110 それぞれの休暇
三人は、保護者から合格を貰えているので、トーヤとニコルは訓練をはじめ色々と教えられるらしい。ベンジャミン先生が手配してくれていた。
アリエッタは、城内で作法やらと時々護身術の予定だったが、それに追加してララの友達役もさせられるようだ。我が家は決して友達が多い家系ではないので、交友関係を築く練習台にさせられるのだ。
エルトナは、何度か様子を見に行ったが体調を崩すこともなく平和に過ごしているようだ。
ただ、ソラがかなり気に入ってしまっている。正直言って、面白くない。
「今回、三人には制服をお作りするのも素敵ですが、もう一人の方のお洋服はどうされますか?」
「ふふ、男性用のお洋服ももう少し作り出してもいいのかもしれませんね」
双葉の店で服の直しをしてもらいに来たが、左右の二人に冷やかされる。
三人を正規雇用すると決まったので、何か制服を考えた方がいいかと言う相談にも来たのだ。別にエルトナの事は話していなかったが、ソラが洩らしたらしい。服をあまり持ってきていなかったエルトナ用に夏服をお願いしたそうだ。特注ではなく普通の吊りの服だ。
「それにしても、随分と背が伸びてしまいましたね」
「本当に。そろそろふんわりとして美少女よりも、きりっとした美人へ移行した方がいいかもしれませんね」
二人は、背が伸びて女装は難しいというのではなく、真剣に解決策を模索し始めた。
「女性としてはかなりの長身になってしまっていますからね……」
まだベンジャミン先生の身長までいっていない。オオガミにはまだまだだが、男としても低くはないくらいに伸びている。女性としてはかなり珍しい高さと言えるだろう。
顔で誤魔化しているが、そろそろ可愛い系は難しい。
「長身と言えば、前国王のサウラ様は背が高かったとお聞きしますね」
「豪華な波打つ長髪に、青い瞳。威風堂々とした出で立ちであらせられたとか」
祖母に当たる十三代目ジェゼロ王は、聞く人によって評価が割れる。一番多いのは変人奇人だ。極一部ではとても評価が高い。
「かっこいい豪快な薬物偏愛者だったと聞いています。うちの母みたいにあまり子育てはしていなかったようなので、母からはあんまり話を聞くことがないですけど」
ジェゼロの家系は何かしら偏愛する。母とソラはオーパーツ。ララは今のところ音楽。僕は芸術だが、祖母は薬物、特に毒草に強い興味を持っていたらしい。僕も母から対毒の授業と薬物耐性のための投薬を受けてきたが、祖母から教わったものだと聞いている。
「あ、これ素敵ですね」
並べられている絵は服の僕描いてきた素案だ。その中のすっとしたスカートを右が指さした。
「僕も、結構好きなんですけど、ただこれだと武器を隠し持ちにくいのが難点で。普通の婦人ように作ってもいいのですけどね」
安全上、僕は武器を所持しておかねばならない。できれば、帯刀せずに隠し持つ方がいい。
「短剣二本は必須でしたね」
「普段着用に少し布の質を落として、ひだを増やして……でも野暮ったくなってしまいますね」
ひとまずは以前の服を調整して使うが、一着か二着は新しいものが欲しい。早めに決めないと作るのが間に合わない。忙しい中かなり無理をお願いして作ってもらっているのだ。
「あ……」
ふと、別の絵に手を伸ばした。妹や母の服も話し合うので出されていたものの方で、左右の二人が描いたものだ。
「……ふふ、お友達に如何ですか?」
「ユマ様はご自身以外を着飾らせるのもお好きですものね」
母と妹達、あとたまにベンジャミン先生の服を決めるのは僕の趣味だ。それぞれの趣味を把握しているので、特に嫌がることなく着てくれている。無論、双葉の店の腕がいいのもあるが、やはり着るもので人間随分雰囲気が変わって見える。
正直に言うと、僕の趣味だけを考えてエルトナの服を準備したい気持ちはある。だけど、こういうものの押しつけはよくない。何よりも、単なる友人やどうでもいい異性から服を送られるのはかなり気持ち悪いだろう。
「機会があれば、注文します……」
「ふふ、図案画だけでもお持ちいただいても構いませんよ。あちらの服店も中々の腕前ですから」
ヒスラで、追加購入したものも仕立て直してもらっている。二人ほどではないが、中々腕がいい針子がいる。確かに、こちらにいる間に仕立てるのが難しければ、向こうで頼む手もある。
「そう言えば、ソラはどんな服を買っていったんですか?」
「はぁ……作業着です」
「ツナギの、ただただ機能重視で作らされた」
二人が明らかな落胆を見せている。
この高級服屋には不釣り合いの作業着が実は数着用意されている。ソラだけでなく、母や僕も汚れていい作業着を持っている。
少し期待した自分が馬鹿みたいだ。ソラが可愛い服を頼んでいるわけがないのに。
予定通りに、島へ出発の日になった。娘二人が出発前に、ちゃんと世話するからとユマが連れてきた女の子二人を連れていきたいと駄々を捏ねる。
これまで、友達と遊びたいから家族で休暇は嫌だなどと言ったことがなかった。それを想えば成長を喜ぶべきだろう。
もっとも、二人ともベンジャミンのとても悲しそうな顔と言う攻撃を使われて、しょんぼりつししも我慢した。ベンジャミンがこの期間のためだけにどれだけ頑張っているか、待ちわびているかは皆よくわかっている。
「父様っ」
島に着くと、直ぐにララがベンジャミンにそう言って抱き着いた。
以前は天然だったが、この歳で既にあざとさを覚えだしている末子を微笑ましくも心配してしまう。
船の停泊を、ユマがすっと変わる。ユマも後何回この休暇に付き合ってくれるだろうか。
「ララ様、どうしました」
ララを抱え上げたベンジャミンが、相好を崩して問いかける。
「あのね。いっぱい遊んでね」
自分で産んだ娘を見て、あいつ絶対そう言ったらベンジャミンが甘くなるとわかっていて言っているなと考えてしまう。まあ、実際可愛いから仕方ない。
「ソラ、ふてくされないでこっちにおいで」
「だってー、もしかしたらこの間にエルトナが帰っちゃってるかもしれないのー」
文句を言いつつも付いてきたソラが盛大にふてくされている。
ユマが連れてきた友達とやらはまだ会えていないが、この休暇の間に帰国している可能性もあるそうだ。兄の友人を奪う勢いでここ数日は一緒にいたらしい。ソラが歳の近い子と仲良くするのは珍しい。余程上手くソラを転がすか、頭がいいのだろう。オーパーツにも造詣が深いらしいので、個人的にも是非会ってみたい。
「今回も短めにしたんだ、そういじけてやるな。ベンジャミンが陰で泣くぞ」
「……ヴー」
ソラもなんだかんだでベンジャミンが大好きなので、葛藤している。
「さーて、ごはんを作ろう!」
「あ、母さんとソラはサラダを作ってください。材料を消し炭にされたら困ります」
ユマが停泊を終えてやってくるなりそんな失礼な事を言う。
「前は砂糖とお塩が同じ色だったから悪いの。火加減じゃないもん」
「……じゃあ、砂糖と塩もこちらで準備するから、二人は混ぜることに専念してもらおう」
息子が真顔で言う。
そりゃあ、家事はしないし育児もあまり関わっていないが、酷い。母は家事育児の代わりにお仕事をしているから、そういうのがあんまり得意じゃないだけだ。
「ユマ様、多少失敗してもいいじゃありませんか。それもいい思い出になります」
「まあ、もしもの為に色々経験させた方がいいかもしれません」
ベンジャミンの言葉であっさりと意見を変える。世の子供は年頃になると父親を臭いと断罪するものだと聞いたというのに。子供は全員ごりごりの父親派閥に属している。だがいい、その男は母親過激派だ。結果にしてみれば子供たちも全員私の傘下だ。
「ララも、ソウナンしたときのために、火をつけられるようになりたいの!」
「あー。でも……、いや……うん、そう言う経験も大事かな」
自分の失態を思い出したユマが何か言いかけたが、重要性を取った。
ソラは色々諦め、免除しているが、ララには森での研修は行う予定だ。私自身、国を追われた時は野宿もしたし洗濯や馬の世話もした。オオガミの森の小屋で色々と遊び半分にしていたことがよかったのだろう。
他国とは随分と違うかもしれないが、いざとなったら一人でも生きていけるように育てるのがジェゼロの教育方針だ。
さて、ソラ・ジェゼロは回収されてしまったのでこれから十日ほど暇になった。
オーパーツ大学に隔離療養されたのは、ここが全て新しい建物だからだ。流石に見上げた山や森は昔と大差ないだろうが、言ってしまえば記憶と直結するような特徴もないらしい。
街中は古い建物も多いらしいし、ジェゼロ城は改築はしているだろうが確実に何かしらの刺激になるだろう。わざわざ危険がある場所に近づくつもりはない。
暇だろうからと、ソラがいくつかの教室を紹介してくれている。
大学と名前はあるが、研究や開発も盛んだ。ジョセフコット研究所は研究に重きを置いていて、開発は二の次だ。こちらはむしろ利用可能な開発に重点が置かれている。
ジョセフコット研究所が使っている技術もいくつかあった。
「ああ、エルトナ殿」
四十後半の男性教諭がやってくる。オーパーツ大学開設初期の学生で、いつの間にか教職員の立場になっていたらしい。立場としては留学生だったが、いつの間にか妻と子もこちらに移住してしまったそうだ。普通はジェゼロ国への移住は中々許可が出ないため、ダメ元で学長に聞いたら二つ返事で許可が出たそうだ。それだけで、とても優秀な人材だとわる。
オオガミ学長は、使えると思ったら容赦なく外堀を埋めていくらしい。なのでここにいる教員や生徒は異常に優秀だ。頭が可笑しいのもいるが、それほど優秀ではないがサポートに秀でている人材も多い。目に見えない才能もきっちり評価しているのだろう。ある意味で経営者として神がかった才能だ。
「こんにちは」
「はい、こんにちは。いいところで捕まえました」
そう言って捕獲され、彼の教室に連れていかれた。
中はやや雑多で、色々な資料や本が散らばっている。ジョセフコット研究所のように旧人類の英知を申請で印刷して渡しているのだろう。紙をまとめたものが多くみられる。
「こちらは……地熱発電でしたか」
「はい。安定的電力の発生は、今後の人類で最も重要。悪の炉と火力発電以外となれば、水力と風力、そして地熱……。これら三点は神の采配で大きく変わりますが、中でも地熱は最も安定的に電力が供給できます」
熱弁に何人かの生徒がおざなりに拍手した。授業というりは、おのおのに作業をしている。
悪の炉と現代で評される原子力発電所は今も尚暗い影を落としている。
現人類は住める土地が以前よりも格段に狭くなっている。損壊した原子力発電所の周囲は汚染区域として立ち入りが禁じられていた。原子爆弾で廃地となった土地に人は住めても、原子力発電で使う放射性物質の半減期は長く、三百年など誤差でしかない。むしろ施設の老朽化を考えれば、当時よりも悲惨になっているだろう。
ジョセフコット研究所でも原子力関係の情報提供はかなり慎重だ。医療分野では放射線を使うが、それ以上の情報提供はできない。
原子炉は安定性や化石燃料不使用の面を考えれば利点も多い。きっちりと管理できる環境とコストをかけられるのであれば有益な発電方法だとは思っている。だが、旧人類でああなってしまったのに、現代の技量では難しいと言わざるを得ない。何よりも、旧人類の終末のように、人が人を殺し、世界を滅亡させるため常に狙われるランドマークだ。
教諭が地熱発電の最もいい方法やらを話しだす。
「温泉施設も併設して欲しいものですね」
そんな希望をつい漏らしてしまう。
「あと、こちらのタービンですが」
思い出せる範囲で助言して置く。
泳げるくらい大きな温泉ができればいいなぁと、それらの情報も追加で教えておくが、教諭はあまり興味がなさそうで、代わりに学生の一人が興味を示して質問をしてくれた。
ソラが事前に紹介してくれた人物にだけは付いていく。そこで、必要なら助言もする。そんな感じで数日を過ごした。
ジョセフコット研究所でも信頼を得るのにひと季節はかかったが、ここは役立つと思えば子供でも気にしない。ソラがそれだけ実績を積んだ結果なのだろう。
ユマの妹、ソラ・ジェゼロ。私と似た何かなのかと思ったが、違う気がする。優秀過ぎる。
ユマも頭がいいし優秀だ。顔もいい。いや、顔の話はだめだ……。
ユマがオーパーツの扱いに慣れていたのもオーパーツ大学を卒業したと聞けば納得がいく。ユマの優秀さも確かに目を見張るものがある。だが、ソラは旧人類の時代に生まれていたとしても偉才だったろう。




