたしが王様になったら、お城でも、父様って、呼んでもいいでしょ?」

 ほめられるとおもったのに、母様がこまった顔した。

「王様の父親は政治には係われない。だから、ララが王様になった時に、ベンジャミンに手伝って欲しいなら、父様とは呼べないままだぞ」

「え……」

 母様が王様をやめても父様と結婚できないの?


「うっ……なんでとしゃま、かしゃまと、なんで結婚できないのっ」

「そう言う決まりだからなぁ」

「うっ……ううっ、だって、としゃまっ、かわいそうでしょっ」

「あー、泣かない泣かない。ベンジャミン、交代!」

 いつのまにか、父様がきてだっこしてくれる。


「ララ様、どうしたんですか?」

「とうしゃま、かしゃまと……けっこんできないの?」

「……そうですね。でも、結婚という書類上の契約はできません。けれど、普通の家庭でも、離婚してしまうことがあるでしょう?」

「……りこんってなぁに?」

 お鼻がでてきたので、母様がハンカチをくれたのでちーんする。


「離婚は、結婚をやめることです。やっぱり嫌いになったり、ほかに好きな人ができてしまったら、結婚を止めて家族でなくなることができるんです。それを離婚といいます」

「とうしゃま、ほかの人、すきにならないでしょ。だったら、りこんもしないでしょ」

 父様がほめるみたいになでてくれる。


「まあ、離婚はないよね」

「母さんが、よっぽどの事をやらかしてもないよね」

 ソラたんとユマ君がいう。


「失礼な子供たちだな」

「そうですよ。エラ様に愛想を尽かされる可能性もありますから」

「その時は、僕らから母が愛想尽かされますよ」

「ぐぬぬ、みんな大好きベンジャミン。いいことだけど母としては悔しい」

 母様がそう言うと、父様が母様の頭を撫でた。


「その私が大好きなのはエラ様ですから、エラ様が一番ですよ」

「ぬー……それなら私もベンジャミンが大好きなのだか結局お前が一番になってしまうではないか」

 見上げると、父様が顔をまっかにしていた。

「まあ、子供たちには面倒をかけるが、母も父も今の関係で互いを大事にしている。結婚できなくても許してくれ」

「とうしゃまは、それでいいの?」

 まだ顔が赤い父様に聞く。いつもやさしいけど、とっても優しく頭を撫でてくれる。


「エラ様のお側にいられて、子供たちの近くにいられる。ララ様にはまだ難しいかも知れませんが、可哀想どころか、とても幸せなんですよ」

「………私が、王様になっても、お手伝いしてくれる」

「ええ、もちろん」


 なら、それでもいいや。


 

 



 ロミアは三百年以上前からほぼ同じ外見だった。

 恐らく劣化して体を変えたのだろう。


 当たり前にそう結論をつける自分が気持ち悪い。

 ロミアが去ってから、オオガミに失礼を謝罪して部屋に下がった。


 一つ目の記録。その元の人物は二つ目の記録と違い、淡々とした人物だと思っていた。

 ロミアを見て、沸騰したような怒りが湧いた。所長代理にすら抱かないようなものだ。


 今まで、嫌いになった相手は少なからずいる。死ねばいいと思うような相手もいた。けれど、その場で殴り倒したいと実行するほどの事はなかった。まして、今の自分には初対面の相手だ。本来なら、あんな苛烈な怒りを抱くわけがない。


 ベッドに腰かけてため息をついた。


 そもそも、「ベリル」が会う気がないならば、「ロミア」にできるだけ早く会いに行かなければと、ずっと頭の隅にあった。ジェゼロにいるはずだと、何故か思っていた。そして、ユマやオオガミがジェゼロ国の出身で、入国手続きも口添えできるとわかったら、いてもたってもいられなくなった。


 早く、ロミアに会って、この状況を止めなくてはならないと。そもそも、私はなんでそんなことを思っていたのか、焦っていたのか。ジェゼロに来るまで理解していなかったのだ。


 自分の口から出た言葉も、自分ではその時まで理解していなかった。


 記憶の継承を促す薬。ピンクラルが投与を受けたのは確かだ。無理やりの実験ではない。その結果、子供にも人格までが継がれてしまったようだった。それがわかるのは彼の第一子ではないからだろう。結果が出てから生まれたのか、予兆が見えたからそう判断しているのかはわからない。

 記憶を遺伝させると言っても死ぬまでのものではない。子供ができる前までだ。


 そして、もう一人、レッドルと言う男の記録。


 同じランテと姓名乗るところから、息子か孫の記録が加算されたのだと思っていた。けれど、私は薬の盗難を責めた。


 三百年以上前から直系の子孫を遡るとして、ジェゼロ王では今十四代目、ピンクラルから自分までの間もその前後いるだろう。だからと言って、十人以上の記録は少なくとも感じられない。少なくとも、三つ目の片鱗はない。


 二つ目は、ツール神父と会った時点で無意識下にあったのだろう。だから、養父は養子にまでしようと考えたのかもしれない。

 代を重ねるごとに効果が落ちたのかとも思ったが、ピンクラルとレッドルの間に少なくとも一人は挟むはずだ。だが、その記録はなかった。

 女神教会を創設した男は旅を終えてジェゼロへ帰ってきた。王からの拒絶に打ちひしがれ、それでも尚、ジェゼロ王である神子に心酔していた。


 詳細を思い出すことはできるかもしれないが、二つ目の記録は私を喰うようにすら感じる。だから思い出したくない。


 宗教は普通代を重ねるごとに歪んでいく。そして最終的に聖地であるジェゼロを奪還するなどと言う危険思考にあえて向けさせることで、教会の存続を図る可能性もある。それを避ける方法として、記録の継承は恐ろしく便利なものだ。


 普通、会ったこともないジェゼロ王とジェゼロの土地を守ることに人生を捧げられるわけがない。だが、人格まで引き継いで、記憶まであればどうか。

 創設当初から、今に至るまで、多少の変化はあるものの、ジェゼロの神子が世界を救い、見捨てられぬためにも人類はよい行いを心掛けなければならないと説いている。


 無論、この世界で第一位の宗教の座を占めている以上、地方の教会で不正や蛮行はあるが、定期的に思想が修正されてきていた。結果、ジェゼロは不可侵、これは守り続けられ、ジェゼロ国から何か言葉があった場合、それが教会運営に反していても粛々と受け入れてきた。決して、反目することなく、ジェゼロの神子を神の使いとして立ててきた。


 レッドルの子孫が、レッドルと同じ思考をもって教会を治めてきたのであれば、頷けることだ。

 教祖と同じ知識と志向があるならぱ、教会でも一目を置かれ出世するか、地方の教会でも正しく伝えることができる。


 恐らく、私の母がレッドルの子孫とピンクラルの子孫の間にできた子なのだろう。そして、わたしもその二つを受け継いだ。


 一つであれば、歳を追うごとに脳が同じように形成されるが、二つあることで拮抗し間にエルトナという人格ができたと考えることができる。もしくは、エルトナの人格を二つが浸食しているように成長したのか。

 少なくとも、ピンクラルの人格はこの状況を止めるように動いている。レッドルはそうではないように思える。


 レッドルの方が当たり前だ。生存本能があるならば、生き残りたいと思うだろう。現に私も飲み込まれたくないと思っている。もしかしたら、ロミアの薬を使えばピンクラルだけが乗るのかもしれない。

 ロミアにとっても、見ず知らずの私よりも、彼が残る方が都合はいいだろう。

 知識がなくなったら、私はただの子供だ。運動神経も鈍いし、普通以下になるかもしれない。

 それでも、投薬は希望した。


 ふと、頭を撫でて、母のように優しく慰めてくれたユマを思い出す。

 彼も、役立たずには興味を示さなくなるだろう。


 二つ目の記録がユマに対して過度な好意を持っている所為だろうか、私もユマに好意を持っている。何かと世話を焼いてくれているので勘違いしてしまっているのもあるだろう。

 エルトナだけになったら、今の私ではなくなる。そう思うと、最後にお別れを言っておきたかった。けれど、今は連絡もできない島へ滞在しているそうだ。彼が戻る頃には変わってしまった自分しかいないだろう。


 大手術を前にした患者はこんな気分だろうか。

 ユマたちと一緒に誘拐されて、大怪我をして手術を受けた時は覚悟を決める間もなかった。あの時、ユマが自分以上に不安そうな心配した顔をしていたなと、ふと笑いがもれた。


 翌日、何も食べないで夕刻まで待った。お腹が空くと嫌な事を考えるとはよく言ったものだ。暇すぎて、養父宛に最悪の事態を考慮した手紙をしたためてしまった。


「よ、体調はどうだ」

 入ってきたのはナゲルと厳しそうな老人だった。

「お腹が空きましたが、それ以外は平気です。水は少し前にも飲みました」


 目で、そちらは? と問うとナゲルが祖父だと紹介してくれた。

「こっちは俺の爺で一応医師。俺はまだ医師見習いだから付いてきてもらってる。ロミアとはあんまり会わない方がいいだろうからって、手技は俺がすることになった」

「わかりました。よろしくお願いします。手順などを伺ってもよろしいですか?」

 ナゲルは若いが、腕はいいと耳にしている。それに、ロミアを見た時の激情を考えれば、確かに会わない方がいいだろう。


「ああ。最初に鎖骨下静脈から中心静脈に点滴用の管を留置する。その後は指示のあった薬を順番に入れる。最初ので昏睡状態になるから、そこからはロミアに入ってもらって微調整する形だ。最悪の場合もあるって聞いてる。始める前に頼み事とかあるか?」

 ロミアは目が覚めないかもしれないと言ったが、副作用で死ぬか廃人の可能性もある。よくて一般的知能への低下だ。


「ナゲル達がヒスラへ戻る前に目が覚めないのであれば、養父にこちらを渡していただけますか? 後、こちらはサセルサへの指示になります。どちらも所長代理に渡してくれれば適宜対応してくれるでしょう。他は……まあ大丈夫です」

 仕事の引継ぎは大切だ。養父は今頃アッサル国で民主化運動を裏で操っていることだろう。このまま帝国の仕事に復帰するならば私はいなくてもいい。


「ユマにはなんか言っとくか?」

「……そうですね。最悪の場合は本人が納得の上で選んだことと伝えてください。もし、記憶障害があれば、責任を感じずに養父の許に届けてくださるだけで十分ですと」

 ナゲルが苦笑いを漏らした。

「まあ、わかった。患者が納得した上での治療なら、全力を尽くす」


 そう言うと、どこかの施設へ連れていかれた。オーパーツ大学にも医術部門があるらしく、ジョセフコット研究所の病室のようなところがあった。

 エコーもあるらしく、寝台に寝転がると、CVカテーテルの留置が始まった。

 鼠経か首元や鎖骨付近で血管確保が多いが、流石に気を使って鎖骨下静脈を選んでくれたようだ。鼠径部は汚染の可能性が高いことを考慮しただけかもしれない。


 抹消血管だと薬の刺激で手足に後遺症が残るかもしれないので大静脈へ直接薬を投与するそうだ。

 今の時代でも点滴の概念はあるが、針や管の入手が困難なため、一部の医療機関しか実施されていない。針にいたっては使いまわしは当たり前だが、今回は新品だった。


 太い針を入れる前の麻酔が一番痛い。

 噂通り、とてもいい手際でカテーテルの挿入と固定が終わった。


 医師という仕事は最低条件として頭が必要だが、それにプラスして、外科医は手先の器用さが重要だ。どれだけ賢くとも、不器用な者はいる。逆に頭はぎりぎりでも、手先が器用ならば名医にも成れる可能性がある。ナゲルの成績は、学科試験に目を見張るものはないが、学科だけは抜きんでていた。


「さって、一個目の薬を入れ始めるぞ」

「はい。お願いします」

 シリンジポンプがセットされるのを確認する。手押しではなくきっちり投与時間管理がされるらしい。

 そんな最新機器を見慣れていることがそもそもおかしかったのだ。

 

 血管に僅かな痛みを感じた後、ふっと痛みが消えた。




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